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『元公安捜査官が教える 「本音」「嘘」「秘密」を引き出す技術』出版記念オンラインセミナー(全4記事)

相手と距離を縮めたいなら「待ち合わせ場所」にもコツがある 元刑事が教える、ビジネスにも役立つ“本音”の引き出し方

警察学校を主席で卒業した元警視庁元公安捜査官の稲村悠氏が、著書『元公安捜査官が教える 「本音」「嘘」「秘密」を引き出す技術』の出版記念セミナーに登壇しました。稲村氏の経験をもとにした“スパイのテクニック”を、「狙った相手の本音を知りたい」「ビジネスシーンで信頼関係を築きたい」といったビジネスシーンや日常生活向けにアレンジして紹介します。本記事では、相手に親近感を抱かせるための「ミラーリング」のテクニックや、情報を引き出すための「待ち合わせ場所」「お店」の選び方のポイントを解説します。

相手に親近感を抱かせるテクニック「ミラーリング」

稲村悠氏:(信頼関係を築く3つのポイントの)ステップ2は「好印象を与える」です。まぁ当然ですよね。これに関して、「ミラーリング」と「信頼していることを見せる」という2つのテクニックを紹介します。

ミラーリングは、意外と聞いたことのある方もいらっしゃると思います。ステップ1の「相手を知る」には理由があったんですね。まず相手を知ってから、ミラーリングを行う。これは同調効果を求めているんです。

例えば相手の方がスーツを着ていたら、こちらもスーツを着ます。会食だとして、相手の方がスーツを着てくるとわかっていた場合、Tシャツに短パンで行く人はいないですよね。それなりの格好をしていくと思います。服装を合わせるんですね。これがミラーリングです。

そうすると「自分に似たタイプだ」と思われるので、相手は非常に心地がいいんですね。ちなみに、ここで自己顕示欲を絶対に見せないでください。「俺のほうがいいスーツを持っているぞ」と上に立とうとしたり、マウントをとろうとするとまったく逆効果です。自己顕示欲は捨ててください。

もう1つは、例えばお酒ですね。お酒が好きな方と会食をするのなら、徹底的に付き合う。僕はお酒が弱いんですが、飲み会で「イナちゃん飲めよ」と言われて、「いや、ちょっと今日ダメなんですよ。車で来ちゃって」と言えば、相手の人はテンションが下がりますよね。なので、ミラーリングの1つとして、基本的にお酒は断りません。

そうすると、相手は「あ、自分と似た性格だな」と感じて心地いいんですね。これが、親近感を作り出しちゃうミラーリング効果になります。これは非常に有名なテクニックなので、聞いたことがある人もいるかもしれません。

ミラーリングはハニートラップの大標的な手口でもある

ミラーリングに関して、他の手法もあるんです。Z大学出身の人にアプローチしているとします。そこで、「実は僕、Z大学を受験したことがあったんだよ」と言うんです。そうすると、「あ、Z大学知ってるんだ」と自然な会話になりますよね。

ここで「Z大学に行ったことがある」「いた」と嘘をつくとすぐにバレるので、そこは無理をしないこと。また、例えば相手の方がZ県出身だったとしたら、「実は一時期Z県に出張に行ってたんですよ」なんて言っちゃえば、簡単にミラーリングできるんです。

ただ、これはZ県の話が具体的に出ちゃいますよね。そこはオープンソースです。オープンソースであらかじめ調べておけば、ある程度の話はできますよね。このように、緻密にミラーリングをして親近感を作っていく。これがスパイ、というか私たちのテクニックでした。

実はこれ、ハニートラップの手口でもあるんですね。これはAbema TVからお借りしてきたんですが、あるコメンテーターが「地元が一緒」「同じ先生を知っている」ということで、「ああ、知ってる~」と親近感を抱いてしまって、だまされてしまったと。

これは、ハニートラップの非常に代表的な手口なんですね。実は、日本の元議員も同じ手口でやられています。ちょっと調べていただければ出てきます。

相手に「信頼感」を与えるテクニック

じゃあ、次ですね。あなたのご友人からの相談をイメージしてみてください。「君だけに相談したいんだけど。実はこんなことがあってさ……」と相談してくれる友人がいたとします。

一方、「みんなに相談してるんだけど、実はこんなことがあってさ」という友人もいる。どちらのほうがあなたを信頼していると感じましたか? これは「君だけに相談したい」という前者ですよね。こう言われると、「自分だけを特別に信頼してくれている」と感じるんです。

そうすると、あなたはついつい「実は私もこんなことがあってね」なんて情報を出しちゃうかもしれない。実は、心の中でいつの間にかあなたも相手を信頼しちゃっているんです。

以上が信頼感・安心感を与えるテクニックになります。「あなたを信頼している」ということを見せて、信頼させている。これは私もよくやっていました。

あとは、「非常に重要な情報を持っているから、引き換えにこういう情報をくれ」というのもあります。「あなただけに、こういうものをギブするから、あなたもテイクしてね」ということを匂わせる。ただ、「テイクして」とは言わないんですね。まずは一方的にギブする。

そうすると、相手は「俺のこと特別に考えているんだなぁ」なんて思ってくれるんですね。つまり、「あなただけは特別だ」と思わせるということですね。ここらへんは、みなさんもできるんじゃないかと思います。もしくは、もうやっているよという方もいるかもしれませんね。

相手の「心に寄り添う」ためのポイント

次は最後、ステップ3の「心に寄り添う」ですね。「弱みに手を差し伸べる」ということです。スパイは必ず弱みを探すんですよ。弱みを探してどうするか。私がある協力者、ニックネーム「ドク」という方に接触していた時に、彼からどうしても情報が欲しくて信頼関係を築いていったんですね。どうもドクの弱みは、金銭的に困窮していたことでした。

みなさんのイメージとして「じゃあ、お金を渡せばいいじゃん」とか「仕事を依頼すればいいじゃん」と言われました。でも彼に金銭が渡ると、それは彼との関係は金銭ありきの関係になってしまうんです。なので目の前の餌で信頼を得ることは、実はダメな手口なんですね。手口と言うとちょっとアレですが、ダメなテクニックですね。

実はここでは、お金を渡すのではなくて「お金を稼ぐ方法」を一緒に考えるんです。手を差し伸べるってやつです。これがポイントですね。そうすると、ドクは私のことを信頼して非常に重要な情報をくれました。

このように、弱みに手を差し伸べる。「いやいや、ビジネスではどうするの!」というところで、よくある事例を出してみました。

「今日は娘の誕生日だから早く帰りたいな」と社員が思っていたとします。すると上司が来て、「これお願いね」と大量の仕事をデスクに置いていく。私も思わず「この野郎!」って言いますね。そうすると、「なんだよ。今日は娘の誕生日で早く帰りたかったのに」と思います。これ、最悪ですよね。

正解はこちら。「今日は娘さん、誕生日だろ? 定時で帰ってくれ。これはいったん回収するよ」と。そうすると、部下としては「前に話していた娘の話を覚えていてくれてたんだ」と思います。そもそも、上司が部下の(娘の)誕生日を知っているわけですからね。そして部下は「この人のためにがんばろう」となります。

「悩みの共有」もミラーリングの1つ

実際、私は警視庁時代にこの経験があるんです。自分では言った覚えがないのに、おそらく会話の中で出ていたので、私や家族の誕生日を上司が自然に知っていてくれて。業務は山積みだったんですが、その上司が「お前、今日子どもの誕生日だろ。もう定時で帰れ」と言ってくださったんです。

それはもう本当にびっくりしましたし、「この人に一生ついていこう!」と思いました。このように、信頼関係を作っていくんですね。

これは、弱みに手を差し伸べていますよね。そして相手にとって一番大切なものを、同じように大切にする姿勢を見せる。実はこれは「悩みの共有」でミラーリングなんです。だからミラーリングは、ここまで入ってくるんです。このように、心に寄り添い、深い思いやりを見せることが、信頼関係を築くために非常に大事な要素になります。

信頼関係を築くテクニックはまだまだあるんですよ。本当はもっと詳しく説明したいんですが、2年ぐらいかかっちゃうので(笑)。本(『元公安捜査官が教える 「本音」「嘘」「秘密」を引き出す技術』)を買っていただければ30分ぐらいで読めるので、ぜひお願いします。

バババっときましたが、ここまでが前半戦の信頼関係を築くテクニックでした。お疲れさまでした。ちょっと堅い話ばかりでキツかったかな? という印象もありますので、1回リフレッシュしていただいて。「つまんないよ」と思う方も退出しないでくださいね。傷つくので(笑)。

情報漏洩事案の調査で起きたハプニング

じゃあ、「ハムの雑談!」いきます。なんでハムなんだ? と思われますよね。知っている人もいるかもしれませんが、公安部の「公」が「ハム」だからなんです。

私も小太りなので、「ハム」と言われるとちょっとムカッときますが、特に刑事からは「ハム、ハム」とよく言われましたね。日本刑事技術協会の森(透匡)代表も刑事ですが、刑事からよくそう呼ばれましたね。

ということで、「ミラーリングはつらいよ」です。これは民間に来てからの話ですね。ある重大な情報漏洩事案があり、被疑者、というか対象者の尻尾がなかなかつかめなくて。情報を知る協力者と接触して、情報を引き出そうとしていました。

そのため、会食を重ねて信頼関係を作っていったんですね。ただ、お酒の席なので必ずお酒は出てくる。さっき言ったとおり、私はあまりお酒が強くなくて、特にビールが苦くてダメなんですね。カルーアミルクばかり飲んでいたい。でもミラーリングしなきゃいけないので、がんばってビールを飲みます。

ただ、私には唯一何をしても食べられないものがあるんですよ。もう舐めるだけでもダメ。それが梅干しなんです。この話だけで1時間いけるんですが、やめときます。すぐ終わります。梅干しがダメなんです。

会食の席で、誰かが呼んだのか店員さんが来ました。「お待たせしました~」と言って、日本酒が来たんです。「おわっ! 今日はなかなかハードな会食になりそうだ」と思いまして、日本酒をたしなみました。そこに梅干しが来たんですよ。「えっ! 何っ!?」という感じになっちゃって。

ミラーリングもやりすぎには注意

そしたら、あろうことか対象者の方がわけのわからないことを言い出したんです。「稲村さん、とっておきのを飲みましょうよ」と、日本酒に梅干しを入れて。潰して飲む人がいるんですよね。これはもうキツくて。「な……なんだと……!?」ですよね。そっからの「乾杯~!」ですよ。

本当に「やめろーっ!」ですよね(笑)。心の中では「やめろーっ!」と言いましたが、僕は元公安捜査官です。スパイのプロ中のプロですから、こんなの朝飯前ですよ。

どうやって切り抜けたのか、気になりますよね。みなさんだったらどうやって切り抜けますか? 絶対に食べられないものがあって、「乾杯!」まで言われちゃった。もう差し出されている。食べましょうよ。もう目の前にあります。どうしますか?

どうしたかというと……覚えていません。酔い潰れました。もう、ダメだったんですね。だからこの日は何の情報ももらえなかったし、何の情報を渡したかも覚えていない。こんな会食はダメなんです。

ということで、無理せずキッパリ断りましょう。ダメなもんはダメなんです。本当にダメ。ミラーリングをするのはいいですが、みなさんも「やりすぎにはご注意を」です。

では、ここから後半戦ですね。また技術的な話に入っていきます。もう半分終わっちゃいましたね、早いですね。しゃべっているほうは寂しいです。

ということで、「本音」「嘘」「秘密」を引き出す技術について、「環境」「仕草」「話術」の3つに分類してご説明します。いやらしい話、けっこう本の内容を抜粋しているんですよ。全部を話すと買ってもらえないので(笑)

情報を引き出すための「待ち合わせ場所」の選び方

では「環境」ですね。どうやって情報を引き出す環境を作っていくのか。まずは「待ち合わせ場所」、そして「お店選び」の2つをご説明していきます。

みなさんなら、待ち合わせ場所にどこを選びますか? 大事な方、友人になりたい方、取り引きしたい方と、どういった所で待ち合わせをしますか? 最近では携帯があるので、電話しながら待ち合わせることもあると思いますが、だいたい改札前とかモニュメントの前を選択すると思います。

でも、よく考えてください。みなさん、スパイ映画をよく思い出してください。待ち合わせ場所って、こういうロータリーじゃないですか? これは東京の森ビルの吹き抜けですが、吹き抜けを待ち合わせに設定するんです。

なぜかというと、待ち合わせに場所に来る相手を見ることができるんですよ。「誰か怪しいやつがついているんじゃないか?」というのを見張るのではありません。「どんな様子で来ているのか」を知りたいんです。要するに、会食の前振りとして、相手がどういう状況で来ているのか知りたいと。

「時間に余裕を持ってきている」だったら、大事な日だと捉えてくれている。「遅刻しているのにゆっくり歩いている」だったら、あまり大事な日とは捉えていない。「電話しながらいそいそ来た」「待ち合わせ場所に来る前に、ちょっと立ち止まって一生懸命携帯を触っている」なら、仕事で忙しいのかもしれないですよね。このように先手が打てるんです。

だから、遅刻してきて、その日をあまり重要視していない人であれば、会食は早めに打ち切っちゃう。また、電話しながら来た忙しそうな人には、会食中に気を使ってあげる。1回休憩をはさんで「もしお忙しかったら、メールとか返していいですよ」と根回ししておくんですね。信頼感を築く。このように、待ち合わせ場所選びによって先手が打てるわけですね。

深層心理を利用した「お店選び」のコツ

次はお店選びです。みなさんはどうやって選んでいますか? 和食とかバーとか、相手の好みに合わせるだけでは意外とダメなんです。「あの人はお寿司が好きなんだよな。じゃあお寿司屋さんにしよう」なんてのはダメなんですね。それも1つの要素ですが、他にもいろんな要素があります。

例えば、相手のテリトリーですね。帰巣本能というのがあって、相手の自宅に近い場所を選んであげると、心の奥で安心するんですね。だから、相手のテリトリーの近くの店を選んであげる。ただし、近すぎると気持ち悪がられますね。なので、そこはバランスを見て相手のテリトリー範囲内で選んであげる。

そして、座る位置が再現できる店ですね。これは本にかなり詳しく書いています。みなさんは人としゃべる時、対面と横並びではどちらが話しやすいでしょうか? 視線を外しやすいから、だいたい「横並び」と言います。視線が交わるとやっぱり緊張するので、視線を外すと。

また、意外と知られていないんですが、「利き手側に座る」。相手が右利きなら右側に座ってあげるんです。というのも、利き手側にいるほうが安心するんですね。利き手じゃない側にいると不安に感じる。こういう深層心理を利用して、利き手側に座りましょう。

刑事の取り調べって、対面のイメージがあると思います。僕は刑事の時、取り調べで被疑者がなかなか落ちない時は、L字型に座っちゃいました。こうすると意外に落ちるので、僕も座る位置はかなり使い分けていました。

お店選びは、引き出したい情報の分類のよって変える

あと、相手の性格や好みに合う店ですね。ガチャガチャした場所が平気な人であれば、ガチャガチャした場所でいい。また、相手との距離感に合う雰囲気の店を選ぶこと。あまり仲良くないのに、個室を選んではダメですね。

かといって、あまり仲良くないのにガヤガヤしすぎる店もちょっと違いますよね。だから、相手との距離感をしっかり計っておく。そのために、信頼関係を築くステップで申し上げた「相手を知ること」がここに入ってきます。相手を知っているからこそ、このあたりも調整が可能になってくるんですね。

そして、そもそも「引き出したい情報が話せる空間かどうか」でお店を選びますよね。その日、その人から引き出したい情報が、例えば「嘘」であれば、それなりにガヤガヤしていてもいいと思います。

ただ、「秘密の情報」を引き出したい時には、ガヤガヤしていてはなかなか厳しいですよね。こういう時は、個室を選んであげるんです。つまり、引き出したい情報の分類によって、お店を選ぶということになります。

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