2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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林篤志氏(以下、林):これはもうずっと言ってきていることなんですけども、日本の経済や国家としてのグローバルでのポジションが下落している。さらに円安が進行して、特に地方の現場を見ているとどんどん共同体が衰退している。新しい共同体のようなものの種は生まれ始めています。
たぶん今日オーディエンスで参加されている方は、なんとなくのイメージですけども20〜40代の比較的若い人が多いのかなと思います。そういった当事者たちがどのような社会システムを自ら構築していくのかが最大の論点です。そこに対してWEとしても、何か手段の1つになればいいかなと思っています。
ちょっとクロージング的になるんですけれども、最後に1人ずつお聞きしたいと思っているのが、理想的な新しい社会システムをどのように構築していけばいいのかという点です。そしてそれが構築された時に、みなさんの希望としてどんな世界が、例えばこの日本から始まろうとしているのか。
可能性の部分に光を当てて、その戦略もしくは戦術みたいなものを簡単にまとめて、最後のクロージングにしたいと思っております。小川さん、穰一さん、春山さん、宮台さんの順番にいきましょうか。小川さん、いかがでしょうか。
小川さやか氏(以下、小川):急に振られたから、ちょっと考えてもいいですか(笑)。先にどうぞ、伊藤さん。
林:(笑)。
伊藤穰一氏(以下、伊藤):僕はそれこそ中央集権的に設計して戦略を組んで、バンバンやればうまくいくようなものではない気がしています。たぶん我々の中には、何が起きなければいけないかという直感的なものはあるんです。ウェーブは、風が吹くと水の上でチョッピーになって、たくさんの細かいウェーブがだんだん隣のウェーブとシンクロして、もっと大きくなって、最後にこれがザブーンとウェーブになるんですよ。
やっぱり自分の周りの周波数が合う人と、それこそコンテクストをシンクロナイズして、ちょっとずつ仲間を増やしていくと、知らないうちに波になると思う。だからあんまりほかの人を変えようというよりも、ちゃんと自分のバランスをとって自分のコミュニティを作って、それをちゃんとやれば周りも良くなっていくんじゃないかな。ボトムアップそのものに自分はなりたいなと思います。
とは言いながらけっこうこういうところで発信しちゃうんだけれども(笑)。だけどやっぱりメインの仕事は、自分の目の前の自分のコミュニティをちゃんと安定させることだと思います。
林:ありがとうございます。じゃあ小川さん、OKですか?
小川:そうですね、私が調査しているタンザニアの人たちはなんでもやる人たちなんです。でもインフォーマルな領域が減っているのが、すごく良くないと思うんですよね。法制度は段階を踏まないとできない、というようなことです。
私はもっとグレーでインフォーマルな領域をどんどん復活させればいいんじゃないかと思っていて、そういうことを言うと国家に怒られるかもしれませんけど(笑)。タンザニアの人たちはあんまり引きこもりとか孤独とか、職が急に失われたから困るみたいなことにならないんですよね。それはなんでかというと、すぐインフォーマルに何かをするからです。
場やコミュニティ作りも「じゃあがんばってコミュニティを作ろう」みたいなことは誰もやらないで、なんとなくインフォーマルにやり始める。きちんとやろうと考えると、何もできなくなるので。もっとインフォーマルに、適当な感じでもやれるような場やインフォーマリティを考え直してもいいんじゃないかと思います。
私は、新しいテクノロジーも最初はみんなインフォーマルだったと思うんですよね(笑)。なのでそのインフォーマルなものを、もうちょっと見直してもいいような気がしています。
林:ありがとうございます。ボトムアップとインフォーマル、共通するものがあるような気がしています。春山さん、お願いします。
春山慶彦氏(以下、春山):林さん、質問って何でしたっけ?
林:どんな社会システムを作っていくべきか。そしてその理想みたいなものが実現された時に、春山さんの目からはどんな世界というか希望が、可能性が見えていますか? というけっこう抽象的な質問です。
春山:わかりました。少しまとめて、今までの議論も含めて話したいと思います。宮台先生のこの本、僕はすごくすばらしいと思って、非常に刺激を受けました。この本の中で「社会はビジネスを必ずしも必要としないが、ビジネスは社会を必要とする」という言葉を紹介されてて。これは「社会」を「自然」に置き換えてもまったく通用すると思っています。
僕は、何度も繰り返し言いたいことがあるんですけど、社会システムは「社会観」から作られるので、社会観・公共性を僕らが培わない限り作れない。伊藤さんが見せてくれた図で言うと「ネイチャー」から「カルチャー」という、ここが一番根っこだと思います。
これを育てたり、これに向き合わない限り何の木も育たないと思ってます。
僕たちは今、すごい時代を生きてると思います。テクノロジーの最たる例は「価値を作る」ことだと思うんですが、国が担保するお金じゃないものを曲がりなりにも作ることができる時代はすごいことだと思っているんです。価値が作れる時代は今までそんなになかったんじゃないでしょうか。
この価値が作れる時代と、さっきの社会観が結びついた時に、僕はコミュニティが自走すると思うんです。たださっきの小川さんの例で言うと、僕らの命とか風土、地球という有限性に基づいて、そこの土壌にそれぞれのコミュニティが立っていく。これが僕は美しい生態系だと思っています。
春山:僕はコミュニティを選べるようになったらいいなと思っているんですね。つまりスポーツで考えると、僕は野球は得意じゃなく、サッカーをやります。年を取ったらちょっと囲碁をやりたいので囲碁を選びます、というように。
年齢とか社会の関係性に応じてコミュニティが選べて、そのコミュニティの中で流通する価値とか、コミュニティに貢献したもので、円とかドルじゃないもので何か社会システムが回っていくと、すごくおもしろいなと思います。
だから根本は、自然とか風土とか、それが祭りでもいいと思うんですけど、やっぱり場所だと思っています。石山さんの問いは、僕からするとものすごい頭でっかち。どういうことかというと、ローカルに根差せば根差すほど、僕は世界が見えると思っているんです。自分の半径3メートルで世界はわかる。つまり自分のローカルにこだわっていって、世界とつながることがわかったのが、この21世紀なんです。
そもそも僕らもネイティブインディアンと思ってローカルにこだわり、「ここが宇宙だ」という感覚で生きていく時代に入った。だからこそ自分たちが生きている場所、あるいは自分たちが死んでも住みやすい場所を次の世代へどう受け継いでいくかが極めて重要です。そのために社会システムをどう作るか。この順序で考えられるといいなと思っています。
山古志がうまくいっているのも、さっき伊藤さんがおっしゃったようにお金の匂いがしないのもあると思うんですけど、やっぱり山古志という場所、ローカルに閉じられていることが極めて重要だと思います。いわゆる有限性って、これはゲームともつながるかもしれないんですけど、制限があることで遊びはおもしろくなって工夫が生まれるんですよね。
だから制限のない遊びはすごく退屈。さっきの馬の話ともつながると思うんですけど、有限とかコントロールできない偶発性の究極が、やっぱり場所とか自然とか天気なんです。それとの掛け算で価値の仕組みが作れるとすごくおもしろいんじゃないかなとは思いました。
それで、やっぱりゲームも含めですけど、生存戦略を考える上で参考になるのは、植物だと思います。植物のあり方、地球上にこれだけ繁茂して永続的に続いている植物。それはけっこうヒントになるんじゃないかなと思っています。以上です。
林:では最後に、宮台さんお願いします。
宮台真司氏(以下、宮台):最後に春山さんがおっしゃったのは、「存在的転回以降の哲学」とか「有限性の哲学」と言われているものですよね。この30年間くらいで哲学はそこに収斂してきて、おそらくそこからたぶん長い間動かないだろうと僕は予想しています。
そこで言う存在論つまりオントロジーとは「世界はそもそもどうなっているのか」という構えです。そこでいう世界とは「あらゆる全体」のことです。だからゲーム内の世界ではありません。
これは先ほど話題にした、社会学者にありがちな多文化主義的な発想とは相反するものです。多文化主義の発想は、所詮は多様なメタバースのようなものとして、多様に見える文化を擁護するものです。そうではなく、存在論的な有限性を踏まえた正しい文化にシフトすべきです。穏当に言えば、僕らが擁護できる多様性は一定の枠内でだということです。
人や動植物のゲノムをどこまでいじることが許されるかという問題も、気候変動をどこまで放置できるかという問題も、存在論的な有限性の問題です。
けれども、我々がどんな環境で何をすれば何が起こるのかという因果関係がかなり未規定で、実際にIPCCの報告書の内容もドラスティックに変わり続けてきた事実があります。そうした問題への感度を鈍くするようなテクノロジーの開発や利用には、警戒しなければなりません。そうしたところから我々はまず発想する必要があります。
宮台:存在論的な有限性の思考に基づいた我々の生活形式が、具体的にどういうものでなければならないのか」という決定を、行政官僚制優位の専制的=古い権威主義的に、あるいは自分はゲームで忙しいので誰かに任せるという市場優位の新反動主義的=新しい権威主義的に、誰かに委ねることはできません。
やっぱり「偶発性からの収斂」「ミクロからマクロへの波及」という、伊藤さんや小川さんの議論の中にもあったモチーフが大切だと思います。
偶発性を許容可能にするものは、テクストよりもコンテクスト、つまり言外・法外・損得外で「同じ世界で1つになる」営みだと申しましたが、そこから出てきた「寛容さゆえのミクロな偶発性」から、たまたま収斂して長く続いたものが歴史的に拾い上げられていく、という道筋しかないでしょう。
そのためにも「存在論的な有限性を意識した上での条件付き多様化」を貫徹しようとする価値観が、リアルやゲームのコミュニケーションを通じて広められる必要があります。
ということで、そうした発想で今から15年以上前に神成淳司さんと『計算不可能性を設計する』という本を共著しました。資本主義も行政官僚制も終わらない以上、我々はテックであれアーキテクチャであれ絶えず何かをデザインするべきなんですが、そのデザインは今申し上げた「計算不可能性を設計する構え」を逸脱してはいけないという内容です。
それがないと「偶発性からの収斂」を阻止するようなテックがデザインされ、社会に実装されてしまう可能性がでてきます。それはまずい展開だというのが僕の今の認識になります。
林:ありがとうございました。ちょっと時間も超過してしまいましたけれども、今日は社会システム論ということでかなり長丁場でしたが、4人のスピーカーの方々にお話しをしていただきました。議論ももっとしたいくらいの気持ちではあるんですけど……。
春山:あっ、林さん。すいませんモデレーターをずっとさせてしまって(笑)。林さんの意見や感想もぜひ。
林:僕は、今日この議論をしていて思ったのは「とにかくやってみるしかないな」ということでしかないですね(笑)。今の「偶発性から収斂」の話もそうですし、ボトムアップの議論もそうですし。
DAOの話も、僕はDAOが今後収斂されていくと思うんですよね。じゃあ今DAOをもし使うとするのであれば、やっぱり本質的なDAOの使い方を目指しつつ、DAOを方便として使うかどうかだと僕は思います。
実際に山古志の事例を見ていると、曲がりなりにもそういった新しいNFTとかクリプトのツールを使うことによって、新しい関係性の発見とか偶発性を生み出すことを手助けすることは見えてきているなと感じます。
テクノロジーを恐れず使ってみよう、という感じです。道具はやっぱり自分で使いながら長さを調節したりとか、形を変えてみたりということだと思うので。基本的にはそれをどんどん使うしかないのかな、と今日の議論の中で改めて思いました。
社会システム論というとけっこうデカい話になってしまうんですけど。さっきのローカリティに結びついていくことで世界につながっていくというのは、やっぱり芯を捉えているものだと思っています。それがどう無数に広がっていくかというケースだったり、広がっていくための仕組み作りが、今後WEをどのように設計していくかに、重要なポイントになってくると思っています。
本当にいろんな角度から視座をいただいて、非常におもしろい回でした。僕もモデレーターをしているのか聞いているのかよくわからない状況になりましたけども。すごく良いセッションになったなと思っています。ありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
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