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『採用面接100の法則』出版記念「面接官がいまさら聞けない採用面接の”ナゼ”を徹底解剖!」(全3記事)

採用面接で「評価のずれ」が起きる原因は2つだけ 目線を合わせる、面接官の「適性検査」受験のススメ

日本能率協会マネジメントセンター主催の『採用面接100の法則』出版記念セミナーの模様を公開します。著者の曽和利光氏が、採用面接に関する参加者の「疑問」に答えました。本記事では、面接官の間で「評価のずれ」が起きる原因について解説されました。

面接官の評価の「ずれ」のポイントは、2つしかない

ハヤセ氏(以下、ハヤセ):では続いて、事前にいただいた中から、また別の質問です。おそらくそういったやり取りをして、相手の人となりも十分わかってきたところで、最終的には評価として見極めなければいけない。

見極めをつけたものが、ちゃんとできていたかどうかを、面接をやった人や評価した人はどうやって反証すればいいのでしょうか。いわゆる反省と言いますか。レビューと言いますか。

曽和利光氏(以下、曽和):これは、日常的には、基本的に同じ人を見た別の人としっかりすり合わせをすることによってしかできないと思うんですよね。答えなんてないんです。例えば、面接の基準がいくつかあって同じ人をインタビューしたんだったら、理想的にはそれぞれの評価に同じ得点がついてるはずですよね。

でもそんなことはほとんどなくて、だいたいの場合は多少何かがずれてるわけなんですけど。変にすり合わせをせずに、まず独自で考えて、例えば5個なら5個だとか、3個なら3個の採用基準を5・4・3・2・1とつけてみて、いっせーのですり合わせる。

これが2人で同時に入っていた場合は、めちゃくちゃやりやすいと思うんです。例えば候補者1で面接官2みたいな時だとまったく同じ情報を同じ空間で聞いているから、一番やりやすいわけです。

情報は一緒なのにもかかわらず評価が違うとなると、結局ずれのポイントは2つしかないんですね、情報は一緒なわけですから。その情報から解釈をする。見立てるって言ったりしますけれども、人となり、性格・能力・価値観を見立てるんですね。つまり(ずれのポイントは)見立てる部分がおかしいか、あるいは採用基準を間違ってるかですよね。

評価のギャップが出た時こそ、見極めの精度を高めるチャンス

曽和:例えばコミュニケーション能力と言っても、論理的に筋道を立ててわかりやすくしゃべれることだと考えてる人もいれば、豊かな語彙や例え話などの表現力だと考える人もいる。クリエイティブな表現力を持ってるという意味で言ってる場合もあれば、空気が読める、以心伝心、あうんの呼吸みたいな感じでとらえる人もいる。

相手のことを想像できるなどの感受性の豊かさに近いようなものやイマジネーションの想像力みたいな意味で、コミュニケーション能力って言ってる人もいて、基準を誤解してる人もいますよね。

だから、すり合わせの時に何か違うっていうのは、その(見立てか基準の)どっちかなわけです。そのジャッジが違う時、ギャップが出た時にこそすり合わせ、見極めの精度を高めるチャンスなんです。

「この人はコミュニケーション能力が高い」と面接官1は言ってるけど、面接官2は「いや低いんじゃね」と言ってる。そしたら、「どこの部分を見て言ったの?」と、まずファクトから入るわけですね。

面接中のどの情報のどの部分から言ったのか。それをどう解釈したからコミュニケーション能力が高いと言ったのか。だから、情報収集、アセスメント、採用基準、この順番でずれてるかどうかを確認していくんですけど、今回の場合、情報は同じなわけです。

その情報を見て、例えばある人は好奇心が旺盛だと言ったり、ある人は飽き性だと言ったり、解釈が違ってきますよね。見立てが違ってくる。そうすると、自分の中にある見立てにおける心理バイアスが問題だと、その時すり合わせをすることでようやく気づくわけです。

何回も何回もやってないと自分の中にあるバイアスなんて、いつまでたっても全部わかるわけではないんです。一発のすり合わせで、そんなすべてのバイアスがわかるわけではない。

でも繰り返していくと、自分の中に存在するある事象を見てどんな解釈をするのかというバイアスがわかってきます。そのあたりがわかってくると、目線がすり合ってるかどうかになるわけです。

「人を表現する言葉」の定義のずれ

曽和:次に基準が間違ってるのは、ほとんどの場合が先ほど言った人を表現する言葉のずれですね。例えば経団連の調査で企業が選考する時に重視する能力を20年ぐらいにわたってずっと調査されてたのがありますが、不動の5位がいくつかあるわけです。

コミュニケーション能力、主体性、チャレンジ精神、協調性、誠実性。これについては、本にも細かく書かせていただいたんですけど、こんな場合とこんな場合とこんな場合があるというくらい、すごく曖昧です。さっきのコミュニケーション能力みたいに、同じコミュニケーション能力と言ったっていろいろあるわけです。

その言葉の定義がずれてるから採用基準を誤解していて、コミュニケーション能力がこっちはいいのにこっちは悪いと言ってる理由が、心理バイアスによる見立ての問題なのか、言葉の問題でずれてるのかが、確かめていくとわかると思います。ですから、そういうすり合わせを今みたいに精緻にやっていくのがすごく大事だと思います。

採用基準に基づく評価の「すり合わせ」の方法

曽和:これを日々やるのが一番大事なんですけども、おすすめは研修みたいな感じで年1ぐらいでやったほうがいいと思います。実際中途だと難しいですけど、例えば自社の新卒の内定者だとできます。自社の競合の内定者をバイトで集めます。これ、いろんな会社でやらせていただいたんですけど、内定者に頼めばけっこう来てくれるんですよ。

例えばリクルートだったら、電通さん、総合商社さん、銀行さんとかね。こういう採用競合になってるところがあるわけですね。それを自社の内定者の友だちで「コンサルティング会社とかに受かってる人いる?」って、連れてきてもらって、半日で1万円とか5,000円とか払ったらもう喜んで来てくれます。

15分ぐらいで、「学生時代に力を入れたことはなんですか?」ぐらいの質問をしていく。例えば5人来るんだったら15×5で75分でできるわけです。みんな(面接官)ですり合わせをせずに、採用基準に基づいて評価をつけてくれと言う。そのあと、よーいどんで、一人ひとり確認していく。

じゃあ、まずAさんについてみんなで語りますと言って、そこからディスカッションやディベートをします。じゃあ、この人に二重丸つけた人、丸つけた人、三角つけた人とつけていく。そうすると二重丸つけた人と三角をつけた人とだいたいぶれるんです。

その二重丸の人と三角の人で先ほど言ったようなディスカッションやディベートをして、「いや、私は二重丸だと思う。なぜならば、こういう見立てをしたからだ。なぜその見立てをしたかというと、こういう事実があったからだ」みたいな感じで、この三段論法でやっていただく。こういう研修をすると、すり合わせの仕方の練習になります。

そうすると、その後1年間にわたって各面接で適切なすり合わせができて、自分の歪みについて理解できるようになると思います。ここらへんがまずは定性的にできる方法ですかね。

適性検査の後に面接をするとわかること

ハヤセ:ちなみに今のお話は基本的には複数の面接官がいた前提なんですが、これが最終面接で1対1、役員お一人とかになってくるとどうフィードバックしていくべきなのかなぁと。

曽和:それは前と後ろの面接官でやってもいいわけですよね。すり合わせって別に1次面接と2次面接の面接官でやってもいい。もちろん同席して2対1でやってる状況のほうがまったく同じ情報になるのでやりやすいんですけど。1次面接と2次面接、2次面接と3次面接官がやっても構わないので、そういうやり方はあるとは思いますね。

ハヤセ:なるほど。ありがとうございます。

曽和:これが基本だと思いますけど、実はもう1個けっこう強力な方法があります。これは適性検査を選考の早い段階でやってないとなかなか使えないんですけど。

例えばSPIだとかCUBICとか、いろんな適性検査があるじゃないですか。一番最初の選考が適性検査で、その後が面接にしておくとベストです。そうすると、すべての面接官に個別に「この人はこんなタイプを落とした」「この人はこんなタイプを上げた」というのが全部データで出ます。

これをやってみると、めちゃくちゃおもしろい。もうぐうの音も出ないぐらいはっきりと結果が出るんですよね。この人は、この性格が高いとめちゃくちゃ上げるけど、低いとめちゃ落とすみたいなこととか。それが採用基準や求める人物像に合っていればめちゃくちゃ正確ってことなんですけど、ぜんぜん採用基準と関係なく自分の好き嫌いが反映されていることもけっこうあります。

面接官も社員も、候補者と同じ適性検査を受けてみる

曽和:もっと言うと、自分(面接官)も同じ適性検査を受けておくとわかりやすい。自分と似たような人を上げて、自分と似てない人を落としてることがあります。採用基準とまったく関係なく自分と似てる人を落としたり上げたりする「類似性効果」は、採用面接で働きやすい、けっこう強いバイアスだと思っています。

こういうのをデータでやってみるのは、いいかと思いますね。

ちょっとややこしい話になりますけど、詳しく分析するおすすめの方法としてクラスター分析をやってみるのがいいと思っています。

今コロナ禍で「クラスター」というとなんか嫌な言葉で使われるんですけど、クラスター分析とは、要は群れに分けるということです。統計処理についてはお調べいただければと思うんですけど、例えばSPIやCUBICのパーソナリティを似た者同士に分けてみるなど、Excelでもn数(サンプル数)が少なければできます。

1,000人や2,000人になってくるとExcelが止まっちゃうんで、専門のソフトを使わないと難しいんですけど。ポイントは応募者全員にやること。最初から落ちた人も含めそのテストを受けた人全員に行う。あと、できれば社員にもやってもらって、もともと持ってるデータも全部混ぜこぜにして、全体のデータにクラスター分析をかけるんですね。

群に分けていくんです。だから、Aタイプ・Bタイプ・Cタイプ・Dタイプみたいに分かれるわけです。その中に例えば社員を混ぜておくと、活躍してる人や人事評価が高い人はA群に多いな、ちょっと迷ってる人や大変な状況にある人はC群に多いなというのがわかってきますよね。

ほかにも職種としては、営業職はB群に多い、技術職はD群に多いなともわかってきます。

クラスター分析でわかる「どんなタイプを落としているのか」

曽和:それを前提として、今度は候補者の分析をしていくんですね。

そうすると、例えば(適性検査を)受けた瞬間は、このA・B・C・D・Eの比率がAは何パーセント、Bは何パーセント、Cは何パーセントってあるわけです。これを1次面接、2次面接、3次面接、4次面接とやるにしたがって、割合が変わってくるはずです。

例えばCをけっこう落としてる感じだと、最初のABCDEの比率よりも、Cの比率がどんどん減っていくわけです。全体で見てもそうなんですけど、実際は個別の面接官がこれをやるんですね。めちゃくちゃ嫌な怖い分析なんですけど。

そういう分析をやってみるのは、すごく良いと思います。そうすると、この人はAタイプを落としてる、Bタイプを落としてる、Cタイプを落としてるということがわかって、個別にフィードバックしてあげると面接のすり合わせになるんです。

求める人物像がなかなか採れない3つの理由

曽和:今回は面接の話なので、戦略や戦術の話はピックアップしないですけど、例えば採用戦略を考える時、求める人物像がなかなか採れないという問題があったら、まずこの分析をしてみる。

大きく分けると理由は3つしかないわけですね。「来てないか、落としちゃってるか、逃げられてるか」のどれかしかないわけです。

つまり来てないのは、最初に受けてきた段階から、そのクラスターの人は少ないってことですね。落としちゃってるのは、各面接を見ていくと、本当はAタイプにはハイパフォーマーがいっぱいいて、採るべきかもしれないのに、バンバンAを落としてる人がいる。いい人が来てるのに落としてるというケースですね。

あと逃げられてるというのは辞退者のパーソナリティを見て、Aタイプはめちゃくちゃいいのに、どんどん逃げてるねということがわかると、改善ポイントがわかるわけです。

来てないのは母集団形成の問題じゃないですか。だから、広告を工夫するなどの募集企画、つまり集客のプロモーション企画を考え、変えていく流れになります。

一方で落としちゃってるとなると、まさにこれは面接のトレーニングになるわけですよね。このタイプはあんまり落としちゃいかんと。もちろん「Aタイプだけは落としちゃいかん」とはなかなか決めにくいんですけど。でも、落としちゃいかんという面接トレーニングで対応していくこともあります。

だから、さっきのすり合わせをしっかりとやっておく。最後の(選考で候補者に)逃げられてるなら、動機付けのトレーニングだったり、あるいは選考プロセスをスピードアップしてもう辞退する暇がないようにぱっと速やかにやっていくとかですね。

数だけ見ていても「採用できない原因」はわからない

曽和:何を変えていったらいいかを考えることは、求める人物像を必要な人数だけ採れるようになる上でも実は大事なんです。逆に言うと、このパーソナリティの分析をしないで、数だけ見てても、わかるわけないんですよ。

来てないのか、落ちてるのか、逃げられてるのか。それぞれ、ぜんぜん対策が違うのに、その分析をしないで数字だけ見て、何人来てて何割アップしてと言ったら、結局全方位的にやるか、当てずっぽうで面接トレーニングをするかしかないんです。

でも何のことはない。面接トレーニングは十分できていて目線もあっていて、ただ単に来てないだけの話だったら、面接トレーニングをいくらやったところで、採用はうまくいかないわけですよね。

ハヤセ:確かに。そこは面接官じゃどうしようもないですね。

曽和:そうなんですよ。ちょっと脱線して大きい話になっちゃったんですけど、ぜひこのあたりの分析をされることをおすすめします。まぁ、なんならコンサルティングとしてお手伝いもしてますので、内省もできると思いますけどね。

ベテラン面接官ほどデータで可視化すべき「自分の偏見」

曽和:数字で出たら個々の面接官はぐうの音も出ません。面接官って、特にベテランになればなるほど、自分のジャッジに自信があるんですよね。

研究を見ても基本的にはベテランの人ほど「優秀な人ならこうなんだ」というステレオタイプができあがっちゃってる。だから、ベテランの人であればあるほどすり合わせやデータで自分の偏見について可視化していくことが必要なんですけど。

逆に言うと偉い人やキャリアがある人は、ぐうの音も出ないものによって突きつけられない限り、自分のものの見方や人の見方に対して、あまり疑問の念を持たない。だからうまく(データを)使っていくといいんじゃないかなと思います。

採用担当者の中には自分の目線も気になるけど、「うちの最終面接官がなんか歪んでるんだよな」と悩んでいる方も多いと思います。すり合わせや、そういうデータによって可視化していくことを武器として使わないと、「あなたの物の見方、歪んでます」と偉い人にはなかなか言いにくいですからね。そんなことをやってみてはどうかと思います。

ハヤセ:ありがとうございます。ちゃっかり先生の宣伝も入りましたがおもしろいお話をうかがいました。

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