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関西ベンチャー学会 第2回女性起業家研究部会「苦難の連続、でも諦めない。」ウクライナ特別編〜女性×学生×外国人×社会起業のリアル〜(全6記事)

「安定的な選択肢」がないから、起業してもいいと思える ウクライナのIT市場からユニコーン企業が生まれる理由

ベンチャー育成を通して関西経済の活性化を図ることを目的に設立された関西ベンチャー学会。今回はダイバーシティ研究部会(女性起業家研究部会)主催で行われたセミナーの模様をお届けします。ゲストはウクライナ出身の学生起業家、株式会社Flora CEOのアンナ・クレシェンコ氏。最終回の本記事では、ウクライナでIT市場が盛んな背景や、アンナ氏が日本でのつらい時期を乗り越えられた理由などが語られました。

IT市場が盛んなウクライナ

湯川:ウクライナの国民性を事前にうかがったのがすごくおもしろくて。みなさんどんなイメージありますか? 小麦ができてるとか、たぶん今のニュースのイメージが多いと思うんですけども。

アンナさんを見てると、明るい人だなと思うんです(笑)。実際にウクライナの方々はどういうイメージ?

アンナ:そうですね、ユーモアがありますね。冗談を言ったりしていて、「明るい人」とは確かに言われます。

湯川:そんなイメージがする。ウクライナのスタートアップの現状とか特徴とかって、どう思ってらっしゃいます? 数値的なものではなく、肌感覚で。「肌感覚」ってごめんなさい、わかりづらい言葉で……。

アンナ:いえいえ、実はウクライナはIT市場が盛んです。みなさんはご存知かどうかわからないですけど、最近ユニコーン企業になったGrammarly(グラマリー)だったり、GitLabとか、ぜんぶ創業者がウクライナ人です。

湯川:GitHub!? そうなの!?

アンナ:HubじゃなくてLabですね。

湯川:あ、ごめん。間違えた。

アンナ:でも、GitHubに似たツールです。

湯川:そうなんだ。

アンナ:創業者はウクライナ人です。登記先はアメリカだけど、創業者はウクライナっていう、そういう企業はかなり多くて。

湯川:そうなんだね。ウクライナからアメリカに行ってユニコーンになるっていうケースが出てきている。

アンナ:そうです。むちゃくちゃ多いです。

海外で資金調達を行う理由

湯川:やっぱりみんなお金持ちだから?

アンナ:優秀な人材が多いんです。ウクライナは数学オリンピックの上位を占めていて、経営者はキーウ工業大学の卒業生が多いです。インターナショナルのコンペティションの受賞者もめちゃくちゃ多い。

でも、資金調達は海外だと膨大な資金を積めるので、海外に行って、登記先をアメリカとかヨーロッパにして資金を集めるのが、大多数の場合です。

湯川:なるほど。もともとの資本とか資金を持たずに、才能だったり知識だったりで。だって資金調達するためには何かプロトタイピング的なものを作らないといけないですよね。アンナさんもさっき「自分でバイトしてお金を貯めました」と言っていましたけど、最初は小さく、本当にスモールスタートで。

アンナ:そうです。それができる人が多いです。

湯川:なるほどね。(アンナさんも起業に当たって)諦めずにがむしゃらにやって、なんとか形にしてきたと言ってたんですが。そんなにスマートに、パーンと計画立ててちゃんとスケールしてきましたよ、っていうケースはないんですか。

アンナ:そうですね。我々の特徴としては、そもそもスモールスタートをサポートしてる補助金とか、そういうピッチコンテストが少ないので。

湯川:あっ、そうなんだ。

アンナ:効率良く、とりあえず今自分が持ってるお金で、プロトタイプとか資金調達できるものを作らなきゃいけないという現状なんです。だから逆にそれができる人が多いです。

湯川:お金のサポートがないから、もうなんとかしないといけない。

アンナ:そうですね、なんとか生き残るために。

安定的な選択肢がないからこそ、起業も選択肢になる

湯川:おもしろいね。このスタートアップのマインドってなんか(国や地域によって)違いますか?

アンナ:(湯川さんが住んでいた)スペインはどうかわからないんですけど。だいたいヨーロッパの国では、1つの大手企業に入って、ずっとそこで働けるという人生はないですね。だから、企業間の競争が激しいし、人材の競争も激しい。みんなが資格を取ったり、なんかやらなきゃいけないっていう意識がすでにあって。安定的な選択肢がそもそもないので、だから自ら「起業してもいいんじゃないかな」と思う人が多いと思いますね。

湯川:どのタイミングで起業にチャレンジしてみようと思う人が多いんでしょう?

アンナ:大学生とか研究生が多いですね。安定的な選択肢がそもそもないし、別に起業はそんなに不安定な選択肢でもないので、やってみてもいいかもしれないと。

湯川:もともと失うものもないし、一生懸命やってダメなこともあるけど、「まあいっか」っていう感じですか。

アンナ:はい。

湯川:でも意外と社会から支援がないから、みんな一生懸命やっちゃうっていうのはおもしろいですね。

アンナ:(笑)。こういう状況で生き残る経営者・創業者は、ユニコーンを育てるような指導者にもなります。

湯川:「こういう状況」というのは?

アンナ:資金不足ですし、軍事的な危機もあるし。今から、こういう状況で乗り切って成功できる人は、もうプロのプロのプロですね。

日本に来てから「もうダメ」と思った時

湯川:この軍事的な危機っていうのは、もうみなさん知ってると思いますけど。アンナさんの会社の半分ぐらいがウクライナの出身の方なんですよね。なぜあえてエンジニアの方がウクライナからかなと思ったのは、さっきのお話でわかりました。もともとそういう育ていく文化があるということで。

この軍事的な今の状況は、会社としてもけっこう影響は大きいですか?

アンナ:会社としては影響がほとんどなくて。

湯川:あっ、本当に。

アンナ:うちの従業員の場合は、全員安全なところにいますので。たまたま安全なところに住んでいる人たちですので、問題ないですね。でも逆に、完全にそういう(ビジネス的な)活動を終了して移住した友だちもいますので、どちらかという例外ですね。

湯川:そうなんだね。さっきも何回もキーワードで出てきた「選択肢がない」というところで。選択肢がないからこそ前に進むんだってアンナさんは言われてますよね。

アンナ:現状はそうです。

湯川:外国人で、コーヒーも買えないような言葉の大変さ。かつ、起業しようとしたら文章を書くのも大変、法律の壁もある。その支援の壁もある。日本人がなかなか本音を話さないというコミュニケーションの問題もいろいろあったり、外国人で起業するロールモデルもいない。「ここでやめちゃったら」って考えたことはありますか?

アンナ:あります。お母さんに電話して、「もうダメです。帰ります」って言って。そうしたら「帰りたいのであれば、飛行機のチケット買います」って言ってくれて。「まあいつでも帰れるので、とりあえずもっとがんばってみようか」って思ったことがあります。

1つの扉が閉じたら別の扉が開くかもしれない

湯川:それどんなタイミングだったの?

アンナ:タイミング的にしんどい時だと覚えてるんですけど......。でも、しんどい時はかなりあったので。

湯川:実はアンナさんにしんどい話いっぱい聞かせてって言ったら、「多すぎて思い出せない」って(笑)。いつもしんどかった。

アンナ:そう(笑)。ちょっと言いすぎかもしれないですけど。

湯川:その時に「いつ帰ってもいいんだね」って言ってもらえた。あと、やめちゃうと結局自分がその状況に、負け、っていったら変だけど……。

アンナ:そうですね。個人として、この国の大学にせっかく入学したのに、やめるのであれば準備の期間の自分の時間が無駄になるし、努力も無駄になるので。やめることは、諦めることに近いですね。

湯川:もう自分の人生を諦めない?

アンナ:そうですね。やめたほうがいい時があると思いますが、99パーセントは諦めないほうがいいと思ってます。

例えば、私が妊婦さん向けのアプリをやってた時に、ずっと「諦めない」「諦めません」と考えたら、もしかしたらずっと失敗の繰り返しにはなっていたかもしれないし。

よく国で言われているのが、「1つの扉が閉じたら別の扉が開くかもしれない」。別のオポチュニティがあれば、それに自分の時間や努力を使ったほういい場合があります。

湯川:「目的」は諦めない。でも「手段」は別の扉のこともある。扉の向こうに行くっていう目的はそのままだけど、この扉が開かないんだったら次のがあるんじゃないって。例えばアプリでも、「アプリで成功する」のが目的になっちゃうと違うんですよね。

アンナ:そうですね。だから、「アイデア」が好きにならないように、ずっと言ってますね。見るべきはアイデアじゃなくて「課題」と。

湯川:そっか。「課題解決」って、課題は目的に直結するんですね。アイデアは手段だから。それはわりと独りよがりのことも多い。大事なのは課題のほうなんですね。ありがとうございます。

受動的だと、自分が周りの世界の影響の「結果」になってしまう

湯川:最後に、もう1つだけ気になったワードを最後にうかがいたいです。「オブジェクトとサブジェクト」の話をしてくださったのが非常に興味があったので、ちょっと詳しく教えていただけますか。

アンナ:日本に来た頃は結局、自分が受動的にずっと苦しんで、引きこもりになって……。

湯川:え、そうだったの!?

アンナ:あ、いいえ……。

湯川:あ、びっくりした。例えばの話ね(笑)。うん、受動的になって。

アンナ:受動的になって、結局、自分が周りの世界の影響の「結果」になってしまうか。能動的に、なんでもいいんだけど、どんな活動でもとりあえずなにかをやってみよう、その状況を緩和しようという能動的なアプローチのほうが良いと思っていまして。

自分が「オブジェクト」になりたくなくて、「サブジェクト」に、主体になりたい。どうすればいいのかわからない時には、とりあえずなにかをやったほうがいいと思ってます。

湯川:その状況の被害者というか、本当に受け身になるんじゃなくて。自分から動いていく、本当に自分が主体であり続けることが、初めて自分の人生を切り開く。

アンナ:そうだと思います。

職や国民性ではなく「世界観」の問題

湯川:これって起業家だからなのかな? 最初は法学部にいて、でも違うなって思って、自分からやりたいことをやっていくような。

アンナ:たぶんそれは「職」との関係はなくて、「世界観」と関係してるものだと思います。

湯川:アンナさん、ウクライナの状況とかウクライナの人とかも、私はニュースでしか知らないんですけど、絶望しちゃうよねというのもあったと思います。ずっと今回のご縁があったりニュースを見たりして、ウクライナの国の歴史も調べたら、もう大変で、何度も理不尽なことっていっぱい遭ってきた場所ですよね。

それは国としてもそうだし、アンナさん個人に対しても、「そんな上座・下座の席のどっちに座るかなんか知らんがな」みたいな理不尽なことっていっぱいあって。でも、そこでも前向きにやっていこうと思えたのは、アンナさんがそういう「世界観」を持っていたからなのか、ウクライナで得てきた誇りとか思いとか、ウクライナ人としての特質だったりしたからなのか......って言うと、ちょっと話がきれいすぎるかな?

アンナ:そうですね、あまりそう思わないですね。申し訳ないんですけど。

湯川:いえいえ(笑)。さすがデータドリブン。

アンナ:あんまり国民性ではないと思っています。いろんな国にそういう人がいると思いますし、あくまで世界観ですね。でも、話がきれいです、感動しました(笑)。

湯川:ありがとう、じゃあそういうことにしといて......(笑)。うそうそ、そんなことを言っちゃダメだ。

悲惨な背景を嘆くばかりではなく、解決策を示すべき

湯川:アンナさんのお話を聞いて、私も含めて日本的に「美談」にしたがる。ニュースとかでも、こんなすごく悲しい映像が出るとか、ものすごくわかりやすくどっちかのサイドに寄った話が、わりと日本は情緒的に出がちです。

でも、アンナさんはまさに「日本ってこういう目線ばっかりだよね」って、データドリブンな角度を出していきながら解決しようとしていく。すごくフェアな態度だなと思って聞いていました。

アンナ:ありがとうございます。ただ感情につながるような悲しい写真とか、悲惨な背景を嘆くばかりではなくて。何かの解決策を示したほうがいいと思います。

湯川:そうだよね。いつも大きな問いでもあるんですけど、女性起業とか外国人起業とか、社会起業とかじゃなくって、普通に「起業」だよねと。いろんなかたちのビジネスの1つだよねって日本でも言えるようになっていくといいなって、すごく感じています。

最後に、今日はこれから起業をやっていこうと思っている学生さんもいらっしゃいますし、いろんな業種の方もいらっしゃいます。アンナさんのこれから目指すところを教えていただけませんか?

アンナ:これから女性だけではなくて、世界の人たち個人が、なりたい自分を自由になるような世界の実現に向けて、がんばっていきたいと思っていまして。特に私の企業は、そういう女性に自由な選択肢を与えるような企業を目指しています。

湯川:ちなみに「女性の自由な選択肢」って、例えばどんな場面でどんなことがありますか?

アンナ:健康とか、メンタルヘルスの課題に絞られないように。働きたいのであれば働ける、働きたくないのであれば働かない、自由に選択肢ができる個人をエンパワーしたいと思ってます。

日本の働く女性に多い「自分が何を諦めてるかも気づかない」人

湯川:せっかくなので、女性もたくさんいらっしゃるので、女性に向けてのメッセージももらっちゃっていいですか? 

働く女性の問題で「知らない」というのはすごく多いなと思っていて。今ガラパゴス化とかって言われたりするけど、日本語の中ではふだんの情報収集で終わることもある。特に女性の場合は出産によって離職することも多いので、そうなるとさらに世間が狭くなってしまうんです。その中で、自分が何を諦めてるかも気づかない、ってことがすごく多いと思うんですよね。

そういうことを私は感じていたりもするんです。アンナさんが今まで会ってきたり、データを取ったりした中で実感されている、女性の方、日本の女性の人たちへのメッセージはありますか?

アンナ:モチベーションを与えるものではないんですけど。女性個人個人がもっとセルフケアとか予防措置とか、もっと自分の体と心を理解すれば、女性特有課題や疾患の予防に取り組むことができます。自分のメンタル状態を改善して、離職したくないのであれば離職しないとか、そういう働く女性をサポートする会社に就職できることは大事だと思います。

とりあえず、自分の体や心を知ることが大事だと思っています。そのためには、積極的な情報収集やさまざまなツールを使っていただければと思います。

自分が苦しんでることに自分で気づくと治せるようになる

湯川:ありがとうございます。「自分を大切にする」って、ちょっと日本に足りないカルチャーかもしれない。

アンナ:そうですね。自分を大切にして、自分が苦しんでることに自分で気づくんですね。気づけば、治せます。

湯川:苦しんでること、課題に気づかないと治らないですね。まずは自分が直面してる課題に気づく。「自分自身を大切にする」ところから始まる。起業も同じことで、ずっとそれが続いていくことだと思います。

感想をいただいているので、紹介させていただきますね。「興味深い話をありがとうございました。クレシェンコさんの起業をきっかけに、女性の理解だけでなく男性の理解も深まると、男女を問わず自由な選択ができるようになるのでは」と。

アンナ:ありがとうございます。がんばってまいります。

湯川:クレシェンコさんに負けないように、私たちもがんばっていこうと思います。では、お時間になりましたので、こちらで終了とさせていただきます。ありがとうございました。

アンナ:ありがとうございます。

(会場拍手)

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