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関西ベンチャー学会 第2回女性起業家研究部会「苦難の連続、でも諦めない。」ウクライナ特別編〜女性×学生×外国人×社会起業のリアル〜(全6記事)

日本人はユーザーインタビューで「本音」を言ってくれない 外国人起業家が語る、相手の本気度を探る「聞き方」の工夫

ベンチャー育成を通して関西経済の活性化を図ることを目的に設立された関西ベンチャー学会。今回はダイバーシティ研究部会(女性起業家研究部会)主催で行われたセミナーの模様をお届けします。ゲストはウクライナ出身の学生起業家、株式会社Flora CEOのアンナ・クレシェンコ氏。外国人起業家ならではの「課題」とその乗り越え方について、アンナ氏の考えが語られました。

16歳で空手の世界大会に出場

湯川カナ氏(以下、湯川):アンナさんの今までのお話を今うかがいながら1つ、可視化することでちゃんと効率的に動いて、目的となるゴールに達成するという、非常にそこの意思が強いなと思ったんですけど。昔からそういう人でした? それともビジネスをしていてそうなりましたか?

アンナ・クレシェンコ氏(以下、アンナ):あ、私ですか?……あんまりわからないですね(笑)。でも、20歳までずっとスポーツをやっていました。スポーツだと、1回、2回連続で失敗すればナショナルチームにも入れなくなりますし、スポンサーからお金ももらえなくなります。結局、ぜんぶ結果主義ですね。もしかしたら、そういう影響かもしれません。

湯川:なるほど。ナショナルチームというのは、空手ですよね? 空手のウクライナ代表。

アンナ:はい、そうです。

湯川:世界大会に出た時は16歳の誕生日の次の日で、最年少だったんですよね。

アンナ:そうですね。

湯川:空手って何か精神性がビジネスに(通じるところがあるんでしょうか)。今おっしゃったように、結果を出さないと自分が目的としているゴールに届かない、そうするとその権利もなくなってしまうと。これは練習する時も、負けないこととか試合に対する効率性とかも考えながら過ごしていた感じですか?

アンナ:とりあえず、継続的に、根性強くなにかをやるのが一番ですね。1回だけ練習をスキップすれば、1回練習をスキップしたというアセットがあるから優勝できないとずっと言われ続けたので。

湯川:ああ、そうなんですね。ちゃんと継続して、サステナブルにやること(が大切)なんですね。

アンナ:はい。

ロールモデルがいなかった大変さ

湯川:それがビジネスで活きたということだと思います。いろんな大変なことがあったと思いますが、くじけたりしますか? 強そうなので(笑)。

アンナ:たぶんするかもしれません(笑)。

湯川:今までビジネスで一番くじけそうだった時って、どのタイミングですか?

アンナ:最初の頃はやっぱり苦しかったですね。あとは、思い切って1人で始めた時には、かなり精神的に苦しかったです。

湯川:事前のインタビューの時にも、「ロールモデルがいないのがすごい大変だ」ってうかがいました。日本で、外国人で起業してる人っていないですよね。

アンナ:あの、最近、半年前に1人お会いしたんですね。経営者の方にお会いして、今でも友だちとしてかなり連絡をとっているんですけど。それまではまったく、誰も知らなかったんです。

湯川:やっぱりそうなんですね。1人って、火星に移住したぐらい人に会わない(笑)。本当にいなかったんですね。

アンナ:そうですね。少ないです。

湯川:その中で「1人でやるぞ」って決めてから、どうやってやってきたの?

アンナ:とりあえずやってみました(笑)。

外国人起業家特有の課題が多かった

湯川:さっきも言ってたけど、最初に起業するとしても、例えば法律を知っていないと、ややこしくてしょうがない文章もいっぱいありますよね。それを1個1個調べながら……。

アンナ:そうですね。1個1個自分で調べながら。せっかく法学部に入ったので、とりあえずその知識を活かそうって思って。

湯川:まさか(京都大学の)法学部の知識がベンチャー起業に役立つとはね。

アンナ:まあその部分だけですけど(笑)。

湯川:他に相談できるコミュニティもなかったんですよね。

アンナ:そうですね。京都商工会議所とか、そういう交流会とかに参加させていただいたり、すごくお世話になったんですけど、実は外国人起業家特有の課題がかなりあって。ビザの関係とか。

海外に来た時に、ネットワークがまったくないんですね。自分の国だと、とりあえずお母さんやお父さんの友だちの友だちの友だちの誰かに聞くことができるかもしれないですね。「司法書士ってどこの事務所に行ったほうがいい?」とか、聞けるかもしれません。

でも海外ではひとりぼっちじゃないですか。だから、とりあえず何から着手すればいいのか、まったくわからない状態でした。同じような課題に直面した外国人起業家の意見は、当時は聞きたかったと思いますね。

湯川:今後外国人として起業される方にとって、アンナさんご自身がロールモデルになって、次に同じ苦しみを味わわせないようにって思ってらっしゃるんですか?

アンナ:そうですね、できればそうなれたらいいですね。がんばります。

コミュニケーションがうまくいかないのは「外国人だから」ではない

湯川:例えば、これを聞いてる人の中でもし外国の方で起業しようと思う人、日本で起業しようと思う人がいて、「一番大事なこと3つ伝えてください」と言われたら何と言いますか? ごめんね、急に(笑)。

アンナ:急ですね(笑)。「そんなに怖くない」ってことが1つですね。

湯川:おお! なんでなんで?

アンナ:難しいですし、煩雑ですけど、怖くはないですね。やればできる。日本人はそんなに宇宙人じゃなくて、人間なので(笑)。そんなに怖くもないですし、普通にコミュニケーションとれるし、チームに入ってくれるし。怖くないです。

湯川:(笑)。いや、でもすごいわかります。だってみんなに「このアプリ良い?」って言うと、「良いっすね」「良いっすね」「良いっすね」って言ってたのに、結局違うじゃんって。宇宙人だったのか? って思うよね。でも、そうじゃないよね。

アンナ:あともう1つ……そうですね、コミュニケーションがうまくできない人がいたら、もしかしてそれは本人のせいじゃなくて、合わない人かもしれないですね。別に自分が外国人だからコミュニケーションがとれない場合ではないことがあって。コミュニケーションがうまくないのであれば、別の人を探したほうがいいですね。

湯川:そうだね。私もよく「自分の伝えたいことが伝わらなかった、自分のどこに問題あるんだろう」という相談をされるんですけど、その可能性もあるけど、相手とそもそも合ってない可能性もある。

自分の起業のコンセプトにばっちりあっている人を探す

アンナ:外国の人だったら3倍その思いが入るんですね。「私の日本語がうまくないから、たぶん伝わらないんだろうね」「文化が違うから、たぶん私が悪いんだろうね」って、思いますね。

湯川:そっか。でも、そうじゃなくて。

アンナ:そうじゃなくて、本当に自分のアイデアとか自分の起業に、自分のコンセプトにばっちりしている人材であれば、そういう課題はたぶん発生しないと思います。だから、別の人を探したほうがいいです。

湯川:アンナさんもたくさんの人に会いましたか?

アンナ:そうですね。人材採用は難しいですね。でも、一番ラッキーだった出会いが、やっぱりたまたま、向こうからアプローチされたので。

湯川:先ほどのFacebookの。

アンナ:そうですね。

湯川:それはFacebookで、アンナさんがずっと「こういうことをしたいんだ」って発信し続けていたから、それに共感してくださったんですね。

アンナ:そうです。

大変だった日本の「ビジネスマナー」

湯川:ありがとうございます。大きな話の流れが見えたところで、今から10分ぐらい質問を受け付けたいと思います。質問を受ける間に、「外国人起業あるある」ということで。「そういえば、こういうのも実は外国人には大変だったよ」というお話をうかがいたいと思います。

今日びっくりしたのが、アンナさん「煩雑だ」ってよく言われるでしょ。「煩雑」という日本語をちゃんと使いこなしてらっしゃるのが、すごいなと思うんです。だって、日常生活で「このトリセツ(取扱説明書)超煩雑」とか言わないじゃないですか。でも、ビジネス用語ではすごく使うんですよ。

言葉が難しかったよっていうお話は少しうかがったんですけど、具体的に教えていただいていいですか?

アンナ:そうですね。言葉が難しかったというより、ビジネスマナーがぜんぜん違うじゃないですか。私は1年間大阪大学の日本語文化センターで勉強をさせてもらったんですけど、もちろんその時にはビジネスマナーとか、お客さんとの面談あればどこで座ればいいとか、そういうことは教わらなかったんです。

湯川:面談のどこ座ればいいって、よくある上座・下座みたいなことですか?

アンナ:そうですね。

湯川:怒られたりとかした?

アンナ:わからないですね。今はわかるんですけど。当時はわからなかったんですね。

湯川:机に書いといてほしいよね、こっちが偉い人、とかね。

アンナ:だから最初の頃はいろいろ無礼なことをしたと思いますが、意識的ではなかったんですね。単に、その文化についてまったく知識がなかったですし、どこで学べばいいのもわからなかったんですね。

ビジネス会話や文章の難しさがあった

湯川:相手も教えてくれないでしょ。「『いや、そこ座るとこじゃないですよ』とか言ったらかわいそうかな」とか思ってね、きっと。

アンナ:そうですね。

湯川:ビジネスマナーって他にどんなものがありましたっけ。名刺交換の仕方とかもひょっとしたら……。

アンナ:まあそれは早く身につくスキルなんですけど、メールの書き方とかですね。普通のビジネス会話のやり方とか。いろいろ細かいところがあるじゃないですか。

湯川:しゃべる時「御社」って言うけど、書く時「貴社」って言うとか、どう思う?(笑)。

アンナ:そうですね(笑)。当時はしばらく、ずっと「御社」とか書いて、口頭で「貴社」と言ったりしていました。

湯川:でも、私がそれに気づいたの46歳だから、アンナさんぜんぜん早いです(笑)。

アンナ:あっ、そうですか(笑)。

湯川:私もぜんぜん知らなかったので。名刺はこうするとか、あるじゃん。片手で渡しちゃいけないとか……。(今も)よくわかってない証拠なんだけど(笑)。

アンナ:あとはそうですね、最初の頃メールを書いてる時には、ちゃんと書いた文言をネット検索で正しいかどうかを調べたりしていました。早く返そうとしてるんですけど、それで時間がかかるので、返信がちょっと遅かったかもしれません。

湯川:すごくわかる。「いつも大変お世話になっております」「どうぞよろしくお願いします」に、なんの意味があるかわかんないもんね。

アンナ:いろいろありますね。

ユーザーインタビューで本音を引き出すために心がけたこと

湯川:ありがとうございます。では質問が届いているので、お答えいただいてもいいですか?

「お客さんにアプリの感想を尋ねる時、1時間ぐらい話さないと本音を話してもらえないというのがありました。本音を話してもらうために、時間をかけること以外に工夫していることなどありますか?」。

アンナ:そうですね。アメリカの作家なんですけど、『The Mom Test』というユーザーインタビューに関する本があって。お母さんが一番あなたを愛している存在なので、どんな聞き方だったらお母さんでも批判できるかという、(相手の本音を引き出す)質問の仕方とかについて詳しく説明してる本です。

湯川:なるほど。ご質問いただいたフジワラさん、ありがとうございます。というわけで、ちゃんとそういう本があって、そういうスキルを学んで。

アンナ:そうですね。スキルなので、自然にできるものではなくて。事前に聞きたい質問とか、事前のリサーチをいろいろします。あとはできるだけ主観的な言葉じゃなくて、数字に変えてもらってるんですね。

例えば、「これは問題だと思いますか?」「はい、問題だと思います」「じゃあ、1から10までだったらどれくらいつらいなのか?」って。10が「家族の誰かが重大な病気にかかったぐらいのつらさだ」。1と答えられたら、別に問題じゃないんです。その問題の解決に対して、その人はたぶんお金を使わない。

だから、そういう程度もいろいろちゃんと考えないといけないですね。インタビューがすごく難しくて、アートに近いかもしれません。

湯川:最初にアプリを出した時にも、「良いと思いますか?」という質問を、数値化してもらったらひょっとしたらうまくいったかもしれませんね。

アンナ:そうですね。「良いと思いますか?」って聞いたら、もちろん答えとしては「良いです」ってなるんです。

湯川:10段階で、「これは毎月1万円払うくらい、連続して使いたいですか?」というような聞き方をしたら、「良い」の中身もわかったかもしれないですね。

アンナ:そうですね。

日本のカルチャーにある「NPO=ボランティア」という認識

湯川:次の質問は、いくつかの質問をまとめて申し上げます。この方は大学1年生の方からですね。日本のママがストレスから身を守ることをサポートしたいということで、彼女も女性に対するコンテンツを作ろうとしているそうです。

だけども、収益をどうするか意識するとターゲットが少ないので、やっぱり無償でやるしかないかなと思っているそうです。収益を意識することで得られるメリット、何が変わってくるかを教えてくださいということです。

よくあるんですけど、日本ではNPO=ボランティア、無料っていうカルチャーがあるんですよね。私の周りにも「NPO貧乏」のような、NPOを一生懸命やってる30代〜40代独身男子がすごく多いんですよ。

ソーシャルグッドをやっていると儲けられない部分もあって、稼げない。若いと特にビジネスのイメージがわかないから、タダでやるしかない。途中から始める人でもそれが多いんですよね。そうじゃなくて、収益を意識することがなぜ大事なのか。

アンナ:個人的には、無償から始めるのはあまりおすすめしないですね。もしかして、あなたのプロダクトを無償だからこそ使っている人がいて、有償になったら使わないかもしれないですね。だから、途中で有償にしようと決めても、ビジネスになるかどうかはわからない。それが1つ目。

世の中にインパクトを与えるための「継続的な収益」

アンナ:まずNPOはすてきだと思いますし、NPOはあったほうがいいと思いますし、別に批判はしていません。でも現在はスタートアップの話だったので。「スタートアップ」は私の個人的な意識として「ビジネス」であるので、やっぱり収益をあげないといけません。

継続的に収益をあげることができるのであれば、もっと世の中にインパクトを与えることができると、個人的に思っています。自分の活動をスケール化して、もっと多くの人に届けられるようになります。

湯川:そうですね。最初はビジネスを考えないで始めることが多いので、自分の人件費を入れてないこともすごく多かったりして。それだと継続もできないし、スケールもできないし。

本当にそれが良いことだからこそ、より広がる、よりたくさんの人にリーチするように、ちゃんと有償で回っていくようなプロダクトにしておく。これが私もすごく大事なことじゃないかなと思ってます。

海外の市場調査はGoogleトレンドで

ちょうどこの質問に関連して、アンナさんは日本のマーケットだけではなく海外も見てらっしゃると思うんですけど、「海外の市場調査はどのようにされていますか?」という質問もあります。

アンナ:……(笑)。

湯川:イングリッシュはできるでしょ?

アンナ:あ、できます(笑)。まず、いろんなツールがあります。無料でリサーチできる情報があるんですけど、正直限られてるんです。でも、限られていても、それで事業計画は確実に立てられるとは思ってます。

おすすめするのは、例えば「Google トレンド」。Googleが提供している完全無料のツールです。Google トレンドで今は何がトレンドになってるのか、SNSで何が話題になっているのか調べることができます。それだけで、もっと多くの人に届けるようなコンテンツを作ることができますよね。

あと、「マーケットリサーチツール」でGoogleで検索すれば、たぶんいっぱい記事が出てくると思います。Google検索をもっと効率良く活用するのがおすすめです。

湯川:本当に昔と違って、すぐ翻訳もしてくれるからね。

アンナ:そうですね。インターネットには本当に大きな力があります。

湯川:ありがとうございます。

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