クライアントに共感傾聴しない、キャリアカウンセリング

加美雪絵氏(以下、加美):こんにちは。みなさん、今日はお昼のお忙しい時間にご参加ありがとうございます。「キャリコン3.0 これからの時代の『共感傾聴しない』キャリアカウンセリング」ということで、私、キャリアコンサルタントの加美雪絵と、「退職学®」研究家の佐野創太さんの対談のイベントを始めさせていただきます。よろしくお願いします。

佐野創太氏(以下、佐野):お願いします。

加美:さっそくですけれども、今日もお題は「キャリコン3.0」。私はキャリアコンサルタントを始めて15年以上経つんですが、その中でいろいろ経験したり時代の変化に合わせて、今必要なキャリアカウンセリングの概念を考えていまして。それを今日初めてお披露目させていただきたいと思っております。よろしくお願いします。

もうすでに、動画視聴を含めてお申し込み者が240名を超えました。だいたい半分ぐらいの方がキャリア面談のご経験がある方。あとは6割ぐらいの方がキャリコンの資格をお持ちで、4割ぐらいの方は「そういうのはないんだけれど興味がある」ということです。けっこう幅広い方にご興味をいただいている、うれしいイベントになっております。

資格をお持ちの方からよくお聞きするのが、1回の面談で「モヤモヤがすっきりしました、ありがとう」で終わる。そのあとクライアントの方がどうなったか、何か変化・変容があったのかがわからないのが不安です、ということ。私自身もセッションが終わった後に「私のキャリアカウンセリングは、これでよかったのかな」と悩むことが、以前はあったんですよね。

このキャリコン3.0は、「はたらきかた」の価値観が大きく変わった今の時代に合わせたキャリアカウンセリングの考え方で、「共感傾聴」のさらにその先の、クライアント自身の「はたらくこと」への価値観や行動変容に深く入り込んいく考え方です。具体的なお話は、このあとをお楽しみに。そして、私も佐野さんもチャットをけっこう拾って進めたいタイプなので。ですよね、佐野さん?

佐野:本題よりも好きです(笑)。

加美:2人とも、化学反応と言いますか、アドリブなノリが好きです。質問とかご感想、あと初めての概念なので、納得いかないこととか、疑問がたぶん出てくると思うんですよね。そういうコメントをチャットの中に入れていただき、できる限り拾っていく。ちょっとがんばるスタイルでまいります。

佐野:「がんばるスタイル」(笑)。がんばりましょう。

働き方の変容に伴って、キャリア相談の内容に現れた変化

加美:ぜひコメントのほうもお願いします。

佐野:あ、学生の方もいらっしゃるんだ。

加美:えっ、学生の方もいるんだ。嬉しい。すぐ脱線してしゃべりたくなっちゃう(笑)。今日は「共感傾聴しないキャリアカウンセリング」というこのテーマに何かしら引っかかってご参加いただいた方が多いと思うんですよ。なので、キャリアカウンセリングで困っていること、あと資格勉強中の方の聞いてみたいことなど、ぜひチャットに上げていただきたいなと思っています。

書いていただいている間に、私たちは自己紹介をしていきますので。片耳で聞きながらぜひチャットで、今感じている課題や聞きたいことをお聞かせください。

私はキャリアコンサルタントの加美雪絵と申します。人材紹介会社のキャリアカウンセラーとしてキャリア支援の仕事をスタートしてから、途中、キャリアコンサルティング技能士2級の資格を取得したり、企業で人事としてはたらいたりしながら、学生から50代の管理職の方まで3,000人以上の方のキャリア支援をしてきました。私自身も転職を4回経験して独立し、今は小1・3歳・2歳の3人の子どもがいます。

佐野:すごい。

加美:ありがとうございます(笑)。

3人目の育休中に、もっとキャリアコンサルタントとして仕事をしたいと考えて、業務委託で2社キャリアカウンセリングの仕事をもらうことを始めたんですが。「共感傾聴だけだと、キャリアカウンセリングがうまくいかない」と感じることが増えて、キャリア相談の中身が変わってきていると感じました。

以前は「人間関係が悪くて転職したい」とか「今の部署が合わない」とか、モヤモヤした悩みを抱えたクライアントが多くて、その「辛い」とか「合わない」って気持ちに寄り添って共感傾聴していくスタイルが多かったんです。

でも、副業推進やパラレルキャリアブームで、「今の会社には満足している。だからこそ、ライフワークとして副業を始めてみたい」とか「小さく起業してみたい」とか、前向きなご相談が増えました。そうすると、「共感傾聴」で感情に寄り添うだけだと話が前に進まないんですね。クライアントの方は今の気持ちにフォーカスするより、未来に向けて新しい可能性を見つけたいと思って来てくださっているので。

それでいろいろと勉強を始めて発信する中で、TwitterからのDMとか口コミのご紹介で、「共感傾聴だけではなく、もっと大きな気づきを得て自分自身が変わりたい」というキャリア支援を希望されるお客さまが増えてきて。今は個人の方向けに、継続的にキャリア支援のセッションを行っています。

退職後も辞めた会社から声をかけられる、「最高の辞め方」がある

加美:去年の冬に独立して、個人向けのキャリア支援以外にも、キャリコン向けの講座や企業向けの人材採用支援、女性活躍推進の講演とかインタビュアーとかモデレーターとか、幅広くやりたいことに足を突っ込んで、いろんな自分を多面的に楽しんでいます。佐野さんとはいろいろ共感できるところがあり、今回のイベントのお声掛けをさせていただきました。佐野さん、自己紹介をお願いします。

佐野:みなさま、はじめまして。佐野創太と申します。日本で初めて、かつ唯一の「退職学」。会社を辞める退職ですね。退職学の研究家として、2017年に独立をして活動をしております。最近は退職学のエッセンスをギュッと凝縮した本を出しました。『「会社辞めたい」ループから抜け出そう!転職後も武器になる思考法』(サンマーク出版)です。ありがたいことにAmazonや楽天ブックスで、転職や労働カテゴリーで1位になっています。

退職というと、まだまだ「退職していく人は裏切り者」みたいなネガティブなイメージがあります。その中で、退職者は「実は裏切り者ではなくてただのファン」とか、退職は「退職後も声をかけられる、最高の自分になるきっかけに過ぎない」みたいに、退職の概念を変えられたらなと、退職学なんて名前をつけてやっております。

もともとは転職エージェントで働いたり、その会社の新規事業で求人サイトの運営をしたりして、2017年に独立をしました。僕は加美さんのように3,000名はぜんぜんいってないんですけど、1,000名ぐらいの学生の方から経営者の方まで、キャリア相談やはたらきかたの相談に乗っていく中で、見えてきたものがあります。どうやら「退職後も声をかけられる、最高の会社の辞め方がある」と。それを体系化してどんどん発信していきたいなと思い、今日もこの場におります。

企業向けには退職者「も」ファンにする「リザイン・マネジメント(Resign Management)」を。これから独立するキャリアコンサルタントやコーチ、カウンセラーの方には経験やノウハウを継続的にお金を払いたくなるサービスに変えるパートナーとして活動しています。よろしくお願いいたします。

自社を辞めていく人をファンにする、「リザイン・マネジメント」

佐野:あとは「夫婦会議®︎」ですね。「夫婦会議®︎」は、夫婦を世帯の共同経営者に見立てた「世帯経営」という考え方を導入して、「世帯経営ノート」や「夫婦会議ノート」を作っている会社さんです。このツールを使ってより良い未来に向けて夫婦で対話を重ね、行動を決めていけるようになったご夫婦が全国にたくさんいっしゃいます。私はこの「夫婦会議®︎」のアンバサダーもしています。

50社以上との「リザイン・マネジメント」を少し解説しますね。退職は「リタイア」という言葉もあるんですけど、実は「リザイン(resign)」という英語があります。リザインとは、再び(re)サインする(sign)、ということですね。退職は本来はぜんぜん縁の切れ目ではなくて、関係性が変わるだけなんです。

退職のマネジメントをすることで、今いる社員の人もやる気が上がっていくし、辞めていった人はファンになる、ということを50社の企業さまと一緒に作ってきました。「退職者がファンになる組織作りがあるよ」ということです。今、採用は採用担当、退職は人事みたいに、採用から退職まではけっこうバラバラしていますが、これを1本でつなげるとすごく良い会社になります。(そういう)組織開発に近いことをやっています。

キャリア相談をやったり転職エージェントをやったり求人サイトを立ち上げたり、Webメディアや採用広報の編集長をやったり、個人的には早期退職を20代で2回したり、介護離職をしたり、思い通りにいかないキャリアでここまできています(笑)。これからも自分でキャリアを作らないといけないな、という感じでがんばっております。

すみません、僕の話は長いですね。本を書いたので、みなさん、今日「佐野、けっこうおもしろいな」と思ったら、ぜひ本を買って読んでいただきたいです。Amazonレビューがやたら増えてきて嬉しい限りです。(4月12日現在で113個)

加美:すごいですね。なんか、熱量のある熱々のコメントが多いですよね。

佐野:長文で、熱い(笑)。それこそキャリコンの方が参考に読んでくださったり、経営者の方が読んでくださったり、お子さんのいる専業主婦の方もいました。そう、帯にある「会社も上司も全部ガチャ、国もガチャ。全部偶然」。まさにそうです。

加美:(笑)。

佐野:ガチャの中でどうやって楽しく働いていくかを書いた本なので、ぜひ。キャリア支援や組織づくり、職場のコミュニケーションの改善などに活かせるかなと思います。

加美:そうですね、私も読んでみて共感できるところが多くありました。

鏡になる共感傾聴では、クライアントの「本音」を聞き出しづらい

加美:今日はあらためまして、「共感傾聴しないキャリアカウンセリング」というお題でお話をさせていただきます。佐野さんは、普段から共感傾聴されていますか?

佐野:僕、共感傾聴はたぶんしてないです。正確には「どこまで行っても共感傾聴できていない」でしょうか。できているかどうかは相手の方が決めることなので、私の目線からは指標にしていません。私のもとに来てくださる方は30代くらいの方が多くて、「会社辞めようかな」とか「転職しようかな」という段階で来る方が多いです。

「モヤモヤを書き出してみましょうか」とか、「今、副業とかフリーランスのサイトがたくさんあるので、いろいろ応募してみますか」と、一緒に志望動機などをどんどん書いていくんですよね。

書いていく中で「いい言葉が出てきましたけど、それ本音ですか?」と聞いて、「本音ですよ」とか「いや、これはかっこよすぎるのでちょっと違います」とかやっていくうちに、気がついたら自分のキャリアを考えるようになっていたとか、気がついたら副業を始めて自信がつきました、とか。共感傾聴できてなさそうですよね(笑)。

加美:なるほどなぁ。「本音ですか?」とか、おもしろいですね。あと佐野さんの本の中にもあった「もっと怒っていいんじゃないですか?」という、あの関わり方がすごく好きです。いわゆる共感傾聴だと、相手が表面上怒っていなければ、「私が同じ立場だったら怒るだろうけど、この方はどうして怒らずに済むんだろう」と心の中で疑問に思いながらも、相手の感情に共感するようなコメントをすることがあります。

相手の言葉を拾いながら、相手がどう感じているかをクライアントの鏡になって返すのが共感傾聴のベースなので。共感傾聴を意識しすぎると相手の感情を大切にすることにフォーカスしすぎて、「もっと怒っていいんじゃないですか?」とかそういう本人が表に出していない本音にもっと踏み込んでグイッと聞いていくのは、相手の鏡になるゆえ意外とできなかったりするんですよね。

佐野:僕の考え方は、本音はコップの中にあって、牛乳が下、コーヒーが上に分離して2つの層になっているイメージです。上澄みのコーヒーであるモヤモヤやイライラを取らないと牛乳という本音が出てこないと思っていて。モヤモヤとかさみしさとか怒りとかの感情を、ちゃんと1回吐き出さないと、本音が浮かび上がらないという考え方をしています。

最初の一次感情をわりと……煽る、というと言い過ぎですが(笑)。引いて聞いて、それを肯定するというよりも「いや、本当はもっと怒ってませんか?」という関わり方が多いなと思います。