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キャリコン3.0 これからの時代の「共感傾聴しない」キャリアカウンセリング(全4記事)

キャリアの可能性を狭める、「自分らしく働く」という思い込み 3千人超を支援したキャリコンが語る、「自分らしさ」の落し穴

Proud Career主催のイベント「これからの時代の『共感傾聴しない』キャリアカウンセリング」に、『「会社辞めたい」ループから抜け出そう! 転職後も武器になる思考法』の著者で「退職学®」研究家の佐野創太氏が登壇。Proud Career主宰の加美雪絵氏と共に、時代と環境で変わった働き方の価値観や、クライアントが「自分だけの働く理由」にたどり着くために必要なことなどを語りました。

時代と環境で変わった働き方の価値観

加美:共感傾聴カウンセリングだと、怒っていることを表に出している人には「お怒りなんですね」と言葉で共感を返して、さらに深く感情を引き出すことはできるんですが、うまくかみ合わないとさっきのコップで言う表層的なフチのところをぐるぐるしてしまう。

モヤモヤに「寄り添う」だけではうまくいかないのは、今の「はたらきかた」に関する価値観の変化も1つ要因にあると思っています。ちょっと表にまとめてみましたのでご覧ください。

「はたらきかた1.0」でいうと、終身雇用。1つの会社の中で定年まではたらき続けることが大切だったので、会社の敷いたレールの上で上司に評価をされて、そこで出世して勤めあげるのが大事な価値観でした。本当の自分を押し殺しながら、組織の中で「良し」とされる人格を演じて嫌な上司にもニコニコ振る舞う。人のせいにせず、自分の感情を消して「プライベートより仕事」のワークワークライフでやってきましたよね。

でも今は「はたらきかた2.0」。社内だけに目を向ける時代ではなくなっています。会社からの評価ではなく、市場や社会からの評価である「市場価値」を気にされる方が増えて、転職も選択肢の1つとして当たり前になりました。はたらく人たちの視点もどんどん外向きになっていますよね。

「私らしくはたらく」「私らしいはたらきかた」といった言葉もよく耳にするようになって、組織に求められる人格を演じるのではなく「仕事でも『自分らしさ』を大切にしたい」と考える人が増えてした。仕事もプライベートもきちんと分けて両立したいと考える、「ワークライフバランス」という言葉も当たり前になりました。

仕事とプライベートの境目がない、「はたらきかた3.0」

加美:そして、今少しずつ広がってきているのが「はたらきかた3.0」の考え方。わざわざ会社を変えなくても、パラレルキャリア、副業やプロボノでいろいろなことに挑戦できるし、1つの会社の中で複数の組織やプロジェクトに身を置く「社内兼業」も増えました。そうなるといろいろな役割を持ち、関わる人も増えるから、誰かに評価されるとか認められるとか、そういう「周りから見たらどう思われるか」という感覚が薄くなってくる。

もちろん市場価値(社会からの評価)を高めるために副業される方も多いですが、わざわざ副業してまでやりたくないことをやりませんよね。自分の価値観で自分を評価して、「自分がどうしたいか」を軸にキャリアを考える時代になっています。仕事が楽しいか楽しくないか、好きか嫌いか、夢中になれるか。そういう自分自身の本音や感情に向き合って、他人のものさしではなく自分のものさしで多面的にキャリアを描く人が増えました。

「プライベートと仕事を切り分けたい」というワークライフバランスから、遊ぶように仕事をして、仕事とプライベートの境目がない感覚、「ワークアズライフ」という言葉も少しずつ浸透してきていますよね。

このような「はたらきかた3.0」の価値観を持ったクライアントの方とお話するときには他人からの評価より、「自分が何が楽しくてどうしたいか」「何がやりたいか」という、クライアントの本音に向き合う踏み込み方が求められます。今までの「モヤモヤした感情に寄り添う」共感傾聴を大切にしたやり方だけだとなかなかうまく進まないんです。

この「はたらきかた」への価値観は、クライアントの方によってだいぶ差があると思っています。「はたらきかた1.0」の価値観が強い方だと自分の本音を殺して会社が求めるマネジメント像を演じ、会社でムカつくことがあっても「しょうがない、仕事ってこういうものだ」と自分の感情を殺して、ワークワークライフで働くという方も当然いらっしゃいます。

「自分らしさ」にとらわれることのリスク

加美:あと、「はたらきかた2.0」の価値観にある「自分らしく働く」とか「好きを仕事にする」といった言葉。個人的にはこれもけっこう危険だと思っていて。「自分らしさ」がわからないと言って自分探し迷子になっている方がいたり。見つかったら見つかったで、その「自分らしさ」にとらわれて、そういう自分であり続けたいというこだわりが、自分の視野を狭くしてしまうんですよね。

佐野:確かに。一貫性にとらわれたりしますもんね。

加美:そう。人って、一貫性を求める生き物なんです。自分が決めた「自分らしさ」からずれて矛盾が生まれると「それは自分らしくない」と可能性を狭めてしまう。

例えばクライアントの方が「いつも明るくて周りを元気にすることが『私らしさ』なんです。だから、元気のないところや弱みを人に見せてはいけない」とおっしゃった場合に、キャリアコンサルタントがそのまま受け止めて「それがあなたらしさなんですね」と共感してしまうと、クライアントの方はますます「自分らしさ」の檻に入ってしまって、せっかく対話をしているのに、それ以上の広がりが生まれない。

「元気じゃないあなたも、あなたですよね。それってダメなことなんでしょうか」と思い込みを外して広げていくことこそ、対人支援者としてクライアントの方に関わる価値だと考えています。

でも、「はたらきかた3.0」までいくと自分の価値観でキャリアを築いて、いろいろなところで様々な役割を持つので、自分の「らしさ」も自然と多面的になり、1つの「自分らしさ」にとらわれなくなってくる。まさに佐野さんのおっしゃったコップの、上澄みのコーヒーじゃなく沈んだ牛乳の部分、本音まで到達して深く自分と向き合いながら、「様々な自分らしさ」を受け入れてキャリアを築いていくんです。

だからこそキャリコンも、もっと本音にグイッと入ってクライアントの視野を広げる向き合い方が必要だし、そうした踏み込みが求められていると感じます。

寄り添うではなく、「踏み込む」対人支援のおもしろさ

佐野:(ピーター・)ドラッカーが1999年に出版した『明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命』(ダイヤモンド社)という本の中で、実はもうパラレルキャリアを提唱しているんですよ。自分の能力や個性を開花できるから、本来はパラレルキャリアのほうが人間らしいという発想が紹介されています。

この本は​​京都芸術大学の教授であり、「最終学歴」ではなく「最新学習歴」を更新する「学習学」を提唱している本間正人先生から教えていただきました。

加美:なるほど、そうなんですね。

佐野:1つの会社で1個の仕事というよりも、複数のコミュニティで複数の役割を持っているほうが、自分らしさを保てるんじゃないかなと。

加美:そう思います。自分の顔、つまり「自分らしさ」はその役割によって違っていて、それぞれの顔で活躍するという「多面的」ということがこれからのキャリアにはすごく大事だと思うんですよね。でも、自分ひとりだとどうしても狭い価値観の中にとらわれてしまう。だからこそ、キャリコン(対人支援者)が「本人が見えていない部分も引き出しお伝えしていく」のが、踏み込む対人支援のおもしろさだと感じています。

キャリコンの人たちがクライアント一人ひとりのはたらきかたの価値観に合わせながら、自分の視点を持って、他者評価ではなく自分軸、自身の価値観でキャリアを選ぶことを一緒に話し合えたら、はたらくことへの価値観が未来にアップデートされると思います。

佐野:へぇー、「積極的介入」というのもあるんですね。

加美:うん、踏み込むということかな。

佐野:積極的介入、大事ですね。

加美:そうなんです。私がクライアントの方に向き合う際には、特にこの3つのアンテナを立ててカウンセリングをしています。1つは「市場価値」という概念の是非。そして、さっきから私が熱く語っている「自分らしさという名の一面性への執着」。最後に「過去の失敗体験」です。この3つに関しては、私は「本当に共感傾聴すべきか」を意識しながらお話を聞いています。

本音を起点とする、「内発的な動機」の重要性

加美:佐野さんはどうですか、このあたりに何か思うところはありますか。

佐野:そうですね、私の本の中でも「市場価値よりも人間価値を求めるほうが、結果的に市場価値も上がる」とはっきり書きました。本当は「キャリアアップ」も定義を更新しようとしたんですが、ページが足りませんでした。

加美:ページの問題(笑)。

佐野:「自分らしさ」も……これはあとで話があるのかな。個人主義よりも、平野啓一郎さんが『私とは何か――「個人」から「分人」へ』 (講談社現代新書)の中で提唱している「分人主義」という考え方を取り入れています。過去の失敗体験とか、それに引きずられていったら、僕はたぶんずっと無職ですね。

加美:無職(笑)!

佐野:1回無職にもなっているので(笑)。なので過去の話は、確かに僕はあまり聞かないかもしれないですね。描きたい未来をつくるためのネタとして過去を使います。

加美:なるほどなぁ。この「市場価値という概念の是非」はまだまだ賛否両論あるかもしれません。キャリアというと、転職して内定をもらうとか年収を上げたいとか、「市場からどう見られるか」が、どうしても最初にイメージされるので。でも、結局これだけ世の中が変わってきていると、今は市場価値があると言われる職種でも、数年後どうなっているか本当にわからないです。

私のクライアントさんでも、「今の職種はつまらないし好きじゃない。けれど世の中的には市場価値があるからやり続けて、いつか転職しても、この職種を続けます」と言う方がいらしたりします。「本当に? 好きじゃないしつまらないのに、『市場価値』のためにこの先やり続けますか?」と聞くと、ハッとされるんですよね。

佐野:今の考え方を揺らす時間が必要ですね。

加美:「本当にそれでいいですか?」と。やっぱり、社会からどう見られるかという市場価値よりは、佐野さんの言葉で言う「人間価値」。私の場合で言うと「内発的な動機」。楽しいか楽しくないか、好きか嫌いか、そこにやりがいを感じて夢中になれるか。そういう本音からくる動機がないと、仕事は続かないし、結局集中できず、成果も出せないですよね

「自分だけの働く理由」にたどり着くために、掘り下げる

佐野:「市場価値」の議論は奥深いですよね。前、それこそ外資のセールスでガンガン稼いでいる方が、「市場価値を上げたいです」とやって来たんです。「次の転職活動の軸は金です」と。それに対して佐野は「いいですね」とお返事しました。

加美:(笑)。

佐野:「金で転職」でいいんですよ。いいんですけれども、「なんでそこまで金に執着しているのか」「金が尽きないやりがいになるのか」まで掘り下げると、自分だけの働く理由に突き当たるんです。「金でいいじゃないですか」で終わってしまうとダメなんですよね。自分がなぜ金にそこまでこだわるのかを考える切り口です。モチベーションになるものが明らかになっていることはいいことです。

そこを掘っていくと、その方は小さい頃、けっこう貧乏だったらしいんですよ。それで「家族が金ひとつで不機嫌になるのがものすごく嫌だった」という話があって。なので「お金を得ること」は「自由であること」になるし、大切な人に対しても優しくなるための余裕を持つためのもの、という捉え方をしていたんですね。少しも他者目線に振り回されていない。自分の体験に基づいている考え方なんです。

加美:うん、関係ないですね。市場価値とお金という、また違う捉え方を、くっつけて話してる感じがしますもんね。

佐野:ぜんぜん素直でいいんです。最初に浮かび上がって言葉にしたものが、外からの評価っぽいなと感じたり、人にそう言われても、ガンガン掘り下げていくと自分だけの理由にたどり着くんです。お金でもいいし、ネームバリューでも何でもいいんです。外からの評価と否定されそうなものを掘っていくことで内側にアクセスできる方は多いです。いきなり「私の生きがいは」と抽象度の高いものから始めない内省もありますね。

加美:確かに。私は学生のキャリア支援もやっているんですけど、「ありがとう」って言われるのが一番うれしいとか、褒められるとモチベーションが上がるとか、前向きな人たちとはたらきたいとか、そういうことをおっしゃる方が本当に多いんです。他者からのポジティブな反応が大切だと。昔は「そうなんだ、そういうのがうれしいんだね」と共感していたんですけど。

でも今は、否定、と言いますか「それって他者からの評価だから、自分ではコントロールできないですよね。もしそうした評価が得られない職場になったら、どうやってモチベーションを上げますか?」と聞いてみたり。「周りの評価がなくても自分は楽しいと思えることって何でしょうね?」と一緒に考えるようにしています。

佐野さんのおっしゃる「自分だけの理由」ですね。これも「他者や社会からの評価が大切」という、はたらきかた1.0、2.0から3.0への転換ですね。

佐野:「揺らす」と。

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