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第二部「櫻井将氏講演」(全2記事)

今多いのは「将来のビジョン」より「今の価値観」を重視して働きたい人 組織と個人の距離感を保った「Will-Can-Must」の重ね方

組織課題に当事者意識を持ち、変革を自ら進めていく“自律型人材”の育て方について、年間1万セッション以上の「1on1」を提供する「YeLL」に溜まった知見をもとに、エール代表取締役 櫻井将氏と、『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』を監訳されたエール取締役 篠田真貴子氏が登壇したイベント「"社員の内発的動機を高める"組織づくり」。本記事では、第二部の櫻井氏の講演の模様をお届けします。「内発的動機につながる5つのアプローチ事例」より、後半3つの事例が解説されました。

「厳しい指導」と「なんでも話せる1on1」の両立の難しさ

櫻井将氏(以下、櫻井):(「内発的動機につながる5つのアプローチ事例」の)3つ目の「1on1力の向上」も、これは1対1の関係性でのクラフティングだと思います。本日ご参加のみなさんは、外発的動機から内発的動機に移行されたいと思っていますよね。

内発的動機は、先ほど篠田さんの話でもありましたが、外発的動機に左右されるのではなく、「自分が価値を感じる」「これには意味があるな」「これが楽しい」など、より自分の感情と価値観にマッチしています。みなさんこっち側(自律型組織)に移っていくことを目指していると思います。

1on1を向上させるために、コーチングの研修などをされるケースが多いと思いますが、ここが難しいところなんですね。1on1の研修で「なんでも話せる1on1」を目指してしまう。でも上司・部下の関係だと、厳しく指導しなくてはいけないこともあるので、ここの両立が一番難しいと思います。

カール・ロジャースさんの提唱する「傾聴」の3原則を学ばれることも多いと思いますが、これはどちらかというと何でも話してもらうための関わり方だと思います。

「相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとする(共感的理解)」「無条件で肯定的に関心を持つ(無条件の肯定的関心)」「自分が自己一致していなきゃいけない(自己一致)」。これが3原則ですね。

これはこれで、確かにそうなんです。でも「これをやっても仕事が進まなくて困る」というのがみなさんの悩みだと思います。

1on1で一番大切なのは「上司として何をするか」ではない

櫻井:少し話が飛びますが、みなさん「上司として1on1の時に何をするべきか」ということを意識されますが、私はこれは「違う」と思っているんです。大切なのは、「上司が何をするか」ではなく「部下がどう感じるか」。これが1on1で一番大切なことだと思うんですね。

確かに上司として、関わり方を工夫するのは大事です。ただ、相手に「どんな自分でも大丈夫」「何を表現しても大丈夫」と感じてもらえる振る舞いをすることがより重要になってくると思います。

つまり上司が部下に対して「こういう関わり方をすればオッケー」ではなく、「部下がどういう状態になるか」ということが大事なんです。この違いを理解して、きちんと定義した上で関わっていただきたいと思います。

これを教えてくれるところは、意外と少ないです。コーチングの研修、1on1の研修を、私もたくさん見てきていますが、上司側の関わり方を定義して教える会社が多いんですね。「部下にどういう状態になってもらうか」ということを定義して、そのための関わり方を教えているところはあまりないんです。

上司が学ぶべきは、厳しく指導をしても関係性が壊れない関わり方

櫻井:ここを教えないことには、この課題、「何でも話せる」と「厳しい指導」の両立は解決できないですよね。要は、上司は厳しく指導しなければいけない。強く言わなければいけない場面がある。でもこの時、強く言ったとしても相手が次の瞬間に「大丈夫である」と感じられる状態を作る。これを実現するためには、傾聴だけやっていても難しいんです。

だから「厳しく指導をしても、関係性が壊れない関わり方とは何なのか?」ということを、上司は体系的に学ぶ必要があります。エールは、こうした指導においてサービスをさせていただいています。

こう関わればいいという「形だけの1on1」から「『厳しい指導』と『部下が何でも話してくれる』が両立する1on1」へ変化していくためのサポートが必要だと思っています。

「個人」と「組織」の距離感を変えないままエンゲージを高める工夫

(次は)4つ目の「自己理解」です。内発的動機のために「自己理解」が明確に関わってくるので、認知的なクラフティングの話をしていきますね。

これは、「Will-Can-Must」というフレームに近いと思います。「Will」と「Can」が、「自分が何がしたい・どうしたい」「何ができる」といった個人の動機ですね。一方会社側の理念や戦略は「Must」に近いと思います。

ここ(「WillとCan」と「Must」)の重なりを増やしていくことが、エンゲージメントを高めることにつながるんですね。今までの会社は、「Will」と「Can」を、会社の理念・戦略である「Must」のほうに寄せていくことをしていました。でも今はそれを望まない働き方をされる方が増えてきていると感じます。

なので、「個人」と「組織」の距離感を変えないままに、どうやってエンゲージメントを高めていくのか。ここに工夫が必要です。

「Will」と「Can」を言語化している会社さんもあって、おもしろいなと思いました。「Will」をさっきの図に当てはめると、内発的動機の「価値がある」「意味がある」「喜び」であって、「何がやりたいか」という話ではないんですよ。

自分にとって「どういう価値があるか」「どういう意味があるか」「何が喜びなのか」。これらを理解することが、実は「Will」だと思っています。

「伸ばすこと」と「諦めること」を明確にするとやり方を変えられる

櫻井:大企業で働いている方々に「何をやりたいんですか?」という話をすると、「別にやりたいことはなくて、『どう自分が存在して働いていたいか』という価値観はあるんですけどね」と言われるんですね。

図に表すと、この(スライドの)ようになります。「5年後に絶対こうなるんだ」といったビジョンを持っている人は、それをやっていけばいいと思います。でも、そういうものはなくて、「自分自身の価値観を満たしながら、きちんと働いていきたい」という人がけっこう多いんです。

この「Will」とは、「やりたい」ではなく「自分がどうありたいか」なんですね。この図では「自分は何に価値を感じるのか」「何に意味を感じるのか」「何に喜びを感じるのか」です。我々は、それを言語化するサポートを多数させていただいております。

また「Can」の領域には、「できること・できないこと」があります。「できないこと」の中で、「伸ばすこと」と「諦めること」を明確にするサポートもあり、こちらによってうまくいくケースも多いです。

「Can」については、「Can」と「Cannot」つまり自分が何ができて、何ができないのかについて言語化することが多いと思います。でも「Cannot」の中で、「本当に諦めるものは何だろう」ということが明確になると、その人のパフォーマンスは上がるんです。このあたりの言語化のお手伝いをするケースが増えていますね。

そうすることで、認知的にクラフティングが起きます。自分のやっていることが、「自分にとって何の意味があるのか」「何の価値があるのか」「どこに喜びを感じているのか」。こうしたことの解像度が上がると、自分の業務を微調整したり、やり方を変えてみたりできる。自分自身の仕事に、内発的な動機が生まれてくるんですね。

ミドルシニアの関わり方は「Can」ベースで考える

櫻井:最後5つ目は「ミドルシニア」ですね。実は、内容としてはほぼ「自己理解」と同じです。我々は、ミドルシニアのキャリア自律に関する支援をさせていただくことも多いです。

先ほど4つ目のところでお話しした「自己理解」については、漠然と20代、30~40代を想像していましたが、ここで言う「ミドルシニア」とは、40代後半~50代ぐらいの方をイメージしています。

これに関しては「好きなことをできるように」というよりも「貢献できることを好きになる」といったイメージで関わっていきます。「好きなことをできるようにする」のは、50代になってからだとなかなか難しいですよね。

そうではなくて、「Can」ベースで「今あなたが会社に貢献できることは何ですか?」ということを考え、それを好きになってもらう。こうしたアプローチでお手伝いをさせていただいております。

こういう時に一般的な会社さんでは、キャリア研修をされることが多いと思います。自分の過去を棚卸しして、自分の「好き」「得意」「やりたいこと」を1日研修で把握する。

そのキャリア研修後に、みなさんこんなことを思うんですね。「(その後も)話す機会がないと考えない」「自分のキャリアをもっと考えたい」「もっと会社に貢献できる過ごし方を考えたい」。このようにいろいろ自分なりに考えるのですが、話す機会がないとなかなか難しいし、「1人で考えてもなかなか深まらない」という声もあります。

仕事も忙しいので、自分のキャリアや、自分自身のことを考える、認知的なクラフティングをしていくことは後回しになってしまいます。相談しようにも良い相談相手が見つからないし、「同僚や家族に話すのはちょっと恥ずかしい」ということもよくある。

特に50代になってくると、上司が年下であることも多いので、悩みを話すこと自体が難しいんですね。恥ずかしい気持ちもあるし、言ったところで相手もわからない。このように話す相手がいないことがけっこうあります。

無意識な「ポロッと出した言葉」を拾える、社外人材の強み

櫻井:ここは、社外人材が活躍できる領域なんですね。きちんと話を聴いてくれて、客観的に問いかけを投げかけてくれる人と、定期的に時間を作っていく。それによって、自分自身が「何に価値を感じるのか」「何に意味を感じるのか」「どうやって貢献していくのか」ということが言語化できる。そして、そこに向かってクラフティングが起こっていくんですね。

具体的なお声を紹介します。「集合研修と異なり、個々の思いを深めることができた」。自分の認知的なクラフティングを持つための関わり方をすることによって「今後のキャリアに関して、自分の考え方を整理できた」。

「今やっている仕事に、自分が気づいていなかった価値を見出した」。「自分がポロッと出した言葉を拾ってもらえて、一気に明るい未来が開けた」というのもあります。ポロッと出すということは、無意識に思っていて意識化できていなかったということなので、誰かに拾ってもらえるといいですよね。

また、(自分では)当たり前だと思っていたことが(意外と強みだったりすることがあります。(そういう)気づきをもらうこともあります。これは自分が言葉にすることによって気づきを得て、「自分のやっていること」「自分が貢献できること」「自分の好きなこと」の認知がでてきていくということだと思います。

会社として大切なのは、ネガティブな「感情」も受け止めていく関わり方

櫻井:以上、5つの(アプローチ事例を)紹介させていただきました。この5つは先ほどの「他者社からの自律性サポート」なんですね。まさに内面にある動機、自分が「何に価値を感じる」「意味を感じる」「喜びを感じる」かということを見つけにいくことだと思います。

「本当に自分が話したいことを話せる」「何を言ってもいいという状態で言葉を発することができる」(という時に出てくるのは)「思考」の言葉ではなく「感情」「感覚」の言葉です。こうした豊かな言葉(を大切にするんですね)。

逆に、感情にはネガティブなものもありますよね。こういったネガティブな感情も認めて、受け止めていく関わり方が会社の中にあれば、結果として外発的な動機が自律化して内発的なものへと向かっていくんです。

これは我々のような社外人材が行うことで実現しやすくなります。外発的な動機で動き出したものが、内発的な動機に変わっていく。エンゲージメントが上がっていく。ウェルビーイングのスコアが上がっていく。こうしたことを、我々は事例として多数見ています。

今回ちょっと説明がつたないところがありましたが、以上いろんな事例を紹介させていただきました。

外発的動機から入って、だんだん内発的動機に移行するパターンもあれば、外発的動機を無視して、自分の「意味」「価値」「喜び」から仕事に紐づけていくパターンもありました。何に「ひと匙加えるんだっけ?」とお話ししてきました。

ここまでのことで、すべてではなくていいので、印象に残ったところ、気づきがあったところ、持ち帰りたいところなど、みなさんでお話ししてください。

課題の解像度を上げて、組織の「内発的動機」を高める

櫻井:では、お時間6分間取りますので、また先ほどの4人でお話をしてきてください。では、ブレイクアウトルーム、お願いします。

(ブレイクアウトルーム)

僕のパートは、これで終わりにさせていただきます。ここ(スライド)に目的を書きました。まずは課題の解像度を上げていただきたい。内発的動機に向けて、ご自分の会社の「このあたりが課題かもな」とか「このあたりに手を入れるとおもしろいかもな」とぼんやりしたところを紐解いて、解像度が上がったらいいなと思いました。

また、それに対するヒントを何か1つでも持ち帰っていただけるように、お話しいたしました。では、福山さんにボールを戻させていただきます。ありがとうございました。

福山栄子氏:櫻井さんありがとうございました。

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