担当編集がGOを出して、編集長からNGが出た時の責任の所在

小笠原圭吾氏(以下、小笠原):いっぱい質問が来ているので申し訳ないですけど、時間的にもあと2問くらいお答えいただければと思います。

「編集長や班長にこう言われるかもしれないから直してくださいという、自分に責任を持てないような編集さんとうまくやるにはどうしたらいいでしょうか」という、かなり切実なお悩みが来ているんですが。千代田さん、そちらはいかがでしょうか。

千代田修平氏(以下、千代田):これはもう非常に編集サイドからすると心苦しい質問というか、切実だと思うんですけど。

小笠原:(笑)。ちょっと答えにくいかもしれないです。

千代田:そもそも構造的に、どうしてもそうならざるを得ないタイミングがあって、担当編集が「これはいいですね。行きましょう」と言って上に回して、編集長が「これはダメだよ」というパターンって死ぬほどあるんです。

小笠原:ありますよね。

千代田:その時に、作家さんからしたら「いや、あなたいいって言いましたよね」「上がダメって言ったからダメとなるんだったら、あなたじゃなくて編集長と直接やり取りさせてくださいよ」という話になると思うんですよ。

その板挟みがめちゃくちゃ生まれるんです。僕も受け取って「行きましょう」と言って、上に回してダメだと言われて「うー」みたいな時があるんですけど、でもやっぱりどうにかして担当編集の責任にしないと、「あなたを飛ばしていいじゃないですか」という話になっちゃうんです。

担当編集者は、編集長の意見を「再解釈」して伝えるべき

千代田:僕も編集長から何か言われた時に、そもそも僕が編集長の意見に納得するかどうかを1回入れる必要があるなと。作家さんにお伝えする時も、「編集長にこういう話を言われたんだけど、僕はその編集長の提案に納得した。確かにそうだなと思ったので、今、あなたに伝えています」という。

これを「僕は別にいいと思うんですけどね」「編集長がそういっているのでそう直しましょう」とするのが、まったく責任が取れないやり方という。「編集長が言ったんだけど、あくまでこれは僕の責任を持って、僕が再解釈、再咀嚼してあなたに伝えています。だからこれは実質僕の意見です」という感じにしないとダメだよなと心掛けながらやっています。

質問の感じだと、それができない編集がいるんですよね。それだったら作家さんから言うべきことは、「じゃああなたいらなくないですか。編集長と直接やり取りさせてください」となると思うので、シンプルにそれを言えばいいと思います。

小笠原:そういうのは伝えても大丈夫なんですか?

千代田:いや、わかんないですけどね(笑)。

小笠原:(笑)。ケースバイケース。

千代田:それを受け止められない編集だったら、切ったほうがいいと思います。

信頼関係は、みんなが同じ方向を向いていると確定させなければ生まれない

小笠原:千代田さんも上の方からちょっと言われた時に、納得できない部分があったら言い返すんですか。

千代田:そうですね。とにかく僕は作家さんには「今から提出するんですけど、ちょっと時間ください」と言って、編集長からバックがあって、納得できなかったらとことん納得するまでやる。まず編集長と僕の中で完璧なコンセンサスが取れていないと、意味がわからないので。

小笠原:なるほど。

千代田:編集長も逆に「千代田がそう言うならそうか」というところもあったりして、こっち(出版社側)の総意が生まれてから、「僕らの結論としてはこれがベストだと思いますけどどうですか?」とやろうとしていますね。

そうするためにはどうするべきかといったら、それは作家と編集、あるいは編集長は、明らかにみんな味方なんだという。みんなでこの作品を良くして売れるのが作家にとってもいいし、編集部にとってもメリットだから。みんな同じ方向を向いているんだよと確定していないと、よくわかんないことになると思うんですよ。こいつに勝つため、こいつを論破するためにやることになっちゃう。

そうなるとすごく不幸なので、「とにかくみんな、この作品のためを思ってやっているんですよ。上がダメと言ったけど、より良くなると思っているからダメと言っているんだよ」と。そこがうまくいっていないと、つまり信頼関係が生まれなくなっちゃう。すごく難しいんですけど、その方法で通していくしかないなと思っていますね。

小笠原:「通す」というより、漫画の本質的なおもしろさを全員で「追求していく」みたいなイメージですね。

千代田:納得しなかったらちゃんとやり合う必要もある、ということですね。

小笠原:ありがとうございます。

仕事のやり方が合わないときは、どちらかに「説明する責任」がある

小笠原:最後の質問にさせていただこうかなと思うんですけど、これはお二人が質問を見ていて、ぜひ答えてあげたいといった質問がありましたので。「漫画編集者の実態について知りたいです」と。

千代田さんは私とやり取りをしていてレスもめちゃくちゃ早いし、とても有能な方だというのはみなさんもご存知だとは思うんですけど、「編集者は忙しいとよく言われますが、実際はどうなんでしょうか。また、今自分がお世話になっている編集者は4回ぐらい催促しないと返信が来ません。これは普通ですか? 新人賞でなく掲載が決まっています」。これはかなり切実な悩みが来ていますが、いかがでしょうか。

千代田:これも心苦しい質問なんですけど、忙しいことはめちゃくちゃありますよ。いつも忙しくて、レスが遅れちゃうことも正直あると思います。しかも新人賞とかじゃなくてプロの作家さんということなので。

単純に編集者って仕事がいろいろあって、優先順位もどうしてもあるんですよ。しかも優先順位は、例えば連載作家さんが一番優先順位が高いし、例えば新人さんだったら、連載作家さんよりは優先順位が低い。そういう意味において、どうしても仕事って優先順位が決まっていく。

その時に優先順位が下位になった時、もしくは優先順位が高い仕事がすげぇたくさんある時に、レスが遅れることがあると思うんですけど。催促を4回くらいするということは、それで作家さんがストレスを抱えているので、編集者のほうから何か説明する責任はあるだろうなと思うんですよね。

小笠原:そうですよね。

別の編集者に変えるのは悪いことではない

千代田:僕も、例えば今も連載作家さんからメールがあがっていて、今、返事できていないんです。このイベントがあるから。でも「この返事は明日の昼過ぎにさせてください」という連絡を入れているから、向こうも「ならいいですよ。わかりました。待っています」となるので、放ったらかされているのはちょっとよくないのかなと思うんです。そこらへんも結局、とにかく話し合いですね。

今、言ったようなことをできることなら編集者に伝えて、「これってどうにかなりませんか?」って話をすべきだと思うし、その話ができないんだとしたら、その関係性はよくないから何とかすべきだなと思いますね。

小笠原:ありがとうございます。魚豊さんからは何かアドバイスはありますか?

魚豊氏(以下、魚豊):もちろん一方の意見しか知らないので、3分おきに4回催促しているんだったらヤバいですけど、絶対そういうわけではないと思うので。さっき千代田さんも言っていたこともそうですけど、「やっぱりこの人ダメだな」となった時は変える。別の編集さんに持っていくのも、ぜんぜんありだと思っています。

それがめっちゃ悪いことのように取られちゃっているかもしれないですけど、そんなことはないし、かつ、編集の人を変えるのってめっちゃ怖いんですよね。本当にできるのかなって。1からまたやらなきゃいけないし、いざ打ち合わせしたらぜんぜん意味わかんないことを言われることもあるかもしれないんですけど、だとしたら別に戻ってくればいいわけだから。

「漫画家と編集者の幸せな関係」を作るために必要な考え方

魚豊:「切ります」とかじゃなくて、なんかニュルーッと別のほうで打ち合わせしてこっちでもやるというのは、そういうこともできる時代だと思うんです。同じ作品だと難しいのかもしれないですけど、読み切りだけ以前のやつ持っていくとか。

そういうことをOKしてくれている編集さんの人もいると思うので、それは臨機応変に。1人の方にこだわらなくてもいいとは思います。それで編集部内でめっちゃ悪い噂立つとかはたぶんないと僕は思います。

千代田:ない、ない。

小笠原:最初のテーマに翻って言いますと、「漫画家と編集者の幸せな関係」というところで、どうしても人間の相性もありますけれども、そうなった場合は徹底的に話し合いをして、さらに、しその話し合いでも折り合いがつかなかった場合は、編集者を変えるという選択肢もありだよという。

魚豊:そうそう。僕も『ひゃくえむ。』の時は講談社で、今は小学館ですけど、どっちも良好だと僕は思っているので。めちゃ仲良くしてくださるので、そんな「切られる」とか「干される」とかはないんじゃないかなとは思います。 

1つの作品の制作過程で生まれるエピソードを共有できるうれしさ

小笠原:ありがとうございます。このご質問者の方はだいぶ参考になったかと思います。非常に盛り上がっているところ申し訳ないんですが、そろそろ終了のお時間がまいりましたので、まとめに入りたいと思います。魚豊さん、本セッションはいかがでしたでしょうか?

魚豊:好き勝手しゃべらせていただいて、ありがとうございます。非常に楽しかったです。

小笠原:(笑)。ありがとうございます。そう言っていただけてうれしいです。

魚豊:序盤、千代田さんのマイナスプロモーションみたいになってなきゃいいなと。めっちゃ偉そうなヤツに見られていたら、めっちゃ申し訳ないです。

(一同笑)

小笠原:気にされてたんですね。

千代田:すごく楽しかったですね。やってて途中うれしくなってたんですけど、1つの作品をこんな蜜にやっていくと、途中にエピソードというか、時折魚豊さんとも「あんなことありましたよね」みたいな思い出話が生まれたりするんですけど。

それがめちゃくちゃおもしろいと思っているのに、こんなふうにしゃべる機会がないから、2人の間だけの思い出みたいになったりしていて。それがいろんな人に「こんなことあったんだよ」と話せる機会をいただけたのが、独善的ですけどうれしいなという。話せてよかったですね。

小笠原:より一層距離が縮まったような(笑)。

魚豊:おもろかったです。ありがとうございます。風穴あけるズの名前出せて、本当うれしかったです。

小笠原:(笑)。そこなんですね。

千代田:PK shampooも聴いてください。

小笠原:(笑)。PK shampooもよろしくお願いします。

『チ。―地球の運動について―』最新刊が発売中

小笠原:お二人のほうで宣伝がありましたら、この時間を使ってお願いしたいんですが、千代田さんのほうから。

千代田:そうですね。まさにこの『チ。―地球の運動について―』が、今、最新5集まで出ているんですけど、(2021年)12月28日に第6集が発売されますので、ぜひ読んでください。もし『チ。―地球の運動について―』をまだ読んだことがないよという人は、これを機会にぜひ読んでいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。

『チ。―地球の運動について―』第6集(BIG SPIRITS COMICS/小学館)

小笠原:ありがとうございます。魚豊さんからは何かありますか?

魚豊:ぜひ、風穴あけるズとPK shampooは最高なので。

小笠原:『チ。―地球の運動について―』を宣伝してください(笑)。ありがとうございます。というところで、本日のセッションは以上とさせていただきます。長丁場となりましたが、ご視聴いただいたみなさま、そしてお付き合いいただきましたゲストの方々、本当にありがとうございました。