2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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小笠原圭吾氏(以下、小笠原):それでは登壇者をご紹介いたします。『チ。―地球の運動について―』の担当をされている、漫画編集者の千代田修平さんと、漫画家の魚豊(うおと)さんです。まずはそれぞれ簡単に自己紹介していただければと思いますが、千代田さんからお願いできますでしょうか。よろしくお願いいたします。
『チ。―地球の運動について― 』第1集(BIG SPIRITS COMICS/小学館)
千代田修平氏(以下、千代田):ご紹介に預かりました千代田と申します。今は小学館の『マンガワン』編集部で漫画編集者をやっています。1年前に異動してきたんですけど、それまでは『ビックコミックスピリッツ』編集部で編集者をやっていました。よろしくお願いします。
小笠原:よろしくお願いいたします。では続きまして、魚豊さんお願いいたします。
魚豊氏(以下、魚豊):魚豊と申します。漫画を書いています。前に『ひゃくえむ。』というのを書いてて、今は『チ。』を書いています。よろしくお願いします。
小笠原:ありがとうございます。みなさん、気になるところはあると思うんですけども、魚豊さんは姿出しNGのため、こちらのアイコンでの登壇となります。
魚豊:すいません。一応、鱧の湯引きの絵なんですよ。
小笠原:なぜ鱧なんですか?
魚豊:魚豊というペンネーム自体、鱧が大好きで鱧の漢字を分解して「魚」と「豊」にしたので、アイコンもこういうことになったと。梅肉ソースがかかってておいしいんですよね。
小笠原:(笑)。ありがとうございます。今回かなりシュールな絵面となっております(笑)。お二人とも本日は本当にお忙しい中、ありがとうございます。
千代田:こちらこそありがとうございます。
小笠原:そして「このマンガがすごい!2022オトコ編」第2位、おめでとうございます。
(会場拍手)
千代田・魚豊:ありがとうございます。
小笠原:いかがですか。魚豊さん。
魚豊:うれしいですね。本当になかなかニッチな題材だったと思うので、賞をいただけるのはマジで光栄です。
小笠原:千代田さんはいかがですか?
千代田:本当にみなさんのおかげとしか言いようがないです。今魚豊さんも言っていましたけど、ニッチな題材(地動説)だったり、けっこう売りにくい要素満載だったと思うんです。
けど、伝えたいことが全力でここに詰まっているような漫画だったと思うので、それがこれだけ売れるのは本当にうれしいですね。世の中捨てたもんじゃないなという気持ちになっています。ありがとうございます。
小笠原:ありがとうございます。本日お話していただくのが、こちらの4つのテーマとなっております。「漫画家と編集者の幸せな関係」というメインテーマなんですけれども、正直、コンビの数だけ正解があるという前提はあると思います。
なので、参考事例の1つとして考えていただきながら、漫画家さんにとって多くの時間を共に過ごす編集者さんとの幸せな関係を、『チ。―地球の運動について―』の誕生や、ヒットと絡めてお話していけたらと思いますので、本日はどうぞよろしくお願いいたします。
千代田・魚豊:お願いします。
小笠原:最後に質疑応答の時間も作れたらと思っておりますので、みなさんぜひチャットに投稿してみてください。
さっそくなんですが、「タッグ誕生のきっかけ」ということで、お二人のタッグが誕生されたきっかけをうかがえればと思います。ご縁があってTwitterのDMを通してやりとりされたということなんですが、最初にお会いした時のことは覚えていますでしょうか。千代田さん、覚えていらっしゃいますか?
千代田:ぼんやり覚えているんですけど。
小笠原:(笑)。ぼんやりなんですね。
千代田:覚えているつもりだったんですけど、魚豊さんからのちのち「そう言えば千代田さん、あんな感じでしたよね」みたいに言われて、けっこう「あ、そうでしたっけ」という感じだったので、覚えきっていないんだなというもありつつ、ぼんやり覚えてはいるんですけど。小学館に打ち合わせブースがあって、そこに来ていただいて。
小笠原:コロナ前ですもんね。
千代田:コロナ前にそこに来ていただいて、はじめましてと。
千代田:ちょうど『ひゃくえむ。』が終わったあとのタイミングだったので、『ひゃくえむ。』の感想などをお伝えするところから始まったんですけど、そこで僕が一番印象に残っているのは、好きなバンドの話です。
一応、魚豊さんはどんな人なんだろうなと思ってTwitterをすごい遡って、どんな人なのかなと確認していました。僕の好きなバンドでもある、amazarashiというバンドがあるんですけど……。
小笠原:私も大好きです。
千代田:あ、本当ですか。魚豊さんがTwitterでその話をされていたので、けっこう音楽好きなのかなというところで、「好きなバンド何ですか」と話をしたのが僕的には(印象に残っています)。
そこで、お互いにお勧めのバンドとか、「そのバンド好きなんですか?」みたいな話があったりして。小学館のブースでバンドの曲をじっと聴く時間があったのが、すごく印象的ではありましたね。
小笠原:なるほど。バンドをきっかけに話が盛り上がった感じですか?
千代田:そうですね。
魚豊:僕的にはかなり盛り上がった感じです。当時はコアというか、あまり知られていない、でも最強に格好いいバンドだったので、このバンドを知っている人とリアルで会えるんだと思って。そのレベルでうれしかったです。ぜんぜん知らん曲とかも紹介してくれて、それを聴く時間もあって、本当に3時間くらい話していました。
小笠原:3時間もですか! 最初で、なかなかですよね。
千代田:映っていないんですけど、魚豊さんが今バンドTシャツ着ていて、それがPK shampooというインディーズのバンドなんですけど。どっちからかは忘れたけど、「最近好きなバンドどうですか?」という話で、「PK shampooが好きです」と言って、「え、僕も好きです」みたいな。「なんならPK shampoo聴いている人に初めて出会ったんですけど」という感じだったんで。
魚豊:僕が確か「PK shampooとかいいですよね」と言ったら、「え、僕、Tシャツ持っていますよ」みたいな。「着てくればよかった」と言っていて、マジで好きじゃんとなって。
小笠原:なるほど。
魚豊:僕の最初の印象は、履いているサンダルが一緒で。
小笠原:ええ! そんなことあるんですか(笑)。
魚豊:「恥ず」とか言って。
小笠原:まったくオソロ(笑)。
魚豊:まったくオソロだったんですよ。そうしたら千代田さんがおもむろに「じゃあ脱ぎますね」と言って、裸足で歩き始めて。
小笠原:脱がなくてもいいじゃないですか(笑)。
魚豊:「この人、天才なのかな」という感じにはなっていましたね。
小笠原:めちゃくちゃ偶然ですね。それは印象に残るなと思います。
魚豊:あれはけっこうおもしろかったですけどね(笑)。
小笠原:魚豊さんは初対面でそんなに盛り上がることってあるんですか。3時間も話し込んだりして。
魚豊:あまりないというか、ないですね。そもそもそのバンドを知っている人とマジで会ったことがなかったので、僕の中ではすごく特殊な盛り上がりでしたね。
小笠原:なるほど。こんな盛り上がるから、これから先ももしかしたら大丈夫なんじゃないかなというところもあるかもしれないんですが。お互いに一緒にやっていこうと思えたポイントって、どこになりますでしょうか。
千代田:でもどうなんですかね。僕のほうはもうとにかく一緒にやりたいと端からスカウトしているので。端からやりたいというのがあって、最初の打ち合わせの時もできる限り、例えばこちらから魚豊さんの何をいいと思ったかとか、「こういう作品をやりたいと思っているんですよね」みたいな話を精一杯したつもりだったんで。
逆にたぶん魚豊さんがどこかのタイミングで、この人いいんじゃないかと思ったことがあるのかなと思うんですけど。
魚豊:僕はその時『ひゃくえむ。』が終わったあとで、いろんな編集さんの方にありがたいことに「やりませんか」というお誘いいただいていて、いろんな方に会っていたんですけど。その時に、自分の中に「電柱と人類が戦う」という企画があって。
小笠原:電柱と人類が戦う。
魚豊:会う人会う人、いろんな人に見せていたんですね。千代田さんに見せた時に、「これ、もう1人キャラいたほうがいいね」「そういう突っ込みで読者目線に立つようなキャラがいたら、作品にも深みが出るし読みやすくもなるんじゃない?」ということを、その資料を見せてから秒で返してくれて。
めっちゃ理にも適っているし、エンタメ的にもおもしろくなりそうだし、その感想をいただいて「じゃあそれ、もう1人入れたとしたらこんな役割だよね」みたいに話がもっと深まっていって。そこで有能な方というか、できる編集の方なんだなとすごく思いましたね。けっこう印象深い感じでした。
小笠原:なるほど。
魚豊:僕が1個懸念していたのが、前に千代田さんにも言ったんですけど、本当に初日に仲良くなり過ぎて、友だちみたいな感じになっちゃって。
小笠原:ビジネスパートナーではなく。
魚豊:そうそう。その時は編集さんと適切な距離を置きたいなと思っていて。友だちに「漫画のここ、おかしくない?」とか言われたらムカついちゃうから。
小笠原:(笑)。
魚豊:編集さんだったら「編集さんだし」となるんですけど。こんな仲良くなった人と仕事できるのかなとすごく心配していたんですけど、結果、よくできました。
小笠原:まったく問題はなかったと。
小笠原:千代田さんは、魚豊さんにお会いしてギャップを感じた部分はございましたか?
千代田:DMでやりとりしていた頃からですか? なんだろうな。どんな人かなとは思っていたんですけど、ギャップというか印象として、今もしゃべっててわかると思うんですけど、めちゃくちゃしゃべる方で。
小笠原:しゃべりますね。
千代田:でも、話はおもしろかったんですよね。ずっとおもしろいんです。あと、すげぇ若いというのもあらためて思いました。今は24歳ですけど、当時魚豊さんは22歳ですからね。僕がけっこう年上の作家さんとばかり一緒にやっていたので、年下の作家さんで、しかも才気溢れる方との接し方がわからなくて。
初めてでテンパっていて、僕はまったく覚えていなかったんですけど、後々魚豊さんに「千代田さん、初日の時だけタメ語でしたよね」と言われて。
(一同笑)
魚豊:そうなんですよ。
小笠原:普通逆じゃないですか(笑)。
魚豊:マジでわかんなかった。どんどん敬語になってって。
小笠原:(笑)。
千代田:それはけっこう本当に言われるまで忘れてて、「ええ? そんなことありましたっけ」という感じだったんですけど。徐々に適切な距離感を掴んでいったんですよね。
小笠原:(笑)。最初に近づいて徐々に離れていく、かなり珍しいパターンですね。
魚豊:それも覚えていないかもしれないですけど、けっこううれしかったのが、哲学のこととかもお互いに興味があって。そういう話になって「あれとかいいっすよね」と言っていたら、急に「というか魚豊くん、君、いいね」と。
(一同笑)
魚豊:そこはすごくうれしかった。
千代田:何様なんだ、本当に(笑)。
魚豊:僕のプレゼンが通じた感じで、「君、もしかしてすごくいいかもしれない」みたいに。たぶん千代田さんが『ひゃくえむ。』を読んだ頃よりも、もっとこの人はポテンシャルあるのかなと思ってくれたのかなと。それはすごくうれしかった。
千代田:上から目線過ぎて、恥ずかしいですね。
(一同笑)
魚豊:いや、上から目線じゃなかったです。僕の今の言い方が変だったんですけど。
小笠原:タメ口でしゃべるし。
魚豊:「めっちゃいいんじゃない?」という、でもぜんぜん上からとは感じずに、「あざっす」と。
小笠原:それだけ距離感が近づいていたからこそ、ということですよね。
千代田:最初に気が合いすぎたんですよね。
小笠原:稀なパターンですね。
小笠原:では、お二人で一緒に漫画を作る上で、譲れないポイントはございますでしょうか。魚豊さん、ありますか?
魚豊:僕はいろんな編集さんと会っていた時にみなさんに言っていたんですけど。僕や漫画家の人が「A案がやりたい」と。編集者さんが「それはよくないからB案にしたい」となった時に、本当は打ち合わせでどっちも納得できるC案にたどり着くのが一番いいんです。
でも締め切りとかもあるし、どうしても譲れないラインが出てきちゃった時に、最後の最後は「やっぱりA案で行きたいんです」という漫画家の気持ちを「じゃあいいよ」と言ってくれる。本当に限界まで話し合いますけど、最後どうしても無理だった場合は、こっちの意見を飲んでくれるとありがたいなというのが、全員の人に言っていたこだわりというか、譲れないところではありますね。
小笠原:なるほど。魚豊先生が作った案をできれば尊重してほしい。
魚豊:そうですね。本当に話し切って、最後はどっちか選択するしかないとなったらAを選んでほしい。僕の言ったほうを選んでほしいなと、いろんな方に言っていましたね。
小笠原:なるほど。千代田さんはそれを聞かれて、どう思いましたか?
千代田:僕もそうありたいなと思っているし、そうしたほうがいいなと思うんですけど。基本的にちゃんと対話できる関係性があったら、僕もネームとか打ち合わせの段階で、「こっちのほうがいいんじゃないですか?」とかはなるべく言うようにはしていています。
千代田:最終的には「作家さんが選んでください」というのはある。最終的に理屈でいった時に、作家さんも「なるほど。千代田さんの言うこともわかりました。全部わかった上で僕はこっちがいいんです」となったら、それはそっちのほうがいいよねと僕も思うので。それを理解してくれた上でそちらを選択するんだったら、それはぜんぜん構いませんね。
最後に理詰めで全部いったら、最終的に好みの問題になると思うんです。特に作家さんに美学とか信念があるんだったら、それこそが作家性だとも思うので。「そっちでぜんぜん構いません」という感じですね。
小笠原:事前の打ち合わせで「A案かB案か迷った時に、千代田さんとだったら、さらによいC案を作れた」というお話が聞けたので、本当に素晴らしい関係性ですね。お互いを本当に尊重し合って、まさに幸せな関係を築かれているなと、その時すごく思いましたね。
魚豊:そうですね。趣味が近いのが一番でかいと思います。
千代田:何がかっこいいかとか、何が気持ちいいかというのがかなり一致していたので。「ならそうですね」と。
魚豊:そこでのノイズはほとんどなかったですね。あまり参考にならないかもしれないです。
小笠原:音楽以外の部分で、何か共通点ってありました?
魚豊:好きな漫画とか好きな映画とか、だいたい近かったですね。
千代田:確か初めてお会いした時に「一番好きな漫画何ですか?」という話になって、とにかく僕が『ピンポン』と言って、(魚豊さんも)「『ピンポン』クソ好きです」みたいになって、「そりゃそうですよね」と。『ひゃくえむ。』だってそうじゃんみたいな。そういういろんなところでの一致は確かにありましたね。
魚豊:あと僕がけっこうびっくりしたのは、1回『ひゃくえむ。』が終わったあとに同人誌のようなものを作ってコミティアで出したんです。その時の裏の表紙のデザインが、めちゃくちゃコラージュするというやつだったんです。ある芸術家の方がいて、その人っぽくやろうかなと思ってやったんですけど。
そうしたら千代田さんが「あれって、あの人っぽくないですか」という感じで。千代田さんは学生時代に演劇をやられていたんですけど、「その時のポスターで自分もそういう感じのコラージュ作ったりしていました」ということを言っていて、「あ、ここも一緒?」という。アートワーク方面が一緒だったら、かなりやりやすいなと。
小笠原:そうですね。
魚豊:物語はある程度一致することはあると思うんですけど、おもしろさってだいたい浮遊性があると思うんです。アートワークとか表紙とか裏表紙へのこだわりが一致するのはかなり僕にとってでかかったので、それはうれしかったというか、ありがたかったですね。
小笠原:プライベートの趣味だけじゃなくて、制作の方向性もすごく共感されていたんですね。
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