心理的安全性を高めるための2つのステップ

白崎雄吾氏(以下、白崎):「関係性の質・心理的安全性を高めると成果が出るんですか?」ということを聞かれるんですが、「その間には、必ずお互いに高い要求をし合うことが必要です」と、僕はおしなべてそういう言い方をしています。

高い要求をし合うために、やはりお互いのことを知る(ことが大切です)。何のために我々はここに存在しているのかということにつながっていくんじゃないかな、という話をするんですけどね。その辺も、徹さんからぜひ聞かせていただければと思います。

斉藤徹氏(以下、斉藤):「高い要求をし合う」と言うと、人間同士でやり合う感覚を持たれる方もいらっしゃるかと思うんですけど、「価値を生み出すために一緒に高めていこう」ということなんですよね。ちょっとそのあたりをお話ししたいと思います。

実は先ほどの6つの質問は、1から順番にステップになっているんです。6つのステップなんです。そのあたりを今からお話ししたいと思います。

心理的安全性は、2つのステップで高めるのが基本だと思っています。普通はやる気を出すために外発的な動機づけをしたり統制をしたり、「やる気出せよ」といろんなことをします。でもそうすると不安ゾーンに入っちゃいますよね。

いかにこの無関心ゾーンの人たちを学習ゾーンに持っていくかというと、ステップがあると思います。まずはコンフォートゾーンに入って、それから学習ゾーンに持っていく。それを僕は「共感デザイン」「価値デザイン」と名付けました。この2つのステップで心理的安全性を高めていく。心理的安全性だけじゃなくて、使命感も醸成していくということです。そしてこのやる気に満ちているところにみんながいくと。

その「共感デザイン」が3つ、「価値デザイン」が3つ。先ほど僕が質問した1~6がそれぞれに対応しているので、順番にお話ししたいと思います。

自然体の自分に戻る「ホールネス」の考え方

斉藤:一番最初の「1. ホールネス」と二番目の「2. 他者の尊重」が、普通のビジネスの組織ではがさっと抜けて、3ぐらいからやり始めることが多いです。でもこの1と2ができているのがチームdotでありhintであり、本当の土壌なんですね。わりと無視されるんですが、実はこの1と2がすごく大切だというところからお話ししたいと思います。

まず1は「ホールネス(全体性)」。これはあんまり聞かれたことがない言葉だと思いますけど、ティール組織を勉強している方は、あの「3つの条件」のうちの1つがホールネスという聞き慣れない言葉だったと思うんですが、それがこれなんです。

「ホールネス」は、組織全体よりも個人に対してです。自分の中で全体性を持つ、「自然体の自分に戻る」ということです。

子どもの頃はみんなホールネスだったんです。単純だったんだけれども、だんだん「お母さんが喜ぶことしなくちゃ」とか「良い成績を取らなくちゃ」とか、「上司に認められなくちゃ」とか「数字を達成しなくちゃ」とか「リーダーになるとナメられちゃいけない」とか。外からどう見られるかがとても大切になってきて、どんどん重圧になってくる。

「人の期待に応えなくちゃ」と思う、いわば「偽りの私」がどんどん大きくなっていっちゃうんです。これはどんな人もそうです。そして建前と本音が分かれていってしまう。建前がどんどん大きくなると、本当の私が別にいる感覚になってきます。「本当は、本当の私がいるんだ」という全能感を持つように、偶像化して分かれてしまうんです。

「他者のよろこび=自分のよろこび」という気づきが自信につながる

斉藤:普通のビジネス組織では、むしろ「公私を分けろ」と考えさせる。これが今までのビジネスの考え方でした。

今この知識社会において、ホールネスがとても大切だと見直されてきているんです。20世紀のビジネスでは、こんなことまったく考えられていなかったですよね。

自然体の自分に戻る。「偽りの自分」は確かに苦しみを生み出すものなんだけれども、やはり自分の1つの側面とも言えるんです。社会と調和していい部分もある。その(「偽りの自分」が持つ)ポジティブな側面も素直に受け入れて、分断していた自分自身を統合する。この感覚が「ホールネス」です。

これ「ホールネス」を得るキーになることが1つあります。実は人間の脳は、他者のよろこび、他者のため、人の期待に応える時、人の笑顔に、とってもよろこびを感じるようにできているんです。

脳は「社会的報酬」をすごく欲しがる。そもそもそういうふうにできてるのに、どんどん自分が2つに分かれていっちゃうと、「人の期待に応えるために自分を殺す」という感覚になっちゃう。でもそうじゃなくて、「私は人が笑顔になるのがとっても好きなんだ」「それが自分のよろこびなんだ」ということを思い出すことです。

この気づきによって、「2つの自分」がだんだん統合されていく。自分自身のことを大切にする。自分を知って、自分を信じて、その上で外界を信じる。「これが自分だ」と実感できる行動を積み重ねる。

そうすると、だんだん自分に対しての自信がよみがえってきて、1つになっていく。もう本音を恐れることなく話せるようになる。まず安心して、このホールネスを得られることがとっても大切です。「あなたは、あなたであればいい」。これがホールネスですね。

「人は道具ではない」ということを忘れてしまっている

斉藤:自分自身がホールネスを取り戻したら、その次は「他者の見方」です。他者を人間として尊重すること。

ビジネスでは、こういう言葉を当たり前のように使っていますよね。リーマン・ショックより前の時は、僕も当たり前のように使っていました。「人は経営資源だ」という考え方です。

でも人は物やお金とは違います。心のない道具じゃない。でも、どうしてもビジネスでは、人を「それ」として見てしまう。私は人間であることはわかってるんだけども、相手は道具。私情は抜きにして役割や機能を求めるという考え方のほうがいいんだと。

特にリーダーになって、1人で10人とか100人とか1,000人とかをみるようになると、とても人間として見られなくなってくるんです。この感覚が非常に問題です。しかし、これは「幻想」なんです。

なぜかというと、例えば部下が1,000人いたとしても、その1,000人の一人ひとりは、私と同じように人生の主人公を生きてるんですよね。自分の感覚で、自分の考えで、99パーセント脳の中は自分の情報で占めている。全員そうなんです。これが真実なんです。

その真実を忘れてしまっていることが非常に問題で、それを思い出すことです。私は人間、相手も人間。相手も心を持っていて、主人公として生きている。私も正しいと思って言ってけれども、相手の人も正しいと思って言っているんだと。みんなが正しいと思っている独自の価値観を持っているんだという考え方です。

だから同調するよりも、一人ひとりが人間なんだという感覚を取り戻すことがとても大事です。相手を「人生の主人公を生きる人間」としてみるんです。

コロナ禍で増えている「相互信頼」が築けない悩み

斉藤:この2つができると、本当に温かい場になるんです。その上で初めてコミュニケーションになります。相互理解ができる、本音で話せる間柄になります。

コミュニケーションには5つのレベルがあると言われています。あいさつから会話が増える。でも会話が増えるだけと仲良くならないんですよね。友だちにはならない。悩みを分かち合ったり自己開示して、弱さもさらけ出して、お互いにそういった状態になる。居酒屋で酔っ払うとこうなりますよね。そして翌日からすごく仲良くなって、意気投合したりします。

このレベル3をクリアすると、初めて人間は目的を共有できたり、価値観を共有できるようになる。このレベル3を超えるのがなかなか難しいんです。今までは居酒屋コミュニケーションでよく超えていたんですね。

この「ジョハリの窓」は自己分析のツールですけれども、まずは自分が知っていて相手も知っている「開放の窓」をどんどん広げていくことですね。自己開示をしていく、他者のフィードバックも受ける。私の開放の窓も増やすし、相手の方にもできれば開放してもらって、お互いに相互信頼を作っていく。

これは、コロナで特に悩んでいる方が多いです。みんなオンラインで、しかもお酒抜きのことが多い。若い世代は飲むと言ってもそんなに飲むわけじゃないので、べろべろになったりするわけじゃない。いかにこの相互信頼を築けばいいのか、悩まれてる方がとても多いんですよね。

笑顔になって欲しいなら、自分から笑顔になること

斉藤:みんなに笑顔になってほしい。でも「みんな笑顔になれよ」と言っても笑顔にはならないです。大切なことは、自分から笑顔になることですよね。自分から笑顔になって、その輪を増やしていく感覚になること。

みんなに顔を出してほしいんだったら、もちろん自分も出すけれども、なんで顔を出すといい感じになるのかを伝えることが必要です。コミュニケーションには、顔や仕草といったノンバーバルなコミュニケーションから得られる情報がとても多い。そういったことでもっと相互理解を深めて、「信頼関係を深めたいんだ」ということを伝えるんです。

そしてみんなが顔を出してくれた時に、自分から笑顔になって、みんなが笑顔になるような場作りをすること。そうすると初めてみんな「顔出すってけっこういいね」「やっぱりそっちのほうがいいね」となってくる。

もしみんなに仲良くなってほしいのであれば、「仲良くなれ」と言っても絶対に仲良くなんかなれっこない。お互いが理解し合うための工夫をすることが必要ですね。例えば、会議の始めにすごくポジティブな話題をみんなでシェアしたり、一人ひとりがライフラインチャートを作って「自分の人生ってこうだったんだよね」と発表し合う。こういうことを今までビジネスではぜんぜんやらなかったです。でも、関係性を構築するには、とても効果的なんです。

あとは進捗会議というものがあります。「数字が何パーセントで……」と進捗だけ言っていたら、本当に殺伐としてしまいますね。それぞれの人が今どれくらい忙しいのか、すごい忙しい人とまだ時間がある人がいたら、まだ時間がある人は忙しい人を助けてあげるとか、メンバーが抱えている悩み、仕事の悩みをみんなで解決する会を作るとか。そういう工夫をすると助け合うチームができていくんです。

リーダーはとかく人を操作しようとする感覚があるけれども、それをやめて、人が前向きになる場作りのアイデアを考えること。それをクリエイティブに考えることです。

相互理解のコミュニケーションで、特にポイントは「自分からメッセージすること」です。「ミラーニューロン」があることが発見されています。自分の笑顔は、相手にうつっていきますね。自分がブスっとしていたら、当然相手もブスッとします。自分からメッセージしたり、笑顔になったりオープンになる。それが3番目に大切なことです。

使命感を醸成する「人間関係」から「価値創造」への意識の転換

斉藤:今の3ステップが「共感デザイン」です。だいたいこの1・2・3ができると、コンフォートゾーンに入ります。すごく「いい感じ」になりますね。いい感じになるんだけれども、そこで止まっていると学習ゾーンに入りません。

そこから今度はどうやってやる気に満ちた学習ゾーンに入るか。それを「価値デザイン」として、3つにまとめました。まず一番重要なのが、「共感」から「価値」に向かうためには、「パーパスの共有」です。意識を価値創造に向けること。人間関係から価値創造に意識を転換することがすごく大切なんです。

図に描くとこうですね。社内会議は当然、その組織のパーパスやお客さんのためなど、何かの目的があってしているわけです。権威者がリーダーであることが多いですけど、権威者が何か「これ、こうなんじゃない?」と意見を言うと、メンバーの意識が権威者のほうを向いちゃうんですよね。

「あれ、ちょっとリーダーは自分と考えが違うぞ」「あれ、社長はああ考えてんのか」「そうかそうか。お客さんとかもあるけれども、常に社長の考えを確認しなきゃいけないな」。これは両方に(意識が)分かれてしまって、むしろ権威者のほう向いちゃうんですよね。

それはなぜかというと、目の前にいるから。人間はどうしても近い方に向いちゃうんです。本当はお客さんのほうを向くべきだし、権威者もお客さんのためを思って発言しているんだけれども、メンバーが権威者のほうを向いちゃう。「関係」を重視しちゃうんです。この構図で止まっていると、価値創造にいかないです。ここで切り替えが必要ですね。

リーダーも「自分の意見は必ずしも正しくない、みんなどんどん場に意見を出してね」というように、みんながお客さんのほうを向くこと、価値を創造すること、パーパスを生むこと。この意識が大切ですね。

チームメンバーの意識を変える「見える化」の重要性

斉藤:この図を見せてあげると一発でわかります。僕もこれにずっと悩んでいました。先ほど西岡さんからもありましたけれども、やはり社長がひと言ぽっと言ってしまうと、みんながばっとこっちを向いちゃうんですね。でも社長やリーダーはアイデアマンなことが多いから、「どうしようかな?」って悩んでる方も多いと思うんです。

(そういう時は)この図を見せてあげてください。最近もあったんですね。みんながこっちを向いてしまったので、この図を見せて「僕は、みんながお客さんを向くような組織になりたいんだよね」と言ったら、みんなぱっとわかってくれました。それからはみんなでお客さんのほうを向くようになりました。

見える化、ビジュアル化がすごく大切です。これをわかってもらえて、パーパスを重視するような組織になると、一気に学習ゾーンに向かっていきます。人間関係がよくなったら、今度はチームメンバーの意識を内から外に向けることが大切になります。