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斉藤徹教授出版記念講演~だから僕たちは、組織を変えていける~(全5記事)

“4回死んだ”起業家が、厳しい環境から立ち直れたワケ 1人から組織を変えていくための7つのステップ

ビジネス・ブレークスルー大学(BBT大学)は、オンラインのみで経営の学士資格を取得できる、日本唯一の大学です。今回はBBT大学主催で行われた、経営学部教授・斉藤徹氏の 『だから僕たちは、組織を変えていける やる気に満ちた「やさしい組織」のつくりかた』刊行記念講演の模様をお届けします。社員のエンゲージメントが高い「やさしい組織」をつくるために一人ひとりにできることは何か、今まで斉藤氏の30年近い起業家経験から得られたエッセンスが1冊にまとめられています。最終回の本記事では、自分1人から組織を変えていくためのを7つのステップを解説しました。

1人から始める、組織を変えていくメソッド

斉藤徹氏(以下、斉藤):では最後のお話です。「だから僕たちは組織を変えていける、1人から組織を変えていくメソッド」です。

僕はとても尊敬するガンジーという人がいます。この人は、たった1人でインドを独立に導いたんですよね。正確にはもちろん彼だけじゃないですけれども、その精神的支柱となったのがガンジーです。

彼は46歳でインドに戻りました。その前の南アフリカで、国政を動かす成果をあげているので、インドに戻ったら自然に政党に入ったんです。当時、多くの議員がインドを統治していたイギリスを非難する宣言文を出していたんですが、ガンジーはその活動に加わらないで、1人で果てしなく続く国土を歩き続け、農民の声に耳を傾け続けたんですね。

彼は、「暴力は使わない、でも服従はしない」と徹底していました。特に政治的な立場もなかったんだけども、いつの間にか、ガンジーが歩き始めると、彼を尊敬する民がだんだん集まってきて、運動になっていったんですね。新聞は「正直と竹の杖しか持たないのに、大英帝国と戦っている」と揶揄したんですが、結局彼の行動がものすごく大きなうねりになって、何億人が彼に従って、ついにインドは独立しました。

彼が暗殺された時は、金融や不動産はもちろんのこと、個人の持ち物すらほとんどありませんでした。彼の重い言葉があります。「初めは少数の人から始まる。時には、ただ1人で始められるものもある」と言ってます。

今は工業社会から知識社会への変革期なので、多くの企業が悩んでいるんです。みんな、よかれと思って工業社会の常識を組織の中に持ち込んで、うまくいかずに、むしろ首を締めちゃっている状態です。でも、そういうことをやってる人も実は「組織をよくしたい」という思いは一緒なんですよね。

そういう中で、自分1人から始めて全体をよくすることを心がけていきたいと。「1人で始められることはないか?」というのが、僕からのお話です。

影響の輪を広げていく7つのステップ

斉藤:ここで質問です。ここから7つのステップをお話しするので、「こんなことないかな?」って自分ごととして考えてみてください。

「私は言われた通りのことをこなす立場であって、自分から行動したりはしない」って思っていませんか? 「自分の足りないところより、他者の問題に目が行きがちだ」とか、「会社をよくしたいんだけども、自分1人が動いても変わりっこない」と思ったり。

もしくは、「動きたいけど、どこから手をつけていいのかわからない。これだけ大きな問題だから」。もしくは、「組織をよくしたいんだけれども、上司とどうも意見が合わない。古いんだよな」とか。

「挑戦はしているんだけど、いろいろ思いどおりにいかないことが多くて、めげそうになるんだ」とか。「自分のチームはうまくいった。でも、それをどうやって会社全体に広げていくのかがわかんない。無理だよ」と。こんなことでいろいろ悩む方が多いと思います。

たった1人から影響の輪を広げていく7つのステップを、今からお話ししたいと思います。まず最初に「自分自身が踏み出す」こと。

スティーブン・コヴィーの『7つの習慣』で、彼は一番最初に「主体性を発揮する」ことを言いました。主体性はどういうことかというと、周囲に何が起ころうと自分自身で判断して、思考を選択できる能力を持つことですね。反応的に生きないことです。

反応的というのは、外部から刺激があったら、それに自動的に反応して行動してしまうことを指します。でも反応的に生きるんじゃなくて、自ら選択をして反応するんです。自分で考えるという余地を持つことが、主体的な生き方なんですね。

「主体的に生きるなんて、すごくつらい時には無理でしょう」と思うかもしれないんですが、これはつまり現実に対する意味づけとも言えると思います。人生の意味は自分で決められるんです。

最初の第1歩は、「自らが起点になる」という意識を持つこと

斉藤『再起動』という自叙伝の帯に「4回死んだ」と書かれたように、僕は過去、何回も倒産寸前になってるんですが、35歳の時に『夜と霧』という本を読んで、大きく自分の人生を変えることができたんですね。この本は世界的に有名な本なんですけれども、「どんな過酷な状況であっても人生に意味を見出すことはできる」というメッセージがあるんです。

この本はドイツの強制収容所に2年半収容されてた著者のフランクルが、その記録をしていたんですね。「もしかしたら(収容所を)出るかもしれない。出られることがあったら、この中で起きていることを伝えよう」ということで、克明に記録したんです。

その中の一番有名な一章が「精神の自由」です。一人ひとりは服もなければ、自分の名前すらナンバーで呼ばれて、ものすごく小さな部屋に詰め込まれて、明日死ぬかもしれない。そういった状況にも関わらず、通りすがりの人にあたたかい言葉、なけなしのパンを譲っていた人がいた。

それからフランクルがわかったことは、環境がいかに厳しくとも、「与えられた環境の中でいかに振る舞うか」。現実にどう意味づけして自分がどう考えるかという精神の自由だけは、人間としての最後の尊厳であり、自由なんだと。どんな状況であっても、人生には意味を見出すことができるんだと。

35歳の借金まみれだった僕がこの一節を見た時に、「こんなつらい中でも自分の人生に意味を見出してる人がいたんだ。それに比べると僕の環境なんて」と、すごく勇気づけられたんですね。

最初の1歩は、自分自身で現実に意味づけをすること、行動を選択することです。環境には常に問題がある。でも、パーフェクトな環境なんて世の中にはありません。環境に影響されるのではなくて、環境にいい影響を与えられるように「自らが起点となる」という意識を持つこと。それが最初の第1歩ですね。「自分の内面を変えることから始める。信念を醸成して小さな1歩を踏み出す」というのが変革アクションの1番です。

自己認識を高める鍵は「愛ある評論家」

斉藤:続いて、「自分を正しく認識する」こと。この「セルフ・アウェアネス(自己認識力)」は、今、リーダーに一番大切な能力なんじゃないかと言われているほど重要視されてるんですね。つまり「自分のことを正しく知る」ことです。自分起点で始めると言っても、自分のことを知ってないと成長できないですね。自己改革できない。

自己認識には2つの側面があって、1つは自分の内側、「自分が何者か」という認識。それから、外の他者から見た自分という認識。この2つの認識力には、相関関係がないことがわかっています。

その中で、両方ともが高い「認識者」になることが大切です。特に自己認識については、ポジションが高くなって権威者になればなるほど認識力が落ちることがわかっています。

この自己認識を身につける鍵は、「愛ある批評家」。いろいろ厳しいことを言う人っていっぱいいますよね。ネット上でもいろいろいます。

でも本当に大切なのは、その人のためを思って真実を伝えてくれる人です。こういう人はめったにいないです。でも、そういう人がもし周りにいたら、心地いい言葉を言う人よりも、こういう人こそすごい大切なんだと、そういう人の言葉に耳を傾けるんだと(思ってください)。

世界で一番有名な帝王学の教科書として『貞観政要』という本があります。唐の太宗の記録ですけれども、この『貞観政要』の中でも、この(自己認識力の)ことが一番強調されてますね。

自己認識力は非常に重要です。自己を変革するために、愛ある批評家の声を聞いて、自己認識力を高める(のが変革アクションの2番になります)。

自分自身が影響できるものを見極める

斉藤:自分のことがわかってきたら次にどうするかというと、関心のあることとないことがありますよね。これは『7つの習慣』からですけれども、まず「関心の輪」を引くんですね。関心のある領域とない領域を分ける。

例えば「会社をよくしたい」というのは、もちろん会社に対して関心ありますよね。でも、会社全体を私がよくできるわけじゃない。自分自身が影響できる範囲にもう1つ線を引く。これが「影響の輪」です。自分が直接コントロールできる、あるいは大きく影響できる領域をわけます。

「自分自身」は、確実に影響の輪に入りますよね。自分が関係してるチームも影響の輪です。特にリーダーの場合はそうですね。

「主体的な人」というのは、「関心の輪」に関心を持つんだけれども、積極的には関与しないんです。自分の時間とか心理的エネルギーを「影響の輪」に集中させる。これが非常に重要です。

人間はいろんなこと考えてしまいます。フロー体験(没頭)を提唱したチクセントミハイという、有名なポジティブ心理学者がいるんですけれども。彼が、「心理的エネルギー」という、人間の脳の処理能力は毎秒110ビットぐらいだという仮説を立ているんですね。その毎秒110ビットの自分の脳の心理的エネルギーの中に何を入れ込むのかが、人生の選択なんだと言っています。

つまり、「自分自身が影響できるもの」に集中して生きることが非常に大切なんです。例えば、「あの時、なんであんなことをしちゃったのかな」とか「あいつのあの時の言葉だけは許せねえよな」とか。過去は変えることはできないですよね。

自分には影響できないところに気持ちを持っていくのではなくて、目の前のことに集中しようとか。最善の今を作るために、計画を立てようとか。計画と現実のギャップから学習するとか。このようなことを、脳の中に入れていくんです。

そうじゃないもの、例えば「恐れ」とか「怒り」とか「不安」を脳から省いていく。それが人生の選択です。自分の影響の輪を見極めて、そこに自身の心理的エネルギーを集中させることが大切なんです。

上司とぶつかる原因の1つは、上司がもっている「責任感のワナ」

斉藤:さらに影響の輪を見極めたら、今度は「影響の輪の中で何をするか」というお話です。最初に言った、「関係の質」から高めて「思考の質」「行動の質」「結果の質」を高めるという成功循環モデルを、影響の輪の中で実行することです。

組織には慎重な人や様子見の人などいろんな人がいます。でも、自分自身は「正しいと思うことを積極的に行動する人」になる。信念を持って、自分の影響の輪の中で、関係・思考・行動と変革を進めていくこと。そして価値を生むことに集中する。これが大事です。

でもやはり、なかなか上司の信頼を得られなかったり、上司とぶつかってしまうこともあります。上司は昔の成功体験を持っていますからね。特に数字重視だったり、結果重視だったり、やり方がちょっと昔の「失敗循環」もあることが多いんです。

それはなんでなんだろう。実は上司、昔の成功体験というのもあるし、もう1つ「責任感のワナ」っていうのがあるんです。これは上司のキャラクターじゃなくて、立場の問題なんだということです。

これはエドワード・デシという、内発的動機づけを世の中に広めた人の実験です。教師役と生徒役に分かれて、教師役が生徒役の被験者を教えるという実験です。2つのグループに分けて、1つのグループだけに「高い成績をおさめさせることがあなたの責任ですからね」と教師役にプレッシャーをかけたんです。

どうなったかというと、プレッシャーをかけられた教師だけが、話す時間の長さが平均で2倍になって、命令的な話も3倍になって、管理的な話も3倍になったんです。つまりキャラクターではなく、その立場になってプレッシャーを与えられれば与えられるほど、こうなっちゃうんですね。結果的にその人は管理的になって、生徒のやる気を削いでしまって、成果を落としてしまったという実験でした。

「信頼できる部下」が持つ3つの要件

斉藤:上司は上になればなるほど、業績とかお金に対するプレッシャーが厳しくなります。僕もそうでしたけれど、やはり小さな会社の社長だと、借金に対して連帯保証もしているので、自分の借金なんですよね。その重圧感とか不安感は、言葉にできないほどなんです。

だから、自分も「推論のはしご」を駆け上っちゃうけど、上司のほうが駆け上りやすい立場なんです。上司は大変なんですね。そして上司はどうなるかというと、部下との心の距離がどんどん遠くなって孤立していくんです。そうすると人も辞めがちになって、お金の問題に人の問題も加わってくるんです。

では自分が上司だったら、どういう部下がいたらうれしく思うか。それはやはり不安な時に「信頼できる部下」がほしいんですよね。

信頼はどこから生まれるかというと、「真実性」です。嘘偽りない、真実を話しているということ。それから「論理性」。あまりにもへんてこなこと言ったら信頼できないですよね。理にかなっていること言うこと。それから「共感性」です。私に気遣ってくれている。この3つが揃うと、人は信頼されるんです。

あなたも上司も反対者も、「組織をよくしたい」という思いは一緒なんですね。だから、上司が反対してきた時には、「もっと組織をよくしたいんです」「そのための力になりたいんです。私は何ができますか?」「やる気に満ちたチームを作りたいんだ」と情熱を持って伝えれば、状況は変わり始めると思います。

みんな「よくしたい」という思いは一緒なので、こういうことを聞くと上司は安心するんです。さっきの3つが揃っていると、どんどん信頼してもらえるようになる。だからこそ上司にも情熱を伝えて、信頼を得る努力をすること。すると次第に関係性は変わっていきます。

理想と現実のギャップは、学習のチャンス

斉藤:次に、「つねにチームの希望でいよう」。さっきのジョナサンの例もそうですね。

僕が先生をやっている時、やはり寝ちゃう学生に目がいっちゃうんですよね。50人ぐらいいて3人寝てると、その学生に目がいっちゃうんです。

それを「トンネル・ビジョン」と言います。脳がストレスを感じると、どうしてもそこにグーッとフォーカスしちゃうんです。そうすると、実は周りにまじめに取り組んでいる生徒もいたということを見失ってしまいます。

思い出してみると「自分も大学時代は最悪だった」とか(笑)。寝ている人には正当な理由がある。だいたい体育会系で朝から運動してたり、いろいろ理由が1人ずつあるんですよね。

理想と現実のギャップはどうしても出ます。特に新しいことをやろうとすると、思ったとおりにいかないです。でもその時に、「学習のチャンス」として捉えられるかどうかがとても大切です。

(システムサイエンティストの)ピーター・センゲは、『学習する組織』で「クリエイティブテンション(創造的緊張)」と「エモーショナルテンション(感情的緊張)」という言い方をしています。「エモーショナルテンション」というのは、ギャップがあった時に落ち込んじゃったり感情的になっちゃうことです。「自分はなにやってもダメなんだ」って思っちゃうんです。

大切なのは、「クリエイティブテンション」を持つことです。ギャップは学習のチャンスだと捉えて、どうやってそこから学んでいこうかという姿勢を持つこと。それが大切です。

かのエジソンは、電球を作るのに2万回失敗しました。でも「それは失敗じゃないんだ」と。「うまくいかないってことがわかったんだから、成功なんだ」。この姿勢ですよね。(変革アクションの6番めは、)困難は学習のチャンスだから、希望を抱いて、助け合って、成長すること。

成功循環が広がれば、いずれ「ティッピング・ポイント」が訪れる

斉藤:さあ、これが最後です。成功循環モデルは、僕も何度も回してますけれども、けっこう早く成果に結びつきます。だいたい3ヶ月から6ヶ月ぐらいです。成果というのは、結果まで結びつきます。なぜかというと、やる気に満ちた社員になれば、満ちてない社員の2倍、3倍のパワーを持つんです。ある意味、当たり前なんですよね。

結果が出るまでは注目してくれないけども、成果が出るとみんなが注目してくれます。これが資本主義のいいところなんです。成果が出たらどんどん広報して、今まで興味を持ってもらえなかった人、むしろ反対してた人を「ぜひ一緒にやりましょう」と大歓迎する。

今はZoomがありますから、情報を共有して助け合いながら、成功循環のチームを社内で広げられるようになります。そうすると、様子見の人が動き出すんですね。「ティッピング・ポイント」と言われる、ある閾値を超えると一気に動くタイミングがあります。だいたい3割ぐらいのところで、大きくガーッと動き始めることが多いです。

ティッピング・ポイントはきっと訪れます。ガンジーも最初は1人が動いて、最終的に何億人も動かしました。一期一会の気持ちで、1人ずつ対話を広げていくことが大切なんです。

ずいぶん長くなりましたが、最後に第6章のお話をしました。今日のスライドも先ほどシェアをしましたけれども、書籍サイトでスライドもイラストもダウンロードできますので、ぜひご覧ください。

白崎:斉藤先生、ありがとうございました。

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