ウェビナー「エンゲージメントの高い組織づくり」

上林周平氏:みなさん、こんにちは。今日は「エンゲージメントの高い組織づくり」と題しまして、セミナーを進めていきたいと思います。

あらためまして、上林と申します。簡単に自己紹介いたします。もともと関西の奈良県生まれ・奈良県育ちの人間です。最初に入社したのは、今ではアクセンチュアという社名になっているコンサルティング会社です。

そこでBPR、ビジネス・プロセス・リエンジニアリングの領域で業務改善を行っていました。また、(当時は)民営化が流行っていた時代でしたので、そういった戦略支援や、大規模なシステム開発導入プロジェクトなどに従事しておりました。

そんな中で、日韓ワールドカップのあった2002年に「人の意識が変わらないと組織は良くならない」と思うことがあり、今の会社の前身であるシェイクという会社に移りました。当時2人で企業研修事業の立ち上げを行い、約15年この領域におります。

いろんな企業さんを支援する中で、4~5年前から組織と個人の関係性が変わってきているのを感じています。働き方改革や副業、ライフシフトという話が出てきた頃からですね。

いろんなことがある中で、各企業はこの変化に対応していかなくてはならないですよね。それを支援する会社として、2017年に株式会社NEWONEを設立しました。「新しいマネジメントとは?」「新しい働き方とは?」「新しいチーム作りとは?」など、これからの新しい状況を作っていくための会社です。

主に企業向けサービスとして、コンサルティングを行っております。各企業さんの人材育成、組織開発の領域に軸足をおいて、「エンゲージメント」をテーマに、「個人の意識改革」「関係性の向上」などの支援をしております。

この4年間、主に日本企業のクライアントさんと一緒にやらせていただきました。カゴメさん、ソフトバンクさん、バンダイさん、NTT東日本さんなどとご一緒させていただきながら、各企業のマネジメント変革みたいなことを行っております。

たった10秒「朝ご飯」をシェアするだけで、見えてくるものがある

今日はご参加いただいている方が、100名以上いらっしゃいます。この場をより良いものにしたいので、できる限り双方向のコミュニケーションを取らせていただきたいと思っております。

みなさん、お手元にQ&Aとチャットがあると思いますので、今から練習も兼ねて、簡単に記入していただきたいと思います。

「みなさん、今朝は何を食べましたか?」という質問です。(参加者のチャットの一部を読み上げながら)今日は多様ですね。ありがとうございます。

何が正解という話ではありませんよね。オンラインというものはすごく効率的なツールで非常に有益ですが、100名以上が参加しているのに、人がいる感覚がしないところがあります。

オンラインミーティングでもそうですし、会社に入られたばかりの新入社員の方も、人間味が(感じられずに)苦しまれる方もいます。ですが、たった10秒「朝ご飯」をシェアするだけで見えてくるものがあります。

「けっこう納豆食べている人が多いんだ」とか「〇〇さんは今日はシリアルだったんだ」と思うだけで、少し親近感が湧いてくるものです。オンラインの時に、こういう一手を行うことも、エンゲージメント向上につながると思います。

今は練習でやりましたが、もう1つみなさんにお答えいただきたいことがあります。今日はお時間を取って参加いただいていますが「何のために来られましたか?」こちらをご記入ください。参加目的ですね。

例えば「エンゲージメントという概念をあまり理解できていないので、しっかり理解したい」という方もいらっしゃると思います。

さっそくチャット投稿ありがとうございます。「リモートで関係性が変わってきて」と書いていただいていますね。「社内でエンゲージメント」ともありますね。最近、各社でエンゲージメント推進みたいな(気運が)高まってきているなと思います。 

ありがとうございます。「自分もエンゲージメントを高めたいという問題意識」「マネジメントと個人周りの結束、エンゲージメントの重要性」「エンゲージメントのアプローチ手法」。良いですね。「エンゲージメントがバズワードになってきて、当初の定義を明確にしたい」。ありがとうございます。

「インナーブランディングとの関係」。インナーブランディングなんかも視野に入れていますので、このへんは大事ですよね。ありがとうございます。

エンゲージメントサーベイを入れられている会社さんも多いですね。我々も「実際にどう(エンゲージメント)を上げていくか」みたいなことを並走支援することも多数あります。

部署会議なども、2~3ヶ月ほどご一緒させていただきます。最初は進め方などを理解をしていただき、1ヶ月実践して、その上で成果を共有しながら(エンゲージメントを)上げていく活動を、各企業さんで行っております。

「エンゲージメント」と「コミットメント」は、ぜんぜん違う概念

今日は、実際の活動を含め、今一度「エンゲージメントって何だろう」ということと「(エンゲージメントを)どうやって上げるんだろう」といったお話を、30分間でさせていただきます。

まずは「変化する環境とエンゲージメント」です。先ほど「バズワードになっている」と記入してくださった方もいらっしゃいました。この1~2年、急速に(話題に上ることが)増えています。そもそもなんで増えているんでしょうか?

「エンゲージメントって、モチベーションみたいなものでしょ」とか「コミットメントみたいなものですよね」とよく言われます。でも、概念としてぜんぜん違いますので、ここを正しく捉えてください。そうしないと施策がうまくはまらないので、ぜひしっかりと背景を含めてご理解いただきたく思います。

最初に(スライドを指して)、これがよく使わせていただくグラフです。このグラフはなんでしょうか? アフリカだけ右肩上がりですが、それ以外はどうも下がっている。水色の日本が最初に下がっていくと言われています。

これは何かというと「生産年齢人口の総人口に占める割合」なんです。世界中で日本が最も早く、働き手の割合が減っていくと言われています。それでは困るからこそ、働き方改革などを含め、これをどう打破していくかが国としての問題となっています。

働き手が減ってくると、打つ手はシンプルに2つしかありません。1つは「今まで働けなかった人を働けるようにする」こと。例えば「保育所を増やしましょう」「女性活躍推進だ」「シニアを活用しましょう」「外国籍の方を」など、こんな施策がどんどん出てきます。

もう1つは「働いている人のパフォーマンスを上げる」こと。「システムを入れましょう」とか「一人ひとりがパフォーマンス高く働ける状態を作っていこう」などがあります。(今しきりに「エンゲージメント」と言われる背景には、)以上の2つの打つ手に関して、国や各企業さんがいろんなアプローチを行っているということがあります。

性別や国籍など多様な方々が働き手になると、マネジメントの難易度は上がります。また、リモートワークなど、いろんな環境が出てくることでも同様です。また、働いている人がパフォーマンスをソフト面で上げていこうとすると、関わり方が難しくなってきます。

この2つを両方取り入れながら、マネジメントをどう良くしていくか。この概念の中にあるのが、今回のテーマ「エンゲージメント」です。

そもそもはマーケティング用語だった「エンゲージメント」

(そもそも)「エンゲージメントって何ですか?」と。日本で最初に使われるようになったのは、マーケティング用語として、でした。SNSツールなどでもありますが、「企業」「商品」「ブランド」に対して、ユーザーが「愛着を持っている」状態を指します。また「つながりの強さ」や「愛着」として使われることもあります。

例えば、婚約指輪のことをエンゲージメントリング、もしくはエンゲージリングといいますが、まさしく「婚約」です。大事なポイントとして、「婚約」は2人の男女が対等に前向きにつながっている状態です。どちらかが後ろを向いて婚約することはないですし、どちらかの立場が上でコミットメントする関係にもならないんですね。

そこから転じて、(エンゲージメントとは)企業と従業員の関係性が、対等で前向きにつながっていることを指すようになりました。(これには、従業員が)会社とつながるパターンと、仕事自体とつながるパターンがあります。これらのつながりによって、自発的に貢献意欲が湧いたり、主体的に取り組んだりすることが起きてきます。

つながり方は2種類あると言いました。一個人の立場から、まずは会社自体とつながる「対組織」の話をします。(スライドを指して)「従業員エンゲージメント」と書いていますが、「企業と従業員が信頼して、互いに貢献し合い、概念や企業と従業員との愛着心を指した言葉」と定義されています。「会社が好きだ」ということですね。

ここを高めるために、例えば「ビジョン浸透をやりましょう」とか、極端に言うと「オフィスをオシャレにしましょう」ということもあるかもしれないですね。今時だと「パーパス」みたいな言葉を使うこともあると思います。

「縦の関係」であるか「横の関係」であるか

もう1つは、会社うんぬんじゃなくて、仕事自体に対して前向きになってもらう考え方としての「ワークエンゲージメント」ですね。「仕事に対するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる」と(定義しております)。

例えば、プロフェッショナルなエンジニアの方などは「最先端の技術を触っていたいけど、このプロジェクトに携われるならどこの部署でもかまわない」みたいな話があると思います。その場合は会社うんぬんじゃなく「仕事」に対して、しっかり婚約状態で結びついていて、貢献しようとしている状態にあります。

人によって違ってきますが、つながり方は2種類あります。このように「エンゲージメント」とは、「社員」と「会社」や「仕事」が対等に、前向きにつながっているからこそ、自主的に貢献したくなるという考え方を指します。

昔からある従業員満足度調査とか、ロイヤリティ、コミットメントなどは、やはり会社が上で社員が下(という関係性がある上でのことです)。(会社は従業員に上から)いっぱい満足度を与えてあげようとして、それが(従業員から)測定されたりしてきました。また、「上の方に尽くす」という、ロイヤリティ、コミットメントなども、あくまで縦の関係でのことです。

なぜこの話をするかというと「縦の関係であるか」「横の関係であるか」は大きく違っているからです。大手企業の管理職の方は「エンゲージメントを高めよう」とする時に、「従業員満足度」時代(の感覚で)上下関係として捉えてしまう傾向があります。それで、(従業員の方に)いっぱい与えようとしてしまう。

婚約をする時に「たくさん貢いだら良い婚約ができるか?」といったら、そうではないですよね。いっぱい与えようとした結果、逆に社員の方が受け身型人材になってしまう事象もたくさん見てきました。なので最初になされるべきこととして、「(エンゲージメントは)従業員満足度の考え方とは違うんだ」と捉えていただくことが大事です。

もう1つ。「モチベーションとの違いは何ですか?」と聞かれます。モチベーションとは、個人に属していて単発的なものです。例えば、箱根駅伝を見た時に「明日から走ってやるぞ」とモチベーションが上がる。でも、次の日には走らないかもしれない。

一方でエンゲージメントとは、個人じゃなくて関係性の話なんです。全力でくっついている状態だから、すでに走っているんです。モチベーションが高くても業績連動をするとは言い切れないですが、エンゲージメントなら可能なんです。

婚約状態がしっかりしていれば業績連動しやすいというのは、実際、アメリカのGALLUP(米国の世論調査、業務管理コンサルティング会社)のデータでも(実証されています)。収益性、生産性においてプラスの影響力があり、離職率や事故、欠勤率などでも、すごく効果があると言われています。

モチベーションやコミットメントとは違う「エンゲージメント」。この対等で前向きにつながっている関係性が、今、注目されています。

でもここまで(詳細に)説明していても、各社支援をしていると、エンゲージメントを勘違いしていたり、高めようとして逆効果になっているパターンを(目にすることが)よくあります。

エンゲージメントに関する、7つの落とし穴

そこで、落とし穴を7つほど紹介させていただきます。自分の会社が当てはまっているか、少し考えていただきたいと思います。

まず1つ目。流行しているから、「エンゲージメントサーベイを入れようか」という話がよくあります。エンゲージメントサーベイとは、ダイエットをする時の体重計にすぎません。毎日、体重計に乗っていても痩せませんよね。

(調査をして)満足してしまって、「なんで(エンゲージメントが)上がらないんだ」と言う方がいますが、大事なのは「向上させるアクション」です。言われてみれば当たり前なんですが、これができていない会社さんもたくさんあります。この「向上させるアクション」を、弊社では多数支援させていただいています。

2つ目。先ほど申し上げた「エンゲージメントはたくさん与えるべきだ」と思ってしまう罠があります。これによって結局、与えすぎて貢いでしまって「受け身型人材」が育ちます。

エンゲージメントの大事なポイントとして「社員側からのベクトルをどう作るか」ということがあります。ここが「従業員満足」とはぜんぜん違うところだと捉えてください。

3つ目。先ほど「会社とつながりますか? 仕事とつながりますか?」とありました。時々「会社への愛着も、仕事への前向きさも、いっぺんに実現したい」と言われる方もいます。ですがつなげるものが違いますから、なかなか両方同時に効果が得られることは少ないんです。

比較的両方に効きやすい施策ももちろんありますが、どちらかが強い状態となります。やはり効果を上げるためには「会社への愛着」なのか「仕事への前向きさ」なのか、施策をする段階でつなぎ先をはっきりさせることが重要です。

4つ目。よく大手企業さんは「全員平等に高まるエンゲージメント施策をしたい」とおっしゃいます。平等さを大切にしたいと。でも、そもそも婚約というものは、人によって違います。

「これだけやれば相手と婚約できます」というマニュアルがないのと同じように、エンゲージメントも、やはり人によって変わってきます。なのでその状況で平等さを重視しても、結局、誰にも刺さらない施策をすることになってしまうんです。

5つ目。エンゲージメントを上げようと、経営の方・人事の方が、(現場に行かず)がんばって旗振り(だけ)をしている状態。さっきも言ったように、エンゲージメントは人によって違うので、直接一人ひとりが見えるところにまで行かないと、本質的には上がっていかないんです。

例えば、同じ部署のAさんとBさんでも、主体的に行動したくなる瞬間は(各自違います)。「裁量を任された時」という人もいる。「感謝される時が良い」という人もいる。「チーム感が持てる時が良い」という人もいる。このように、人によって変わってくるんです。

だから一律に(エンゲージメントを高める)のは難しくて、結節点である管理職、いわゆるマネージャーの方がうまく一人ひとりの特性を見抜いてあげること。その上で、ちゃんとつないであげることが、非常に大事です。

6つ目。「社員のためにエンゲージメント向上施策を行おう」とがんばって、いろいろ取り組むんだけど、そもそもメンバーの方が会社や上司に対して白けていて、まともに受け取らないことがあります。よかれと思って従業員のためにやっているのに、ぜんぜん響かない。

一定数の割合で、ベースの信頼関係が低い企業さんがあります。こういう企業さんでは、いきなり他社さんのレベルの高い施策を真似するのではなく、ベースの信頼関係を作っていくことにまず施策を打つ。その上で「どんなことを加えていくか」が大切になってきます。

最後7つ目。「エンゲージメント向上施策を1回だけ実施する」と考える方も多いんです。でも基本的には関係性の問題なので、複数回(が必要です)。

「婚約さえすれば、ずっと2人はハッピー」ということはあまりなくて、日々チューニングするからこそ、良い婚姻関係になるのかなと思います。エンゲージメントも同じで「1回だけやれば良いのではない」と捉えていただきたいと思います。

今、7つほど出させていただきましたが、みなさんいかがでしょうか。自分の会社について、ふり返ってみていただきたいと思います。

チャットに1番から7番を書きましたので「これ、あるなぁ」など、いろいろ考えていただければと思います。

(チャットでの質問を指して)「エンゲージメントをたくさん与えるというのは、どういう状況でしょうか?」。(エンゲージメント自体を)たくさん与えるというのは、基本的にないですね。何か相手が喜びそうなものをいっぱい貢ぐ(ということです)。

例えば「給料を上げる」「オフィスをきれいにする」みたいなことを、エンゲージメントが上がると思って与えてしまうということです。エンゲージメントとは、やはり関係性の問題なので、正確には「与える施策ではない」んですね。

6番が多いですかね。6番と7番。2番もありますね。2番、2番、1番。「そもそもエンゲージメントの考え方がない」という人もいますね。けっこう6番が多いですね。

みなさん、ぜひ他の方のを見ていただいて、その上で「自分の会社はどうかな」と考えていただければと思います。こういった(7つの)罠についても考えていただきつつ、「エンゲージメント向上」に関して、後半戦を進めていきたいと思います。