2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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篠田真貴子氏(以下、篠田):あともう1個だけ、短く質疑応答をして締めようと思います。「アウトプット」ないし「活用」という観点でのご質問もいただいているんですよね。読んだものを血肉にするのに、どうアウトプットすればいいのか。SNSですか? という手段に関するご質問もあれば、意識しているポイントはあるのかという観点でのご質問もあるんですけれども。
本当はこれだけで50分いけるテーマだとはわかっておりますが(笑)。残り時間が10分ぐらいなので、短めに。読んだもの、インプットしたものを血肉にしていくという意味でのアウトプットって、どう考えていらっしゃいますか。これも堀内さん、山口さんそれぞれ教えていただけますか?
堀内勉氏(以下、堀内):はい。アウトプットはですね、確かに本を読むと「おもしろかった」と言って、線を引いたりしますよね。それで終わると、だいたい98パーセントぐらいの記憶は忘却の彼方に飛んでいきます。
私の場合、最初はそれを文章にしてFacebookにアップしていたんですね。そうするといろんな人のコメントをもらえて、「書評がおもしろい」となってHONZに誘われました。今は東洋経済オンラインとか、いろんなところで書評を書いているんですけど。
書いてみるとわかるんですが、書いた文章を読むとなぜか通じないんです。何かおかしいんですよ。「あれ? これ、意味通じてねえな」ということがけっこうありました。要は自分がよくわかっていないから、アウトプットした文章も変なものになっているんですね(笑)。
「何かおかしいな」と思ってもう一度読み返してみるとやはり誤解しているんです。一応人に見せられる程度の文章にすると、なんとなく考えが固まってくるんですね。それで理解が深まっていきます。
堀内:さらにもっといいのは、それについて人に対して話すことです。講演会があって、「じゃあ本を引用しよう」って思ってその本の書評を自分で読み返してみる。さらにその本を読み返してみるとなると、さらにまた誤解していたこととか、自分が理解できていなかったところが出てくるんですね。
ですから、読んで線を引いて、SNSで発信して、書評にして、人に話す。ここまでやるといいと思います。
篠田:このサイクルですね。
堀内:はい。このサイクルをやると、かなり自分の考えが固まります。僕は別にみなさんに読んでもらおうと思って優しい気持ちで書評を書いているんじゃなくて、自分のために書評を書いていますね(笑)。
篠田:自分の読書の消化のために書いていらっしゃって、私たちはそのおこぼれをいただいているんですね(笑)。
堀内:そうそう。そういう感じです(笑)。
篠田:ありがとうございます。山口さんはいかがですか?
山口周氏(以下、山口):僕も堀内さんのおっしゃるとおりだと思います。98パーセントを忘れちゃうって、まったくそのとおりですよね。僕は1回、いつかこれを読まなきゃなと思っていた本を、「読もうかな……読むか!」と思って、ピュッと本棚から取り出したんですね。「がんばるぞ、読むぞ!」って読み始めたんです。それで真ん中ぐらいまで来た時に、なんと自分のメモが残っているのを見つけたんですよ(笑)。
篠田:(笑)。
山口:椅子から転げ落ちるほどびっくりしました(笑)。「苦しいな、つまんないなこの本」と思いながらがんばって読んでいたのに、真ん中あたりで明らかに自分の筆跡のメモが出てきて。「こんなことをやっていたら俺はあかんぞ」と思いましたね。
そこからは、本当に簡単でかまわないので、おもしろかったなと思うところにアンダーラインを引いて、アンダーラインを引いた中から、本当にこれは珠玉の1文というのをEvernoteに残したり、そういうことをちょこちょこやるようになりました。
山口:もう1つプラスアルファで、あえて言うとすると僕は「カタメ読み」がいいなと思っていて。
篠田:カタメ読み? 片目?
山口:「固め読み」です。例えば僕の実体験なんですけど、リーダーシップに関する本を読んでいて、「アムンセンとスコット」っていう南極探検の話が出てきたとします。これは西堀栄三郎さんの本のことです。それで「『アムンセンとスコット』。これはおもしろそうなテーマだな」と思って、今度は「アムンセンとスコット」について調べてみると、今度は本多勝一さんがすごく立派なドキュメントを残していらっしゃったので、それを読むんです。
それを読んだあとで、今度は「極地探検ってけっこうおもしろいリーダーシップのテーマだな」と思って。例えばシャクルトン隊のドキュメントを読んだりとか、エベレストの登山を読んだり。根を張るって言うんでしょうかね。一つひとつが結びつくと、記憶に残りやすい気がするんですね。
単発でパッと拾い読みをしていくんじゃなくて、読書のマイテーマ、マイブームを作るんです。「極地探検」とか「登山」とかテーマを作ると、今度はジョン・クラカワーっていう人が書いた本が出てきて、エベレストで8人同時に亡くなったという有名な事故があるんですけど、これもリーダーシップとか組織の研究をやる上ですごくいろんな示唆があるんです。
「極地」とか「探検」とか「リーダーシップ」っていうテーマでガサッと固めると、その引き出しが整理されるんですね。
篠田:相互ネットワークのようになる感じですよね?
山口:そうそう。記憶って常に重力がかかっていて、下にポンポンと落ちていっちゃうんだけど、ほかの知識とネットワークで結びつくと、ちゃんと浮いていられる状態になるんです。
なのでいかに忘却を防ぐかで言うと、1つはやはり書くこと。整理して書いて、自分の言葉に一回直すこと。あとは、ほかのものとくっつけてあげること。元から知っているものとくっつくと、元から知っているものは根を張っているので、その根でちゃんとサルベージできるんです。
堀内:自分の頭の中に本の地図を作るんですね。
山口:まさに地図ですね。
堀内:円周率を1万桁ぐらいまで覚えた人がどうやって覚えたのかという話をTEDトークでしていました。覚え方は、フロリダの地図の通りの全てに、円周率のまとまった数字を当てはめていったらしいんですよね。
篠田:ええー?
堀内:それで1万桁ぐらいまで覚えていくらしいです。
篠田:やっぱりつながりで覚えるんですか?
堀内:全部つながりですね。あの通りがああやって曲がると、こっちの角の数字はいくつだったとか、そんな感じでつなげていくらしいですね(笑)。
篠田:おもしろい。どちらもお話も共感しながらうかがっていたんですけど、おそらくポイントは「自分の言葉にする」ですね。
山口:そうですね。
篠田:さっきの本選びと一緒ですね。抜き書きするだけだと、それは著者の言葉であって、自分の言葉になってないからダメなんですね。キャッチーな言葉を選ぶよりも、「今の自分にとってこの本の意味は何だったのか?」というのを書き記すこと。つまりそれが「今の自分って何だっけ?」という問いにつながるんですね。
今の自分は「この問題点がわからない自分なんだ」であるとか、「ここを探求したい自分である」というのが、本を通してちょっと見えてくるんじゃないかと思います。
それが山口さんがおっしゃった「固め読み」につながるんだろうなと思いながらうかがっていました。めちゃめちゃおもしろいですね。盛り上がってきたところで、時間になってしまいました。
(一同笑)
篠田:パネルディスカッションとしては、私的には理想的な展開です(笑)。
篠田:ちょっと無理やりではありますが、いったん一言ずついただければと思います。残り3分しかないので本当に1分ずつなんですが、これだけはみなさんに伝えておきたいこと、参加してくださったみなさんに持ち帰ってほしいことを、一言ずつお願いします。また堀内さん、山口さんの順番でおうかがいできますか。
堀内:さっきチャットを見ていたら、「本だけが教養じゃないですよね」って書いてありました。まったくそのとおりだと思います。別に本以外から教養を身につけたってかまわない。私は「教養」って単なる知識の羅列や知識の暗記とはまったく別だと思っていて、どうやって生きるかということそのものだと思います。
ただ、人間なりの歴史的な知識の積み上げというものがありますよね。それを山口さんが言ったように横につなげていって、自分なりの考え方を持って、それを自分の生き方や世の中との関わり方として実践していく。それから世の中をどうやってよくしていけるか、自分はどうやってよく生きていくかということを実践していくこと。これそのものが「教養」だと思っています。
ですから時々、博覧強記だとか何だとか、私自身も変なつまらない言葉を言われることがあるんですけど、別に私だってそんなにいっぱい知っているわけじゃないんですよ。今はWikipediaになんでも書いてあるし、AIのほうがなんでも覚えているわけです。私はそういうことには意味がないと思います。
ある程度の知識を身につけて、その生き方を実践していくこと。それが教養だと思います。知識について1点だけ追加すると、人間と知り合ったことで知識を得てもいいし、何かを体験することで知識を得てもいいし、本を読むことで知識を身につけてもいいんです。
ただ、やはり本には人類の珠玉の経験とか知識が詰まっているんですね。特に古典には、磨かれて磨かれてそれでも今なお残っている珠玉のものが多いんです。アイザック・ニュートンが「私が遠くを見渡せるのだとしたら、それは巨人の肩に乗っているからだ」という有名な言葉を言っています。そういう観点で、本を役立てていただきたいなと思っています。私からは以上です。
篠田:ありがとうございます。山口さんからも一言お願いします。
山口:はい。堀内さんの言葉の繰り返しになっちゃいますけど、「よく生きる」ことだと思うんですね。みんな「人生」というとどうしても、年収が高いとか会社のポジションが上だとか、そういう競争の軸になっちゃうんですけど、本来の戦いって、人生の最後に「自分らしい良い人生を全うできたな」って思えるかどうかだと思うんですね。
大江健三郎氏が「ディーセンシー」と言ってますけれども、それが人生の勝利だと思うんです。そのためのいろんな知恵とかが「教養」なのかなと思っています。
僕、サーフィンも教養だと思うんですよね。サーフィンをやっている人って、独特の哲学を持っている人が多いんです。例えば彼らはずっと波を待っている人たちなので、「待つ」ことの本質を語らせるとすごく深いことを言うんですよね。
哲学からそこに到達する人もいれば、サーフィンから入っていって同じところに到達する人もいるんです。結局、入口は何でもいいと思うんですよね、映画でもスポーツでもいいと思います。
年収を上げるためとか会社でポジションを上げるためとか、飲み会でワインを語って女の子に「へえ~」って言われるための勉強をしても、あんまりしょうがないかなっていう気はしますけどね(笑)。
篠田:(笑)。ありがとうございます。じゃあ最後に私からもお礼も込めて、このセッションを締めたいと思います。
篠田:まずお二人に、かなりパーソナルな経験も含めて私たちにおすそ分けしていただいて、本当にありがとうございました。そしてチャットを見ていますと、「未来のことをお二人から聞きたい」というコメントもありましたので、そこに関して最後ひと言だけ触れて終わりにしたいと思います。
今のお話でわかっていただいたらいいなと思うんですが、このパネルでは「未来のことを教えて」っていう態度それ自体を問うてるわけですよね? 誰かが教えてくれる正解を探すのではなく、一人ひとりが自分の生き方や世の中との関わり方を探索していくのが「教養」であると。
未来というのは、私たち一人ひとりの今後の生き方の集積であって、それを「どうやるの?」というのは、一人ひとりがつかむしかないんです。その礎にあるものとして、今日ここの場で言った「教養」があるんだと私は感じています。みなさんもこの感覚を、この1時間弱の中でほんのちょっとでも感じていただけたなら、ともに時間を過ごせて非常に有意義だったのではないかなと思っております。
あらためて堀内さん、山口さん、今日は本当にありがとうございました。
山口:こちらこそ、どうもありがとうございます。楽しかったです。
堀内:ありがとうございました。
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