2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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白戸翔氏(以下、白戸):ありがとうございます。今の脱資本主義系の議題に沿って、質問がある方はいらっしゃいますか? もしあれば、ここでお聞きしたいなと思うんですけど。ありがとうございます。お願いします。
質問者3:「今日よりより良い明日を願う」というのが資本主義の大前提だという話がありましたけども、今日より明日が良いことを願うという中で、資本主義以外のイズムを思考することは考えられるのか。
大川内直子氏(以下、大川内):資本主義以外の社会ということですか?
質問者3:資本主義以外のイズムというか、主義というか。今日より良い明日を願うという結果として、資本主義以外を選択することはありうるのでしょうか。
大川内:ありがとうございます。意思として、そちらに行くことはありうると思うんですけど。例えば資本主義ではなく社会主義にして、みんなを平等にしますとなったとします。先ほど「計画経済」がありうるかもしれないって話があったので、食料や衣食住に一切の不安なく計画経済が営まれていくとすれば、その期間においてはもしかしたら維持できるのかもしれないです。
でも、もしそれがいったん破綻して、人口が1億人いるのに、来年の食料が8,000万人分しかできないかもしれないとなった時に、それを享受して、「ちょっとお腹は空くけれども、みんなでお腹空かせて来年過ごしましょうね」となるのか。例えばミクロで見ると、一部の人は「うちはちょっときついから、どうにかして闇市で確保できないか」みたいな人が現れ出すんですね。
そういうところから、資本主義の萌芽がまた出てくると思っています。歴史は繰り返すじゃないですけども、自分の分はなんとか確保する、友だちの分も確保する、みたいなところから「闇市」みたいなものが生まれたり。自分の分だけはまず確保して、財産権を構築して、結果的にいろいろな綻びが出てくるんじゃないのかなと、個人的には思っています。
質問者3:ありがとうございます。
山口真一氏(以下、山口):私からも少し補足しますと、2つあると思っています。1つは、さっき社会主義の話で出ましたけども、社会主義の中でも激しい競争あったという説があるんですね。
いろんな面で競争あったんですけど、例えばある政治を牛耳ってる集団がいたんです。その人たちの中での競争って、想像を絶するぐらい激しかったんですよね。できるだけ富を得ようとか、できるだけ権力を持って上に行こうとする。それは今でも、いろんなかたちで起こるわけなんですけども。
結局、人間あるいは動物である限り、競争しないってないんですよね。「今日よりも明日がいい」と、資本主義がどう定義されるかにもよると思うんですけども、社会主義の中でも競争とかが絶対入ってきてしまうんです。
さっき大川内さんがおっしゃってるように、資本主義的な要素がゼロになるということは、少なくともないんじゃないかなと思います。もしかしたら、社会主義でも資本主義でもない、なにか第3のルートが生まれることもゼロではないかなと思ってます。
山口:もう1つが、最近の「ベーシックインカム」の議論に若干そのにおいがあります。ベーシックインカムって実はけっこういいんじゃないかという説もあって。
まず行政コストは下がるわけですよね。日本だと所得の低い人に対して生活保護をするわけなんですけども、審査がものすごい厳しいし、審査するコストも高いし、無駄が多いんです。しかも、助けるべき人が助からないというケースもあります。
そうすると、もうベーシックインカムで最初からぜんぶ配っちゃって、それでいいんじゃないかっていう話があって。おそらくトータルのコストを考えると、かなり効率的だと思います。
さらに言うと、先ほど社会主義の例を出しましたけども、ベーシックで生活とか生存権が保障されてたとしても、競争しないわけないんですよ。全員が「まいっか、これで」ってならないと思うんですね。
だから、けっこうそれ成立するんじゃないかっていうのが、今の資本主義の中でのベーシックインカムという文脈であるので、そういういいとこ取りみたいな議論が、ベーシックインカムをここで支持するって話じゃないんですけど、そういう施策っていうのも同じ文脈でありうるかなというふうには思ってます。
質問者3:ありがとうございます。
質問者4:1つ思ったのが、10年前にネットで記事で読みました。相互互助会システム、要するに物々交換で生活が成立してく社会のあり方が、特に田舎なんか日本でも起きてると。それは会計に乗ってこないので、税金を払わなくて済む。ちょっと資本主義と社会主義のシステムとずれてる生活のあり方なんですかね。
資本主義なのかアイデア資本主義なのかわかんないんですけども、そういった原始的な生活のあり方って、今後は社会全体で見た場合の1つのシステムとして流行っていくのか、あるいはアイデア資本主義的なものにぶら下がっていくのか、あるいはセーフティネットとして人の生活とか幸せに貢献して広まっていくのか。今後どうなっていくのかなって思って。お二方のご意見をお伺いしたいです。
大川内:ありがとうございます。文化人類学では「互酬性の社会」も研究するので、すごくおもしろく質問を聞かせていただきました。
田舎でなくても、今も資本主義に還元されない人間関係ってありますよね。誕生日プレゼントをあげるとか、お歳暮とかお中元のやりとりとかって、必ずしもお返しを期待してないし、その場でお金を払って取引してるわけでもなくて、気持ちをプレゼントしてるものです。
家族の間でももちろんあります。例えば引っ越しする時に、家族が手伝ってくれたらお金かからないということもありますよね。今も昔も、お金に還元されない労働があります。そういうものが社会関係を豊かにしてきたということがあると思っています。
そういうものが、資本主義の発展と並行して徐々に失われてきたのも事実だと思っています。「ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへ」って指摘されますけど、血縁によってつながっていたものが、会社の関係とかに回収されていくと、ドライな社会になっていくという部分があります。それによって機能的になった部分ももちろんあるんですが。
大川内:私は田舎出身なので、田舎の煩わしさをすごく感じて生きてきたほうなんです(笑)。そういうものがなくなった良さと悪さがあると思いますが、どうなんですかね。復活する兆しはないわけではないなと思っています。今も互酬性自体がはなくなってないですけどね。
より広まっていく兆しというのは、一部にあるのかなと思っていて。地域通貨が作られ始めていたり、その地域通貨もずっと価値があるんじゃなくて、ある一定の期間あると消滅してしまうので、その地域内での消費が活性化されたり。
地域通貨じゃないとしても、地域のクーポン券があったりとか、おっしゃったように本当の物々交換があったり。そういったところで人間的なつながりを復活させていくところは、人類学をやっている者としてはあったらうれしいなと思っています。
調査をしていても、やっぱりTwitterでの人格とリアルの人格が違って、いろんなとこで自己が分裂してしまってるという悩みがあるんですね。機能的につながれる一方で、本当の自分が何なのかという悩みを抱えている人もいる社会になってきています。
物々交換がそれかどうかはわかりませんが、自分という存在の全体を預けられる人間関係が社会関係から復活してくるといいなという気持ちがあります。お答えになってるかわかんないんですが。
山口:ありがとうございます。私は結論から言うと、原始的な生活は増えてくんじゃないかなと思っています。今も物々交換は地域でけっこう当たり前のようにやられてるわけなんですけども。
おそらくそういう話って消えないし、今後「地産地消」みたいな話ってもっと盛り上がってくると思うんですね。それは結局、そっちのほうがエネルギー効率がいいからですね。
そういった話が盛り上がってくれば、それだけ物々交換も増えてくでしょうし、さっき言ったように「地域通貨」も実証実験がいろいろやられていて、実際に発行されています。そういう流れができているんですよね。
グローバル化が進んで、しかもネットでみんながつながる時代だからこそ、ローカルのコミュニティを大切にしようという流れができてきています。そこはもしかしたら、今後は大きくなっていくかなと感じてます。
また情報については、すでにものすごく拡大してますよね。例えば「Wikipedia」。あれは要するに、百科事典ですよね。あれも書いてる人はお金を取っていいわけですよ。でも取ってない、無償労働なわけです。情報は限界費用がゼロなので、みなさん気軽に出すわけです。
あるいは「食べログ」の口コミとかもそうですよね。本当はやんなくていいはずなんですが、わざわざ書いてくれるんですね。
あれはまさに互助といいますか、助け合いの精神ですよね。完全な無償労働を提供して、良い価値を提供してる。貨幣の交換もないので、もっともっと広がっていくんです。もうすでにかなり広がってると言えると思います。
山口:ただ一方で、共通価値を持っている「貨幣」がなくなることは絶対にない。これはなぜかというと、さっきの話に紐付けて言うと、実は実証実験で結果が出ていて。物々交換の限界ってだいたいわかっていて、120人を超えると成立しないんですって。やはりどこかで問題が起こってしまう。
だから、それぐらいのコミュニティだったら物々交換でもなんとかなるけど、それを超えると機能しなくなる。みなさんが共通で価値を見出している「貨幣」がいかに便利か。それが代替されることはないのかなと感じてます。
白戸:ありがとうございます。あっという間にお時間になってしまったんですけど、オンラインの参加者から質問が来ているので読み上げます。
「アイデアを保有してる人が勝つ時代に引き続き、アイデアがない人が負ける時代が続きます。資本主義の心的傾向は仕方ないと理解しつつ、一方でみんなは勝者になれというメッセージではないとも理解しています。一人ひとりがアイデアを磨く必要があるのですが、負ける側の人たちを想像した時に、政府・コミュニティ・個人レベルで、どんな仕組みでサポートしていけるか。お考えをお聞かせいただけるとうれしいです」。
白戸:まず大川内さんから。どうでしょうか?
大川内:ありがとうございます。これまでの議論で、けっこう話しているのかなと思うんですけど。やっぱり、アイデアを掲げて取り組んで、失敗したらなかなか立ち直れないというか、失敗した人に厳しい社会だなと思っています。そういうセーフティネット的なものは必要だなと思っています。
おっしゃるとおり、良いアイデアばかり生み出す人と、あまり生み出せない人の差が生じうるわけです。アイデアを掲げてみたけど失敗しましたという人とか、なかなかアイデアを生み出せませんという方に対しても、なにかしら対応していくべきとは思っています。
でもそれは、アイデア資本主義だからというより、やはり日本全体として失敗を許容するとか、創造性を全体で底上げしつつ長期的な目線で見るとか、社会的に投資を行うということはやっていくべきだと思うんです。
特段アイデアを取り上げて支援すべきというよりは、いろんな取り組みに対して失敗を許容する文化であったり、風土と制度を整備させていくべきかなと思います。
白戸:ありがとうございます。山口さん、いかがでしょうか?
山口:ありがとうございます。これはいろんな場面で言われることですね。それこそ一番言われるのが、「AIが仕事を奪う」という文脈ですよね。それも結局、単純作業がなくなっていくので、アイデアを生み出せない人が大変なんじゃないかって話なわけです。
これはどうしようもない現象なのは間違いないと思います。例えば、農業から工業に移ってった時も、職を失う人がいっぱいいました。さらに機械化が進んでいって、それまで手作りでやってたみなさんの中で職を失った人たちがいっぱいいたわけですね。
あるいは、馬車が自動車になった時も、馬車を生業にしていた人はもちろん職を失うという話になります。こういうことが至るところで起きてしまうのは止めようがないと思います。
今までの社会でも、それでもなんとかなってきたんだから、なんとかなるんじゃないかってのは思うところなんですけど。やはり一時的に失業者が出るのは間違いないんですが、その後いかにしてダメージを軽減するか。それが1つ大きな課題としてあると思います。
その未来が見えてるんだから、ある程度準備はできますよね。例えば最近の事例でいうと、電気自動車が世界で大流行しているわけです。おそらく主流になっていくんですけども。ただ電気自動車って1つ大きな問題を抱えていて、自動車が問題を抱えてるんじゃなくて、雇用者が問題を抱えてるんですね。
どういうことかというと、電気自動車って部品の数が普通の自動車に比べて半分ぐらいらしいんですよ。そうすると、今までの部品を作っていた人たち全員が職を失うんですね。
それに対してドイツでやってるのが、職業訓練です。それまでそれしかやってきていない人たちに対して、新しいスキルを身につけさせる、あるいは新しいアイデアを生み出すような訓練をする。これが最終的な解になるはずなんです。
今、アイデア資本主義になってきているという未来が見えてきているわけですね。そして、それができない人たちがいるだろうということもわかっている。だとしたら、やれることはAIでもできないような仕事をどうやるかということを、しっかりと教育・訓練すること。かなり地味ですけども、それが準備としては一番効果的なんじゃないかなと思ってる次第です。
要するに、政府の予算配分をそういうところにつけると良い社会になるんじゃないかなと思います。
白戸:ありがとうございます。それでは時間となりましたので、ここで終了とさせていただきます。お二人ともありがとうございました。
山口・大川内:ありがとうございました。
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