転職意欲を隠す世代から表明する世代への過渡期

瀧口友里奈氏(以下、瀧口):岩崎さんはどうですか? (YOUTRUSTは)「自分で決められる」というところで、主体的にキャリアを選んでいくというサービスだと思うんですけど。(大室さんがおっしゃったように)逆に決める必要がないという幸せもあるよ、という話も。

大室正志氏(以下、大室):決める必要がないというか、時代の流れとしては、国もそっち側って言っているわけだから。どんどん一人ひとりの人間が、もっと「Will慣れ」していかなきゃいけないわけですよね。

たぶん我々の子どもの世代は、当たり前のように自分のWillを表明する時代になっていくんだけど。ちょうどあれなのよ、僕らの世代は、上の世代にも逃げきれないし、下にも行かないから。OS的に言うと、Windows2000みたいな、ちょっと微妙な時代なんですよ(笑)。

瀧口:なるほど、なるほど。ご自身の世代の悩みと言いますか、そういうのもあるんですね。

岩崎由夏氏(以下、岩崎):今は過渡期ですよね。ちょうど自分が30代前半ですけれど、上の世代と下の世代はけっこう考え方が違うなと思うことはあって。若い方であればあるほど、選択肢が多いとか、自分が決めたいというWillが強いのかなと思いますね。

一方で、自分のことをあけっぴろげに話す人たちも多いなと思っています。私が起業する時に「転職意欲を公開するサービスを作ろうと思うんですけど」と言ったら、たいがい先輩に猛反対されたんですね。「転職意欲なんて人に見せるわけないでしょ」って、すごくいろんな人に言われたんですよ。

でも、自分より下の人たちってTwitterで「#Twitter転職」とハッシュタグをつけて、「自分を欲しい人いますか?」とかってやってて。相当価値観が違っていますし、自分に必要なオポチュニティはちゃんとキャッチしたうえで、自分で選びたいという思いが強いのかなって。そういう方がどんどん今後マジョリティになるのかなと、肌感としてもすごく感じますよね。

大室:たぶん、そうなると思いますね。僕くらいの世代の若い頃は「大企業かベンチャーで悩んでいます」というと、僕の上の世代や同世代は、だいたい「まずは大企業に行っとけ」と。「ベンチャーは大企業に行ってからでも行ける」という人が9割でしたね。

新卒一括採用で、「石の上にも3年」が目安とされる理由

大室:あとは3年ルールね。「石の上にも3年」とかって言う人もいるでしょ。

家入一真氏(以下、家入):あぁ、よく言ってた。

大室:なんでそう言うんだろうなと僕なりに分析したら、日本の多くの会社は新卒一括採用、いわゆるメンバーシップ型組織ですよね。メンバーは仲間という意味ですから、要するに村人、村の一員ということですよ。

そこの村の一員として認められるためには、3年ぐらいかかる。要するに3年いられない人間は、組織人としてどこの会社に行っても難しいんじゃないかという意味だったと今になって思ったんです。

でもジョブ型だと、仕事の習熟度によって2週間で覚える仕事もあるので、2週間で「俺これは向いていない」と分かる仕事もあるし、1年やってみないと分からない仕事もあって。仕事によってどのくらい自分に向いてるかどうかという損切りの早さが変わってくるじゃないですか。仕事によって変わるから、僕は今「石の上にもn年」と呼んでいるんですけど。

岩崎:確かに。終身雇用の時代ってあと40年いるという前提なので、例えば3年間研修させたりとか、育成することに経済合理性が合っていたんですよね。でも今は、もう2年とか3年で辞めてどんどん転々としていく。会社からすると研修を受けさせたり、みっちり育成するのは経済合理的に合わなくて。

そういう意味では、がんばれる人には良い世界だけれども、今まで研修とかを受けてそれなりになってきた人たちからすると、他のやり方を考えないといけないのかなという課題はありますね。

大室:海外だとやる気のある人は、例えばホテルについて学びたいならホテルでバイトしてチップでお金を貯めて、貯めたお金で奨学金を取ってコーネル大学ホテル(経営)大学院に行くと。大学院を出たら、そのホテルに幹部候補で来るということが普通にできるような。

海外は研修をアウトソースしているわけですよ。日本だとそんなことはなく、内製化していたんでしょうね。でも今後はたぶん、そこも少し変わってくるんだろうなと思います。

家入:確かに。

岩崎:最近それこそ、学び直しの名前を毎回忘れちゃうんですけど、プログラミング教室とかもそうですし、SHEさんみたいな、女性の社外研修も増えていますし。そういう時代になるんでしょうね。

瀧口:リカレント教育ですよね。

岩崎:そうそう、それです。

「多様な働き方」時代の家入氏の関心は、社員の教育や育成法

瀧口:お時間があと15分ぐらいあるんですが。日本の未来のために企業が働き方を変えていくアクションとして、どういうことができるかというところも少しいただきたいんですが。今までの議論を踏まえてでも、また新しい論点でも大丈夫です。企業のアクションとして、こういったものをぜひやったほうが良いんじゃないかというところを、提案いただけますでしょうか。

家入:そうですね。僕からいくと、すでに僕らがやっていることになっちゃうんですけど。今CAMPFIREは200人ぐらいの会社で、もうそんなに珍しくないと思うんですけど、コロナ前から副業はオッケーだよみたいな感じでやっています。

けっこう地域のプロジェクトとかも多いので。例えば、地域を回りながらそれぞれの地域のおいしい食材でおにぎり屋さんをやっている子が、同時にCAMPFIREで地域のクラウドファンディングを組成していくような働き方をしていたり。

さまざまな副業をしているメンバーがいたんですけど、今回のコロナでさらに加速していて。リモートはもう当たり前で、オフィスに10人も来ていないくらいの感じで今も進んでいて。これはこれでぜんぜん問題なく回っているなというところですね。なので、本当にメンバーが日本中に散り散りになっていて、いろんな地域の方の採用も進んでいます。そういう流れなんだろうなと思いながらやってはいるんですけど。

一方で、さっきちょっと出た、社員の教育や育成をどうしていくべきかというのが、すごく大きな観点としてあります。そこはこれからどうしていくか、考えていきたいですね。

瀧口:ありがとうございます。なかなか研修を受けさせるであったりとか、新卒の子たちがどうやって戦力まで育っていくかとか、社員の教育が非常に難しい時代になっていきそうですよね。

働く人たちに選ばれる環境作りをしないと、企業は生き残れない

瀧口:続いて、岩崎さんにうかがえますか? 企業が今、働き方を変えるために取るべきアクションですね。

岩崎:私が特に見ている領域は採用ですけれども。これから個人の期待値が上がっていくじゃないですか。働き方改革だったり、副業・兼業の推進、女性の活躍推進と国がこれだけ言っているので、個人としてもそれを期待しますし、その期待は真っ当だと思うんですけれど。

一方で労働人口が確実に減っていくので、今は売り手市場になりつつあるんですけれども。今までは個人が会社さんに「私を雇ってください」とエントリーする時代だったのが、もう真逆になりつつあります。会社側が個人の方に「ぜひうちに来てください」と言う世界になっているので。

そうすると会社側は、個人の方に選ばれるような環境作りをしないと、もう生き残れないんですよね。それこそ別に東京にいなくても働けるよとか、いろんな多様な働き方をチョイスできるような環境にしないと、採用ができなくなって、事業が伸びなくなって、いつか枯れていくみたいなループに入っちゃうので。

能動的にやったら絶対良いと思う一方で、能動的じゃなくてもやらざるを得ない世界に入ってきたかなと感じています。

瀧口:なるほど。そこが企業の競争力と採用力に直結してくるところですよね。

岩崎:そうですね、本当に人だと思うので。

瀧口:ありがとうございます。

「うちはこういう会社です」ときちんと表明し、ミスマッチを防ぐ

瀧口:大室先生、いかがでしょうか?

大室:そうですね、例えばパタゴニアは、環境問題や人権問題について、「うちはこういう会社です」と鮮明に言うじゃないですか。こういうのって日本の会社は「ちょっとうちはそんなのできません」と、なんとなく玉虫色の回答にするのが今までだったと思うんですけども。やっぱり多かれ少なかれ、「うちはこういう会社です」と、ある程度表明していくようにならないと駄目なんだろうなと思います。

リモートワーク1つ取っても、例えばエンジニアってリモートワークOKじゃないと事実上なかなか採れないんですよ。一方で、「うちはリモートワーク禁止です」という会社があっても良いと思うんですね。ただ、なぜうちはリモートワークが禁止かを、ちゃんと説明して。そういう価値観の社員をちゃんと集めるだけのカリスマというか力があれば、それはそれで良くて。

すべてはビジネスモデルによるので。あとはそこの人柄や個性によるので、そういう会社があっても良いと思うんですけれども。要するに、「うちはこういう会社です」ということを、どの会社もちゃんと説明してアンマッチングを防ぐという。

ビジョナリー・カンパニー —時代を超える生存の原則』という有名な本がありますけど、その中に「カルトのような文化」という章があります。カルトというと非常に聞こえが怖いですけど、同じ価値観を信じていて、そうじゃない価値観の人が来たら、アメーバのようにその人を排除してしまうような仕組みがあると。

僕がジョンソン・エンド・ジョンソンという会社にいた時も、なんとなくそれを感じたんですよね。ジョンソン・エンド・ジョンソンの価値観じゃない人が、なんか居づらくなってしまう仕組みみたいなものがあって。

ダイバーシティというのは、そこの価値観を信じていない人を含めてのダイバーシティじゃなくて。要するに「1つの同じ価値観を信じている限りにおいては他のことは気にしないよ」という意味ですよね。だからダイバーシティを推進するのであれば、今まで以上に「うちはこういう価値観です」と会社が表明しなきゃいけないというのがまず第一。

これまでの日本社会では、あまり多くを説明しないことが粋だった

大室:表明する時のポイントとしては、日本人の癖で、村社会の名残で、DNAで、口で説明するとちょっとしゃらくさいんですよ。「なんで妻のことを好きになったんですか?」とか聞かれると、みんな「いや……」と答えられないでしょ。

そういうふうに口で説明すること、言語化するのが、なんとなく口幅ったいんですよ。同質性の高い集団は、基本的にあまり多くを説明しないことが粋になるんです。だから、すべてを説明してしまうのは文化的な成熟度が低い、いわゆるローコンテクストな社会なんですよね。

ただ一方で、ハイコンテクストが煮詰まると、京都みたいにすごく婉曲表現が発達していくわけですよね。ただ、ダイバーシティな組織では、婉曲表現だと伝わらないわけですよ。そうなってくると、やっぱり「うちはこういう会社です」と明確な言葉で表明することが大事になる。

例えば、寿司屋でいったらしっかりネタを切りわけるように、いろんなものをちゃんと言語化して揃えていくファシリテートをすることが、人事とか経営層には大事になるんじゃないかと思います。特にリモートワークだとなおさらです。

やっぱり教会や寺で暮らしていた人間は、わざわざ仏教の経典を読まなくても、なんとなく禅寺が大事にしているカルチャーが分かるんだけれど。これからは在家の信者にならなきゃいけなくなるわけですから。そうなってくるとやっぱり、仏教が何を大事にしているかを経典で出さないといけないわけです。そういう形で、言語化をしていくということ。「うちはどういう会社です」と表明することが大事じゃないかなと僕は思います。

「岩崎総理大臣」がやりたいのは、人材の流動性10倍改革

瀧口:ありがとうございます。家入さん、すごくうなずいていらっしゃいましたが。ご自身の会社に当てはめて考えたとことか、あったんですか?

家入:良いこと言うなぁと思って(笑)。

瀧口:旧来の村社会的モデルから脱して、ちゃんと……。

大室:僕がこの1年で最もプライベートでしゃべったのって、たぶん家入さんだと思うんですよ。ちょいちょい会っているし。

家入:(笑)。

大室:でも、ちゃんとしゃべったことがあんまりないっていう(笑)。いつもくだらないことしか……。

瀧口:今一生懸命つなげようとしてたんですけど(笑)、なかなか……。ありがとうございます。

そろそろお時間近づいてきましたので。最後にですね、今回のWILL FES、必ずセッションの最後に聞かせていただいているんですが。「もしもみなさんが総理大臣だったら、どんなアクションをしたいか、どんな日本にしたいか」などですね。一言お話聞かせていただけけるとうれしいんですが。どなたからいきましょうか。

岩崎:じゃあ、良いですか? 大本はみんなが幸せでいたいよねというところかなと思っていて。私も日本に生まれて日本で育って、日本人みんなが幸せであってほしいなと思っている中で、幸せのかたちっていくつかあると思うんですけど。

1つは進捗感というのが大きい要素かなと思っています。昨日より今日が良くなっているという実感を、幸せだと感じる人が多いのかなと思った時に、「日本は、人口も減ってきたし、枯れてきているんじゃないか」「衰退し始めているんじゃないか」みたいな空気になっていますけど。

そんなことはぜんぜんなくて。いまだにGDPが3位で1億人もいて、すごい技術も文化も持った素晴らしい国なので。ぜんぜんまだ持ち上げていけるし、いけると思っているんですけど。そういった中で明確に挙げたら、「生産性」というワードがベストなのか分からないですけれども、人材の流動性を高めることで幸せになれる方が増えるなと思っているので。

自分が総理大臣になったら、人材の流動性をどう上げるかというところにコミットするかなと。「人材の流動性10倍改革」をやりたいですね。

瀧口:「人材の流動性10倍改革」いただきました、ありがとうございます。

「家入総理大臣」は、新しい互助の仕組みを活用したベーシックインカム

瀧口:では、今「すごい」と言っていた家入さんはいかがでしょうか? 最後にしますか?

家入:いえいえ、最後はハードル上がるので僕いきます。僕が総理になったら、ありきたりかもしれないですけど、ベーシックインカムの実現はしたいなと。その財源どうすんの? みたいなものを新しく発明してみたいなと思っています。

クラウドファンディングはお金を集めて配布するという機能なんですね。税金も同じだと思っていて、確かに働く人も減っていくし、このままいくと経済的に小さくなっていく社会の中で、財源をどうするの問題はもちろんあるわけなので。

そこに関しては、「民間の民間による民間のための銀行」じゃないけど、そういった仕組みを発明して、ベーシックインカムを実現する。それ、総理大臣の仕事じゃないじゃんって話なんですけど。

イワヤン(岩崎)さんもおっしゃっていましたけど、クラウドファンディングも「日本じゃうまくいかないよ」とずっと言われ続けてきて。寄付文化がないからとか、いろんなことを言われてきたんですけど。

僕はそんなことはまったくないと思っています。大室さんが、さっき村の例えを出していますけど。日本にはかつて頼母子(たのもし)とか無尽(むじん)とか講(こう)とか、村人が互いにお金を出し合って支え合う仕組みがあったわけなので、うまくいかないと思ったこともなくて。

日本だからこそのモデルは絶対できるはずだと思ったし、小さくならざるを得ない世界の中で、日本だからできる新しいベーシックインカムとか、互助の仕組みはきっとあるはずだと思っています。総理の立場でできることがあったら、そこらへんをいろいろと考えたらおもしろそうだなと思いました。

瀧口:ありがとうございます。ベーシックインカム、しかもその財源を見据えてどうするかを考えていくという新しい互助の仕組みのお話で。ありがとうございます。

「大室総理大臣」は、半沢直樹を政府公認の時代劇に!?

瀧口:では最後、大室先生にお願いします。

大室:さっきも言ったように、日本は世界的に見ても非常に伝統が長い国ですよね。にも関わらず、急に変わる時はパッと変わるんですよね。伝統を大事にするとか、尊王攘夷とか言っていたのに、明治維新となったら急に全員がちょんまげを切って髪型を横分けにしだすみたいな。

戦時中はずっと「鬼畜米英」とか「漢字しか使うな」と言ってたくせに、急に「ギブミーチョコレート」とか言い出すわけですよ。当時は戦争とか大きなことがあったんであれですけれども。

日本人は「みんなやってます」という雰囲気に良くも悪くも弱いので。キャズム(乗り超えるべき溝)を超えた瞬間にころっと変わるんですよね。そのきっかけとして、僕は胆力がないんで、何にしようかなと思ったんだけど。

総理として、半沢直樹を政府公認の「時代劇」にしようと思って。あのドラマは会社を「辞められない」という条件の中でないと意味がないじゃないですか。「辞めれば?」で話が終わりじゃないですか。

だからとりあえず、あれは時代劇で「水戸黄門と同じジャンルなんです」と。だって水戸黄門は時代劇じゃなかったら、さきの副将軍だって、今で言えば副総理くらいでしょ。副総理が「私は副総理です」と言っても周りがひれ伏すこともなく、「は?」って言われるだけですよね。だから、半沢直樹を僕の権限で時代劇に認定しようかなと。そんな感じで。

家入:なんなの(笑)。

瀧口:(笑)。総理大臣になったら、半沢直樹を時代劇に?

大室:そのくらいの条例だったら作れる。あれは時代劇なんだと。会社を辞められないという遠いいにしえの時代にあったから、転勤させられて「キー!」とかやってて。「いつだって辞められるよ」となった瞬間に、意味がなくなってしまうわけですよ。

瀧口:そうですね、あのドラマは生まれないわけですもんね。ありがとうございました。ということで「働き方」について本当に楽しいお三方とお届けしてきました。今日はみなさん集まっていただいて、本当にありがとうございました。

岩崎・家入・大室:ありがとうございました。