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Session3 「働き方」(全3記事)

「べき思考」が強い人は、メンタル不調予備軍 産業医が解説する、新しい働き方に対応できない人たちが抱えるストレス

10月の衆議院議員総選挙の期間中に行われたイベント「WILL FESTIVAL」。社会課題に対して意志を持って先導するキーパーソンによるトークセッションが多数開催されました。今回は、株式会社CAMPFIRE代表の家入一真氏、株式会社YOUTRUST代表の岩崎由夏氏、そして産業医の大室正志氏が登壇した「働き方」セッションの模様をお届けします。人材が流動する社会のメリットや、高流動社会で働く人たちの心構えなどを、各登壇者が議論しています。

「働き方」セッションに、CAMPFIREの家入一真氏が登壇

瀧口友里奈氏(以下、瀧口):みなさん、こんばんは。WILL FESTIVAL初日、今日の3つ目のセッションをスタートしたいと思います。3つ目のセッションのテーマは「働き方」ということでお届けします。モデレーターは引き続き、私、経済キャスターの瀧口友里奈が務めさせていただきます。よろしくお願いします。

さっそくですが、最初は自己紹介から行っちゃいましょうか。まず株式会社CAMPFIRE代表取締役社長の家入一真さまより、自己紹介をお願いいたします。

家入一真氏(以下、家入)CAMPFIREの家入と申します。よろしくお願いします。2011年の震災直後にCAMPFIREというクラウドファンディングの会社を立ち上げまして、もう10年になるといったところです。

なぜ立ち上げたのかと言うと、いろいろと個人的な思いもあって。今回のコロナもそうでしたけど、震災が起きた後のように、時代がいろいろと変わっていく中で、これから金融的な包摂みたいなものが必要になっていくんじゃないか。

要は、個人を中心としてお互いに支え合っていくような小さな経済圏をたくさん作っていく。そういった仕組みがこれから必要とされていくのではないかといったところから、CAMPFIREを立ち上げて今に至ります。すみません、もうちょっとしゃべって大丈夫ですか。

瀧口:ぜひお願いします。

自由な働き方の実現を目指し、団体やサービスを立ち上げてきた家入氏

家入:今メインはCAMPFIREの代表としてやっているんですけども。今回の「働き方」というテーマで言うと、これも震災直後だったんですけど、CAMPFIREと並行してさまざまな、自由な働き方を目指す「Liverty」という団体を作りました。

例えば学生や働いている方、シングルのマザーやファザーだったり。収入源が一本だけでは生活ができないかもしれないさまざまな方々が、いくつかプロジェクト単位で関わることで、小さな収入を得ていくみたいな。

そういった実験をしながら、いろんなプロダクトを作っていく団体を立ち上げて、そこからBASEという会社も生まれたりしたんですけども。そこに来る若いメンバーを中心として共同生活をしながら、さまざまなサービスを立ち上げていく「リバ邸」というシェアハウスを立ち上げたりしてきました。今日はよろしくお願いします。

瀧口:よろしくお願いいたします。リバ邸は何年に作られたんでしたっけ。

家入:2012年とかですかね。

瀧口:2012年。もう10年経つってことですね。

家入:なんだかんだ、そうですね。当時は「現代の駆け込み寺」みたいな呼び方をしていました。それこそ学校に通っているけど、ちょっとメンタルが不調で学校に行けなくなったり、就職したけど、ちょっと仕事ができなくなったとか。わりとそういったメンバーを中心に共同生活をしながら、さまざまなサービスを立ち上げていくシェアハウスでした。

瀧口:まだ「シェアリングエコノミー」という言葉もあんまりなかった時期だと思うんですけど。

家入:今思うとそうですね。当時はまだ、そういった言葉はあまりなかったかなという気がします。

瀧口:働き方と、しかも生き方も含めて向き合ってこられて。

家入:そうですね。

キャリアに特化した日本発のSNS「YOUTRUST」の代表・岩崎由夏氏

瀧口:では続いて、株式会社YOUTRUST代表取締役CEOでいらっしゃいます岩崎由夏さま、自己紹介をお願いいたします。

岩崎由夏氏(以下、岩崎):よろしくお願いします。YOUTRUSTの代表をやっています、岩崎と申します。日本のキャリアSNSとして、YOUTRUSTという事業をやらせていただいています。

簡単に個人の経歴的なところに触れると、私はキャリアとして一番長く、前職のディー・エヌ・エーという会社で人事をやらせていただいていたので。今日こういう場で、幅広く「働き方」についてお話しできるのを楽しみにしておりました。よろしくお願いします。

瀧口:よろしくお願いします。YOUTRUSTさんのサービスについて、もう少し詳しくお話をうかがってもいいですか。

岩崎:(笑)。そうですね。30秒で登録できるので、まだの方はぜひお願いしたいんですけれども。「日本のキャリアSNS」というのがすごく簡単に説明できるワードかなと思っています。

「終身雇用でもないし、いつかは転職するんだろうな。でも、今すぐ転職活動するほどじゃない」という人たちって、今一番多い層だと思うんです。そういう人たちが、普通にSNSで仕事の話をしたり、友人や元同僚とつながっていただくだけで、キャリアオポチュニティを逃さないというか。

一方で、直接自分からエントリーすることもできるんですけれども。主には「いつか自分のことを欲しいと思っている会社があるんだったら、逃さないように話を聞いておきたい」という方に使っていただいているプラットフォームです。

瀧口:まだ転職を決めていなくても、ふだんから情報が自然に入ってくるようなSNSに触れておく。

岩崎:まさにです。この後、そういう話もできればと思っているんですけれど。基本的には、みなさんが転職スタンバイ状態の世界に入ってくるのかなと思っているので、そういう場所を提供しています。

家入:僕も使っています。

岩崎:やったー。ありがとうございます。お世話になっています。

家入:いえ、こちらこそです。

企業で働く人たちの話を聞く専門家、産業医の大室正志氏

瀧口:後ほど、そのあたりのお話も詳しくうかがっていきたいと思います。では、ラストになりましたが、産業医の大室正志さまより自己紹介をお願いいたします。

大室正志氏(以下、大室):産業医の大室正志といいます。よろしくお願いします。「ところで何科なんですか?」とよく聞かれるんですけれども、内科とか外科とか「何科」とつくのがすべてまとめて「臨床医」という職業なんですよね。

医者の中では90パーセントくらいが白衣を着たお医者さん、いわゆる臨床医という仕事なんですけども。実は厚生労働省の官僚である医系技官というのも医師免許がなきゃなれませんし、法医学の医師も医師免許がなければなれません。あとは病理科医も医師免許がなければなれません。

要するに、いわゆる「何科」とつくようなお医者さん以外にも医師の領域は多くあって、その1つに産業医という仕事があります。同じ資格でも、本来は弁護士さんと検察官ぐらいは違う職業なんです。ただ検察官は公務員なので、辞めた後しか弁護士さんになれませんけど、産業医の場合は兼務ができます。

だから、産業医をしている人間の90パーセント以上は、ふだんは内科や精神科をしていて、アルバイトで月に1、2回ぐらい産業医をしている人が多いんです。僕の場合は、産業医大という大学を出まして、その後、研修病院に勤めていたんですけども。

その後にまた産業医の研究所に入りまして。それでジョンソン・エンド・ジョンソンという会社の統括産業医という仕事をして、人間ドックの産業医部門に入り、そして今は自分で独立して産業医をしているので、「何科ですか」と聞かれると「産業医です」としか言いようがないんですね。

今日お呼ばれしたきっかけということであれば、たぶん産業医は主に人事の方がいわゆるビジネス上のカウンターパートですし。プラス、管理職側からも逆の立場の方からも、社員の方と全方位型にお話を聞く機会が多い。

そんなかたちで、ある意味、毎日「働く人」をインタビューをしているようなものなんですよね。だから、そんな観点からお話ができればいいかなと思っています。よろしくお願いします。

瀧口:ありがとうございます。よろしくお願いします。

終身雇用から、人材が流動する社会へ

瀧口:非常に現場感があるお話がうかがえそうで楽しみです。ということで、さっそく進めていきたいと思いますが。

今回、「働き方」がテーマということですが。まず、コロナをきっかけにリモートワークが進んだり、働き方が変わったなと実感されてる方が多いかと思います。しかし、日本は国民1人当たりGDPが主要先進7ヶ国の中で最下位ということで、労働生産性が非常に低いという前提があります。

生産性の向上という文脈において、働き方改革が必要だと言われてきていますし、また、少子高齢化が進んでいて、生産労働人口自体が減少してしまう。そのために、将来の生産性をいかに担保するかといった構造的な背景に基づいた議論もありますけれども。

一方で働き方改革は、国からすると生産性を上げるためというところが起点だと思うんですが、私たち働き手からは、働き方改革によってどう働き方を変えたいかも、非常に重要な視点だと思うんですね。

ですので、自分たちの意思に基づいて、多様で柔軟な働き方をいかにしていけるようになるかも、今日の論点としてぜひ議論していただきたいと思います。

まず最初に、お三方が今、日本の働き方で一番気になっている点であったり、論点を出していただきたいなと思います。最初は岩崎さんからうかがってもよろしいですか。働き方、特に副業なども取り組んでいらっしゃるところだと思うので、いくつか論点をいただければと思います。

岩崎:そうですね。働き方の文脈で言うと、私が気になっているのは人材の流動性のところです。終身雇用の文化が日本しかなかったりとか、やっぱり日本ってすごく珍しい国だと思うんですよね。

例えば、日本は10年間1社に勤め続けている割合がめちゃくちゃ高いんですけれど、そのポイントが10パーセント減ると、未来の日本の潜在成長率って実は上がるんですよね。そういう話があったりして。流動性が低いがゆえに起きている問題っていっぱいあるなと、コロナ禍に入っても思うんですけれど。何かそのへんはお話ができるとうれしいなと思って今日は来ました。

人材の流動性が高まると、生産性が向上し、人も成長する

瀧口:具体的には、流動性が上がって適材適所で働くことができれば生産性は上がっていくよというお話ですか?

岩崎:そうですね。生産性で言うと、たぶん2点あって。まず、もう経験した人。例えば副業とかもそうですけれど、まったく経験のない人が、例えばマーケティングをやりましょうといった時に、初めて一人で学んでいくよりも、副業の人に「ちょっと時間貸して」って言ってやったほうが早いじゃないですか。

それって転職でも同じことが言えると思っています。A社、B社、C社、ゼロから同じスキルを持つ人を育てるよりも、もう育った人がB社に転職して活躍したり、後進育成をするほうが、日本は全体的に生産性が上がるという話。

あとは、シンプルに流動性が高い社会って、もしかして明日首を切られるかもしれないという世界なので、自分のキャリアを逆算して自己研鑽するしかないんですよね。

一方で、20歳で就職して「向こう60歳まで安心や」「40年間大丈夫や」と思っている人たちと、「来年どうなっているかわからない。今のうちにプログラミングを勉強しようかな」と思っている人たちの世界が、掛ける1億人ずつだとすると、国力は相当変わってくるなと思っていて。

ある種、流動性の高い市場環境に置かれたほうが人は成長するんじゃないかなと思っています。この2点から、私は生産性は流動性がけっこう大本なんじゃないかなと思っていたりします。

瀧口:流動性が高いほうが人の成長にもつながる、という観点ですね。

岩崎:そうですね。

瀧口:続いて大室先生、いかがでしょうか。特に気になっている論点というのは。

大室:今の岩崎さんの話に被せて言うならば、そもそもさっき言ったように労働生産性が低下している。働き方改革自体が、人口減少に伴う労働力の低下を防ぐために何ができるかということであって。長時間労働の削減のためには、仕事をきれいに分解できなきゃいけない。分解するためには、フルコミットできる健康な成人男子か、パートかのどっちかしかないみたいな働き方はあまり望ましくないと。

長時間労働がデフォルトになっているような働き方だと、多くの人が社会参加できないので、「仕事は分解しやすいようにメンバーシップ型からジョブ型にしましょう」「もう少し働きやすいフレキシブルな体制を作りましょう」ということで、長時間労働の削減とか副業の推進とか。これはあくまで手段ですよね。

僕の場合、大きな流れで言ったら、国が目指している方向性に賛成なんですけども。産業医という仕事の観点から見ると、大きな流れでは賛成でも、人間の心ってそんなに簡単にそこについていかないんです。

転職のない「村社会」ではアピールは損、現代社会では無言が損

大室:明治維新の頃の知識人から見たら、日本はもう黒船を受け入れるしかないってわかるわけですよ。「これはもう、今までどおりの士農工商うんぬんとかじゃなくて、ちゃんと外国の知恵を入れていかなきゃ無理だ」という時に、それをどううまく……。

OSの変換をする時には必ず不具合が起きますので、この不具合をどううまくソフトランディングしていくか。岡倉天心は「和魂洋才」とか言うわけですけど、今も方向性はたぶんそっちだと思うんです。その急激な変化が起こす不具合をどうしていくかみたいなことが、産業医としての関心領域ですね。

例えば、日本という国は定住化が始まったのが中世なんですね。室町時代ぐらいの感性は、いまだに日本人のOSというか、気持ちの上でのデフォルトにつながっているんです。「我田引水」。要するにみんなの村の土地だから、勝手に自分のほうに水を引いたりするやつは村八分になるとか。「長いものには巻かれろ」とか。一生懸命がんばっておけばお天道さまが見ててくれるって、お天道さまは見てないんですけど。

要するに、村の中で同じ人とばかり一生顔を合わす中で、「はい、これは俺がやりました、俺がやりました」とアピールしすぎる人はかえって損だよって言い伝えですよね。そういうふうに村社会の中に最適化したカルチャーが、そのまま僕らのOSには埋め込まれていると。

実はこれは昭和まで有効なんです。なぜなら、会社も村社会でずっと終身雇用だから。でも、今はプロジェクトベースで、「はい、今日から始めてください」といった時は、一生懸命がんばれば見ててくれるんじゃなくって、言いたいことは初日に言わないと駄目なんですよね。

そういうふうに環境が変わっているけど、OSの、心のほうは簡単に変化についていけない。今はその過渡期なんじゃないかと思っています。

「べき思考」が強い人は、メンタル不調予備軍

瀧口:なるほど、心の変化。実際に、産業医として職員の方や働き手の方と接する中で、メンタルヘルスを崩されている方も多かったり……。

大室:そうですね。メンタル不調で一番大きなハイリスク群といわれる方に見られるんですが、「べき思考」という言葉があるんですね。「こうあるべき」「こうすべき」と。この「べき思考」というのは、ある種自分を律する上ではすごくいい部分もあるんですよ。「これはこうあるべき」「ちゃんと朝、子どものお迎えへ行ってこよう」と、「あるべき」をちゃんとできる人というのが。

一方で「べき」が強いと、人が許せなくなるんですよね。「普通こうしますよね」「普通こうですよね」「普通会社だったらこうしてくれますよね」と、自然と「べき」を決めていて。ただ、「普通、こうですよね」と言われた時に、僕はいろんな会社の産業医をやっているので、「いや、そうでもないな」という時がいつもあるんですね。

今、会社の中で、「普通こんな格好をしてきませんよね」「いやいや、Tシャツで来る会社があるな」とか。「普通こんな時間に来ません」「いやいや、何時に来てもいい会社があるな」とか。普通がよくわからない時代に「あるべき」が強すぎると、けっこうかえって混乱するんです。

だから、「べき思考」とダイバーシティ&インクルージョン(多様性を受け入れて、活かし合うこと)の過渡期みたいな。ダイバーシティ&インクルージョンみたいなことが言われてる時だと、日本人の美徳とされたような「これはこうあるべき」が強い人間が、かえって混乱をきたしてしまう感じはありますね。

瀧口:そういった方が多いんですね。ありがとうございます。

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