「人類総クリエイター時代」の到来

白戸翔氏(以下、白戸):ありがとうございます。山口さんいかがですか? 今の(アイデア資本主義についての)お話を受けて。

山口真一氏(以下、山口):そうですね。このアイデア資本主義でどういう社会になるのかという話ですが、1つそのポイントとして、特にこの最後のスライドに紐付くんですけども。

そもそも論として、さっきチラッとクラウドファンディングの話があったと思います。あるいは、YouTubeライブだったら投げ銭機能とかがあって。今ってアイデアを持ってそれを発表した時に、お金を得る、出資してもらう手段がものすごく増えているんですよね。

昔であればすごく限られてたんですけども、非常に気軽にできるようになった。それはやはりテクノロジーの力でそうなったわけですね。つまり、アイデア資本主義になったからそういうもののニーズが高まったというのもあるし、技術が発展したからそういうことができるようになったという、両方があると思います。

これが何を意味するかというと、「人類総クリエイター時代」が到来したということだと思います。それがまさに、この最後の「アイデアを生み出せる人が勝つ」っていう話だと思うんです。

言ってしまえば、私も「明日からYouTuberで食っていく」って言えるわけです。実際に食っていけるかどうかは別として、言うのは少なくとも自由ですし、やろうと思えばできるわけじゃないですか。ここにいらっしゃるみなさんも、明日からクリエイターになれるわけですよね。それがまさに、今までの時代とはかなり違う点の1つにあるかなと思っています。

生み出すアイデアは「いいアイデア」でなければいけない

山口:実は私、クリエイターエコノミー協会というところのアドバイザーもやっています。クリエイター、特に個人のクリエイターが生み出す経済効果、経済規模が、世界的に見てもものすごく大きくなってきてるのがまさに今の時代です。

協会では、その中で例えば個人が誹謗中傷を受けるとか、そういったものに対してどう対策できるかを考えています。言ってしまえば、そういう団体が必要になるぐらいには、この規模が今大きくなってきているんだと思います。

ただし、個人レベルだったら、例えば私が明日からYouTubeで食っていこうと思って失敗したら、ただそれだけの話だと思うんです。でも、例えば企業でアイデアを基に何かやりたいとなった時には、どんどん規模も大きくなるし、どんどんリスクも大きくなってきますよね。

『アイデア資本主義』(実業之日本社)

そういった中で、大川内さんは書籍の中で非常におもしろいことを言っているんですが、結局、単純にアイデアを生み出せばいいという話ではなくて、「良いアイデア」を生み出さなきゃいけないんですね。そこで消費者のインサイトを得ることが非常に重要であるっていう話をしています。

この「ものごとを徹底的に観察し、見つかったファクトからインサイトを導出することが重要である」というのが、非常に重要な点だなと私も思います。

価値のあるアイデアは「観察」から導き出せる

山口:要するに、「価値のあるアイデアってどうやって生み出せばいいの?」ということです。今日ここにいらっしゃるみなさんも、あるいはオンラインで聞いてるみなさんも、あるいは本を読んだみなさんも、みんな思ったと思うんですよね。

本の中に1つヒントあります。観察をかなり丁寧にやった結果見えてきたものがあって、成功した企業があるということを書かれていますよね。それはよくわかるんですけど、「みんながみんなできないんじゃないかな」って思うところでもあります。

そうですよね。さっき言った「DX」をまさに成功させるためにも、優れたアイデアが必要です。消費者のインサイトを得るために、まず明日からこういうことやってみようとか、あるいは企業としてこう取り組めばいいんじゃないの? というところがあれば、ぜひ教えていただけないでしょうか。

大川内直子氏(以下、大川内):ありがとうございます。そこはみなさん心配に思われていますね。「アイデア資本主義になっちゃうと、アイデアを生み出せない日本人はどうなっちゃうの?」というお話をいただくことがあります。「沈没しちゃうんですか?」みたいな。

確かに、もちろんクリエイティブな人は日本にもいっぱいいるものの、日本の教育が「クリエイティブに自由な発想を生み出す」というより、「しっかりと基礎的な学力をつける」というほうに重きを置いてきたところもあって。

日本社会について述べられる時も、そう言われることもあります。何にも囚われず新しいアイデアを出せる人が今の日本社会に多いかというと、確かに他の国に比べて多くないかもしれないですね。

その時に、観察からインサイトを導き、インサイトからアイデアを生み出すという手法が私はすごく有効だと思っているんですが、これはトレーニングを積まないとなかなかできないです。

教育を自由にできれば、自由な発想も生まれてくる

大川内:例えば、街にいる人を観察していて良いアイデアがポンポン浮かんでくるかというと、そうじゃないかもしれない。そうじゃないからこそ私たちがお仕事をいただけているのでありがたいんですが(笑)。確かに、そういう場合にどうすればいいのかって難しい問題だなと思っています。

1つは先ほど教育に軽く触れましたけど、個人的には教育をもうちょっと自由にできたらいいなと思っています。私自身子どもがいるんですけど、教室で椅子にしっかり座っていることとか、先生1人対クラスの40人が向き合っていることがまずスタートラインになっていて、そこから先生に何か教えていただいて、それを吸収するという様式なんですね。

これは非常に効率的に勉強ができてありがたいなと思う反面、自分の意見を言ったり友だち同士でディスカッションしたりする時間がもうちょっとあったら、いろいろ自由な発想も生まれてくるのかなとか思いつつあります。

「じゃあ、もう教育課程が終わっちゃった私はどうすればいいのか」と言われると、それは私が個人的に悩んでいることです。観察すればアイデアって出せるんですよ。でも、観察にはすごく時間がかかるのでどうしようかなって思っていて。観察せずにどんどんクリエイティブなアイデアが出せる人は羨ましいなと思います。

答えになってないんですけど、どうすればいいんですかね? インプットをいっぱいするのはもちろん良いことです。基本的に新しいアイデアというのは、いろんなものの要素の組み合わせによって生まれるので。自分の領域とちょっと違う領域の本を読んでみるとか、他の人と話してみることが、すごく手っ取り早く新しいアイデアだったり発想が生み出せるものです。

街づくりにおいては「よそ者、若者、ばか者」とか言われますけど、新しい風を吹き込む人が新しいアイデアを生み出したり、生み出すきっかけになるという意味では、専門に囚われすぎず、学際的にあるいは他の領域も学んでみることが、すごくいいアプローチかなと思っています。いかがでしょうか?

クリエイティビティを一切重視しない教育・組織には限界がある

山口:ありがとうございます。まさに教育って話が私もすごく重要だなと思っています。今よく言われますけど、日本の教育ってものすごく画一的ですよね。クリエイティビティを一切重視しない。逆にすごいなと思います。

それだとどうしても限界がありますよね。例えば、大量生産・大量消費の時代だったら、もしかしたら軍隊式で、言うこと聞いて仕事をきっちりやることが求められる人材だったかもしれないです。

でも今のアイデア資本主義になってくるとそうじゃないんじゃないかというのが、1つ大きいと思いますので、そこはぜひ変えていく必要がありますよね。もちろん、すでに問題意識を持ってる方はいっぱいいますけど。

もう1つ、これは会社にも言えることだと思うんですよね。私は以前、イトーキさんというオフィス用具とかイスとかいろんなものを作っている企業と、「創造性の研究」をやったことがあります。「創造性を高めるにはどうしようか」という話です。

まずそもそも論として、日本の企業の組織風土で一番重視してたのが「統制」だったんですよね。要するに官僚的な組織で、しっかり統制することを一番重視していた。2番目に重視していたのが「競争」。創造性とか協調性はあまり重視されない傾向にありました。

日本企業に必要なのは「やらせる文化」「失敗を恐れない文化」

山口:でもアイデア資本主義になるんだったら、この創造性って一番重要なはずですよね。だから、まずそこを重視するような組織風土にすることがとても大切です。現状として、例えば特に大企業であれば、新しいことを始めようとしてもなかなか認められないという話を非常に多く聞くんですよね。

実際それは企業の人と話していても多くあります。アイデアを出しても役員の1人が反対してポシャるのはよくある話で。これは「イノベーターのジレンマ」とも言いますけど。

成功した企業、特に大企業は過去の成功体験があるので、どうしても持続的なイノベーション、つまり過去のものをマイナーチェンジしていくことに注力してしまって、破壊的なイノベーションをやれないという話がよくあるわけです。今、日本企業が至るところでそれに陥ってるわけですよね。

クリティビティを重視しない組織風土って、必ずこの時代では限界があります。まずそこを変えて、クリエイティビティを重視するような組織風土にしなきゃいけない。それには、例えば企業内での人事の新陳代謝をよくするとか、それこそアイデアをすぐ潰さないとか。

よく日本の経営層や投資家は「市場規模どんぐらいあるんですか?」とか、あるいは「何年で黒字になんの?」とか言うんですけど。例えば、Twitter社って黒字になるのに10年以上かかっているんですよ。こういう時代に「何年経ったら黒字になんの?」って発言は、どれだけナンセンスかっていう話です。

なんでもかんでもやらせりゃいいって話でもないと思うんですけど、ただもうちょっと「やらせる文化」、そして「失敗を恐れない文化」。それを作っていく必要があるのかなと思うんですよね。

多様な人材を揃えても、「心理的安全性」がなければ意味がない

山口:その中で1つ、創造性を高める方法として。以前、創造性を高める要因は何かという分析したんですけども、大きく効いてたのが「心理的安全性」とか、企業内での仲のよさっていうところでした。これがチームの創造性を高めています。つまり「会社の雰囲気をよくしようよ」って話になってくるかもしれないですね。

「心理的安全性」は、性別とか年齢とか関係なく、誰もが発言しやすい空気感のことなんです。みなさん会社勤めの方が多いと思うんですが、どうですかね? 会社の中で発言しやすいですか?

例えば、ポイントとして「多様な人材を場に揃える」ということが1つあります。もう1つが、「多様な人材みんなが発言しやすい空気を作る」ってことなんですね。この2段階が、実は私の専門である炎上対策とかにも効いてくるんです。

よくCMが炎上してますけど、CMを作る時には「多様な人を揃えましょうね、多様な人が発言できるようにしましょうね」って言うんです。多様な人を揃えるのは、企業は最近やりつつあるんですね。若い女性がいたり、若い男性がいたりします。

でも、その人たちが自由に発言できなかったら何の意味もない。ただ黙ってそこに座ってたら多様な人材を揃えた意味がないんですね。そういう人でも積極的に発言できるし、それを頭ごなしに否定しない。もちろんディスカッションだったら、批判してもいいんですよ。でも、頭ごなしに否定してもなにも生み出さないので。

批判するんだったら必ず理由をつけるとか、そうやって心理的安全性を確保することが、企業内では非常に重要になってきますので。ぜひそういう取り組みでアイデアやクリエイティビティを重視する会社にしていく。これは教育期間を過ぎてしまった我々でもできる取り組みなのかなと思ってます。

イノベーションを担う組織にある「評価」の問題

大川内:ありがとうございます。私もまさに、「どうやったらうちの会社イノベーティブになりますか?」とか「イノベーションを生み出せますか?」というご相談をいただくことが多いです。調査で会社のオフィスの中を見せてもらったり、イノベーション起こすための組織が作られてることもあるので、そういう部署で聞き取り調査をしたり、そういう立派な場所があるところにフィールドワークに行ったりするんですけど。

やはり今おっしゃっていた課題はけっこうあります。すごくお金をかけて立派な施設を作っていたり、自社の技術を展示したり、どういう歴史があるかとか、どういうふうにイノベーションにあたる人材がいるかというところに予算をかけていても、例えば「人事の評価制度が他の人と一緒で十分取り組みが評価されない」という声になったり。

みんなが既存の製品の性能を向上させるところに主眼をおいて活動してる中で、1人だけ5年後を見据えた新しいアイデアを外部連携して持ってきたり、新しいアイデアを模索してる人がいたとします。では1年後に成果が出ている人と5年後を見据えてる人どっちが評価できますか? って言われると、多くの場合、前者なんですよね。

1年間がんばって単線的な研究をしてきて、「製品性能が向上しました」と言えるわけですけど。もう1人のイノベーション担当の人は、種まきをしているうちに1年終わってしまうかもしれない。そうすると、1年後の人事評価の時になかなか評価してもらえる項目がなくて、ボーナスが減らされるとか、評価してもらえなくて昇進できないとか。こういう苦しみが具体的にはいろいろあがってきていて。

イノベーションを担う人材のポストを設置するだけとか、組織を設置するだけではなかなか解決できない根深い問題があるなと感じています。なので、イノベーションを目指してるとか、創造性向上を目指しているっていう会社はすごく多いけれども、蓋を開けてみるとパッとわかるところに大きい課題があるんです。もうちょっと抜本的に、みんなの気持ちから変えていかないといけない。

「あいつ何もやってなくて、遊んでていいな」とか思われてる場合もあるわけですね。楽しそうに外部と連携してて、イベントをよくやっているとか。そういう「妬み」みたいなところも、やっている本人は苦しかったりするんです。

本当に危機感を持ってイノベーションを生み出したり創造性を上げたりしたいのであれば、そういう人材をどう手当していくか、どう活動させるかというところを真剣に考えないと、難しいんだろうなと思っています。