2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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大川内直子氏(以下、大川内):さっき岸田首相の新しい資本主義の話が出て、私も「ここでまた資本主義という言葉が出てくるのか」と思って注目しています。まだ内容が具体的にそんなに出ていないので、今会議が作られて動き出しているようですが、どういう議論になるのかなと気になるところです。
やはり国の規制によって資本主義をコントロールしたり是正したりはこれまでもやられてきたし、これから先も必要だと思います。一方で、いろいろ情報も民主化され、私たち一人ひとりの発信力を付けていくことができる時代になっているからこそ、やはり国に任せきりにしない(ことが必要です)。
一人ひとりのレイヤーでも、アイデアを出しながら資本主義を良い方向に変えていけたら、より良いなと思っています。国任せにしない、もっとアクティブなかたちでの資本主義の在りようや、日本ならではの在りようがあり得るのかなと。
ご紹介いただいた前半パートの資本主義の歴史をひもといても、社会や時代によって資本主義の現れ方ってすごく異なっています。今の私たちならではの、より良いかたちでの資本主義を作り得るとしたら、私たち一人ひとりの意思も込めてアイデアを出していかないといけないのかなと個人的にも思っているところです。
山口真一氏(以下、山口):そこに紐付けて、この本を開いて最初に「この言葉は良い言葉だな」と思ったものがあるのでご紹介したいのですが。すみません、メモを取ってないので本から抜粋しちゃいます。この「資本主義の根底」という、本当に序盤の序盤です。
「はじめに」の最後のほうですが、「今日よりも良い明日を過ごしたいという一人ひとりのささやかな思いが、資本主義の根底にあるのです」。これはものすごく腑に落ちる話なんですよね。みんなそう思っているはずなんですよ。今日よりも悪い明日を過ごしたいなという人は、たぶん1人もいないんですよね。
それが資本主義の原動力になっている・根底にあるというのは、私もすごく思うところです。本質的に資本主義は否定されるものではないんじゃないかと。正直これを読んで、まずすごく納得感があったのと同時に、ぜひこの言葉を広めてほしいなと思った次第です。
大川内:ありがとうございます。オンラインで参加されている方はチャットが書けるので、ご意見があったら書いてください。
文化人類学という、ミクロな行為に着目することをやってきたからこそ思うのかもしれないんですが、実は一人ひとりが未来に向けてなにか考えて、「今何をやっておけば、微かかもしれないけどより良い未来になるんだろう?」と考えていることが、資本主義の本質なんじゃないかなと思っています。
みなさんはどうお感じになるのか、個人的にはすごく興味があります。本の中で書いているんですが、例えば5年後にマイホームが欲しいからお給料の中で月々節制する部分を作って貯金をしていくであったり、ここは本屋さんですが、おもしろい漫画本があって買いたいんだけど「来月の資格試験のために、あまり読みたくはない参考書を買うか」とか。
一人ひとり、なにかしらそういうふうに未来を考えて、今やるべきことや「自分がなりたい姿になるためにはあっちじゃなくてこっちだな」と考えることが、けっこう日常の中であるかなと思うんです。私たちに染みついてしまっていることなのかもしれないですが、実はそういう行為が、「資本主義」を日々の行為の中から生み出しているんじゃないかなと思っています。
どう思われますか?(笑)。納得する人や、しない人がいると思うんですが、そういう見方をしてみると資本主義を身近に捉えられていいのかなと個人的には思っています。山口先生はいかがですか?
山口:私はさっき言ったとおり、完全賛同の立場なので。ぜひQ&Aの機能もあるので、オンラインの方も積極的に質問していただけるとうれしいなと思います。
白戸:ありがとうございます。ここで議題として「アイデア資本主義の時代には何が起こってくるか?」を掘っていきたいなと思います。大川内さんから、アイデア資本主義で具体的に起こることを説明していただいてもよろしいですか?
大川内:はい。さっき出したスライドでご説明したところなんですが、そこをもうちょっとだけ噛み砕いて、4つだけご説明します。
ただ、こういうことしか起こらないと言っているわけではないです。歴史をひもといて、今アイデアが新しいフロンティアになっているとすれば、まずはこういうことが基本的には起こるんじゃないか? というところだけ書いています。なので、もっと他にもこういうことがあると思い付いた方は、ぜひ教えていただきたいです。
まず1つ目が「アイデアが投資の対象になる」というところです。もともとアイデアが事業に先立って存在はしていたと思うんですが、そのアイデア自体にはお金が付いていたわけではなかった。それがこれまでの社会だったと思うんですね。
私自身も会社をやっているんですが、会社を立ち上げてすぐ銀行にお金を借りられたかというと、ぜんぜんそんなことはなくて。やっぱり私自身の信用も見られますし、それだけではぜんぜん足りないんです。
「何年か事業をやってみてくださいね。それで黒字が何年か続くなら、例えば1,000万円なりお貸ししますよ」となってくる。最初から私が、例えば「こんなにすごいアイデアがあるんだ」「こんなすごい製品が作れるんだ」と言ったとしても、「お金は借りられません」だったわけです。
借りるにあたっても、不動産を担保にしたり個人保証を入れたりが必要で、換金性の高い何かを差し出さないと、現時点での現金は得られなかったわけです。
ですがアイデア資本主義になってくると、例えばクラウドファンディングやベンチャーキャピタルが出てきます。それらはアイデアに対して直接お金が集まる仕組みといえると思います。アイデアはまだ実現していないものですが、まずはアイデアの状態でお金を集めて、それを元に開発なりをしてアイデアを実現していくんですね。
お金があり、工場を建てて、それでモノを作ってしばらく経って初めてお金が借りられるという時代から、アイデアの段階でお金を借りて、それを原資にやっていく(時代になっている。)アイデアをまず訴えないと原資のお金すらも集められないような事業が、創業に至っている。そういうことが実際にあるというのが1点目になります。
大川内:2つ目が「アイデアを見極める目が必要になる」というところです。さっきも触れましたが、アイデアは実現していないからアイデアと呼ばれるわけです。
じゃあそのアイデアが本当に将来、最終的にモノに結実するんだろうか? それとも嘘のアイデアであったり、あるいは志は高いけれどもなかなか実現できない可能性もありますよね。それをどのくらいの価格で評価するか、良い悪いと見極めるかが難しいなと思っています。
実際に土地をたくさん持っていて、「こんなすごい工場を建てたぞ」と言われたら、その資産価値はいくらですねと試算しやすいと思うんです。でも、アイデアの価値を試算するのはなかなか難しい。
なので、その道の専門家、例えばVCだったらバイオ領域の専門のベンチャーキャピタリストがいるわけです。彼らは専門知見があるからその領域に関してある程度確かな見極めができるように、(アイデアは)なかなか誰でも見極められるものではないという難しさがあるかなと思っています。
あとは本書の中で、ペプチドリームという東京大学発の創薬ベンチャーの事例に触れているんですが、この会社は非常におもしろい会社です。私が修士課程でいる時に研究対象にさせていただいて、お邪魔させていただいたり、社長や研究者の方にお話を聞かせていただいたんです。
東京大学TLOという、産学技術連携を担う機関の職員がたまたまバイオ領域に知見があって、たまたまキャンパス内をうろうろしている時に菅教授のラボを見つけて。「なんだこれ、おもしろそうだな」と飛び込みで挨拶をしに行ったら、すごくおもしろそうな技術があって。「これはベンチャーにしましょう」と働きかけていったところから、会社を作るに至ったということです。
これも、大学で生まれた技術の商業的な可能性やアイデアを見極められる人がたまたまいたことと、良いアイデアがそこにあったという掛け算で創業に至ったのかなと思っています。この会社は今、大きく成長していまして、東証1部に上場している企業です。
大川内:3つ目が、「モノの生産よりも活用が付加価値を生む」という点です。大量生産・大量消費の時代、アメリカにおいてはT型フォードが生産されていた時代であるとか、日本においては家電の三種の神器と言われた時代もありますが、やはりみんなモノが不足していました。
昔は良いモノを作ればどんどん売れる時代があって、その時は良いモノを生産できることこそが価値の源泉であったと思うんですが、今やモノって余っているよねという時代になっていると思います。
特に、東京にお住まいのみなさんは感じられるかなと思うんですが、やっぱり部屋が狭かったりする。欲しいと思うものがあっても、むしろ私なんかは「収納に入るかな」「部屋に置けるかな」ということが気になってしまうんです。
いまでは、モノを所有することよりも、むしろ持っていなくてもタイムリーに使えるほうが価値があったりするわけです。消費者にとって「所有」より「利用」が重要になってきた中で、事業をする人にとっては「生産できること」よりも、「モノを活用してサービスに仕立て上げる」ことのほうが重要になってきた。そういう時代になりつつあるかなと思っています。
なので、日本の基幹産業である製造業がこれからどうなっていくんだろう? というのは、けっこう私が関心を持って見ているところです。
大川内:4つ目が、「アイデアを生み出せる人が勝つ」というところです。アイデア資本主義においては、お金持ちじゃなくても、学歴がなくても、良いアイデアがあれば勝負できる時代になるのかなと思っています。YouTuberはその好例だと思います。
これまでは良い学校を出て、良い就職先に就いて、がんばってずっと同じ会社で働き続けるというようなキャリアが幸せへの近道と見られていたかと思うんですけど。そういうものが欠けていたとしても勝負できるという意味では、良い時代になるのかなと思っています。
一方で、「その天才的なひらめきが僕にはありません」という人にとっては厳しい時代なのかと言われると、いろんな見方はあると思います。例えば、私がやってる仕事はアイデアを出すことが多いです。でも私がすごいアイデアマンかというと、そういうわけではなくて。
いろんなものを観察する中で見えてきたことを素直につなぎ合わせていくと、結果、「こういう事業が必要なんじゃないか」とか、「こういう商品が必要なんじゃないか」という(アイデアに結びついて)クライアントと議論することが多いんですね。
私の中では、それは自然にリサーチをしっかりやって考えていけば導き出せるものです。インサイトさえしっかりしていれば、新しいアイデアは生まれるんじゃないかな、というのが個人的な考えになります。
そういうことが起こるんじゃないのかなと本書の中では書いています。
「良いモノが売れる」時代から「良いアイデアが売れる」時代に 文化人類学者×計量経済学者が考える「新しい資本主義」のかたち
これからは学歴やキャリアに関係なく「アイデアを生み出せる人」が勝つ 文化人類学者が解説する、ビジネスの「投資先」の変化
日本企業に足りないのは「やらせる文化」「失敗を恐れない文化」 経済学者が解説する、組織の創造性を高める方法
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