自分の思考や感覚を言語化しないと、相手は納得してくれない

小早川幸一郎氏(以下、小早川):高瀬さんにお聞きしたいんですけど、1作目・2作目と、本を書くことで自分の企画人生を振り返りながら言語化をされたと思うんですけど。本を書く前になにか自分の企画マンとしての振り返りとか反省とか、言語化するとか仕組み化するとか法則化するとか、そういったことはやられてました? 

人がうごく コンテンツのつくり方

高瀬敦也氏(以下、高瀬):本を書く前に言語化してたかってこと? 

小早川:もしかして身に染みていて自然にできるようになっていたのかもしれないんですけど、ロジカルに考えてたりしたんですか? 

高瀬:してました。

小早川:してたんですね。 

高瀬:それはしようと思ってしてたというよりは......さっき「企画を通す時は最終的には熱意だ」と言ったんですけど、それはただの結論で。その前にはその企画を人に伝えたり理解してもらったり、逆の立場で言うと、人が熱意を持って持ってきた企画をどうしてもできない理由がある時に、その理由をわかりやすく説明したりすることが必要なわけですよね。それを散々やってきたんです。

だから自分が企画をお願いする場合でももらう立場でも両方ともそうなんですけど、自分の思考とか感覚的なものを言語化して整理しないと、相手が納得してくれないので。そういう訓練は、結果としてしてました。

企画のジャッジは、結局「好き嫌い」が一番の近道

小早川:なるほどね。そうか。今日の午前中に企画会議をしてきたって言ったじゃないですか。それって企画が30本ぐらいあるんで、もうパパパって決めないといけないんですよ。「あ、これはもういい。1回やり直し」みたいな感じでやっているので、たぶんスタッフは「こいつ思いつきで決めてるな」とか思ってるかもしれないんですけど。

案外経験を積むと、思いつきで決めてるような中でも、自分の中でロジカルシンキングはたぶん何回も回していてそれで決めてる感じだと、自分は思ってるんですけど。そこらへんは高瀬さんが言った「無意識だけど意図的にやっている」みたいなことを、自分もやってるかなと思うんです。どうですかね。

高瀬:無意識というか、後から補完しているという感じかな。もっと言うと1周しちゃって、結局好き嫌いだよねというのも最近は思ってます。

小早川:なるほど、好き嫌いかぁ。

高瀬:好きの中になにが内包されているかという話になるんですけど、人のジャッジで一番シンプルだし説得力があるしわかりやすいし、結果的に近道になるのって、結局好き嫌いで決めることなんじゃないかなと、最近は思ってますけどね。ごめんなさい、話がちょっと本末転倒になっちゃって。

小早川:いやいや、ぜんぜん。國友さん、出番です(笑)。好き嫌いをちょっとロジカルにシステム的にちょっとお話しできたりしたら……(笑)。よろしいですか。

「好き」に対して「なぜ好きなのかを言語化できていない人が多い

國友尚氏(以下、國友):それで言うと、多くの人は好き嫌いがあるんですよ。ただその「好き」に対して、「自分がなぜ好きなのか」を言語化できていない人が実はすごく多くて。これを捉えられている人はまず強いんです。それが、自分が生み出すアイデアであったり、サービスであったり、番組であったりとかに変わっていくと、「あれ、なんか高瀬さんっぽい番組だな」みたいに、アイデンティティがちゃんと乗っかってくるんですよね。

多くの人って「好きなものって何ですか?」と言うと表層的には答えられるんですよ。「魚釣りが好きです」とか「山登りが好きです」とか。でも、好きなものには根源的にその人を突き動かす共通項がなにかしらあるんですね。「自分がこれを好きなのはなぜなんだろう」と抽象度を高めて探究した時に、例えば「人が猛烈に怒った怒りを笑いに変えることが好きなんだ」という人もいるでしょうし。

一方で「コツコツと積み上げて自分の成長につながることが好きです」という人もいる。その「好き」を、ちゃんと「自分はいったい何を好きなんだろう、なぜ好きなんだろう」と言語化することは、多くの人がトレーニングされていないんです。これがすごく大切なポイントかなと思います。

具体的な「何が好きか」は言えるんですけど、抽象度を上げた時に「なぜ好きなのか」とか「どういうことが好きなのか」は語れない人がすごく多い。好きなことってなんだろうとか、場合によっては自分の企画ってなんで通らないんだろうとか、なんで思いがこもってないって言われるんだろうとか、そういう課題にぶち当たってるのを感じますね。

小早川:企画を考える時とか企画をジャッジする時って、好き嫌いを自分で言語化してから望むと、けっこうしやすくなるかもしれないですよね。

企画を立てるときに混同しがちな「好き嫌い」と「良し悪し」

國友:そうですね。あと、企画を考えたりジャッジするの時に、多くの人がよく「好き嫌い」と頭の中で混在してしまってわけわかんない状態になってしまうのが、「良し悪し」なんですよ。

日本人の場合、なにか提案をするってなった時に、まず提案者としては「好き嫌いで提案しよう」ってなかなかしないんですよ。よっぽど肝が据わっている変人な方は好き嫌いで、自分はもうこれが好きなんだって猛烈に突き進むんですけれども、多くの企業に所属されてる新規事業を担当されているような方は、「この会社にとって良いものは何か」とか、「今の市場のトレンドで良いものはなにか」という、「良いもの」を提示しようとするんですね。

そうすると、良いものを提示しようとすると自ずとライバルがもう山ほどいて。あとは魂や情熱だけでは対抗しきれないリソースの問題。人の数の問題であったり、技術力の問題であったり、場合によってはお金の問題であったりで、結果志半ばで中途半端な企画に終わってしまうことが多々あるんですよね。

なので「良し悪し」という軸以外で、ちゃんと「好き嫌い」という軸を自分の中で把握すること。自分が今提案しようとしている企画は「良い企画」なのか「好きな企画」なのか、なんなんだろうとちゃんと自分の中で捉えておくんです。これは良し悪しの良しだけで突き進むぞとか、好き嫌いの好きだけで突き進むぞってなったら、自分のマインドセットがブレない軸に変わってくるので。

好き嫌いで行けるぞってなったら、社長になにを言われようともう好きだからしょうがないって、やりきる覚悟が決まってくると思います。

物事の抽象度を高める「なんで」の繰り返し

國友:そこは意識して、まさに自分を振り返ることで「好きってなんだろう」ということを解明できるので、トレーニングとしてぜひやってもらいたいなと思います。

高瀬:そのトレーニングの方法論としては、「なんで」って問いを重ねていくといいですよね。

國友:そうですね。

高瀬:「なんで、それはそうなんだっけ」。で、その答えに対してまた「なんで」。よく言う話ですけど、繰り返していくと結果的に抽象度は上がるし、結局その好き嫌いの理由付けになっていることが多いと思います。企画だけの話じゃなくてなんでもそうですけど。

すべての決断とか決定事項に対して、もしくは決めようとしている細部に対して、「これなんでこうしたんだっけ」「なんでこの色にしたんだっけ」「なんでこの値段にしたんだっけ」「なんでこの時期なんだっけ」って全部問う。さらにそれにも「なんで」を繰り返す。この方法はよく使いますね。

國友:そうですね。これは学術的な研究でもいろいろあって。「なんで」とか「なぜ」とかで抽象度を上げていくのは「バリューグラフ」と呼ばれる手法で、スタンフォード大学の石井(浩介)先生が研究として出しているものなんですけれども。

まさに抽象度を高めていくことによって、抽象度の高いところが、次どうするんだっけというので別の企画を考えるとか、アイデアを生み出すというような手法としてもあります。

一方でトヨタのカイゼンのような、なにか課題が見つかった時に、「なぜなんだろう、なぜなんだろう」と、根源的な課題を探求するために「なぜ」というのを使い続けるという手法も確立されているので。これを一般的なアイディエーションの時や企画を立てる時にもしっかりと使うのは、すごく有効かなと思いますね。

小早川:さすが。大学の先生ですからね。いやぁ、もうわかりやすくて。

高瀬:言いたいことを全部ちゃんときれいに言語化してくれる。ありがたい。

企画が当てられる人に共通する「自分が好きなものへの感度」

小早川:確かに(笑)。なるほどね。でもお2人は、パッと思いつきで企画をするような天才というよりかは、しっかり考えて理屈があるということですよね。

今発売しているビジネス雑誌で、今回の本の書評を書いてくださった方がいて。「企画は『天からの啓示』という『誤解』から解放してくれる本」って書いてましたね。

高瀬:『プレジデント』ね。河崎環さん。

小早川:パーっと降りてくるみたいな、よくありますけどね。やっぱり企画というのは、考えてる人に降りてくるってことなんですかね?

國友:多くの「新規事業をしたくてもなかなかできない人」を見ていると、けっこういいボールが来ているのに見逃し三振し続けているけどな、みたいな感じなんですよ。

やっぱり感度が高くないと、いいボールが来ていることもわからないですよね。じゃあその感度ってなにかと言うと、さっき言った「自分の好きなことって何だっけ」というところの、「自分が好きなものへの感度」ってうまくいっている人はみんな高いので。

それを抽象度を高めたかたちでキャッチアップできると、実はボールがいろんなところに、まさに神からの啓示みたいにくるような機会がより増えてくると思いますね。見逃ししていることがけっこうあると、すごく感じることです。

小早川:なるほど。どうですか、それ。高瀬さん。

高瀬:確かに「これあるな」ってわかるじゃないですか。

國友:はい。

高瀬:これあるな、これいけるぞ、これ儲かるぞ、これ当たるなって感覚があるんですよ。今いろいろ考えたんですけど、最終的にそれって、今の國友さんの例えを借りるなら、「どれだけボールを目の前で見てるか」みたいなことなんですよね。

もしくは「それを打ち返してる人を見てるか」だから、結局最終的には、そういう好きなものに対して興味を持ってインプットしている人なのかなってことにしかなんないんだけど。

チャンスを増やすためには、無意識の時間をいかに意識的にしていくか

高瀬:訓練というとややこしいんだけど、最初は好きなものだったらその感度は高いはずだから、好きなものだったら「なんか滑ってんな」とか「ファンの気持ちぜんぜんわかってねーな」って、すぐわかると思うんですよね。

なんか絶妙なところに来たボールだったら、「いい球投げてきたなぁ、こいつら運営がすげーな」とも思うし。それと近い感覚なので、そういう場面を多く持つことで、ある程度醸成される能力かもしれないですけどね。

小早川:来る球の数はみんな平等なんですかね。やっぱりそういうわけではないですよね? 

高瀬:平等ではないですね。平等というか、そのチャンスのある場所にいれるかということはあるかもしれないですけどね。

國友:そうですね。人って1日24時間は全員共通なので、時間という観点では平等だと思うんですよ。「どこに身を置くか」「どんな行動をしているか」というところで差が付くんだと思います。

多くの人は生活の中で意識的に行動してることって少なくて、無意識に行動してることは多々あるんですよね。「朝起きたらとりあえず歯を磨く」とかも、無意識な習慣としてやっていると思いますし。どう歩くかとかいうのも、「右足出して、左足出して……」みたいに意識して歩いている人はいないので。

生活のうちの97~98パーセントが無意識の行動だと言われてるんですけれども、その中で「無意識な悪習慣」になっている行動って、実は山ほどあるんです。その無意識の時間をいかに意識に開いていくか。意識して時間を過ごせるようになるかというところですね。

自分の興味関心があることに関するイベントに参加しようとかかもしれないですし、いつもとは違う、習慣になってないところに首を突っ込むような時間をいかに増やすか。それがすごく大切かなって思いますね。

あえて「嫌いなこと」に触れることで開く、新しいチャネル

高瀬:本当におっしゃるとおりですね。それがまさに僕の中では「決める」ということなのかなと思ったんですけど。日常の、普通の生活の一部分一部分に「それって自分の中で決めてやっていることなんだっけ」っていう、ちょっとした確認作業(を入れること)で随分変わるかなって気はしますけどね。

小早川:そうすることで、ボールもたくさん放り込まれてくるということなんですかね。

國友:そうですね。必ずしもリアルイベントに行かなくてもいいと思うんですよ。例えばTwitterとかInstagramとか、フォローしてる人の数がある一定の数までいったら、なかなか変わらないんですよね。同じ人の情報ばっかり浴びてたりします。

そういう時には、あえて自分の嫌いな発言をしている人だけをフォローするアカウントを作って。嫌いな人ってどんな発言をしているんだろうと見てみる。嫌いな発言をしてるんで、嫌な気持ちになるというのもわかるんですけれど、あえて嫌な気持ちに触れて、「その人たちがどんな思いを持っているのか解釈しよう」という思いで、いつもと違うチャネルを開く。

そうすると、自分にとってはまた新たな刺激があって、そこでなにかアイデアの種となるようなものを見つけられるかもしれないので。「好きなこと」に対していくだけじゃなくって、「嫌いなこと」に触れる。嫌いなことも覚悟していくから、いくら嫌いなことを言われても動じないようなマインドセットと共に持っていけると、好きなところ以外のいろんなところのチャネルが開きます。

そういったところは、自分の中ではすごく意識していますね。やったことないこと、難しいこと、嫌なことは、けっこう意識してキャッチアップしにいくようにしています。

嫌いなものに触れずに生きていける時代だからこその価値

高瀬:偉いですよね。僕はそれが嫌なタイプだから(笑)。嫌いなものを避けたいタイプ。でも、おっしゃるとおりなんですよ。嫌いなものとか触れたくないものに触れる回数って、テクノロジーの進歩と共にどんどん減っているわけじゃないですか。触れずに生きていけるようになってきているからこそ、触れることの価値が高くなると思うんですよね。

小早川:そうか。

高瀬:そういう生き方もあるけどね。確かに企画業という意味で言うと、ある意味嫌なものって脳に対する刺激がすごく大きいから、「ふだん触れないものとか嫌なものに触れるっていう行為は、脳に刺激を与えるんだ」というスタンスだったら、少し気楽にできるかもしれないですけど。

小早川:なるほどね。