「DX」の正しい捉え方とは

多田洋祐氏(以下、多田):福士さまも、今のお話(DX推進において重要な4つのスキル)に共感される部分がおありですか?

福士博司氏(以下、福士):そうですね。デジタル変革をDXと言うけれども、世の中的にはコーポレート・トランスフォーメーション、CXと言う人がいたりします。デジタルでやるのはやはり生産性が高いからで、あるいはデジタルって異種結合する特性があるから、それを活かして新たな価値を創造することに意味があるんですね。

要するにDXとは、「デジタルをレバレッジにした企業変革だ」というのがおそらくは正しい考え方です。もっと広く捉えると、企業だけに留まらず、「デジタルトランスフォーメーションとは社会のデジタル変容のことを言うのだ」という有名な言葉がありますが、私もまさにそう思います。

多田:なるほど。ある意味、もう企業も働く個人もみなさまが対象だということですね。

三枝幸夫氏(以下、三枝):やはりマーケットというか、お客さまにも行動変容があるじゃないですか。スマホを使いこなしてやっていくような。お客さまと一緒に変わっていくところが新しいのかなと思うんですよね。

福士:そうですよね。我々のビジネスの7割は食品の製造販売です。やはり消費者、コンシューマーのトレンドが変わってきているので、消費形態も流通も変わってきています。昔は個人商店、それからスーパーマーケットになって、ハイパーマーケットになって、コンビニエンスストアになって、今はEコマースだとか。

今、どうやって買っているかというと、携帯を見て買っているわけですね。それに追従していかなきゃいけないわけですよね。あるいはもっと言うと、本当は先行しなきゃいけない。社会が変わってきているから我々も変わらざるを得ない状態になっているんですね。

多田:なるほど。

旧来の「縦割り組織」から抜け出すためには?

多田:先ほど、1,000人の方がリスキリング(Reskilling:主にDX分野での再教育)に応募されたというのは、社員の方もまさにそういった流れを感じているからなんですかね。

福士:感じているのですが、我々も昔そうでしたけど、なかなか自ら変われないんですよ。なぜならば、今日的な売上や技術を支えているのは大舞台だからですよね。それに明日から「君たちそんなことはどうでもいいから、こっちに来たまえ」と言われたって、それは非現実的です。

「縦割りだ」「サイロ構造だ」と批判されますが、それはそれなりにずっと機能して会社を支えてきたわけです。よっぽどしっかりとした変革の仕組みを仕掛けていかないと、なかなかそこから変われないですよね。

多田:まさに意識改革なのか文化醸成なのか。そういったところがとても大切になってくるんですね。先ほど三枝さまから「共創」という言葉が出ましたが、社員のみなさまと「文化を変えるんだ」ということがポイントになってくるのかなと思います。

福士:そうですね。スライドで共有させていただきます。我々はカルチャーを大事にしていまして、右のグラフはJMA(一般社団法人日本能率協会)の過去のデータです。アミノサイエンス事業本部で、かなり大きな本部です。

2007年~2019年まで「組織文化診断」のスコアのYES回答率と業績をプロットしたものなんですね。「組織文化診断」は、質問事項が120も130もあって、仕事の仕方についての診断アンケートなんですよね。その総合スコアのポジティブ率と業績の相関を取って見るんですね。

(スライドを指しながら)左がポジティブ回答率、右が業績です。このように(折れ線グラフを見て)でっこみひっこみがあったとしても、中長期では必ずトレンドが一致するんですよ。ここに大きなヒントと自信を得まして、やっぱり「やる気」や「仕事の仕方」を変えると、必ず業績って上がるんだなという確信がありました。

隠れていたデータを「見える化」し、データとして起こす

福士:「じゃあ、それをどうやって変えたらいい?」「特にデジタルってどうやって変えたらいいんだ」「人財の評価はどうやってするんだ」と。例えばこういう組織文化診断も1つですし、パフォーマンスもそうですよね。

では、カスタマーの価値はどうやってデジタル化するのかといったら、いろんなマーケティングデータや過去の商品データ、トレンド、(ダッシュ)ボードデータとかが対象になります。

それは伝統的には紙に書いてあって、人の中に隠れていたものなので(笑)。それをデジタル化して、マネジメントシステムで解析する。これがまさに見えないアセットを引き出して、デジタルで付加価値を上げて加速するというプロセスだったんですよね。

多田:先ほど冒頭のプレゼンテーションでも「見える化」とおっしゃっていましたけども、こういったことも「見える化」していくことがとても大事なんですね。

福士:そうですね。「見える化」したデータを研究案にして、例えば「やる気」に関しては「エンゲージメントスコア」というものを毎年、3万人の従業員に、パートの方も含めて全員に取っているんですね。それで項目ごとにレビューして、でっこみひっこみがあるんですけど複数年度で着実に向上するようにマネジメントレビューをしています。

多田:取り組んでいらっしゃるデジタル化がエンゲージメントにも効いているか、という点も測っていってらっしゃるんですね。

福士:そうですね。そのスコアを地域別で見たり、事業カテゴリー別で見たりします。マネジメントからのフィードバックももちろん行います。

多田:ありがとうございます。

DX人財の抜擢・育成に対する出光の取り組み

多田:まだまだお話が尽きませんが、次のテーマにいかせていただきたいと思います。引き続き次のお題は「DX人財の抜擢・育成」です。やはり外部からの採用もそうかもしれませんが、内部登用をどう育成していくのかは、各社でも取り組んでいらっしゃると思います。

三枝さま、このあたりはいかがでしょうか。社内からの抜擢とか育成、どのようにやられていますでしょうか?

三枝:先ほど申し上げた、例えばビジネスデザインのスキルやデータサイエンスのスキルは、なかなか社内だけでは見つけることができなかったので、リーダークラスになるような人財は外部から採用しました。

そのあと、こういうことに興味がある人たちを選んで、トレーニングをしていくという進め方をしています。やはり興味がある人は進んで手を挙げて来てくださいます。どうしようかなって悩んでいた人たちが「俺もやんなきゃまずいんじゃないか」と、ちょっとした競争心や危機感が出てきて、広まるといいんじゃないかと感じています。

「やる気がある人」を見極めて採用する方法は?

多田:やる気がある方を選ぶ時は、どのように見極めているんですか?

三枝:例えば、先ほどのウェビナーなどをやると、チャットでいろいろ質問をしてくれる方がいるわけですね。僕は社内リクルーティングも兼ねていますので、そういう時に良い質問をしてくださった人を見つけて、あとで声を掛けるケースもあります。先ほど紹介した塾も、基本的には手を挙げて応募してもらうことにしていますので、希望してきた人を選んでいますね。

多田:勉強会や塾で応募したり質問してきた方をちゃんと(記録に)取っておいて、その方々にこちらからアプローチをするのですね。確かに取り組みとしては再現性が高そうです)。ありがとうございます。

三枝:すぐ人事部に駆け込んで、いろいろ資料をもらってやっていますよ。

多田:なるほど。実際に組織を増やされた時は、内部登用と外部採用の割合はどうだったのですか?

三枝:最初にスタートした時、私も含めて3分の2ぐらいは外部からでした。今はデジタル部隊がパートナーさん含めて40人~50人ぐらいなのですが、今は3分の2はプロパーなどを含む、もともといた社員です。外からの人財は3分の1ぐらいになります。

多田:内部の方の登用が多くなったんですね。

三枝:多くなってきましたね。

多田:そういった方々になにかインストールをしたり、教育をされているということですね。

三枝:そうですね。OJTが中心ですけど。

社員の育成に有効な「社内副業制度」

多田:そういった、やる気があってポテンシャルが高い方々に対して、どのような取り組みで育成されているのですか?

三枝:例えば先ほどの「スマートよろずや塾」では座学としてはシリアル・アントレプレナー(連続起業家)の方とかを外部講師として呼んで、起業に関する考え方とか、その時に必要ないろいろなテクノロジーへのリテラシーなどを伝授してもらいます。

それに加えて、我々のような新規ビジネスの立ち上げを行っている部門のプロジェクトに参加してもらっています。そこで実際に、一緒に新しいビジネスを立ち上げるといった感じです。「体感」まで含めた半年コースというのをやっています。1つやるとすっかりできる感じになって、もう後輩に教えたりしていますので、うまく広がってくるといいかなと思いますね。

多田:それは、異動されたあとに研修に入っていただいて、半年間体感していただくのでしょうか?

三枝:本務を持ちながら、20パーセント程度の時間を塾や新規ビジネス検討に時間を使えるようにしてもらっています。いわば、社内副業の制度です。その中で、素養が有りやる気がある人は専任化していければ良いと考えています。

多田:結果として完全に異動していただいて、先ほどのプロジェクトなどに入っていっていただいていると。それはお互いに見極めもできますし、Win-Winですね。

元・営業職がデジタルマーケティングでも活躍

多田:石戸さんはいかがでしょうか? 採用の傾向を見ても、どちらかといえば抜擢が多いのかなと思ったのですが。抜擢や育成、このあたりはどういう取り組みをされていらっしゃるんですか?

石戸亮氏(以下、石戸):抜擢や育成に関して体系的にできているかというと、まだそうじゃないのが正直なところです。社内にも本当にいろんな経験をしている人財がいます。例えばパイオニアでは、ナビを作るとか市販の営業とか、いろいろそういった花形の組織があったりするんですよね。

一方で、ヨーロッパの小さい国の拠点を立ち上げたりとか、日本全国を(出張や転勤で)行き来するような人もいます。例えば、ある国の拠点を立ち上げ、日本の市販ビジネスで何かをやるとなると、ある種なんでも屋のような変化に対応するスキルが身に付いたりしている。そういう、変化対応力がある人材がけっこういたりするんですよね。

例えば、そういう人材に変革期にある組織に入ってもらったりすると、どんどん進化していくケースもあったりします。とあるメンバーは、これまで営業経験が長くて全国に出張で飛び回っていたのですが、今はデジタル・マーケティングですごく活躍しているんですよ。

やはり顧客の声をいろんなところで知っているので、優秀な営業がデジタル・マーケティングに来て今はすごく活躍していると。社内にもそういう抜擢がたくさんあるんですね。

外部採用ではなく、内部社員の育成に力を入れる理由

石戸:これは変な例えかもしれないんですけど、僕は個人的にはトライアスロンみたいに3つぐらいの種目ができる人って、本当にすごいなと思っていて。

僕らみたいな外部から来た人間は、トライアスロンが3種目あった場合に、「水泳は得意です」「自転車が得意です」とか、けっこうどこか(にスペシャリティがあるか)なんですよね。特に僕はトライアスロンをやったことがないので、こんなこと言っていいのかわからないんですけど。

元いた社員は、例えばAという種目が得意で、僕らはBというのをやってきたからBを教えると、一気に覚えてしまいます。中にいる社員のほうが全部の競技をできるようになるかもしれないと思っているんですよ。

なので、外部の社員を今はそんなに採用しているわけではありません。要所要所で今までなかったスキルや知見を入れることによって、内部の社員がそれをどんどん覚えていって、すごく優秀になっていくことが各所で起きています。

この1年ぐらいでは、そんな融合が起きている印象を受けています。抜擢・育成でいうと、まだこれからいろいろ体系化したいと思っています。

積極的なメディア露出で、自社の新たな「おもしろさ」を伝える

多田:なるほど。抜擢に関して、内部の方々との融合で効果が上がるという話がありました。そのきっかけである石戸さんも含め、外部人材はどうやって採用されてこられたんですか?

石戸:ここもどうやったか、どうしたかという答えではないかもしれませんが。実は私が去年入社したのが、外部のデジタル人財としては1人目なんですね。もともとトップが動いていたんです。個人的にそのあと意識していたのは、サイバーエージェント(にいた頃)やイスラエルの会社を立ち上げる時の感覚に近くて。

やっぱり最初は幹部が主体的に動きますね。あとは実は、パイオニアってカーナビのイメージがあるのですが、データとかめちゃくちゃおもしろいんですよ。これまでデータアナリストの方が来ても、「すごくおもしろいですよ」と伝えることすらしていなかったので、(それを伝えるために)採用広報をこの1年すごくやってきたんですね。

僕でいうと裏目標として、月に1本か2本は今までパイオニアが露出していないメディアやイベントに積極的に出るようにしています。(そうすると)「あれ? なんかパイオニアおもしろそう」と、データとかデジタル界隈がざわつくので。

あとはこれからも続けますが、この1年みんなで採用するということを行いました。ビズリーチとかを活用して、ダイレクトリクルーティングや、私がいたセールスフォースやGoogleでは当たり前のようにやっている、リファラル採用活動にちょっとずつシフトしていってます。

加えて、そこにスパイスとして老舗のおもしろさを加えると、もっとおもしろいんだとなるケースがあるので、そんなことをやったりしていますね。