一番苦しめられた恥は、人前でしゃべること

中川諒氏(以下、中川):今日のテーマは「恥の話をしようじゃないか」になっています。お互いの「恥」を話すのは、その人を知るきっかけにもなるし、自分を知るきっかけにもなるからいいなと思っています。

軍地彩弓氏(以下、軍地):そうですね。自分を知るきっかけというのはすごくありますよね。言ってみないとわからないことはすごくあって、太宰治じゃないけど、本当に恥の多い人生ですよね。(笑)。

中川:その中で軍地さんが一番苦しめられた恥って、何があるかなと思って。

軍地:さっきちょっと話したんですが、子どもの時のトラウマの話をすると。私は人前でしゃべるのがすごく恥ずかしかったんです。今みんなにそれを言うと、「ええっ、いやいや、テレビ出てるし...…」と言われます(笑)。

中川:「そんな人がテレビでコメンテーターしないでしょう」って(笑)。

軍地:そう言われるんだけど、自分の原体験で、小学校で生徒会の選挙をやるじゃないですか。5年生か6年生の時に「立候補しろ」と先生に言われて、周りから持ち上げられて出ることになったんですが、全生徒の前で演台でしゃべる時に、緊張で超あがってしまって、喉カラカラになって、しゃべりたいことが全部ぶっ飛んで。その時全生徒1,000人の前でしゃべれなかったんです。

中川:軍地少女が(笑)。

軍地:そう。ブワッと汗かいて、すごすご下りてきたことがありました。喉がカラカラでたいしたこともしゃべれないという、その原体験があったもので、私は小学校6年生からたぶん30歳ぐらいまで、人前でしゃべることが絶対にできなかったんです。人生最大の恥はそれですね。

中川:1回それを経験しちゃったから、ということですね。

「人前でしゃべれない私」を変えた、同僚の一言

軍地:それもけっこう人生の初期に経験して、それがトラウマみたいになっていたんです。そうなんだけど、20代の時に『ViVi』をやって、けっこう『ViVi』が売れて、いろんなところのお客さんにしゃべらなきゃいけないシーンがあっったのですが逃げ回っていたんです。

「私は黒子です。編集者は黒子で、とにかくモデルやタレントさんのような人気者を持ち上げるのが仕事なので、私は表に出ません」と言っていたんだけど、『GLAMOROUS』を作るとき、クリエイティブディレクターをやらせていただいて、なんだかんだ人前に出なきゃいけないシーンが出てきたんです。

偉い人から「プレゼンしてくれ」と。「私はしゃべれないんです」と言ったら、同僚の編集者で「軍ちゃんね、あなたのしゃべることは、みんな聞くんだよ」と言ってくれた人がいて。

中川:なるほど。

軍地:「えっ? 私しゃべれていないけど」と言ったら、「いや、あなたはよくいろんなところへ行ってコンテを説明したり、例えばクライアントさんのところに営業行って『ViVi』についてとか、『ViVi』で何が売れるかとか説明している時、みんな聞いてるじゃん。軍ちゃんの話は、みんな聞くんだよ」と言ってくれて。

中川:大事な一言ですね。

軍地:「そっか、私しゃべっていいんだ」と思って。その時、新雑誌をクライアントに説明するプレゼンがあったのですが、意外としゃべれてうまくいったんです。友だちのその一言で、すごくマインドセットが変わって、「褒められるってすごく大事だな」と思ったんです。それ以来、しゃべる人になりました。

「私の利点」を伝えてもらうことで乗り越えられる恥もある

中川:おもしろいですね。そんな過去があったなんて、たぶん今の軍地さんを知っている人からすると、誰も思わないから(笑)。

軍地:私はカラオケですらすごく嫌で、人前でしゃべるイコール冷や汗になる。でも「あっ、できた」と思ってからは、もう全部できるようになりましたね。

中川:そこで1回、乗り越える経験をされたということですよね。

軍地:初めて人の前で講演会をしたのは、大前研一さんのビジネス塾みたいなところだったのですが「ガールズマーケットについて話して欲しい」と言われてしゃべったんですよね。

中川:いきなり大舞台(笑)。

軍地:なにかのきっかけで恥だと思っていたことが変わるし、自分にとっての完璧さじゃなくて、相手が思っている私の利点を外部から伝えてもらうことによって、乗り越えられる恥もあるのかなと思いましたね。

中川:そうですよね。自分のことって、自分が一番知らなかったりしますもんね。

軍地:そうですね。だから、ステージとかをちょっと変えるだけで、恥じゃなくなったりとかもするのかなと。

99パーセントの人が懐疑的な中で進めた、デジタル版の雑誌の出版

中川:確かに。それに関連してなんですけど、僕が最初お会いした時は軍地さんって雑誌の編集をしている方というイメージだったんですけど、さっきおっしゃっていたドラマのファッション監修とか、仕事の領域をどんどん拡張しているじゃないですか。

それってけっこう恥ずかしいことも多いんじゃないかと思っていて。例えば僕は広告の仕事をしているけど本も書いてます。でも本を書いている人たちからすると、「なんだ、コピーライターの書いた本なんて」と思われるんじゃないかとか思っちゃうんですよね。そういう「1歩踏み出すことへの恐怖心」みたいなことがもしあれば、お聞きしたいなと思って。

軍地:ずっとですよ。私、いろんなところでファーストペンギンなんですよね。例えば『GLAMOROUS』という雑誌を作った後、『VOGUEGIRL』を作るときに、会社の方針で最初から雑誌とデジタル版の両方を出すということで、代理店さんを介していろんな企業や外資系の会社の前でプレゼンしなきゃいけなかったりとか。

恥ずかしいと言うより、みんなだいたい斜に構えているんです。「デジタルの世界なんて、スマホで記事なんか読まないんですよ」って。

中川:そういう時代だったんですね(笑)。

軍地:そういうことを言っている人もバンバンいた。2008年ぐらいかな。ある代理店の人に、「このスマホに入れるんだったら、金額下げてくれなあかんな」みたいなことを言われて。99パーセントの人が懐疑的なところで毎回プレゼンしなきゃいけなかったりとか。

社会的意義のあるゴールがあれば、自分の恥はどうでもいいく

軍地:例えば「デジタルが始まります」とか、「ニュージェネレーションのための雑誌を作らなきゃいけないんです」という、自分の中の信念があるんです。時代の流れは絶対こっちに行く。「みんな信じてくれない」「わかってくれない」というは、その時点ではすごく恥なんですけど、最終的なゴールを見るわけです。

「恥」は自分の意識。だけどゴールは社会的な意義があるから、この時に「デジタル化をやることをみんなに伝えること」が私のゴールであれば、自分の恥はどうでもいいと思うんです。

恥はかけるだけかいてもいいし、それを恥だと言う人がいるんだったら、その人たちじゃなくて「おもしろい」と乗っかってくれる人と、要は自分に対して肯定的な人を1人でも増やそうと思って話していたので。まずは否定が来ることをデフォルトだと思っていました。

ファーストペンギンゆえに、叩かれることに慣れすぎてきて(笑)、叩かれることがデフォルトだと自分の中で落とし込んじゃうと、恥と思えなくなる。というか、ゴールのためにやる恥だったら、それは私個人のマイナスで、会社のプラスマイナスには関係ない。であれば、自分の恥は置いておいて、ゴールを見ましょうと思うようになったんです。

中川:切り離して考えるということですね。

軍地:自分の個人的な感情と切り離して。社会的な意味とか会社のメリットとか、もしくは業界自体の変化に対して、「絶対デジタル化になるんだ」という自分が信念があったから。その後デジタルが主流になった時に、代理店の人に「あれだけ私のことを叩いたじゃないですか」とか言いましたが(笑)。

目的を見失わないために、「何のための恥か」を因数分解すること

軍地:そもそも、『ViVi』とか『GLAMOROUS』をやっている人たちが『VOGUEGIRL』に行っただけで、今も検索すれば記事が出てきますけど、当時は大騒ぎだったんです。「バカじゃないのか」「今の場所で好きなことをやっているのに」って。『ViVi』や『GLAMOROUS』と『VOGUE』の間には大きい川があって。

中川:独自の川だったのに、ってことですよね。

軍地:そうだ、一番恥ずかしいと言えば、コンデナストに行った1日目が一番恥ずかしかったですね。

中川:きっとカルチャーショックだったでしょうね。

軍地:そうそう。でもみんなが私に対して「あなたは誰ですか?」みたいな時に、私を連れてきてくれた当時の社長が、「この人たちは、あなたたちが知らない読者を知っている人だ」って言ってくれたんです。

中川:すごくすてきな紹介の仕方ですね。

軍地:ファッション誌でも、読者マーケティングメインのドメスティック誌と、どちらかと言うとクライアントをベースに考えているインターナショナル誌って、その差があって。

中川:ちょっと違いますよね。

軍地:それはさっきのしゃべりを褒めてくれた人と一緒なんですけど、私の価値をわかっている人たちが後ろ盾になってくれたことで、恥がプラスになった。最初はめっちゃ怖かったんだけど、「自分のやりたいことをやれ」と言われたのだから、「やればいいのだ」と思えました。

だから、「最終的なゴール」と「手前の自分の恥」を見分けることが大事。恥で終わっちゃうと、ゴールが見えなくなってしまう。ここ(恥)の壁で終わっていることも多いんですけど、「何のための恥か」ということを因数分解していったほうがいいのかなと。答えになっているのかな?

中川:ありがとうございます。

「ドラマにハイブランドは貸し出しNG」の暗黙のルールを変えた

軍地:それこそ『ファーストクラス』の監修も、誰もやらなかったんです。そんな面倒くさいこと。でも、それをやったこととか。

中川:ドラマのファッションのディレクションをする仕事と、雑誌のファッションのディレクションをするのって、感覚としては似た感覚なんですか? それとも、まったく違うものをやっているという感覚ですか?

軍地:違う脳みそを使っているけど、「ファッションを人に伝えたい」という原動力は一緒です。

中川:真ん中にある気持ちは一緒ってことですね。

軍地:『ファーストクラス』の中でファッション業界を描くとか。その当時、ドラマのお洋服ってすごくダサかったんです。というのは、借りられないんです。1話撮るのに日にちが飛び飛びで、同じ日のシーンを1ヶ月バラバラで撮っていたりするんです。

3ヶ月ぐらい離れたりすると、服を3ヶ月借りっぱなしにすることができない。なのでドラマにはハイファッションを貸さないというのが暗黙のルールだったんです。だったらそれを1個ずつつなげていけばいいんじゃないかと思って、とにかく「テレビでやるから」とブランドを説得して、説得したものを使えるような仕組みを作ったんです。

中川:なるほど、そういうことなんですね。

やりたいことを、「恥ずかしい」と捨ててしまう方が恥ずかしい

軍地:でも、ゴールは「こんなおしゃれなことをテレビでやらない手はない」と思っていたのと、でもテレビでみんな慣れていないから誰も触らなかったところを、本当に小さい努力、「何日後に貸してください」「破っちゃいました。すみません、買い取ります」みたいなところを、つなぎつなぎやってきたんです。

「そんなことをやったら笑われるよ」とか、「ディオールがドラマに貸さないでしょう?」と言われるようなことを、一つひとつ説得してやっていったんです。非常識を常識に変えることを。さっき言ったゴールが、「ドラマをおしゃれにしたい」とか、「かわいいファッションを全面に出したい」と。

中川:「見せたい」という気持ちってことですよね。

軍地:それを自分の感情で「そういうことをやったら恥ずかしいから」と断ることが、今、自分にとって恥ずかしいことなんです。努力をしないで「捨てたほうが楽」を取るよりは、努力してもやりたい、やるべきかたちに持っていけることのほうが、自分にとってかっこいいと思っているので。

「自分の強み」は自分で作らないといけない

中川:なるほど。僕が恥をかくために考えているのは、まず「恥って何なのか」を理解することはこの本の中でやっていることなんですけど、それに加えて具体的なアクション。日々の行動の中で恥と向き合えるように意識していることがあるので、いくつかご紹介するんですけど。

軍地:(時間を見て)ごめんね、私、しゃべりすぎた(笑)。

中川:いえいえ、大丈夫です(笑)。1つ目は「自分の強みは自分で決めて公言する」ということ。例えば僕はコピーライターとPRアーキテクトという肩書きにしているんですけど、「広告とPR、両方やります」と、強みかどうかわからないけど公言しているという考え方なんです。たぶん軍地さんも、ファッション・クリエイティブ・ディレクターという肩書きって……。

軍地:自分で作った(笑)。

中川:そうですよね。他で見たことないから。でもその肩書きがきっと、また新しい仕事を連れてきたりとかしますよね。

軍地:そうですね。ファッション軸足の仕事という言い方をしているんですけど、本当にそうですよね。

中川:就活の自己研究とかもそうですけど、みんな「自分の強み」を探そうとするじゃないですか。でも探してもたぶん見つからなくて、「強み」は自分で作らなきゃいけないと思っています。それが1つ目です。

あとは「出たからには会議に参加する」ということ。特に今はリモートになって、参加しなくても会議を終えられちゃうじゃないですか。

軍地:いるのにずっと黙っている人、いますよね(笑)。

中川:ずっとアイコンのままみたいな人がいっぱいいて、それってお互いにとって時間の無駄だなと思っていて、それなら会議に出なくてもいいと思っているんですよね。

軍地:本当だよね。

中川:それは自分にも言い聞かせていることだし、出たならちゃんと参加する。こういう場に今日来て見ていただいている方とかも、せっかく聞いてくれたなら何かご質問とか感想とかいただきたいなと。それがまず「恥」を乗り越える1つのきっかけになったらいいなと思っていたりします。

最初に“腹を見せる”ことで、お互いが恥をかきやすくなる

中川:あとは「勝負の日には、積極的に握手を求める」。これは僕がCMの撮影をする時に、朝、監督に必ずやることなんですけど、ちょっと今は握手しにくい状況ではあるんですけど。

軍地:グータッチで。

中川:はい。大事な日、特に監督のような自分より目上な人、僕より経験も業界での知識もいっぱいある人に、例えば何かお願いしなきゃいけないとか、その場で折衝しなきゃいけない時に、相手と1回握手して仲間になっておくと、その後自分が恥をかきやすくなるんです。

「こういうことってできないですかね?」とか、「今クライアントさんはこう言っているんですけど、ここをもう1回撮ってもいいですか?」とか。自分の仲間だというふうに、そこで空気作りができるのかなと。

軍地:私、最初にお腹見せちゃう。

中川:お腹? 実際に?(笑)。

軍地:違う違う(笑)、ワンちゃんが「キャウン」ってお腹を見せるじゃない。その感じで、お腹見せちゃう作戦をしますね。相手はみんな「この人がどうかわからない」と探り合って、本音が言えない。

例えばヘアメイクさんがイメージとぜんぜん違った時には、私がディレクターだからヘアメイクさんに言わなきゃいけないじゃないですか。でもお互いに理解していない人と喧嘩するよりは、まずお腹を見せちゃって、自分の弱いところも全部見せる。

結局同じことをしていると思うんですけど、お互いにこう距離をとるんじゃなくて、歩み寄っている感じがないと、お願いができないし、向こうもこっちを信用しない。探り合いはクリエイティブの世界における一番の問題ですよね。

中川:一番、心がヒリヒリする瞬間ですよね。

軍地:そうですよね。私メイクさんが出してきたメイクが気に食わなくて、すごい話し合って、全部やり直してもらったことあったりするんです。でもそれをやらないで、何でも「すてきです」と言っていたら、最終的なゴールが変わってしまう。

最終的なゴールが正しいと思わないと、最初に恥がかけない。恥をかいてゴールを活かすということだと思うので、これはすごいわかります。

毎日SNSに写真を上げて、服を着るモチベーションを作る

中川:あと、ファッションに関わる話で言うと……。

軍地:中川さん、めっちゃInstagramに服の写真上げているよね。めっちゃおしゃれだと思う。

中川:2月ぐらいから、毎日自分の服装をInstagram(@ryonotrio)に上げ始めて。

軍地:えらい!

中川:始めた理由はいろいろあるんですけど、コロナになって仕事の99パーセントぐらいがリモートなので、人と会わなくなって、出かけるのが楽しくなくなっちゃったんです。

軍地:うん、わかる。

中川:だから毎日、着るモチベーションを作ろうと思いまして。

軍地:めっちゃおしゃれですよね。Instagram、よく見ています。

中川:いえいえ(笑)。あと、僕の場合はファッションの仕事をしているわけじゃないんですけど。以前は「新しいものを着ているのがおしゃれだ」と思っていたんですけど、今は「持っているものの組み合わせでどう楽しめるか」を考えてやっているんです。服なんて毎日着るわけですよね。それを撮って上げるか上げないかは、自分の恥以外のなにものでもないから、これは自分の恥をかく行動の1つとしてやっているんです。

軍地:おもしろい。

迷ったら、恥ずかしい方を選んでみる

中川:最後、これは先ほど軍地さんもおっしゃっていましたけど、僕のマイルールにしていることで、何でも「迷ったら、恥ずかしいほうを選んでみる」。これで全部決めて生きるようにしていると、何かで迷った時に恥ずかしいほうを選べるようになります。

また「恥ずかしい行動」って、みんなが避けがちじゃないですか。だからこそ、そこにはチャンスが含まれている。恥はチャンスの目印になるということを、一番に僕は思っているんですけど、そういう行動を選びやすくするための方法として、こういうマイルールを置いています。

ということで、急に視聴者の方々への呼びかけになるんですけど、みんな「感想を書く」って恥ずかしいから書けないと思うんですけど、今日のお話を聞いて「一歩踏み出そうかな」と思ってもらえるとありがたいです。なので、ハッシュタグ「#恥をかける人」で、感想お待ちしています。TwitterとかInstagramとか、僕全部拾いに行くので。