2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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司会者:それでは、ナイトタイムトークを始めます。本日は、甲南大学経営学部の教授で、ぷちでガチの理事でもいらっしゃる奥野明子教授と、たおやかカンパニーの代表取締役で、ぷちでガチの代表理事の赤坂美保さんに登壇していただきます。よろしくお願いします。
赤坂美保氏(以下、赤坂):お願いします。
奥野明子氏(以下、奥野):よろしくお願いします。奥野です。
赤坂:甲南大学経営学部の教授をされている奥野先生も、お子さんがいらっしゃるお母さんです。もうお子さんは中学生でしたよね。
奥野:そうです。下が中学生で上が高校生、男の子2人です。大きくなっちゃったので、みなさんとのいろんな話の感覚が(合うかどうか)大丈夫かな。子育てバリバリ世代と、10年以上のギャップがあるんですね。
10年経ったら、子育てのやり方や考え方とかも本当に変わってくる。それはたぶん、良い変化だろうなと思います。もしかして、今日お話をしていて「ちょっとずれているな」という点もあるかもしれません(笑)。
赤坂:いえいえ。うちも男2人でして、その点ではきっと変わっていないと思います(笑)。
奥野:(笑)。
赤坂:男の子2人を育てながら教授という。
赤坂:未だに大学の世界では女性が少ないイメージなんですが、先生もやはりそうでしたか?
奥野:そうですね。少ないですが、理系と比べると社会科学系はまだ多いので。例えば私が所属する経営学部だと、女性教員が2割ぐらいですね。
赤坂:なるほど。
奥野:でも、女性といっても本当にダイバーシティがあります。独身の方やお子さんがおられない方、子供がたくさんいるご家庭など、いろんなママ・パパがいますよね。
赤坂:やはり、いろんな人がおられたほうが、いろんな話も聞けるし良いなということで、私たちもこのトークにたくさん女性も登壇いただいているんです。女性に限らず、どんどんいろんな方に出ていただきたいなと思っております。
そして奥野先生は、私たちの子連れMBAをしている運営団体、一般社団法人ぷちでガチの理事もしていただいています。それもまだ女性ばかりなんですが、ちゃんとエビデンスベースの学術的な視点から、いろんなアドバイスいただきたいなということで、理事をしていただいております。
もう1名の理事は、起業家支援をされている女性、近藤(令子)さんという方です。やはり今は、子育てと仕事をどっちも思い切りしたいと言ったら、女性にしわ寄せが多いので、(子育ては)女性メインになっているんですけれども。本当にいろんな人が活躍できる世界になったらいいなと思っています。
赤坂:そして今日のトークなんですが、実はきっかけが5月20日。私たち一般社団法人ぷちでガチで、「子連れの日」というのを日本記念日協会に記念日登録しました。
さっきお話ししたみたいに、「いろんな人が活躍できるような温かい世界になったらいいね」という思いで、5月20日が5(こ)、2(づ)、0(れ)と読めるので、子連れの日に掛けて記念日に登録しました。次の日の5月21日に、「『子連れ×仕事』で社会を変える!」というトークに奥野先生も出ていただきました。
子育てって「仕事のマイナスになる」「制約になる」「働く時間が減るじゃん」と、すごく言われるんですが、どうしたものでしょうかという話をしている時に、「そうじゃないんですよ。最近、(子育てが)仕事の役に立つという研究結果がすごく出されているんです」というふうに、奥野先生がチラッとお話しされまして。
「なんとなくは思っていたものの、そうやってちゃんと経営学の世界でも研究されているんですね。ぜひこの話を聞きたい」というリクエストがすごく殺到しまして、今日のトークにさせていただいています。
赤坂:さっそくなんですが、薄々私たちも感じていました。育児や子育てがすごくマイナスだと思われているけど、実はめちゃくちゃ仕事の力とかがアップしているんじゃないかと。
私たちの子連れMBAに参加してくれているメンバーとかの声で、例えば5つくらい挙げているんですが、「マルチタスクが鍛えられた」。当然、リモートワークで赤ちゃんが泣いている中でも仕事することもありますし。
もうちょっと(子どもが)大きくなっても、「お母さんこれ読んで」とか。このスライドを用意する時も子どもがチョコチョコしゃべって、「ええ!?」みたいな感じで、もうめちゃくちゃ時間がかかって作ったんです。そんな感じで、マルチタスクを嫌でもやらないといけないので、鍛えられた気がする。
さらに、子どもがいない10分とか15分でも、めちゃくちゃ集中力が出た気がするとか、「視野が広がった」。仕事だけの世界じゃなくて、幼稚園とか保育園とか学校の世界だったり。
それだけじゃなくて、さっきの「子連れの日」みたいなかたちで、街に出たらこれまでまったく興味のなかった、「子連れの人、何か困っていない?」と気にかけるとか。子連れじゃなくても、「おじいさん・おばあさんとか、障害のある方が困っていないかな」と、ちょっと気になるようになった。
それとちょっと似ているんですが、「想像力がついた」。子どもって何をするかわからないので、けっこういろいろ想像する癖がついて。「この人はもしかして、こんな困りごとがあるあんじゃないかな」とか、嫌なことがあってもいろいろ想像できるようになったとか。
あと、全体的にいうと「キャパが大きくなった」。毎日怒り狂うことも多いですが(笑)。
赤坂:人間的になんとなく大きくなっているというのが総論なんですが、こういう声をけっこう聞いていまして。でもこれって感覚論だし、「こんなに能力が上がりました」と言って、育休や子育てを経験して上司にアピールするには、「ちょっとちょっと……」という感じだったので(笑)。
ぜひ今日は「経営学の世界でも、ちゃんと子育てによって仕事の能力をアップしていますよ」ということを、研究結果と共に奥野先生からお話しいただいて、私たちも自信を持って仕事していければと思っております。よろしくお願いします。
奥野:よろしくお願いします。
赤坂:次から先生のスライドを付けさせていただいております。よろしくお願いします。
奥野:今、赤坂さんの話にあったように、「休まなきゃいけないから、育児ってマイナスじゃないの?」と思われている方も多いかと思います。
また、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が広く知られるようになって、ワークとライフってバランスを取らなきゃいけないの? と感じている方もいるのではないでしょうか。つまり、天秤にあるみたいに、どっちかを上げればどっちかが下がる。こんなふうにイメージすることが多くなってきたと思います。
経営学の世界では、2000年ぐらいから「ワーク・ライフ・エンリッチメント」という言葉が使われるようになりました。
赤坂:2000年から。
奥野:だいたい2000年ぐらいからと言われています。「バランスを取るんじゃなくて、両方がお互いにポジティブな影響を与え合うんじゃないの?」ということです。
奥野:まさに今、赤坂さんが言っていたみたいに視野が広くなるとか、包容力ができる。「何でも来なさい!」みたいになる(笑)。
赤坂:「何でも来なさい」ですよね(笑)。
奥野:「何が起こっても大丈夫よ」みたいな。それって仕事場で部下を見たり、とんでもないことに対応したりするのと一緒じゃないの? ということから、両方が両方をお互いに豊かにし合う、ポジティブな関係を与え合う「エンリッチメント」という言葉が言われるようになりました。
赤坂:シナジーというか、相乗効果というイメージですかね。
奥野:まさにそうですね。でも、良い日本語がなくて「統合」と入れました。実は子どもが生まれた時に、私のとても尊敬している法学者の西谷敏先生に、「がんばって(仕事と子育てを)両立します」という年賀状を出したんですね。そしたら先生から「両立じゃなくて統合を目指してください」という返事が来たんですよ。
「両方が統合して、良い影響を与え合うかたちで子育ても仕事もしてね」というメッセージ。「統合」という言葉どころか、両方がポジティブに影響し合うことが、まだ普及していなかった頃のことです。両立だけで精一杯だったのですが、そういう考え方があるんだとびっくりしたし、私にはすごく支えになったんです。
赤坂:いち早く、エンリッチメントというメッセージを先生は受け取られたんですね。
奥野:そう。すごく覚えています。
赤坂:思い出と共にですが、本当に私も「すごくそれ」と思っていまして(笑)。採用面接とかで、「仕事と家庭をどう両立しますか?」と聞かれて、「いや。相乗効果があると思っているので」ってずっと答えていたので(笑)。
奥野:そうなんですね。
赤坂:ちゃんと経営学を使っていたと、勝手に思っています(笑)。ありがとうございます。
赤坂:次に行きましょうか。
奥野:そうですね。「実はワークとライフはエンリッチメントで、両方にポジティブな影響があるんだよ」というメッセージを具体的に示す、国内の研究を見ていきましょう。2006年の石田克平さんの研究が国内で最初と言われています。
赤坂:最初の研究ですね。
奥野:そうですね、最初の研究です。さっき赤坂さんが言っていたみたいに、「こういうことが豊かになるんじゃないの?」という、ぼんやりとしたことは言われていたんですね。それを実証しようという試みがなされだしたのが、2006年のこの研究です。
この研究をされた石田さんご自身が、奥さんからバトンタッチで3ヶ月の育児休業をされたんですね。
赤坂:3ヶ月。当時にしてはすごく長い。
奥野:そうかもしれないですね。自分自身の育休体験から、自分がやっていることは、会社における管理職の仕事と近いんじゃないかと感じたようです。それを実証しようとした研究ですね。
奥野:(スライドを指しながら)ここに出ているのは、ちょうど結論の部分です。育休者、管理職の人、介護者の人、専業主婦の人、一般職の人、それぞれ3人ずつに、「3日間の生活で何をしているかを全部書き留めて、記録していってください」とお願いしました。
それを分析してどんな特徴があるかと考えると、ちょうど縦軸と横軸になっているように、予測がしやすい仕事と予測がしにくい仕事、それから重なりが大きい仕事と、重なりが小さい仕事が見えています。仕事の重なりが見えてきたらしいんですね。
赤坂:マルチタスクみたいな感じですかね。
奥野:そうです。管理職と育休者は、ちょうど(スライド)右下に出ているように、仕事の重なり度が高い。これ、みなさんもおわかりになると思います。ご飯を作りながら後ろで子どもが泣いていて、「なんとかしなきゃ」といううちにインターホンがピンポーンと鳴って、とかね。そんな場合は重なり度が高い。お子さんが複数いたら、それももっと増える。
赤坂:まさにそれが倍に(笑)。
奥野:管理職の人が自分の仕事をしようと思ってデスクで広げたら、部下がやってきて「これ、どうしたらいいですか?」と、相談に来る。突然降ってきた相談事をしているうちに電話が鳴って、とか。そういう状況にとても似ている。重なり度が高い上に、予測しにくい仕事をしている。ですからここでわかったことは、まず「マルチタスク」です。
奥野:育児休業で子育てをすることによって、マルチタスクが得意になる。まさにさっき言っていたことですね。それから、予想外の事態への対応が得意になる。
赤坂:いろいろありますね(笑)。
奥野:はっきり言って、ほぼ予想外ですよね(笑)。
赤坂:出かけようと思ったら、いろいろなトラブルがありますよ(笑)。
奥野:計画されたことがうまくいくのは当たり前。「そんなことはあり得ない」ということまで予測して、計画を立てなきゃ。でも、その計画でさえもその通りにはいかない。育休者の仕事は、まさにプレイングマネージャーがやっている仕事と近いことを示しています。
赤坂:なるほど。
奥野:おそらく、子育てをすることで管理職の能力を身に付けることができるだろう、と推測できますよね。
赤坂:本当ですね。先生も私も比較的楽にはなったんですが、大きくなったらまた別の問題があるけれども(笑)。(子どもが)小さい時って本当にこのとおりで、育休者と書いていますが、おそらく乳幼児さんの子育て中というイメージかなと思うんですけれども。
きっとそれを経験された人は、まさに「プレイングマネージャーの業務を何年間やっていました」という感じの方々で。プラス、育休を復帰してからもっとすごい、みたいなかたちで。きっと今日お集まりのみなさんも、すごい力が付いていると解釈をして良さそうですよね。
奥野:この(石田克平氏の)研究が一番最初じゃないかと言われ、これ以降はこの研究が引用されています。
赤坂:なるほど。
赤坂:2006年といったらまあまあ新しい気がするんですが、そもそもこういう研究がなされるようになったきっかけはあるんでしょうか? 最初は2000年くらいから。
奥野:完全に調べたわけではないんですが、私がこのことを考えるようになって、いくつか育休の仕事の文献を見ると、男性の育休の研究が多いんですよね。
赤坂:普通、育休を取るのは女性なのに、男性の研究がなされたということでしょうか?
奥野:そんな気がします。例えば、有名なものだったら、佐藤(博樹)先生、武石(恵美子)先生の『男性の育児休業』という本があります。その中でも、実証的じゃないですが、育休によって能力が上がることがいくつか言われているんですね。
これは推測に過ぎないので、何とも言えないんですが。男性が育休を取る時は、それ(育児)が役に立つということを何とか証明しなきゃいけない(笑)。女性が育休を取るのは、そうでもない。
赤坂:「当然だろう」と思われる。
奥野:そういう感じです。男性が育休を取る時には、「取った以上は何か役に立つだろう」ということを言わなきゃいけない感じがします。
赤坂:もしかして、男性は戦力にカウントされていたけど、女性はもう休むし、しゃあないというか。そこまで考えられていなかったという。
奥野:昔はね。新しい研究はそういうのではなくて、ちゃんと女性の育休も対象にしています。でも、初期の研究では男性育休の理由を見つけるという感じがします。
赤坂:育休を取ると役に立つかもしれない、という理由を必死に探して(笑)。
奥野:必死に探しているみたい(笑)。
赤坂:ありがとうございます。次の研究に期待です(笑)。
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