2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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奥野明子氏(以下、奥野):次は脇坂(明)先生のアンケートによる2008年の研究です。この研究論文のタイトルは「育児休業は本人にとって、能力開発の妨げになるのか」です。でもこれ、「能力開発になるのか」というタイトルのほうが良いと思いますね(笑)。
赤坂美保氏(以下、赤坂):妨げが前提だったんですね(笑)。
奥野:このタイトルから考えると、2008年の頃だと(育児は仕事の)妨げが前提だったんでしょうね。これはアンケートによる調査結果なのですが、特徴の1つはデータの数がすごく多いんですね。3,000名に近い人にアンケートをとっています。パーセンテージで表すデータは規模が少ないと信憑性が薄いんですが、データの数が多いと実態に近いと考えられます。
赤坂:n数が2,000いくらとか。
奥野:いきます。調査全体は(データ数が)2,871とありますので。
赤坂:すごく大規模な。
奥野:そういう意味では、大きい調査であるから信憑性が高いと思われます。もう1つの特徴は、育休者本人だけじゃなくて、自分の周りに育休を取った人にも聞いている点です。育休を取った人を見ながら、「育休の効果ってどんなところにありますか?」と聞いています。
(回答者の)数で見たら、育休の取得者が285で、その周囲の人が1,500なので、圧倒的に周囲の人も多いです。本人だけじゃなくて、周りから見ていて育休がどういう効果を生んでいるかも表しているので、おもしろい調査だと思います。
赤坂:自分の思い込みだけじゃなくて、他の人が言ってくれているという。第三者の評価が入っているということは、けっこう客観的にやられていますもんね。
奥野:その中で比較的数が多いものを見ると、「社外の価値観や考え方に触れる良い機会である」と出ていますね。特に、育休を取った女性の回答はここが一番大きいデータになりますね。
赤坂:はい。
奥野:これは今、すごく大事なことなんです。社外の新しい価値観を学ぶというのは、日本企業にとって本当に必要なことなんです。終身雇用、年功序列で比較的移動が少ない中で、みんなが同じ発想で同じ考えの中で仕事をすると、ちっとも新しいアイデアやイノベーションって生まれないじゃないですか。
赤坂:同じような人ばかり固まっちゃっていたら。オリンピックでもいろいろ言われてきましたもんね(笑)。
奥野:そうです。だから今、日本企業はダイバーシティも必要だし、ダイバーシティからくるイノベーションが必要なんですね。どうやって社外のアイデアを取りに行くのか。
汲々としている中で育児休業を取って、長いスパンで社外の人たちと接する機会があるということ。そして復職して、ちゃんと社内にそれを持ち帰ってくれる。それはすごく大事なことなんですね。だから、この「社外の価値観や考え方に触れる良い機会」が大きいのは、本当にそうだと思います。それは体験した人自身がよくわかるわけですよね。
赤坂:私たち、これにすごく元気づけられました。子連れMBAってもともとこれがコンセプトで。育休から復帰したあとって本当に忙しくて、乳幼児の子育てをしながら仕事したら、「社外の風を吹き込め」と言われても、会食にすら行く暇がないみたいな(笑)。長男で経験しまして。
育休中って赤ちゃんを抱っこしても別に電車乗れるし。ちょっと(コロナ禍の)今とは環境違いますが(笑)。人と会えるし頭も使えるから、実は子連れMBAというのはもともとは「社外の人と触れたい」というので作ったんですけれども。
60パーセントと言わず、ここに来る人に限っては参加者全員100パーセント、「価値観が変わった」とは言われていますね。すごくうれしい結果です(笑)。
奥野:会社がそれをうまく活かさなきゃ駄目なんですよね。今度は会社がどうやって気が付き、ちゃんと中に入れるか。会社が変わらないと、はっきり言って外の価値観を知った人は会社をつまらなく思いますもんね。
赤坂:そうですね。
奥野:「なんでこんなおもしろいアイデアを取ってくれないの」と言って、結局社外に目標を見つけてしまう。
赤坂:それ、ありますね。
奥野:どうやってそういう人たちを会社に留めておくかということは、会社は真面目に考えなきゃいけないですね。
奥野:あとは、「仕事を新しい観点から見ることができる」もパーセントが大きいですね。
赤坂:新しい観点ですね。
奥野:新しい観点。
赤坂:「視野が広がる」って正しかったんですね(笑)。
奥野:そうです。新しい観点から見ることができたら、仕事の効率化もできるようになります。ずっとやっていたことが、別の方向から見えるようになる。そんなふうにも、育休体験が活きます。
赤坂:さっきのマルチタスクでも、それに拍車をかける感じですよね。マルチタスクだから、「超効率化を考えよう」というインセンティブというか、モチベーションもすごく強くなりますし。視野も広くなるから、できる能力をマップするみたいな。
奥野:思い込みじゃなくて、本当にこういうことが、ちゃんと数字として示されています。
赤坂:だいたい、5つくらい当たってた感じですね。私たちが思っていた(笑)。
奥野:そうですね。ちなみにこれは複数選択なので、自分がそうだと当てはまるものを複数選ぶかたちで、アンケートが取られています。
赤坂:やはりみなさんも1つ以上丸をしていて、けっこうそれを評価している周囲の方も多いですね。特に「新しい観点」とか。
奥野:そのあたりはそうですね。
赤坂:元気付けられる調査でした。では、次に行きましょうか。
奥野:次が本丸というか(笑)。
赤坂:(笑)。新しい調査で。
奥野:これこそが、本当に経営学の中でワーク・ライフ・エンリッチメントを実証した研究だと言えます。『育児は仕事に役に立つ』という、本のタイトルそのものです。
ガチンコでこのテーマに取り組んだ、浜屋(祐子)さんと中原(淳)先生の本です。これは学術書というよりかは、広く読んでもらうために新書になっていますのですごく読みやすいし、中原先生は本当に本を書くのがお上手です。
赤坂:ブログとかすごく読みやすいですもんね(笑)。
奥野:本当にすごい。ですから、ぜひぜひ手にとってください。
赤坂:だいたい500円くらいで買える本ですよね。
奥野:もうちょっと高い。760円プラス税だった(笑)。
赤坂:もうちょっと高い(笑)。ありがとうございます。Amazonとかでもご購入できます。
奥野:育児によって仕事の能力が高まることがあるのか。高まるとしたらどんな能力が高まるのかと、まさに直球ですよね。
赤坂:まさに今回の問いに答えてくれているという、最新(の研究)です。
奥野:お二人の研究でおもしろい特徴は、育児をチームと捉える点です。育児ってワンオペの場合もあるんですが、それでも絶対に外の力や周りの人の力を借りているわけですね。ですから、それを「チーム育児」として捉えます。
チーム育児の能力って、実は(会社で)チームをうまくマネージすることとまったく一緒だよ、というふうに考えておられるんです。
赤坂:マネジメントですね。
奥野:そうです。まさにマネジメントなんですね。チーム育児の内容は、まずは育児の実行ですね。実際に子どもの世話をしたり、子どもと遊んだり、家事をする。私たちはちょっと視野が狭かったら、「これが育児だ」と思っているけれども、よくよく考えたら、他の人たちと共働しながらうまくいくように育児の体制づくりもやっているはずです。
育児の体制づくりというのは、共働の計画と実践ですね。誰が何をやって、いつ・どういうふうにして、それがうまくいったのか・いっていないのか。いっていなかったら別の力を投入しなきゃいけない。みなさん、日々これをしていますよね。
赤坂:たぶん、ご夫婦でのやりとりとかを前提に書かれていたかもしれませんが、単身赴任で旦那さんがいない時とか。うちもほとんど主人がいませんので、もう親族を頼りまくって。親族だけじゃなくても、最近は家事(代行サービスの)のタスカジさんだったり、家事のシェアリングサービスとか。そういったものから、幼稚園、保育園とかもやはりチームですもんね。
奥野:本当にそうです。
赤坂:プリントがいっぱい来ますけれども、マネジメントしています(笑)。
奥野:そうですね。今まさに、プリントというのがありましたけれども、育児情報の共有ですよね。
赤坂:はい。
奥野:連絡帳やプリントや、いろんな行事の情報共有をします。
奥野:そしてもっとおもしろいのは、育児方針の話し合いですね。まじまじと言われると「えっ?」と思ってしまうのですが、つまり、チームで言うところのゴール設定です。「私たちの育児チーム、どこを目指しているの?」という。
赤坂:ゴールを考える。
奥野:この本の中で、チームである以上はちゃんとゴールを話し合わなきゃうまく回らないよ、とすごく言われています。
赤坂:おそらく、これは家族の中で話し合うイメージですね(笑)。
奥野:そうかもしれないですね。
赤坂:でも、あまり話したことはありません(笑)。
奥野:そうですよね。正直言って、「うちの子どもをどう育てたいか」とか「何が私たちの家庭にとって大切なのか」など、どんなふうに家庭をマネージするのかとか、家庭のゴールは何とか、まじまじとは話さないですよね。
けれど、うまくやっていくためにはやはりゴール設定の話し合いをしなきゃいけないですよ。中原先生たちはよく、所詮……この本の中で「所詮」とは言わないですよ(笑)。「夫婦は他人なんですからね」と何度も出てきます。
赤坂:「育児のためのチームを一緒にやっている1人」みたいなイメージですよね。他人ですが(笑)。
奥野:そうです。家庭外との連携もしてるはずです。
奥野:さっき言ったみたいに、いろんな人と協力しながら育児を回している。育児の中の実行だけじゃなくて、体制づくりをうまくやっているはずです。体制づくりって、職場で仕事の計画をして、状況を把握して見直して、配分や人を変えたりすること。これはマネジメントでしょう。
赤坂:リソース配分だったりとか、適切な人を置いたりとかも。
奥野:そうです。そして、絶対に職場でも情報共有は必要ですよね。仕事を誰が何をやってるの? と。それからそういうことだけじゃなくて、方針を話し合うこと。さっき言った、ゴールを話し合う。
うまくいっていたら、あるいはうまくいかなかったらちゃんと耳を傾けてあげて、「どう、大丈夫? 何か心配事はない?」というふうに、お互いに相手の配慮しながらコミュニケーションするのも、職場でも絶対に必要です。
赤坂:はい。
奥野:そして仕事ですから、職場の人とうまくやっていくだけじゃなくて、職場外の人とも必ずやり取りがあります。会社という大きな組織ですから、育児の体制づくりをうまくやるということは、職場で仕事をうまく回すこととまったく一緒でしょと、浜屋さんと中原先生はおっしゃっているわけなんですね。
赤坂:おそらくこの中で、ワーキングマザーだと3番目の「家庭外との連携」がめちゃくちゃできる人なんじゃないかと思います。すごくいろんなサービスとかを使いまくって助けてもらっているので。ありがとうございます。
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