2024.11.26
セキュリティ担当者への「現状把握」と「積極的諦め」のススメ “サイバーリスク=経営リスク”の時代の処方箋
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辻愛沙子氏(以下、辻):(「Tapista」のコンセプト設計の話から)その軸で言うと、逆に今日話を伺ってみたいなと思っていたテーマが1個だけあって。話の進め方が自由ですみません(笑)。
橋口幸生氏(以下、橋口):いえいえ。
辻:私の師匠の牧野(圭太)さんという……。
橋口:牧野さんが師匠だったんですね。
辻:そうです。牧野さんが新卒の時のメンターで、そこから今も一緒に仕事したりとか。めちゃくちゃ尊敬していて、ああいう大人になりたいなと思うんですが。
すごいなと思うのは、例えばジェンダーのトピックで言うと、辻がCD(クリエイティブディレクター)に、牧野さんがコピーライターに入るというのを、牧野さんが言ってくださったり。「この企画に対して視点を持っているのは誰で、技術を持っているのは誰」みたいなことも、すごくフラットに。
当然それも、0・100じゃなくて一緒に作っていくんですけど。そういうことも、言葉を作っていく上では実はすごく大事な概念だろうなぁ、とか思いつつ。そんな師匠がいまして。基本的にすごく仲良しなんですが、飲んでいる時に1回だけ、やや悲しげな口論になったことがあるトピックが……。「演出か脚本か」という話だったんです。
二項対立じゃないんですが、脚本も大好きです。大好きな脚本家さんとかもいるんですけど、こと映画で言うと、演出で作れる余白とか空気感ってめっちゃあるじゃないですか、という話をしたら、「でも、言葉軸では想像力の世界の話だから、否定しないで済む」「相手の想像力に任せられるのが言葉のいいところである」みたいな。
辻:「それって映像表現でできませんか?」みたいな話をしたことがあったんだけど、あえて二項対立で語るなら、映画や映像作品を見た時に、脚本を見るのか演出を見るのかを伺いたいなと思っていました。
橋口:僕ですか? やはりどっちかと言うと……。
辻:言葉ですか?
橋口:自分のタイプで言うと言葉なんですが……。完璧に脱線しますけど、最近の映画を見ると、脚本的なおもしろさ以外が理解されなくなったのは、すごくよくないなと思っていて。みんな「伏線を回収した」とか、異常にありがたがるじゃないですか。
辻:確かに!
橋口:尊敬している映画解説者の友達がいるんですが、彼も「あれはすごくよくない」と言うんですよ。パズルを組み合わせるように、ストーリーの筋だけを味わっていると、めちゃくちゃ濃い味付けの料理ばっかり食べているみたいな状態になると思うんです。
辻:おっしゃるとおりですね。
橋口:それこそ今の話で言うと、演出の部分で役者さんのちょっとした表情とか、言葉にはできないけど「なんかこれっていいじゃん」みたいなのを味わうのが本質のはずなのに、みんな「ラスト5秒で意外な犯人が」みたいなのばっかり……。
辻:わかります(笑)。
橋口:実際にそういう映画のほうが人に教えたくなるから、すごくよくないと思って。
辻:本当にそうです。情緒とか人間らしさとか、文化のど真ん中である映画ですらそうで。
それで言うと、今日もこういう感じで自由に話させていただいていますが、ウェビナーとかも「役に立つ」「未経験から○○のスキルで、年収何千万」みたいな。わかんないんですけど(笑)。こういう不況の時代だからこそ、そういうものが増えるんだろうな、という気がするんですが。ものすごく効率的とか、人間らしさからちょっと脱線している。
よく言う例えなんですが、あえてすごく情緒的な表現をすると、遠く離れた2人が限られた人生の中で、1回でも多く会いたいから生まれたのが文明としての新幹線のはずで。人じゃなくて「物を運ぶ」でもいいんですけど。
文明のために文明が生まれたわけじゃなくって、人間の情緒の中で(文明が生まれる)。100年しか生きられないから、その中で1本でも多くの映画が見たいからNetflixが便利だし、限られた時間の中でどこでも音楽が聴けるようになりたいから、AirPodsが生まれているわけですし。
文明とか役に立つものがこれだけ普及して、何のために文明社会になったのかに立ち返ってみると、人間らしさがわかるとか。「ルネッサンス」という言葉を使ったりするんですが、これから文明・文化回帰みたいな時代にもう1回戻っていく。
辻:「文化の貧しさの予兆」みたいなものを、最近すごく感じていて。まさに、さっきおっしゃっていた“味の濃いコンテンツ”とか、インスタントなもの。これは自戒の面も込めてですが、あまりにもインスタントな文化を摂取しすぎている気がしております。「何の話?」っていう感じですけど。
橋口:「動画を倍速で見る」とかも、ちょっと話題になりましたもんね。
辻:そうですね。必要なシーンもありますけど。
橋口:恥ずかしながら、『梨泰院クラス』とかは動画倍速で見ました。
辻:韓国ドラマは長いのでね(笑)。そういう見方もありますよね。極論、(海外作品は)言葉がわからないですしね。
橋口:映画は好きなんですけど、もともと韓国ドラマってあんまり見たことがなくて。みんながいいって言ってるものだから見たいな、と思って見たら、見つめ合ってるだけのシーンが5分とか続いたりするから(笑)。
辻:謎の余白がだいぶありますもんね。
橋口:でも、それが本質なんですけどね。
辻:確かにね。すみません、話が脱線しちゃって。
橋口:「Tapista」は内装とかから関わられていたという話を聞くと、けっこう長期間のプロジェクトだったんじゃないですか?
辻:すごいスピードで作っていました。それこそ「仕事かくあるべし」「この業界のクリエイティブかくあるべし」みたいなものもぜんぜん知らない中で、毎回毎回ちょっとずつ知りながらなので、野生的に学んでいってる感じ。ライオンが崖から落ちて這い上がってくることで、従うとは何かを知る、みたいな。
そんな感じのキャリアだったので、今考えると、だいぶ常識的ではないお仕事のやり方をしてたんじゃないかな、という気がしますけど(笑)。
橋口:でもクリエイティブの仕事って、良くも悪くも毎回オーダーメイドだから、そういうルーティーンってあんまりないんですよね。
辻:そうなんですよね。だから、効率化のしようがないのが難しいところで。ある意味すごく俗人的ですし。最近の悩みです(笑)。
橋口:「ルネッサンス」という言葉が出たので、これを次のテーマに。辻さんがnoteでも書かれていて、すごくいい言葉だと思って。
辻:ありがとうございます。
橋口:「イノベーション」って、みんな今すごく簡単に言いますが、この言葉が僕はあんまり好きじゃないんですよね。
辻:同じです(笑)。
橋口:イノベーションって言った瞬間、もうイノベーションが起きないというか。みんなハッカソンとかをやっていて、すごく気軽に「イノベーションをやってます」みたいなことを言うけど、すごく良くないと思ったんですよね。ルネッサンスって言葉は、「人間性に回帰していく」という意味があるのがすごくいいと思って。この言葉を選ばれたのはすごいなと思ったので、これを聞きたいと思って。
辻:ありがとうございます。「辻愛沙子 note」とか「ルネッサンス 辻愛沙子」と(検索窓に)入れたら、もしかしたら出てくるかもしれないですが。
この言葉は社会全体に対してもそうですし、特にビジネス、もしかしたらエンタメやコンテンツもそうかもしれない。エンタメやコンテンツにルネッサンスが必要だとなっている時点で、文化水準としてけっこう危機的状況だなと思いつつ。
当時、noteでも書いたんですが、見ている方にかいつまんでお話しすると、今で言う資本主義とか、当時はそれがキリスト教だったんですが、そういう「絶対的な社会の指標」としてのルールがあまりにも強固になっていくと、それがある意味の正解として、いろんな人たちが思考停止をしてしまうと。
思考しているんだけど、実はそれをアウトプットしなくなってくると。表現としても画一的なものになるし、何かを恐れての表現になってくる。そういう中で、もう少し人間らしさとか、文化回帰のものづくりをしていくべきなんじゃないかという、すごく広く言うとそういう流れです。
辻:きっとみなさんも社会の授業とかでやられたと思いますが、いろんな芸術作品が生まれたり、今も歴史に残っているような戯曲が生まれたりとか、そういうルネッサンスの時代なんですが。引きの目で見ると、日本史も世界史も「文明優勢の時代」と「文化優勢な時代」を北風と太陽のように行ったり来たりしているな、と思っていて。
例えば日本で言うと、これも格差がありますけど、室町時代や平安時代とかに貝のおはじきをやったりとか。「いとをかし」な世界なわけですよね(笑)。一方で戦国時代では武器が出てきたり、戦い方に戦略・戦術を作ったりとか。
もちろん、今の社会で言う「文明」とはかたちは違いますけど、鉄砲が出てきたりとか「文明の中でいかにして勝っていくか」という時代だったわけですね。
でもそれが暴走していくと、一方でハイソな方々は千利休を求めたりとか、文化への渇望みたいなものがすごくあって。今の社会で言う「成功や資本としての勝ち」みたいなことと、当時の「戦の勝ち」はすごくリンクする気がするんですけど。
だけど、それだけでは人は幸せにならないというのを、当時は命が失われるからというのもありますし、今で言うとこれだけ物質的な豊かさが広がっているのに、それでもなお「何か足りてない気がする」みたいな。「何かにならなきゃ」という抑圧も(その理由の)1つかもしれないですし、どこまで行っても足りてない、何か満たされないものがある。
辻:幸せや自分の居場所って、どこにあるんだろうか? みたいなことを思ってはいるんだけど、口にする余裕がないとか、口にするのが恥ずかしいとか。人間の根幹にある「幸せって何だろう」というのも人それぞれ違うので、自分の中で考えていかないと見つからないでしょうし。
そういう人間的なもの、さっきおっしゃっていたような「なんか説明できないけどいいよね」みたいな。「沖縄の風がなぜ心地いいのか」について、別に議論しないじゃないですか(笑)。「気持ちいいね、以上」みたいな。空を見て「今日の空の色きれいだね」という、ただそれだけでいいと思うんです。
そういう人間回帰的な感覚を、ビジネスにもコンテンツやエンタメの世界も取り戻していく必要があるのではないかなと思っています。
「VUCAの時代、これからの未来、どうなると思いますか?」「解答をマルかバツで答えてください」という解答だけではない、人間の根幹にあるようなものや、別に誰かに批評されるでもない、自分自身の中で感じたものをすごく大事にしていく。
非言語的なものをあえて言語化していくのは、伝えるという意味ではすごく大事だと思うんですけど、「言語からスタートしない」ことは、最近特にすごく大事な気がしていて。
辻:ちょっと話が広がっちゃいましたが、特に今は“文明暴走の時代”になっています。明治維新が起きたように、それこそ江戸の「切捨御免」から、もうちょっと改めて文化や豊かさとか、外の文化を入れてみたりとか。戦国からの流れとしてそれが行き過ぎた結果、今の文明の暴走につながってるわけなので、難しいんですが(笑)。
だいたい文明優勢すぎる時代って淘汰されて、人間らしさをまた求める流れが勃興します。でも今度は、やっぱり物質的な豊かさがもっと必要だということに気づいて、また文明が優勢になっていく。引きで見ると、そういう流れがずっと続いてるので。
私たちが生きてる間かはわからないですけど、今、すごくその分岐点にいるなと思って。その意味で特にビジネスは、物質中心的な大量生産・大量消費だけではない、何のために作るのか、いわゆる「パーパス」というものだったり、何に心が震えるのかとか。
KPIも大事ですが、会社経営で言う非財務情報とか、人間らしさ・多様性みたいなところもそうかもしれないですし。そういう「生きるとはなんぞや」というところへ立ち返り、朝のコーヒー豆を挽く豊かさを感じながら、商業と両立していくような時代にきっとなっていくんじゃないかな……というお話でした。すいません、長くて(笑)。
橋口:いえいえ、非常に共感できる話でした。たぶん広告の世界って、これまでは比較的、良くも悪くも人間味が大切とされていて。「CMで売れたかどうか、本当にはわかんないんだろ」って、よく昔言われてたじゃないですか。でも今は、逆にそれが全部わかるようになってしまった結果、むちゃくちゃデータデータしてきていると思うんですよね(笑)。
辻:(笑)。
橋口:なんでも数字や文字にして説明しないと、世に出なくなってしまった状態になっていて。もちろん昔みたいに、「なんかどーんとした感じで」ということに戻ることはないので、そういう部分も必要なんですけれども。辻さんがおっしゃった、「人間性を取り戻す」みたいなことが、これから広告でも起きてくると思ったんですよね。
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