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辻愛沙子氏×橋口幸生氏「社会を動かす広告の言葉」『言葉最前線 Vol.3』(全7記事)

人生の指針になるのは「逆算」よりも「野生の勘」? 日常の中にアイデアを見出す、辻愛沙子氏の企画術

コピーライターの橋口幸生氏が、新しい言葉の使い手たちに迫る本屋B&Bのシリーズ『言葉最前線』。第3回目となる今回は、株式会社arca CEOのクリエイティブディレクター・辻愛沙子氏を迎えて対談。本記事では、辻氏が手掛けたタピオカ店の事例などから、企画に込められたメッセージを解説しました。

クライアントがいない状態で「とりあえず企画だけでも作ってみよう」

辻愛沙子氏(以下、辻):これも時々お話しするんですが、「自己ブランディングってどうやったらいいですか?」とか。言葉の軸から逸れちゃうかもしれないですが、自分を定義する言葉、名刺の肩書きとかを以前はずっと悩んでいて。最初の3年ぐらいは、師匠とあーだこーだ話しながら。

メディアに出させていただいた最初の頃は、「忙しい」と思いながら一生懸命がんばっていたんですが、今考えると、自分の時間はまだぜんぜんたくさんある。当然、指名でお仕事をたくさんいただくわけではないので。その当時、甘いものが大好きなこともあって、「スイーツの仕事をやりたい」と渇望していた時期なんですよね。

でも、何者でもない私に当然スイーツの仕事をいただけるわけもなく、「でもやりたい」となって。じゃあとりあえず企画だけでも作ってみようとふと思いついたのが、「RingoRing(リンゴ リング)」という商品なんですが、RingoRingって文字で書くとおもしろくて。すみません、ちょっと(話が)行ったり来たりしちゃって。

橋口幸生氏(以下、橋口):いえいえ、大丈夫です。

:Ring・Ringで真ん中がoになって、左右対称になるんですよ。ちょっとおもしろい。

橋口:そうですね。Ringで真ん中にoが来ているっていう。

:そうなんです。

夜中に「オニオンリング」を食べながら思いついたアイデア

:もともとオニオンリングがすごく好きで。

橋口:オニオンリング、僕も大好きです。

:本当ですか。フレッシュネス(バーガー)のオニオンリングが大好きなんですよ。こんな感じで自由に話して大丈夫ですか?(笑)。

橋口:大丈夫です。ちなみに僕は、オニオンリングはモス(バーガー)派ですね。

:モスもおいしいですよね! ポテトと一緒に入ってるやつ、おいしいですよね。

橋口:そうです、そうです。

:よくUberします(笑)。揚げたポテトはフライドポテト、でも揚げた玉ねぎは丸いだけで「リング」になると。「フライド」という言葉がつかないから、気持ちちょっとだけギルティじゃないなと思って(笑)。

じゃあ、丸いものを揚げたら「○○リング」って言えるんじゃないかな、とか。そんなことをなぜ思ったのか覚えてないんですけど、確かオニオンリングかなんかを食べながら夜中に思って。連想ゲームみたいにいろいろ(文字を)打っていて、たまたま「RingoRingって字面がおもしろい」と思ったんですよ。

じゃあ、リンゴを揚げると考えるとなんだろう? と思った時に、そういう連想ゲーム的な感じで企画を考えたりすることもあるんです。言葉の軸でいうと、アップルパイ・焼きりんごとか、リンゴって加熱しておいしくなる果物だし。

もう3年前とかで記憶が定かじゃないので、栄養に詳しい方がいたらぜひリプライとかで訂正していただきたいんですけど(笑)。(リンゴは)確か、熱することでなにかしらの栄養価が高くなるんですね。「これはすごい」と思って。

メディア露出のきっかけになった企画

:写真で言うとわかりづらいかもしれないですが、ちょっと分厚めに輪切りにしたリンゴの芯をくりぬいて、そこに薄く衣をつけて、米油で揚げているんです。ドーナツっぽく見えるんですが、中身がほとんどリンゴという、ギルティフリーなスイーツなので。

この時は「ギルティフリー」という言葉を立てて、「RingoRing」という商品を思いつき、「これをやりたい」となって。

橋口:そこからもう辻さんのアイディアなんですね。

:そうなんですよ。

橋口:お題があってこういうふうにした、というのではなくて。

:そうじゃないです。なんならクライアントもいなくて、「これを作りたい!」ってなって。

橋口:そうなんですね! 

:そうです、暇だったので(笑)。当時会社の人にジムを紹介してもらって行ってたんですが、「そのジムにカフェをやっている人がいる」という話を聞いていて。紹介してくださった方に、「あの人に相談してもいいですか?」と言って。

カフェをやっている方に、「こんな企画をやりたいんですけど作れますか?」とご相談したら、「表参道の店舗でやってみよう」となって、これが形になったんです。RingoRingのメディア試食会をやった時に、来てくださった記者さんが、私に興味を持ってくださって。

それで初めて作り手として表に出て、その記事を別の番組の方が見てくださって、『PRIME news alpha』に出させてもらって。その番組を見た次の方が……という連鎖なので、「人生をこうありたい」みたいな逆算で生きたことがあんまりない。実はちょっと野生的な感じで生きてるんですよね。

橋口:「仕事の褒美は仕事だ」ってよく言いますが、本当にそれを地でいくパターンですよね。

:おっしゃるとおりですね。今もなお、そう思います。

台湾資本の会社の参入で起きた「タピオカブーム」

橋口:「RingoRing」や「Tapista」(タピスタ)とか、名前がすごくキャッチーで。特にタピオカのほう(Tapista)とか、僕はふだんそんなに飲まないんですけど、ロゴの色使いや世界観も含めて、一発で覚えてしまったので。ネーミングを切り口に、辻さんのクリエイティブのお話を聞きたいなと思ったんですよ。

:ありがとうございます。

橋口:でもこれ、「コピーライターが考えました」って言ったら、普通にネーミング特集とかで紹介されると思うんですけど、これまであまりそういう方面で掘り下げられてなかった部分で。

:確かに。うれしいです(笑)。

橋口:「RingoRing」の話をお聞きして、ネーミングというよりは商品そのものから発想されてるというのがわかったんですが、「Tapista」はどういう経緯だったのか教えていただいてもいいですか? 

:「Tapista」は最初の立ち上げの半年間ぐらいしか入ってなかったので、コロナ禍で今どうなってるのかがわかってなくて、悲しいんですが……。その当時は“タピオカ旋風”のちょっと前ぐらいだったんですよ。台湾資本のお店が入り始めたタイミングだったんですね。ほとんど台湾資本の会社か、それに乗じた台湾風のお店がすごく多くって。

それ自体がいい・悪いという話じゃないんですが、極端なことを言うと、ブームが去ったら撤退すればいいだけなので。本国では自分たちのビジネスとしてベースがあるので、海外から入られてる企業さんが多いがゆえのトレンドなんじゃないかな、とその時思っていたので。

今はどうなってるかはわからないので、答え合わせになってるかわかんないんですが、いわゆるタピオカっぽいトンマナからちょっと離れた、オリジナリティを作りたいなと思っていて。

「タピオカ=若い女性」のイメージを覆した

:ネーミング的な話で言うと、最後に4つぐらいで迷ってたんですが、一番ニュートラルかつ何のお店なのかがわかる、でもトンマナっぽくない言葉にしたくて。タピオカスタンドで略して「タピスタ」なんです。

橋口:「タピオカスタンド」から来てるんですね。

:そうなんです。Instagramとかで広げていけそうな言葉、かつ一言で言える言葉にしたいなと思って。最終的に「Tapista」にしたんですが、コンセプト自体で言うと、フレンチダイナーをテーマにしていて。

ネーミングからコンセプト作り、キービジュアルとパッケージのデザインとか、店内の内装まで一式やらせていただいていたんです。お手洗いのドアノブとか、空室・満室のあれ(表示)とかまで選んでいたので(笑)、けっこう大変でわりとハードだったんですが。

橋口:いいですね。

:フレンチダイナーというコンセプトを立てたのは、(自分が)好きな世界観でもあるんですけど、アメリカで言うダイナーって、老若男女いろんな人たちが集まって、みんなでサンデーつついたりとか、思い思いにハンバーガー食べたりとか。一人で来る人もカップルで来る人もいれば、おばあちゃんとか家族で来る人もいる場所なので。

タピオカってすごく「らしさ」があるし、実際に足を運ばれる方は、若年層の女性の方が圧倒的に多いですが。ただ、例えば今後はUberEatsをやったりとかもしていきたいよね、という話をしていたので、店内で飲む人はきっと女の子たちが多いけれども、まさにこのキービジュアルは、“妻の昇進祝いにタピオカを買って帰る夫”という設定なんです。

橋口:そうですね。結婚指輪をしていて、男性の手ですもんね。

:そうなんです。まさにそれこそ、語らないと誰もわからないところですけど、一応「妻の昇進祝い」という設定で花を持っているんです。そういうのも含めて、ビジュアルとかネーミングは、従来のお客さんのど真ん中だけではない人たちにも届けたいな、というのを思って。

ミントグリーンをテーマカラーにして、「Tapista」っていうちょっとニュートラルな言葉と、例えばロゴのステッカーをパソコンに貼っていても、フェミニンすぎないロゴかつ名前にしたいという思いで、ここに至りました。

低予算のため、自分で古着屋を回って衣装をセレクト

橋口:このキービジュアルの、「奥さんにプレゼントを買って帰る男性の手」というところも、辻さんが考えられているんですよね。

:そうですね。これと実はもう1個パターンがあって、男性と女性の手がこうなってる(タピオカドリンクを男性の手から女性の手に受け渡している)のもあるんです。

橋口:下から革ジャンの手が出てるやつですよね? 

:あれもまさにそうです。イメージで言うとダイナーって、ポンパドールしてる女性とロカビリーしてる革ジャン着てる兄ちゃん、みたいな。「タトゥー入ってます」みたいな人たちが、ロマンチックな感じで向き合って、ミルクシェイクが真ん中にある、というイメージがあって。

もともとダイナーの世界観がすごく好きなんですが、そういう世界観だけど現代っぽいものを両方作りたくて。特にビジュアルだけでUberのヘッダーになることもあるかなと思ったので、男女両方の手を入れたりとか。「あれは女性だけの場所じゃないよ」ということを、あえて男性だけ(の手)でやる、みたいなことも話しながら。

……言っていいのかな? (事業の)立ち上げだったので、予算がそんなにあるクライアントさんじゃなくて。渋谷のリサイクルショップとか、古着を売ってるところを何軒か回って、この時は衣装を自分で選んでました。

橋口:恥ずかしながら辻さんのnoteを見て、初めて男性の手とかを意識してるって気づいて。

:ありがとうございます。

橋口:こういう仕事をしていながら、絵に対する感性がむちゃくちゃ低いんです(笑)。

:いえいえ。

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