「チームワーキング」×「ワークスタイル」

司会者1:では、トークセッションの3つ目のテーマに移っていきたいと思います。最後は「チームワーキング」×「ワークスタイル」ということで。今まで会社のチームメンバーが、1つの所で働いて、その中で共同作業するということが多かったと思うんですけれども、それぞれのチームメンバーがいろんなワークスタイルを持って働く時代にもなってきてるのかなと思います。その辺を、松下先生と田中先生にうかがえたらなと思います。ではよろしくお願いいたします。

田中聡氏(以下、田中):よろしくお願いします。

松下慶太氏(以下、松下):よろしくお願いします。どこからいきましょうかね(笑)。

田中:(笑)。『ワークスタイル・アフターコロナ』、とてもおもしろかったですね。

ワークスタイル・アフターコロナ 「働きたいように働ける」社会へ

松下:ありがとうございます。

田中:まずおもしろいなと思ったのが、チームの話でもそうですけども、働き方の議論ってどうしても「他者との関わり方」みたいな話にいくじゃないですか。「この組織での当たり前の働き方はこうだから、私もこういう働き方をしないと」とか。組織とかチームとか、あるいはもっと広い意味での集合体・共同体みたいなものがあって、そこに個人がどうアジャストしていくかみたいな話がなされがちだと思うんですけど。

『ワークスタイル・アフターコロナ』で書かれている松下先生の主張って一貫して、結局個人としてまず「あなたが何をしたいの」「どう生きたいの」という、そこのスタイルをかなり強くおっしゃってるんだろうなと思って。だからこの本の副題にある「働きたいように働ける社会」っていうのは、まさに「あなたにとっての『働きたい』って何?」を問うてるものだとも思うんですよね。

自由な働き方よりも、むしろ決められた方が楽

田中:私たちが書いた『チームワーキング』にも共通するなと思うのは、やっぱりチームと言うと「個人」が埋没しちゃうっていうか、そこにあまり当事者性が出てこないんですけど。むしろ「個」をあらためて考えるきっかけになるんだろうなって思って。そのあたりは共通してるなって感じたところですかね。

チームワーキング ケースとデータで学ぶ「最強チーム」のつくり方

松下:本当におっしゃるとおりですよね。「働きたいように働く」って、実は耳ざわりが良い言葉のようであって、逆に鋭く突き付けている部分もあります。要するに「じゃあ働きたいように働けるようになったら、あなたはどう働きたいんですか?」って聞かれて、答えられる人って実は多くないんじゃないでしょうか。

田中:そうですね、ちょっとドギマギしちゃいますよね(笑)。

松下:今まで高校は制服で過ごしていたのに、大学に入って急に「私服って何を着たらいいんだっけ」ってドギマギしちゃう(笑)。

田中:(笑)。

松下:結局こうしろと言ってくれたほうが楽だったりします。実は就活とかでも、わりと近しいようなカルチャーが形成されている気がして。「私服で来ていいよ」って言われたら、逆に困るという(笑)。

田中:そうなんですよね。だから例えば「オフィス勤務、就業時間は9時17時で」って言われると、反発はするんだけど実は楽っていう。それが急に「あなたがどこで何時間、どういう仕事の仕方をしていても会社はそれを許容します」って言われた時に、自分なりのものさしとかコンパスを持ってないと、旅に出られないですよね(笑)。

松下:GAFAに見られるようにハイブリッド・ワークスタイルが広がりつつあるなかで、ある種の自由に働けることのプレッシャーがあって。逆風じゃないですけど、「決めてくれる会社のほうがいい」っていう自由からの逃走みたいなことも出てくるのかなと思うんですよね。

影響力のある人から働き方を変える「流れ」が必要

松下:でもそうした中で1つ、先ほどの上田先生のお話の中でもちょっと出てきましたけども、「とりあえずやってみればいいじゃん」っていうことだと思うんですよ。要するに先ほどの(「不完全なものは恥ずかしくて見せられない、完成したものを納品したい」という)完パケ思考で、完璧なワークスタイルじゃないと「私はこういう働き方です」って言えない人たちみたいな潜在層も、実はけっこういるとは思っていて。まずはやってみようよっていう(笑)。

その風土とか関係性をどう作ろうかなっていう時に、田中先生のチームワーキングってかなり大事だなと思うんですよね。全員がリーダー視点とかチーム視点とか、動的視点を持って1つのワークプレイスをつくっていく。

例えば「私は今日会社に行きませんから」って時に、その人が行かなかったらなにも仕事が進まないってことじゃなくて。それこそ「のりしろ」というか、緩衝材みたいな働き方していくことって、けっこう大事なのかなという気もするんですよね。

田中:そうですね。誰から始めるって話じゃないですけど、やっぱりそれなりに影響力を持っている人が、まず率先して働き方を柔軟に変えてやってみる。そういう姿勢をチームのメンバーにシェアしていくと、影響力が大きいですよね。上層部が旧態依然とした働き方をしている会社で、新卒1年目、2年目でいきなり「自由にどうぞ」って言われてもおどおどしちゃう(笑)。そういう組織ってありそうですよね。

松下:守破離じゃないですけど、そこにある種「流れ」みたいなのが必要かもしれませんし。あとはちっちゃいことでいいと思うんですよね。単純に、例えば通勤経路を変えてみるとか。これもアーキテクチャ的ですけども、やっぱり通勤定期があるから同じルートじゃないと会社に行けない・行かないけど、通勤定期がなくなるといろいろ行き方ができるとか。別の場所で働いてみたり、時間をずらしてみたり、そういうちっちゃなことでもいいと思うんですよね。

これからのオフィスは「たき火的な場」

田中:そういう世界になっていった時に、あらためて問いが変わりますよね。今までだと「なんでオンラインなの?」だった問いが、いまでは「なんで集まらなきゃいけないの?」に変わってきてますよね。

松下先生の本ではこれからのオフィスのあり方について「たき火的な場」という表現をされています。まるで火を見ながら共に会話する、そんな「共有する場」としてのオフィスに位置づけも変わっていくという話が印象的でした。

松下:「たき火的」っていう表現をしたのは、例えばそれこそリモートワークになってしゃべる機会がないから、しゃべる機会を作って、「さぁしゃべってください」って言われても、人ってなかなかやっぱりしゃべりづらくて(笑)。

まず集まってみたら自然になにかするっていう、それも先ほどの「まずやってみる」かなと思うんですよね。今までの意思決定は、たぶん「集まったらこれぐらいの会話が生まれると予測されるので、そういう機会を作りましょう」みたいな承認のされ方とか提案の仕方だったと思うんですけど、そこは一旦外して提案する、実行する必要があるんじゃないのかなと思ってるんですよね。

良いチームを作っていくための透明性

田中:なるほど。チームの話とちょっと重ねていくと、さっきもトランスペアレントみたいな話が上田先生からありましたけど、良いチームを作っていく上では、透明性とかオープネスみたいなことってとても大事で。

「この人はどういう文脈で、どういう背景がある人だからそんな発信をしてるのか」という前提の理解がお互いに共有されていないと、ただ言葉やテキストだけを表面的に読み取って「きっとあの人はこう考えてるはず」みたいな変な勘ぐりが始まり、何重ものボタンの掛け違いの結果、関係性が悪くなるってこともよくあるんです。それでお互いに思ったことを言い合えなくなるみたいなことが、けっこうあると思うんですよ。

だからといってプライベートまで無理やり共有する必要はないんですけど、仕事だけじゃなくて、プライベートも含めて人としてつながりを持つ機会を、どれだけそういう場を通じて共有できるかってとても大事なんだろうなと思って聞いてたんですね。

松下:そうですね。さっき僕が「オーバーレイじゃなくてスーパーインポーズ」って言ったのも、やっぱりそういう部分があって。オーバーレイは積み重なっていくと、一番上しか見えない。「いろんな事情があってこういう発言してるんだな」っていうのも、やっぱりオーバーレイしていくと重なっていても一番上の最後の発言しか見えないんですよね。

そうではなくて、スーパーインポーズで重ねていくことで、「そういうこともある、そういうこともある。じゃあそれを重ねてどうしていこうか」っていう、ある種フラットな立ち位置で話せるんじゃないのかなと思っていて。

これからは「つながる」ではなく「重ねる」時代に

松下:あともう1つ、ちょっとメディア論的な視点から話させていただきます。これまでメディアのイメージは「人と人をつなげる」というものでした。要するに「メディアコミュニケーション」とか言われるように、Zoomとかチャットにしても、人と人とをつなげるものだと思われていて。大きく「つなげる技術」って言えると思うんですよね。

自分の本でも書きましたが、特に近年のARやSNSなどメディアってつなげるだけじゃなくて「重ねる」という発想が大事じゃないかと。もうちょっと田中先生との関連でいくと、チームワーキングもやっぱり人と人とが「つながる」技術じゃなくて、たぶん「重ねていく」技術とし、スキルとして考えていく。そういう視点がけっこう大事なんじゃないかなって思ってますね。

田中:そうですよね。あらためて個人の中でのいろんな役割を重ねていくこともそうだし、一人ひとりとチームの目指してる方向性を重ねていくも含めて、いろんな意味で「重ねていく」ことが大事ですね。

その中ですごく大事だなって思うのが、やっぱり「自分の枠をいかに越えられるか」。自分の持ってる認知的な枠組みを越えていかない限り、その発想になかなか至らないところがありますよね。

松下:そうなんですよ。今までの組織内コミュニケーションとか研修とかで言われてることって、その認知を越えない個人と個人でどうコミュニケーションするかみたいな発想だと思うんです。でもこれからリモートワークが広がっていく中で、つなげるんじゃなくて、個人と個人の認知を広げて重ねていくほうにフォーカスしたような、組織コミュニケーションのあり方やチームワーキングをやっていく時代になってきているのかなっていう気はしますね。

若年層にとっては「デジタル的なムード」も現実である

田中:少し話が変わりますが、本を読みながら、私の経営学的なバックグランドと重ねた時に、1つ疑問が湧いてきたんですよね。それは何かっていうと、情報は「認知的な情報」と「感情的な情報」に分かれるって言われていて。認知的な情報って、テキストに起こせますから、物理的な距離の制約を受けずに簡単に遠くまで広がっていくじゃないですか。

だけどチームの中で生まれてるムードとか熱気みたいな、感情的な情報は認知的な情報ほど遠くになかなか伝わっていかないと言われます。

リモート中心のチームになった時に、物理的距離がある中で、感情的な情報を共有しながら、どうやってお互いを重ねていけるか。お互いに刺激し合いながらどんどん広げていけるのかっていうのを、どう考えていったらいいのかなと思っていてですね。熱気とかムードみたいなものを、いかにバーチャルも含めて作っていくのか、その辺はどうお考えですか。

松下:もしかしたら先生がイメージされてる答えじゃないと思うんですけど。「デジタル的なムード」っていうものを想定できそうです。例えばTwitterとかFacebookとか、「ソーシャルメディアで盛り上がってる」っていうデジタル的なムードを作ったり、感じたりすることは、今の若者層にとってはそんな不自然なことではない。

よくネットいじめの話とかで、例えば上の年齢層は「そんなの無視しとけばいいんだよ」って言うんだけど、若者層からしたらそれもリアルだし、ぜんぜん無視できないことでもある。それこそデジタルでできたムードはリアリティを持っています。

渋谷のハロウィンは今の社会の「リアリティ」を味わえる

松下:ただポイントは、そのデジタル的なムードももちろんありますし、先生がおっしゃるような対面とかオフラインのムードもあって。独立してどっちが良いとか悪いとかじゃなくて、それが相互作用し合ってるっていうのが今の社会の「リアリティ」ではないでしょうか。

すごくわかりやすい例が渋谷のハロウィンですよね。あれは別にコスプレして行くだけのムードでもないし、SNSで見ておけば味わえるっていうことでもなくて。実際に行ってSNSでシェアして、それに共感などリアクションをもらう。オフラインの対面でもリアクションがくるし、メディア上でもリアクションがくるっていう。複合的に重なってできている経験だと言えると思うんです。

デジタルツインとか5G、AR/VRなどの技術が発展してきて、バーチャル渋谷なども出てきました。複合的にムードを作っていくっていうのも、これから技術的に探られていくところかなとは思ってますね。

田中:なるほど、おもしろいですね。今、経営学の領域でも、企業カルチャーをどう作っていくのかっていうテーマはかなりホットです。

「オフラインがリアルだ」というパラダイム自体がズレている

田中:シリコンバレーとか、もともとデジタルでのコミュニケーションができてるところってそのあたりがすごくうまいんですよね。ちゃんと可視化するところは可視化して、それを行動で体現できてるかどうかをちゃんとチェックできるような仕組みになっている。

一方、特に日本の重厚長大系の企業のように、「自分たちはうまくやれてるよね」みたいなゆるふわな空気の中で今回のコロナに突入して、組織があんまりうまく機能していない現状を目の当たりにして、慌ててどうしようという議論がなされてますけど、冷静に見ると、もともとうまくいってなかったチームの問題点がここにきて顕在化しただけ、と捉えることもできますよね。松下先生のおっしゃる「リモートネイティブ」の子たちが入ってきた時に、なかなか対応できる組織的な受け皿がないってことかもしれないですよね。

だからやっぱり、オフラインがリアルっていう暗黙の前提があって、そこにオンラインを乗っけているという、パラダイム自体がもしかしたらもうずれているのかもしれない。リアルっていうのは、オンラインもオフラインもないことですよね。

松下:そうです、そうです。

田中:なんなら、むしろデジタルをリアルと捉えてる世代が、これからの社会の中心になっていって。そこにオフラインを乗っけていくみたいなことになりますよね。

アイデアが「重なる」ことで新しい発見が生まれる

司会者1:先生方、ありがとうございました。すごくおもしろいお話でした。今、mctでもカルチャーコードを作ろうとしてまして。行動指針だけじゃなくて具体的な施策案も合わせて考えて、それを実行に移していこうとしているところです。上田先生、聞かれていていかがでしたか?

上田信行氏(以下、上田):いやぁ、おもしろいです! 今日は「重ねる」ことがメインテーマになってきていますよね。3人のセッションを重ねることによって新しい世界をジェネレイトしようとしようとしている挑戦かなと。普通だったら3人の違った意見を、違った角度から話をするんだけど。これはある意味、意図的に重ねてるじゃない。それがすごくおもしろいんですね。

なんとかこの3つの議論を重ねられないか、それでそこから見える景色がどういうものなんだろうか。まさに今回のセッションがスーパーインポーズしながら、新しいものをジェネレイトしていく。

今は、選択が非常に難しい時代にもなっていますね。Aですか、Bですかってなかなか言えない。だけどそれを重ねてみた時に、この中になにか見たいものが埋まってるんじゃないかなって考えてみると……いろんな人のアイデアをクラッシュ(clash)させながら、それぞれのアイデアが重なっていくところになにかおもしろみを感じますね。

今までのディベートのような、Aが勝つかBが勝つかではなくて、対話を通して止揚するのですよね。みんなの意見を重ね合わせながら新しいアイデアを生み出していこうと。やっぱりこれから、そういうようなジェネレイティブな会話が大切です。

共通項ではなく、まったく重ならない部分に発見がある

上田:そのためにはワークプレイスのあり方が、例えばオンラインとかオンサイトでどういうふうに変わっていくんだろうかとか。あるいはチームワーキングという進行形を活性化させる時に、例えばどんなかたちでフィードバッキングをすれば、重ねていけるような場を作れるのかっていうことにもなるのかもわかりませんね。

田中:おもしろいですね。

上田:重ねていこうぜって。なんでも重ねたらおもしろいんじゃないかって。

田中:「重ねる」の意味も、今日の冒頭で松下先生から伺った時に最初に感じた「重ねる」と、ここまでのディスカッションを通じて今感じている「重ねる」の意味合いがちょっと変わってきている感じがあるんですよね。もともとのイメージは、「重ねる」イコール「ベン図の重なりの部分」。この共通項を探そうみたいに感じていました。

でも、今日の話って、この3者の意見の共通項がどこにあるのかを探していこうというような話でもなくて。むしろベン図で言うと、まったく重ならないところというんですかね。その飛び地に新しい発見があったり。いかにこれを広げていけるかのような気がするんですよね。

これが上田先生のおっしゃる「認知を広げていく」ことにもつながるのかなと思って。単純な共通項探しじゃないというのが、またおもしろい発見としてあったんですけど。そんな理解でも合っているんですよね? 

松下:今のお話を聞いて、僕もまさしくそうだなと思っていて。要するに、今この瞬間とか本の内容の共通点を探るんじゃなくって、やっぱりインポート(輸入)しないといけない。本の内容や自分の考えを、ストレッチしていた時間だったんですね。

田中先生のチームワーキングと重ねる、スーパーインポーズするのに、どうストレッチをかけていこうかとか。結局そこのスーパーインポーズって、自分の範囲の中で何が重なるかを探すだけじゃなくて、重ねる。「重なる」んじゃなくて「重ねる」んですよねっていう。

そのためにこうストレッチしていくという、それはチームワーキングもそうですし、ワークスタイリングもそうですし。むしろそのストレッチを真剣に楽しくやっていくというのがやっぱりプレイフルシンキングにもつながっていくんじゃないのかなというふうには、感じましたね。

司会者1:ありがとうございます。

プレイフル・シンキング[決定版] 働く人と場を楽しくする思考法