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Future Work Styling! ~働き方とチームワークをアップデートしよう~(全7記事)

ジョブ型雇用は「自分の仕事だけやってればいい」になりがち 成果を出す組織にある、役割の「のりしろ」

リモートワークが推進される一方で、コロナ前の働き方に戻ろうと動きもある現在。自分の思うような働き方ができずに、なんとなく疲れやしんどさを感じる人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、「“プレイフル”を働き方のスタンダードに」をビジョンに株式会社mctが立ち上げた、参加型コミュニティPlayful Network主催のイベントの模様を公開。働き方やチームワークに関する書籍を刊行した3名の大学教授による、これからのワークスタイルについてディスカッションが行われました。本記事では、プレイフル(物事に対してワクワク・ドキドキする心の状態)な働き方を促すポイントや、働く上での「重ねる」という考え方について語られました。

働き方も二者択一ではなく、「スーパーインポーズ」して考える

上田信行氏(以下、上田):僕の『プレイフル・シンキング』の中でも、意見とかが衝突するという「クラッシュ(clash)」という概念が大きな位置を占めています。

COMME des GARÇONSの香水に「CLASH」というのがあって、2つの違った香水を衝突させるようにぶつけ合わせてみると、まったく新しい香りが出てくる。これは「オーバーレイ(overlay:重ねる)」じゃなくて、「スーパーインポーズ(superimpose:重ね合わせる)」の感じがするんです。両方の香水の匂いもわかりながら、また新しい匂いも体験できる。そんなこととちょっと関係があるかなと。

衝突させて新しいものを作る。まったく前のものを消してしまうんじゃなくて、残しながらなにかより新しいものを楽しむ。先ほどの働き方も、「家なのかオフィスなのか」という二者択一じゃなくて、それをどう重ねていくか、そのための知恵とかが、私たちを自由にさせるというか。

松下さんがおっしゃっている「働きたいように働く」ってことは、自分がコントロールできるいろんなエレメントを自由に組み合わせながら、自分の働き方そのものを実験していく。「スーパーインポージング」も含めて、そういう楽しさがあるのではないかなと思うんですけどね。

松下慶太氏(以下、松下):上田先生、スーパーインポーズされて、今「残り4分」って指示が出たので、そろそろ田中さんのコメントに(笑)。

(一同笑)

司会者1:そろそろ田中先生にも加わっていただいて。今のお話を聞かれててどうでしたか。

上田:田中さんをスーパーインポーズしましょうか(笑)。

田中聡氏(以下、田中):(笑)。スーパーインポーズしましょうね。

会議の生産性や満足度が高まる、プレイフルな振る舞い

田中:えーっと、わたくし今はじめて「スーパーインポーズ」っていう言葉を覚えたんですけど(笑)。おもしろいですね。今の話だけでも、いろんなキーワードが出てきたなって思います。最初に松下先生がおっしゃられた、「内在と外在」というキーワードもおもしろいですね。

「スタイル」は周りに対するメッセージだって捉えれば、「プレイフル・スタイリング」は、実は上田先生のおっしゃっている「プレイフル・シンキング」のもともとの発想にも近いのかなと思ってたんですよね。

つまり「プレイフルな人」と「プレイフルじゃない人」がいるわけじゃなくて、プレイフルに振る舞うことによって自分もプレイフルになり、周りもプレイフルに変わっていくという。その発想っておもしろいなと。

少し話が変わるんですけど、松下先生はたぶんご存知ですよね。会議室に入る前のエントランスに、顔のセンサーを置いといて。ニコってして、その「ニコッと度」が本当にハッピーじゃないと、会議室に入室できないシステムがあるという(笑)。

松下:(笑)。

田中:つまり楽しいから笑うんじゃなくて、笑って顔の筋肉を緩めてあげることによって、入ってきた人たちから自然に楽しいムードが生まれていき、会議の生産性や満足度が高まるという。だから振る舞いから始まる楽しさってあるんだろうなと思ったんですよね。

松下:田中さんのお話を聞いてて、そういえば上田ゼミってワークショップって、一番最初にいつも踊ってるなって。それってそういうことなのかなと(笑)。

上田:実はそうなんですよ(笑)。

(一同笑)

田中:よく「オンライン中心のコミュニケーションになって余白がなくなった」とか言われるじゃないですか。商談や会議の前の雑談とかアイスブレイクが失われたとかって言いますよね。

例えばZoomの部屋に入る時に、ふだんはパスワードとか入れるじゃないですか。それを「笑顔にしてください」とかって言うの、技術的にはできますよね。顔を歪めながらとか、ちょっとしんどい顔をして入っこようとする上司はもれなく入室できないようにするとか(笑)。

演じ分けていた「役割」境界が、少しずつ溶け始めてきている

田中:あと、「重ねる」ってキーワードがやっぱりおもしろいなと思って。よく考えれば、私たちは社会の中で常に複数の役割を担ってますよね。多重役割性といったりしますけど、例えば、一人のビジネスパーソンを切り取ってみても、会社員であるだけでなく家庭に戻れば1人のお父さんだったり、マンションの組合員やってたり、地域のNPOの理事やってたりとか。

もともと人って、同時にいろんな役割を持っているんだけど、場面場面によって演じる役割をあまりにも器用に切り分け過ぎていた。その役割の境界が、今少しずつ溶け始めてきてるのかなと。

それをどうバランスをとるかという発想じゃなくて、「もっと肩の荷を降ろして、緩やかに重ねていったらどうなの?」というのが、松下先生の今回のご提案なのかなと思って。「重ねる」って、ちょっと気持ちが楽になる言葉ですよね。「うまくアジャスト(調整)しなきゃ」って思うよりはとても自然な言葉だな、素敵だなって思いながら聞いてました。

松下:そうなんですよね。例えば単純に、紙を重ねずにつなごうと思うと、セロハンテープでピシッと貼らないといけないんですけど。重ねていいんだったら、のりでなんとなくベタっと貼っといたらいい(笑)。そういうイメージなんですよね。

司会者1:ありがとうございます。上田先生、なにか言いたそうな。

上田:今、これこそスーパーインポーズされてますよね。例えば私と松下さんが話してるところに田中さんがバッと入って、スーパーインポーズされて、私たちらの顔もまだ映ってるわけですよね(笑)。そして次は誰かがフェードアウトして2人でしゃべるというかたち。

これは切り替えじゃないですよね。「はい、次どうぞ」じゃなくて、スーパーインポーズされてどこかがフェードアウトして、またフェードインしていくという。いつまでもどこかその景色が残ってるというのは、すごくおもしろいですよね。このセッション自体がスーパーインポージングで、このセッションが重なりあってどうのようにおもしろくなっていくかという実験でもありますよね。

田中:まさに。

司会者2:コメントにも、今まさに「miro(オンラインホワイトボード)を見ながら話を聞いてるのも、スーパーインポーズ的ですね」ってきています。いろんな新しいツールが出てきて、そういうのをパラレルにやっていくことで、そういうスーパーインポーズ的な体験が実現できるようになってきてるのも大きいのかなと思いました。

仕事の役割の間に、あえて「のりしろ」を作る

田中:スーパーインポーズとは呼んでないですけど、普段の仕事においても「つながりをあえて持たせる」のがとても大事な気がしています。今ってあまりにも仕事の役割が分割されているんですよね。「私の仕事」と「あなたの仕事」の間に重なりがなくなっていて、自ずと「自分の仕事だけやってればいい」って発想にどうもなっちゃうんですよね。

僕らの本(『チームワーキング ケースとデータで学ぶ「最強チーム」のつくり方』)ではその重なりのことを「のりしろ」って言ってるんですけど、お互いの仕事の間にそののりしろをあえて作っていくって、さっきのスーパーインポーズとか、「重ねる」っていう発想とも近いなって思っています。

松下:ジョブ型の議論も進んでたりするんだけど、「じゃあ自分のことをやっておけばチームは関係ないんだ」みたいな話になりがちで。そうじゃなくて、田中先生がおっしゃるように、「どこまでのりしろを残しながらジョブ型にするか」っていうことを議論しないといけないんだろうなと思いましたね。

田中:さきほど「重ねる」って気持ちが楽になる言葉だと言いましたが、一方で、いざ実践しようとすると、すごくストレスを生むし、時には軋轢も生まれるかもしれない。言葉を選ばずに言うと、ある意味「面倒くさい」作業でもあると思うんですよね。

だけど、その面倒くささの先にあるおもしろさとか、そこから得られるなにか新しい発想みたいなものが、まさにプレイフルになっていくんだと思います。「重ねることのプレイフルさ」を、いろんな場面で経験できるといいなと思いました。

上田:今日はこの3つの概念がうまく重なりあい透けて見えながら、トランスペアレント(transparent)というか、アイデアが重層されてきますね。プレイフルの話にいったり、チームワーキングにいったり、同時に話されているような動的な感じがしますね。

教育でも実践される「重ねる」の価値

上田:それからスーパーインポーズの話とつながるかもしれないと思っているのですが、「足場を架ける」っていうスキャフォールディング(scaffolding)という言葉がありますね。まさにこれも、重ねているんですよね。

私のイメージで言うと、「二人羽織」のようです。2人の人が重なって座り、後ろの人が前の人の手になって、例えばケーキを食べるっていうのがありますよね(笑)。あたかも1人の人のふるまいのように見えるように、後ろから抱え込むようにして一緒にやる。これは2人が重なってるんですよ。

昔、僕が手術で背中に麻酔を打たなきゃいけなかった時に、看護師さんが後ろで抱えてくれたんですよ。本当にスーパーインポーズしてくれてて(笑)、後ろで「大丈夫ですよ、一緒にいるから大丈夫」と。やっぱり後ろで支えてくれてるようなスキャフォールディングの考え方も、ちょっとこの概念とどこかでオーバーラップしている気がするんだけど。どうでしょうね。

松下:上田先生が以前にゴスペルのワークショップをされていた時、学生の後ろからプロの歌う声がバッとくると、学生はそれにすごく勇気づけられてうまくなるとおっしゃっていましたよね。それって本当に、スーパーインポーズ的なスキャフォールディングというか。

先生がおっしゃったのは身体的なものなんですけども、声をスーパーインポーズすることによって成長していくってことには、すごく重なってくる気がしますね。

上田:あの時も実は、最初はスキャフォールディングして慣れてきたらフェードアウトしていくという、フェーディングを考えて練習していたのです。この方法でやると、つまり、プロフェッショナルの人が後ろで支えてくれると、その前の学生はちょっと音程が下がったりしても、いいかたちで上に引っ張られていくのですね。この時、プロの方が「この音程の微妙なズレ、それ自体がおもしろい」とおっしゃったのでびっくりしたんですが、まさに、新しい発見でした。

つまり、前の子たちをちゃんと歌わせるために足場を架けて、徐々にプロから離していこうと思ったんだけど、実はスーパーインポーズされてる状態が逆におもしろんじゃないかと。それを聞いて「そういうこともあるんだ」と思ったんです。

松下:そうですよね、重ねることで付加価値が出るという話かなと思いますし。

役割分担をしすぎると、逆にうまくいかなくなることも

松下:あと田中先生との「接点」でいくと、僕自身も立教のBLP(ビジネス・リーダーシップ・プログラム)で非常勤講師をさせていただいてたことがありました。

その中で「チームワーキング」と「重ねる」を考えた時に、やっぱり最初の役割分担で、学生たちがすごく強調して「じゃあ私これやるから」って言うんですけど。実は役割分担をきちっとしすぎるとうまくいかないっていう状況がけっこうあってですね(笑)。

でも、完全にみんなが同じことすると、それはそれで効率的ではなくて。だから分担しつつも、「のりしろ」というか重ねる技術がうまいチームは成果が出ているなっていう印象だったんです。いかがですか、田中先生。

田中:そうですね。のりしろを作ること自体は目的ではなくて、お互いのやってる仕事に対して関心を持ったり、あるいはみんながやってることは、自分たちチームの目標に対してどうつながっているんだろうという、まさにチームの活動をメタ認知して見直していくことが大事なんですよね。その時に完全に役割を分割しちゃうと、それがなかなかできないんだと思うんですよね。

ですから「自分たちって今どこに向かっているんだろう」、その中で「自分が何をやっていて」「あなたが何をやっているのか」。この3つの問いをチームで集まったら常に必ず最初に確認するようにして、そこからお互いが今何をやってるかを共有したり、課題を解決していくことが大事だと思います。

「自分たちがどこに向かおうとしているのか」が共有されていない

田中:これは職場の定例会議とかでも一緒だと思うんですけどね。意外と「自分たちが今どこに向かおうとしてるのか」っていう視点がまったく共有されないまま、「私の仕事」と「あなたの仕事」の進捗をただただ共有する場になっちゃってますよね。

さきほどの学生チームの例でいうと、プランの提出締め切り間際の数時間前になって、みんながやってきたタスクを1枚のプレゼンテーションにまとめようとしてもぜんぜんつながらないという(笑)。「どうすんだ、これ!?」みたいなこと、よくありますよね。

あ、たぶんこうやって私たちが気持ちよくスーパーインポーズ的に話をしてしまうと、司会のみなさんが「どこで切ろうかな」って困ってらっしゃるんじゃ……(笑)。

司会者1:そろそろ、緩やかに、次のテーマにいってもよろしいですか(笑)。

上田:どこからどこへスーパーインポーズすればいいんですかね(笑)。

司会者2:ストラクチャがちゃんとある部分と、その余白の部分とを重ねながら(笑)。こういうことですもんね。

司会者1:(笑)。ありがとうございます。

プレイフル・シンキング[決定版] 働く人と場を楽しくする思考法

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