JPモルガン・CEOによる卒業式スピーチ

ジェームズ・ダイモン氏:ジョンソン学長、本日のスピーチのご依頼をありがとうございました。理事会、並びにゲイリー・ヘミンジャー理事長にも、同じく感謝いたします。卒業生のみなさん、おめでとうございます。みなさんは、自分たちが成し遂げたことを誇りに思ってください。

保護者のみなさんには、特にお祝い申し上げます。お子さんを初めて抱っこしたのが、昨日のことのように思われることでしょう。あの日の赤ちゃんは、今や学位を得た立派な若者となり、世界に羽ばたこうとしています。愛と支援を20年来注ぎ、今日、この式に参列した家族のみなさんは、その支えの成果にせひ誇りを持ってください。

みなさんと同席できればよかったのですが、残念です。Zoomでは、実際に対面する喜びまで再現することはできません。

私は過去20年に渡り、ここコロンバス市へ何度も訪れる機会に恵まれました。コロンバス市は楽しい観光名所であり、JPモルガン・チェースの最も重要なマーケットの1つでもあります。

パンデミックを逆手に取り、駐車場にソーラーパネルを設置

新型の軽量化されたモバイルやデジタル製品を開発する、チェイス・イノベーションセンターが所在し、JPモルガン・チェースの事業所が、ポラリス・パークウェイ(JPモルガン・チェース所有の商業複合ビル)のマッコイセンター内にあります。ここはニューヨークの本社よりも広く、世界各地の事業所の中でも最大規模を誇ります。

ポラリスキャンパス(JPモルガン・チェースのマッコイセンターキャンパス)の、もう1つの興味深い事実をお話しします。パンデミックで駐車場を利用する車がほとんど無い期間を利用して、ここにはソーラーパネルが設置されます。7月に設置が完成すれば、全施設の電力の約75パーセントを賄うことができます。

JPモルガン・チェースは、コロンバス市では2万人を雇用しており、民間企業としては地域の最大の雇用を担っています。まだ採用は募集中ですので、内定がまだの方、もしくは内定がすでに出ている方であっても、Webサイトにアクセスして応募してみてください。弊社はBuckeyes(オハイオ州民の愛称)をいつでも歓迎します。

JPモルガン・チェースは、進出先のコミュニティにおいて、地域の責任ある市民となることに誇りを持っています。主要企業に貢献し、地元企業に融資し支援します。後ほどみなさんがお祝いの食事をするかもしれないレストラン、シュミッツソーセージハウス(Schmidt’s Sausage Haus)も、そんな企業の1つです。

成功の秘訣は「失敗といかに向き合うか」

みなさんは、あらゆる意味で異例の1年を乗り越えた末に、この祝賀の時を迎えました。私たちは、世界規模のパンデミック、世界経済の停滞、前例の無い政策、波乱の大統領選、深く共感された社会的・人種的不正義を経験してきました。私たち一人ひとりが、それぞれの苦難を経験し、大勢の人が大切な誰かを失いました。

アメリカ全土で、持たざる人々が失業や貧困で不当に苦しみました。みなさん全員が、COVID-19で何がしかの打撃を受けているはずです。

みなさんの未来は明るいものですが、年齢を重ねるに連れ、プライベート面と仕事面の両方で、苦労や失敗があるでしょう。これは、誰しもが経験します。失敗といかに向き合うかが、成功の最も大切な秘訣です。今日、みなさんが迎える卒業そのものが、みなさんが苦難の時期を乗り越えるレジリエンスを持つ証拠です。

COVID-19パンデミックは、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争を合算したよりも多くの死者をアメリカで出し、何百万以上もの人が、あっという間に経済的打撃を受けました。ジョージ・フロイドの殺害事件は、この国で何百年も続いた人種差別をあらわにし、続く人種不安(アメリカにおける人種差別反対運動)を巻き起こしました。

騒乱の2020年の大統領選は、国会議事堂への襲撃をもって終幕し、アメリカにおける民主主義の機能に対する疑問を叩きつけました。みなさんは、これから出ていく世の中について、よく理解をしておく必要があります。今日のアメリカやその他の国々では、山積みの重篤な問題に取り組んでいる最中です。

アメリカが抱える問題と、強大な経済力の要因

ほんの一例として、資本主義とその他の経済システムとの対立、健康保険へのアクセス、移民政策、アメリカ社会におけるビジネスの役割、そしてアメリカがどのように世界のリーダーシップを執るか、そもそもリーダーシップを執ることができるのか、などの問題が挙げられます。

私たちが直面している問題を把握することは大切ですが、アメリカが有する強大な力を認識する必要もあります。この国は、潤沢な食料・水・エネルギーなどの資源に恵まれた国土、太平洋と大西洋という自然の要害、カナダとメキシコというすばらしい隣国を持っています。

またアメリカは、言論の自由、信教の自由、自由主義経済、平等と機会均等の保証などの原則の上に成り立つ国です。その恩恵により、アメリカは世界で最も強力な経済大国となり、大小の活発な企業、優秀な大学、イノベーションや科学、テクノロジーを大切にする環境が育まれたのです。

アメリカはこれまでも、そしてこれからも世界にとって希望の光であり続け、世界のトップクラスの優秀な人材を引き寄せる磁力を持ち続けるでしょう。

成人の42パーセントもの人が「肥満」を抱えている

素晴らしさを讃える一方で、この国の欠陥も認識する必要があります。みなさんは幸運にも、立派な大学で一流の教育を受けて卒業できますが、今日のこの国では、すべての人が同じ機会に恵まれているわけではありません。

アメリカの高校を卒業する学生はおよそ85パーセントですが、低所得地域では半分にも満たず、生活力に繋がる教育を受けることすらできません。わが国の教育システムでは、すべての国民に均等な機会が供されているとは、断じて言えません。

また、わが国の健康保険制度は、すべての人に適切に運用されるべきです。近年、わが国の平均寿命は低下しています。これは、この国における健康面での課題がもたらした状況です。

肥満は、糖尿病、がん、脳卒中、心臓病やうつの主な危険因子です。国内の成人の42パーセント、小児の20パーセント近くが肥満に苦しんでいます。これは、もっと大きな注目を集めるべき課題です。

私たちは、重篤なサスティナビリティの問題を抱えています。気候変動は、私たちの時代における危機的な問題です。温室効果ガスの排出削減には、官民のセクターが集合的野心を持って手を結び、協働して当たる必要があります。私たち自身や子どもたち・子孫のため、そして地球で共に生きるすべての生き物のために、世界をよりよくする必要があるのです。

「わずかな報酬にも、大発見と同様の満足感がある」

問題解決のカギは、新しいテクノロジーの力の活用です。テクノロジーの進歩には、適切に管理するべき「負の側面」があることを忘れてはなりません。しかし、人類の進歩には(テクノロジーが)不可欠です。テクノロジーは何百年もの間、世界中の人々の生活水準の向上、コミュニケーションの発達、利便性の向上を進め、社会の変化を促して来ました。

若い人たちが果たせる役割とは何か? というお話をしましょう。みなさんが卒業するのは、世界中の経済や政治が極めて不安定な時代です。でも、両親や祖父母・祖先も、同じ状況だったことを覚えておいてください。

不確実な未来に少々気遅れするのは、誰にとっても自然なことです。でもみなさんには、これがすばらしいチャンスだと考えてもらいたいのです。

オハイオ州生まれで、月面を最初に歩いた二ール・アームストロングの言葉に耳を傾けてください。アームストロングは、50年前にオハイオ州立大学卒業式でスピーチを行い、永遠の真理を述べました。「わずかな報酬にも、大発見と同様の満足感がある」。

みなさんが人生の次のステージへと移る時、「世間は大学とはまったく異なる」と警告されたことでしょう。確かにそのとおりです。

他人にアドバイスするのは嫌いです。なぜなら、あたかも自分が完璧な人生を送ったかのようだからです。でも、そんなことはありませんでした。いずれにせよ、私が送った社会人としての40年間のアドバイスをみなさんに贈りましょう。

学びは生涯続きます。絶え間なく学ぶのはみなさんの責務であり、大学を卒業したからと言って終わることはありません。人生で何をしようとも、成功するには学びを続け、知的好奇心を絶やさないことが不可欠です。

読書以外の唯一の学びの手段は「他者との会話」

私は現在でも、人生の時間の50パーセントを読書と学びに費やしています。歴史書は魅惑的です。シェイクスピアは人間の本性が何たるかを教えてくれます。朝刊は時事と世界情勢を伝えてくれます。

読書が教えてくれるのは知識だけではなく、思いやりや組織のあり方、職場の人間関係などです。世界が複雑化し、急速に変化する昨今において、こうした事柄はますます重要性を増しています。

他の学びの方法……。いいえ、読書以外の唯一の学びの方法とは、今日見過ごされがちな手段である「他者との会話」です。理想としては、対面が望ましいです。他の人と15分会話するだけで、他の手段と比較して、はるかに得るものがあります。

一流の人々を観察すれば学びを得られますし、困難な状況下で彼らがどのように行動するかがわかります。私は人を観察することにより、やるべきこと・やるべきでないことを多く学びました。

私たちはみな、先達の肩を借りて生きています。過去の人々がみなさんの道を作ってくれたことを認識すれば、おのずと謙虚になります。成功をすべて自分の手柄だと錯覚しないようにしてください。みなさんの成功は、ご両親や家族が、みなさんのより良い人生のために、自分の生活を犠牲にした上での成果です。

ここオハイオ州立大学で、指導教授や大学アドミニストレーターがみなさんを支えてくれたおかげであり、友人や隣人たちがみなさんを気にかけ、励ましてくれたおかげなのです。

事実、私たちが恵みを享受しているこのすばらしい国は、私たちが生まれる前から、多くの人々が永続的な究極の犠牲を払って形作られたのです。これらの人々の業績に敬意を払い、感謝しなくてはなりません。

CEOから店員まで、すべての人に思いやりと敬意を

世界でも最高レベルのこの大学の卒業生として、みなさんは意義のある人生を送り、他者に貢献できるだけの力を持っています。実践するには、品格と寛容な精神が要求されます。CEOから店員に至るまで、すべての人に対する思いやりと敬意が必要となり、人に恩返しをすることが要求されます。

私の敬愛する、ラドヤード・キップリングの詩にはこうあります。「もし周囲のみんなが激高し、あなたを非難しても、冷静でいられるなら。人々と話をしても、自分の美徳を失わずにいられるなら。庶民の感覚を失うことなく、王と歩みを進めることができるなら。あなたは世界を手に入れる。すべてはそこにある」。

一流の大学教育で武装した若者でいられるのは、胸躍る瞬間です。世界はチャンスに溢れています。みなさんはさまざまな方法で、この国や他国を豊かにしてくれることでしょう。

100年前のオハイオ州立大学長、ウィリアム・オクスリー・トンプソンは、卒業していく大学生へのスピーチで、今日でも真実であることを語りました。「大学を卒業する者とは、無関心ではなく寛容であり、偏狭ではなく誠意があり、思い上がることなく力があり、怯えることなく警戒を怠らない国を作るため、頼るべき人材である」。

みなさんは自分の人生を歩むにあたり、この国のことを心に留めてください。みなさんがどのような仕事をし、どのような業績を上げようとも、みなさんが接するすべての人や物事が、今日よりも良くなるようがんばってみてください。

そうすれば、みなさんは望む人生を得られるだけでなく、まだ見ぬ世代のために、この国と世界をより良い場所にするための一役を担うことができるでしょう。ありがとうございました。みなさんの幸運と幸福を祈ります。信念を持ち続けてください。