
2025.03.07
メール対応担当の8割以上が「カスハラ被害」に クレームのハード化・長期化を防ぐ4つの対策
リンクをコピー
記事をブックマーク
大澤孝氏:そして、極意のその2。
おもちゃの発想はブレストもやるんですが、それ以上によくやることがあります。それは何かというと「ユーザーの観察(子ども調査)」。
(動画を流しながら)これは子ども調査の様子なんですが、トミカですね。トミカを調査した時の様子なんですが、こんな感じでトミカをいっぱい並べて、その様子を見ます。子ども調査をする時は基本的に、(子供に)話しかけないんです。子どもが勝手にやってるところを、黙って見てるような感じのことをやります。
で、次がプラレールですね。プラレールの調査もけっこうおもしろいので、見てください。開発してる人は「プラレールってこうやって遊ぶだろう」っ思っているんですが、実際(調査を)やってみると意外と、例えばレールがあるんだけど使わなかったりするんです。勝手に床で遊んだりとか、とにかくなんでもいいから長くつなげたりとか。
とにかく作り手の「こうやって遊ぶだろう」という想像と、ぜんぜん違うことを子どもたちはやります。なのでそれを見ながら、子どもたちのやることに合わせてものを作っていくんですけど、ポイントはこっちから誘導しないことです。とにかく黙って見てる。そうすると本当に子どもたちが、大人の想像しないような……「こうするために作ったもの」だったりするんですけども、そうじゃない使い方をしたりします。それを見て「これってこういう使い方できるんだから、こういう商品出そう」みたいなことをやっていくんですが。こうやって黙って、やってるのを見ていくっていうのはすごく大事な作業として、たびたびやってます。
リカちゃんの時もやってますね。こんな感じでリカちゃん人形なんかをばーっと渡して勝手に遊ばせると、本当にぜんぜんこちらが想像しないような遊び方をしたりとか。あとすごく小物に興味持ったりとかね。我々が想定しないようなことをするというのがあるので、こういった子ども調査というのを、たびたびやってます。
なんでこれをやるかというと、大人だったら聞けばいいんですよ。「どうなの?」って聞けばいいんですけど、子どもって「どうだった?」って言うと、なに聞いても「おもしろい!」って言うから、わからないんですよね。なので、聞かないで観察するっていうことをすごく昔から、もう50年ぐらい前からやっています。そういう文化。観察をして、モノ作りをするっていう文化でやってます。
観察してモノ作りするのは何かというと、はやりの「デザイン思考」。これと同じものなんですが。実はデザイン思考がはやったのは2000年以降なので、その前からデザイン思考的なことをやっていました。
デザイン思考は最近すごくニーズがあって、僕もよく講師をやらせていただくんですけど。「何の話しますか?」って言うと、だいたい「デザイン思考の話で」ってお願いがあって、デザイン思考だけでも本当にすごく長くしゃべれちゃうものなんですが。この「デザイン思考の考え方」というのがすごくおもちゃと近いので、話をさせてください。
デザイン思考って何なのか? 意外とわかるようでわからないと思いますが「デザイナーがアイデアを考える時の、発想のプロセスをかたちにしたもの」がデザイン思考です。おもちゃの考え方とすごく近いです。デザイナーがデザインを考える時にどうやっているのか? ということを体系立てて、それをビジネスに使ったのがデザイン思考です。
じゃあなんで、このデザイン思考というのが2000年代にはやったか? というと、また歴史の話になっちゃうんですが。僕も生まれる前ですよね、昔々は「三種の神器」みたいなものがあって、誰もが同じものを欲しがってたんですよね。欲しいものは何か? といったら「テレビが欲しい」「冷蔵庫が欲しい」「洗濯機が欲しい」みたいに決まってました。これ50年代らしいです。
60年代では「3C」というのがあったらしいんですが「カラーテレビ」「クーラー」「自家用車(カー)」みたいに、誰もが同じものを欲しがっていた時代。つまり、まだモノがなかったんですよね。モノがなくて、それを人が欲しがった時代なので、作るのは非常に簡単でした。みんなの欲しいものは決まってますから、じゃあカラーテレビ作ればいいんですよね。「もっといいカラーテレビ作ればいい」とか「もっと安いクーラー作ればいい」みたいに、メーカーはユーザーが欲しいものを作れば売れた時代です。この頃は本当、日本が世界一のモノ作り大国だった頃なんですが。
当然、僕もその時代じゃない時代にモノ作りしてるんですけど、21世紀になったらモノが溢れちゃってますよね、世の中。溢れちゃってて、人々の欲しいものが同じじゃないです。バラバラです。なのでさっきも言いましたが、潜在ニーズ。ニーズを聞いてもわからない、みんなバラバラなので、もう「どんなものが欲しいか?」と仮説立てて作るっていうのをスピーディにやっていかないと、追いつかない時代になってきました。昔みたいに、研究開発に時間かけて同じものを作っていくんじゃなくて、ニーズを探して作って出していくっていうのを、ぐるぐる回していかなきゃいけないっていうことがあって。デザイン思考という考え方が急に、2000年代になってはやったというか、求められた理由だと思います。
これで作られたものが何個かあるので簡単に説明しますと、例えばiPodというのがはやりましたけども。これは何かというと、じつは当時、iPodより性能の良いプレイヤーっていっぱいあったんです。たくさんあったんですけど、なんでこれが売れたか? っていうと、Appleはデザイン思考的な考え方でユーザーを見たとき「なんでみんな今までのMP3プレイヤーを使わないか?」っていうと、性能に満足いかなかったんじゃなくて「CDのデータをここに入れるのが、かったるかった」んです。
これが原因だってわかったので、Appleはそこを研究して、いかに簡単にそこに入れることができるか? っていうことをやりまして。で、アプリのほうですかね。こちらをがんばって作ったので、簡単に曲を入れられるっていうことで、そのプロセスを簡単にしたことによって、選ばれるようになったと。iTunesの開発が一番の大きな発明だった、と言われています。
これはブラウンのIoTの歯ブラシなんですが、普通、IoT歯ブラシっていうと、性能の良い歯ブラシを作って「磨き残しゼロ!」みたいにやりたがるんですが。最初、ブラウンもそういうものを作ってユーザーの調査をしたら、ユーザーはそんなの別に求めてなくて。「ブラシがボロくなったら新しいものが欲しいけど、それを頼むのが面倒くさい」っていうのがわかりました。
我々もそうですよね。歯ブラシがボロくなったら買いに行くのかったるいんですけど、これはそこがポイントだってわかったので「歯ブラシが古くなったら、自動的に歯ブラシを注文するような機能」がついてます。なので、ちょうどいいタイミングで新しい替えの歯ブラシを送ってくるっていうことをやって、それで売れたというものです。
Wiiも同じですね。これも当時、PlayStationのほうがぜんぜん性能は良かったんです。けども、なんでゲームで遊ばなくなってるか? というと「家族で遊ぶ時間が減るから」っていう理由で、親がゲーム機を買わないとわかった。そこでWiiは「じゃあ家族で遊ぶゲーム機だ」という定義にして、パパとかママでも、ゲームが苦手な人なんかでも遊べるようなものを作ったから売れた、ということで。これもじつは、デザイン思考的な考え方で作られたと言われています。
これはぜんぜんプロダクトじゃないんですけども、Bank of Americaの「Keep the Change」というのも、デザイン思考の例だと言われていまして。向こうのママたちが貯金をする時に、端数を全部バッファとして見てたと。例えば「~59円」だったら、59円を家計簿につけないで、そこはもう自分の小遣いとしてバッファにしてたというのがわかったので。このサービスは、支払いする時に端数を勝手に貯金するような感じのサービスになっていて、気がついたらお金が貯まってるみたいなことをやって、はやったと言われています。
というふうに、人間を中心にして問題解決するというのがデザイン思考の本質だし、じつはこれっておもちゃ(業界)はずっと前からやっていたよね、ということです。
その例として、例えば「リカちゃん」という人形。今でも売ってますが。これはじつは、デザイン思考が出る前からデザイン思考で作られてまして、もともとリカちゃんの前に、タカラが海外の「バービーちゃん」のハウスを作ったんですよ。ただ、日本の住宅ってすごく狭いので。バービーちゃんってデカいんですよ。バービーちゃんの人形って、六畳間に置くにはデカすぎるんですよね。
っていうのが観察でわかったので「じゃあ、ちっちゃなハウスを作ろう」。そして「ちっちゃなハウス用の人形を作ろう」っていうふうに作ったのが、このリカちゃんなんですよ。なので「日本の住宅事情を見たうえで作った小型のドール」ということで、日本で非常に売れたんですけど。これって、今考えるとデザイン思考なんですよね。
なので、デザイン思考的な考え方がおもちゃの根幹だし、逆に言うと、そういう考え方をしていけばヒット商品ができるんじゃないか? ということで、極意その2は「観察を起点にしてアイデアを考えよう」ということです。
(50、60年代のように、みんなが同じく欲しいのは)「良いテレビ」じゃないです。観察を起点にすることによって、アイデアを考えていく。さっきのリカちゃんで言うと、実際「このハウス、デカすぎるよね」っていうのを見て、ここからアイデアを考えるということが必要だと思います。これ、別におもちゃじゃなくて、なんでもそうだと思いますね。なにか様子を観察して、そこから起点にしてアイデアを考えていくということを、できるようになっていただきたいと思います。
ヒット玩具「ビーダマン」を生んだ、ある開発者の発想の転換 「ゲームにパイを奪われたなら、そのキャラを玩具にしたら?」
“おもちゃ業界の敵”から着想を得て誕生した「ベイブレード」 80ヶ国で3億個も売れた理由は「コマと○○」の組み合わせ?
ビー玉・ベーゴマ・ヨーヨーが続けて売れた、男児向け玩具業界 同じく“伝承玩具”である「メンコ」は、なぜヒットしなかった?
なぜか北米でバカ売れした「人形が回転するだけ」のおもちゃ 開発者の手応えと無関係に、売れたり売れなかったりする玩具たち
「昭和の銃型おもちゃ×現代のバトロワゲー」で生まれた新玩具 試作品がめちゃおもしろかったのに、商品化できなかった理由
おもちゃの開発者は「ひらめき」を待ってたら仕事にならない? アイデア=平凡な案の量産が生む、既存の要素の新しい組み合わせ
「海外製の人形って、日本の六畳間にはデカすぎるよね?」 とある国民的女児向け玩具を生んだ、デザイン思考的な発想
おもちゃとは、人の感情をプラスに動かすプロダクト? 「課題解決型のアプローチ」では生まれにくい、ユニークな発想
2025.03.07
部下へのフィードバックで最初に伝える一言 何度も指摘せずに済むマネジメントの秘訣
2025.03.05
「一人前のエンジニア」になるために必要なこと 未経験からフルスタックエンジニアへの道筋
2025.03.12
SNSで炎上している研究者は「研究者として正しい」 人文学のプロ・阿部幸大氏が説く“強い意見を出せない時代”に対する考え方
2025.03.04
チームが協力しないのはマネジメントの問題 “協働意識”を高めるマネージャーの特徴とは?
2025.01.07
1月から始めたい「日記」を書く習慣 ビジネスパーソンにおすすめな3つの理由
2021.09.30
「なぜセーラー服で出社してはいけないの?」 さくらインターネット・江草陽太氏の自由な発想の源
2025.03.12
新規事業を継続するかどうかを見極める2パターンの判断軸 会社の規模別「撤退基準」の設け方
2025.03.11
自分よりできる人を採用し、ゴリ押しで権限委譲 東大発スタートアップに学ぶ、組織を伸ばすマネジメント
2025.03.03
大企業で成功したマネージャーが中小企業で苦戦する理由 “指示待ち”部下を主体的に動かす方法
2015.11.24
人は食事をしないとどうなるか 餓死に至る3つのステップ