「アイデアマン」って、いったい何?

大澤孝氏:今のことをやりながら、最初に言ったように「なんでおもちゃって売れるのか?」というのを考えていく中で、発想法をいろいろ考えました。その極意を今日は話すんですが、やっぱり全部話すと長くなっちゃうんで、3個を抜粋しました。1つにまとめないで極意1、極意2、極意3でまとめたので、その3個の章で話をさせていただきたいと思います。

さっそくいきます、極意1です。セミナーをやる時に必ず聞くんですけど「みなさんアイデアマンですか?」って聞くとですね、みんな手を挙げないんですよね(笑)。大学とかで100人ぐらい居ても、1人いるか2人いるかぐらいなんですが、本当に日本人ってみんな謙虚だなと思います。あとで話すと、みんなすごくアイデアがあったりするんですが。僕が思うに「アイデアマンというものが何なのか?」がわかってないから、手を挙げないんじゃないかなと思ってます。なので、アイデアマンって何なのかを説明しますね。

アイデアマンというのは、すぐになれるものじゃないです。「アイデアマンになるにはどうしたらいいですか?」ってよく聞かれるんですが、近道はないんですよね。近いのは、筋トレみたいなものだと思います。誰でも鍛えればマッチョになれますが、一朝一夕ではなれない。結局は日々、地道にトレーニングしていくしかない、ということがアイデアマンかなと思います。

が、逆にちゃんとやっていれば、絶対に何年後かには成果が出るものだと思います。Twitterと近いですかね(笑)。Twitterでも同じようなこと言われますけど、そんなもんです、結局。継続しかないということです。

アイデアとは「ひらめくもの」ではない

そもそも、アイデアマンの話をする前に「アイデアって何なのか?」っていう話をしたいと思います。アイデアっていうと一般的に、こんなようなことをよくみんな思うんですよね。「ひらめくもの」「神さまが与えてくれるもの」がアイデアだと。つまり「自分には神さまが降りてこないから、自分はアイデアマンじゃないんじゃないか……」って思ってるんじゃないか? と、僕は思いました。

なんですが、ぜんぜんこういうものではないんですよね。いいアイデアというのは、沸いて出てくるものじゃないです。これ(湧いてくるの)を待ってたら本当、仕事にならないんですね。じゃあ何なのかというと、これです。一番大事なんですけども「つまんないアイデアをどんどん出していく過程で、偶然出てくる」のがいいアイデアです。つまりアイデアというのは、平凡なアイデアを出す過程で生まれるものです。

これが本当に、アイデアを語る中では一番大事な言葉なんですけど。アイデアというのは何かというと「既存の要素の新しい組み合わせである」と言われてまして。この本はぜひ、読んでなければ本当に読んでいただきたいんですけども。『アイデアのつくり方』という、ジェームズ・ウェッブ・ヤングという方が書いた本で。アイデアの本っていっぱいありますが、一番尊い本ですね。僕もこれはいつも近くに置いてるし、人に渡したりしてるんですけども、本当にいい本なんです。

アイデアのつくり方

ここに書いてあるのが有名な言葉で、この一節です。「アイデアというのは見たことのないようなものではなくて、見たことのあるものの組み合わせである」ということですね。じゃあアイデアマンって何かというと、結局はこういうことです。「たくさんのアイデアを出せる人」これがアイデアマンです。なのでひらめいておもしろいことを言う人がアイデアマンではなくて、たくさん出せたらその時点でアイデアマンなので、そんなにハードル高くないんですよね。

なので天才がアイデアマンかというと、そうでもないということです。これ、僕のTwitterにも書きましたけど、大喜利とかあるじゃないですか。松本(人志)さんとかが、おもしろいことを言って「あれが天才だ!」ってなっちゃうから、みんな(アイデアマンは)天才だって思っちゃうんですけど、ぜんぜんあれだけがアイデアマンというわけではないです。あれもアイデアマンですが、ああいうのじゃなくてぜんぜんいいんですよね。あれは本当に短い間の、短距離走だからああなってるだけの話で。アイデアマンというのは「つまらないことをいっぱい書ける人」だというのを、ぜひ覚えてほしいです。

情報と情報がくっついた時に生まれるのが、アイデア

(スライドを指して)普通の人の頭の中って、こうなってます。情報が数少ないですし、情報同士が離れてますが、トレーニングをしていくとどうなるかというと、たくさんの情報が頭の中に入ります。これが、すぐにどこに何の情報があるかが取り出せるようになってます。そしてアイデアマンは、アイデアとアイデアが、情報と情報がくっつく瞬間があります。なにか新しいことを聞いた時に、情報がパッと思いつきます。そしてこの情報と情報がくっついた時に生まれるのが、アイデアです。

なのでアイデアマンというのは何かというと、たくさんの情報が入っていて、なにか外から刺激を受けたら、その情報と刺激を組み合わせてアイデアを出せる方。これがアイデアマンです。繰り返しになりますが、アイデアというのは既存の要素の組み合わせに過ぎない、ということを覚えておいてください。

既存の要素の組み合わせで生まれた、大ヒット商品の例

これの証拠を出しますが、例で言うとさっきの「ベイブレード」ですね。さっき言ったように、ベーゴマにカードを合わせたものが「ベイブレード」です。これだけ見たらすげぇもの作ったように見えますが、中身にしたらなんてことないですね。伝承玩具に当時はやってるものをくっつけただけですので、ただの組み合わせがたまたまうまくいったってことですね。

次はちょっとわかんない人もいるかもしれない、(参加者層が)若いので。90年代の話なんですが「癒し」ブームというのが当時ありまして。飯島直子とかわかるかな? で、その癒しブームの時、当時の僕の先輩から聞いたヒット玩具の話なんですが「癒しのおもちゃを作ろう」って、その先輩が90年代に考えてまして。

で、その当時たまたま目に入ったのが、店頭のPOP。「新商品!」みたいな部分がソーラーで自動で動くようなPOPがあって、それを見た時に「これだ! これとこれを合わせて作れる」って考えたのが、この「のほほん族」っておもちゃで。見たことあるかもしれませんけど、これソーラーで動くおもちゃなんですよ。これを作った方が僕の元上司で、すごく尊敬してる方なんですが。

「なんでこんなの作ったんですか?」って聞いたら「実はこんななんだよ」と。なるほどね、と。結局、あるものの組み合わせなんだよね、ということでネタをバラせばそうなんですけど。やっぱりこういうのって、常にその人も「なにかないか?」って街中歩いてたから、たまたま目についたわけで。アイデアマンというのは、そういうふうに常に情報をたくさん求めてるし、くっつけるようになってるってことだと思います。

最後、わかったらぜひ答えていただきたいんですが。「ゲームウォッチ」って、昔あったアナログゲームなんですが。これを復活させようと、同じく90年代に思った方がいまして。その方がたまたま見たのが「アクアゾーン」という、スクリーンセーバーですね、パソコンの。スクリーンセーバーの中で熱帯魚を飼うっていうのがはやったことがあるんですよ。この2つを見た時に、ある人が気づいて、ヒット商品が生まれましたが。さぁ、なんでしょうか?

参加者:「たまごっち」。

大澤孝氏:あぁ、すばらしいですね。拍手。そう。「たまごっち」なんですよ。この人、横井(昭裕)さんっていう方なんですけどね、公民館みたいな所で話してるの聞いたんですが。なんでこんなのできたか? って、気になりますよね。聞いたらこういうことで。「たまご」と「ウォッチ」で「たまごっち」なんですが「ウォッチ」は「ゲームウォッチ」の「ウォッチ」らしいです。

で、この「ゲームウォッチ」を復活させようとした時に、たまたま「飼う」というコンセプトをつけて作った、ということなので。見れば「なるほどね」と思うけど、ここ(「たまごっち」)だけ見たら、天才ですよね。なんですが、その人も当然、外れたものもいっぱい作ってるので。やっぱりひもとくとこうなってるし、たぶん世の中の大抵のものって、よく見たらこれなんですね、なにかくっついてるものなので。これがとにかく、当たればヒットになるということです。天才じゃなくてもできるってことですね。

これもTwitterで書きましたが、孫正義さんが若い頃に行ってたことがありまして。孫家秘伝の発想法というのがあったらしいんですけども、単語帳ありますよね。単語帳にいろんな単語をランダムに書いて、それを毎日必ず適当に拾ってきて、そこからアイデアを考えて事業を出すっていうことを、学生の頃ずっとやってたらしいんですよ、孫さん。

たまたまその時に「自動翻訳機」ってテーマが出てきて。「自動翻訳機っていうアイデアはすばらしいな」と思った孫さんが特許を取って、それを売ってできたお金でソフトバンクの前身を作ったみたいな話が、本当かわかんないですけどあるぐらいで。孫さんほどの方でもやっぱり、こういう組み合わせで作っていたというのがあるので、ある意味、誰でもできることですよね。なので組み合わせで作ることをやれば、誰でもアイデアマンになれるということがわかるかと思います。

アイデアをたくさん出すための、3つの手法

とにかくいっぱい出します。そこから絞って、広げて、絞るということをやっていくと、やればやるほど濃いアイデアが出てきますので。たくさん出して絞ったものは必ずいいものになってきますので、とにかくこの過程の中で出てきたものは、すばらしいアイデアになっていく。

とにかく、1にも2にも「たくさんアイデアを出していく」のが大事ということです。なのでアイデアマンになるためには、まずはコンスタントにたくさんのアイデアを出すようになることが大事だということです。おもしろいことを考えようと思ったら出てこないですけど、たくさん出そうと思ったら出てきますよね。これが大事です。これをやれればアイデアマンになれますので、ぜひやってください。

Tipsみたいな感じで、どうやったら出るか? というのを、3個だけ簡単に説明しますね。どうやってやってるかですが、1つはブレストです。やっぱり、これに限りますね。おもちゃ会社なんか、ほとんどブレストしかやってないです。1日ブレストです、本当に。「ブレストに始まってブレストに終わる」みたいな感じで、人数が揃ったらまずやるのがブレストなんですが。

昔はよく、模造紙を使ってました。模造紙ってすごく良くて、ホワイトボードもいいんですけど、何枚も何枚も書いたら消さなきゃいけないんですよね。模造紙って前のを残していけるので、紙に貼っていって前のも見られるので、そこからまた(アイデアが)ふくらんだりするので。おすすめは模造紙、もしくはすごい広いホワイトボードスペースで、昔のが消さなくて書けるようなもの。そういうのがおすすめです。

なるだけ前のを見ながらやっていくと、アイデアに詰まったら昔のが見られるのでいいかなと思います。タカラなんか、タカラのマークが入った模造紙があったぐらい、めちゃくちゃ使ってるって感じです

これもTwitterに載せましたけども、ブレストもルールがあるので、ルールに則ってやってください。「いい・悪いの判断をしない」とか「自由奔放に考える」「たくさん出す」「便乗する」みたいにあるので、ブレストのルールみたいなものに則ってやっていくと、すごくいいかなと思います。これはTwitterに載ってるので、ぜひ。ブレストのルールとかも覚えておいてください。

2個目は「マンダラート」ですね。これも『アイデア総研』のほうに載ってるので、よかったら見ていただきたいと思いますが。曼荼羅っていう模様がありますが、この曼荼羅みたいにアイデアを出すのがマンダラートです。ブレストは何人かいないとできないんですけど、これは1人でできるので、ぜひ覚えておいてください。

すごくシンプルです。3×3の線を引きまして、真ん中に考えたいテーマを書きます。例えば「緑茶」とか書きます。その「緑茶」から発想することを、9個書きます。「香り」「色」「癒し」とか書いてます。次に、その9個書いた中の1つを真ん中に置いて、さらに9個書くみたいな感じで、どんどん展開していきます。

例えばおもちゃで「新しい人形」を考えましょうっていうと、いきなり考えるのはけっこう大変ですが「『人形』で思いつくものをなにか9個書こう」と。「素材」とか「大きさ」とか「匂い」とか「色」とかなんでもいいんですけど、9個書いたとしましょう。

「人形」を構成する要素みたいなものを書いて、次に例えば「素材」っていうのをピックアップしましょう。「素材」を真ん中にもってきて、こうします。

「素材」からまたこういう感じで書いていきます。こうすると例えば「砂」の「人形」みたいな感じで考えると「『砂人形』って何だろう? 中に砂を入れた人形作ったらどうだろう?」とか、全部できますよね。「布」とか「ビニール」とか「草」とか。「草」だったら草の中でも「牧草」とか「納豆」とかいろいろ出てきますよね。「納豆ドールっていいよね」みたいな感じになれたらいいですよね(笑)。

(会場笑)

そんな感じに無限にアイデアが出てくるので、このマンダラートというのはすごくおすすめです。

最後に3個目ですね。これもこの前Twitterで流しましたが、ちょっとやってみましょうかね。「ランダムウィキペディア」。情報の組み合わせなので、なにか組み合わせる対象におもしろいものを使うと、おもしろいものが出てきますよ、ということで。アイデアを発想するヒントを探すためにウィキペディアを使いましょう、というものです。

スマホがあったらカメラでピッと読むと……QRコード、読めますかね。これを読むとページが開きますね。これは何か? というと、出てくるページがみんな違います。私は『とんでもスキルで異世界放浪メシ』。漫画ですね、たぶん。これ、みなさん違うのが出てきます。毎回違うのが出るんですが、例えばさっきの「人形」で言うと「人形」と「異世界」。「異世界人形」はどうだろう、とかね。「メシ」の件はどうだろう、エルフが出てくるならエルフの人形はどうだろう……みたいにいろんなヒントが、単語から出てくる感じですよね。

なので、これでアイデアを発想すると、たくさん出さなきゃいけない……例えば100個考えなければいけないって、けっこう最初はつらいんですけど、とりあえずこれをやればなにか思いつきます。というので僕もこれはよく使いますが、とにかく上司に「数出せ!」って言われたら、このランダムウィキペディア。ぜひ覚えておいていただたらと思います。

「ウィキペディア ランダムページ」とかでも出てきますし、あと僕のTwitterにも載ってるので、ぜひそのへんも見ていただけたらと思います。とにかくこれでインスピレーションを、なんでもいいのでどこかからなにかの単語を見てね。「スコーピオン」でも「爆発」でもなんでもいいですから、なにかからやると意外とヒントが見えてくるので。「そのウィキで出たもの」×「テーマ」という感じで、アイデアを考えてください。

ということで極意1は「とにかくたくさんのアイデアを出す」ということになっています。あと20分ぐらいで終わると思うので、もうちょっと付き合ってください。「たくさんのアイデアを出す」というのが極意の1です。とにかくたくさん出せ、というのが1つ目です。