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現役トイクリエイターがおくる!“社内外から引っ張りだこになる”おもちゃ流アイデア発想の極意(全8記事)

「海外製の人形って、日本の六畳間にはデカすぎるよね?」 とある国民的女児向け玩具を生んだ、デザイン思考的な発想

大手玩具メーカー勤務時代に「ベイブレード」「夢見工房」「人生銀行」など数々のヒット商品・話題商品の企画開発に携わった、アイデア発想の専門家であり、トイクリエイターであり、アイデア共創コミュニティ「アイデアステーション」代表でもある大澤孝氏。本記事では同氏登壇の、サンクチュアリ出版で開催されたイベント「現役トイクリエイターがおくる!“社内外から引っ張りだこになる”おもちゃ流アイデア発想の極意」の模様を公開。本パートでは「おもちゃ流アイデア発想の極意その2」などについて語られています。 ※講演者個人の見解です。記事中に登場する企業、団体の関与するものではありません。

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子どもの調査で大切な「何も聞かずに観察する」姿勢

大澤孝氏:そして、極意のその2。

おもちゃの発想はブレストもやるんですが、それ以上によくやることがあります。それは何かというと「ユーザーの観察(子ども調査)」。

(動画を流しながら)これは子ども調査の様子なんですが、トミカですね。トミカを調査した時の様子なんですが、こんな感じでトミカをいっぱい並べて、その様子を見ます。子ども調査をする時は基本的に、(子供に)話しかけないんです。子どもが勝手にやってるところを、黙って見てるような感じのことをやります。

で、次がプラレールですね。プラレールの調査もけっこうおもしろいので、見てください。開発してる人は「プラレールってこうやって遊ぶだろう」っ思っているんですが、実際(調査を)やってみると意外と、例えばレールがあるんだけど使わなかったりするんです。勝手に床で遊んだりとか、とにかくなんでもいいから長くつなげたりとか。

とにかく作り手の「こうやって遊ぶだろう」という想像と、ぜんぜん違うことを子どもたちはやります。なのでそれを見ながら、子どもたちのやることに合わせてものを作っていくんですけど、ポイントはこっちから誘導しないことです。とにかく黙って見てる。そうすると本当に子どもたちが、大人の想像しないような……「こうするために作ったもの」だったりするんですけども、そうじゃない使い方をしたりします。それを見て「これってこういう使い方できるんだから、こういう商品出そう」みたいなことをやっていくんですが。こうやって黙って、やってるのを見ていくっていうのはすごく大事な作業として、たびたびやってます。

リカちゃんの時もやってますね。こんな感じでリカちゃん人形なんかをばーっと渡して勝手に遊ばせると、本当にぜんぜんこちらが想像しないような遊び方をしたりとか。あとすごく小物に興味持ったりとかね。我々が想定しないようなことをするというのがあるので、こういった子ども調査というのを、たびたびやってます。

なんでこれをやるかというと、大人だったら聞けばいいんですよ。「どうなの?」って聞けばいいんですけど、子どもって「どうだった?」って言うと、なに聞いても「おもしろい!」って言うから、わからないんですよね。なので、聞かないで観察するっていうことをすごく昔から、もう50年ぐらい前からやっています。そういう文化。観察をして、モノ作りをするっていう文化でやってます。

おもちゃ作りと近い「デザイン思考の考え方」

観察してモノ作りするのは何かというと、はやりの「デザイン思考」。これと同じものなんですが。実はデザイン思考がはやったのは2000年以降なので、その前からデザイン思考的なことをやっていました。

デザイン思考は最近すごくニーズがあって、僕もよく講師をやらせていただくんですけど。「何の話しますか?」って言うと、だいたい「デザイン思考の話で」ってお願いがあって、デザイン思考だけでも本当にすごく長くしゃべれちゃうものなんですが。この「デザイン思考の考え方」というのがすごくおもちゃと近いので、話をさせてください。

デザイン思考って何なのか? 意外とわかるようでわからないと思いますが「デザイナーがアイデアを考える時の、発想のプロセスをかたちにしたもの」がデザイン思考です。おもちゃの考え方とすごく近いです。デザイナーがデザインを考える時にどうやっているのか? ということを体系立てて、それをビジネスに使ったのがデザイン思考です。

じゃあなんで、このデザイン思考というのが2000年代にはやったか? というと、また歴史の話になっちゃうんですが。僕も生まれる前ですよね、昔々は「三種の神器」みたいなものがあって、誰もが同じものを欲しがってたんですよね。欲しいものは何か? といったら「テレビが欲しい」「冷蔵庫が欲しい」「洗濯機が欲しい」みたいに決まってました。これ50年代らしいです。

60年代では「3C」というのがあったらしいんですが「カラーテレビ」「クーラー」「自家用車(カー)」みたいに、誰もが同じものを欲しがっていた時代。つまり、まだモノがなかったんですよね。モノがなくて、それを人が欲しがった時代なので、作るのは非常に簡単でした。みんなの欲しいものは決まってますから、じゃあカラーテレビ作ればいいんですよね。「もっといいカラーテレビ作ればいい」とか「もっと安いクーラー作ればいい」みたいに、メーカーはユーザーが欲しいものを作れば売れた時代です。この頃は本当、日本が世界一のモノ作り大国だった頃なんですが。

当然、僕もその時代じゃない時代にモノ作りしてるんですけど、21世紀になったらモノが溢れちゃってますよね、世の中。溢れちゃってて、人々の欲しいものが同じじゃないです。バラバラです。なのでさっきも言いましたが、潜在ニーズ。ニーズを聞いてもわからない、みんなバラバラなので、もう「どんなものが欲しいか?」と仮説立てて作るっていうのをスピーディにやっていかないと、追いつかない時代になってきました。昔みたいに、研究開発に時間かけて同じものを作っていくんじゃなくて、ニーズを探して作って出していくっていうのを、ぐるぐる回していかなきゃいけないっていうことがあって。デザイン思考という考え方が急に、2000年代になってはやったというか、求められた理由だと思います。

デザイン思考で生み出された、いくつかの商品

これで作られたものが何個かあるので簡単に説明しますと、例えばiPodというのがはやりましたけども。これは何かというと、じつは当時、iPodより性能の良いプレイヤーっていっぱいあったんです。たくさんあったんですけど、なんでこれが売れたか? っていうと、Appleはデザイン思考的な考え方でユーザーを見たとき「なんでみんな今までのMP3プレイヤーを使わないか?」っていうと、性能に満足いかなかったんじゃなくて「CDのデータをここに入れるのが、かったるかった」んです。

これが原因だってわかったので、Appleはそこを研究して、いかに簡単にそこに入れることができるか? っていうことをやりまして。で、アプリのほうですかね。こちらをがんばって作ったので、簡単に曲を入れられるっていうことで、そのプロセスを簡単にしたことによって、選ばれるようになったと。iTunesの開発が一番の大きな発明だった、と言われています。

これはブラウンのIoTの歯ブラシなんですが、普通、IoT歯ブラシっていうと、性能の良い歯ブラシを作って「磨き残しゼロ!」みたいにやりたがるんですが。最初、ブラウンもそういうものを作ってユーザーの調査をしたら、ユーザーはそんなの別に求めてなくて。「ブラシがボロくなったら新しいものが欲しいけど、それを頼むのが面倒くさい」っていうのがわかりました。

我々もそうですよね。歯ブラシがボロくなったら買いに行くのかったるいんですけど、これはそこがポイントだってわかったので「歯ブラシが古くなったら、自動的に歯ブラシを注文するような機能」がついてます。なので、ちょうどいいタイミングで新しい替えの歯ブラシを送ってくるっていうことをやって、それで売れたというものです。

Wiiも同じですね。これも当時、PlayStationのほうがぜんぜん性能は良かったんです。けども、なんでゲームで遊ばなくなってるか? というと「家族で遊ぶ時間が減るから」っていう理由で、親がゲーム機を買わないとわかった。そこでWiiは「じゃあ家族で遊ぶゲーム機だ」という定義にして、パパとかママでも、ゲームが苦手な人なんかでも遊べるようなものを作ったから売れた、ということで。これもじつは、デザイン思考的な考え方で作られたと言われています。

これはぜんぜんプロダクトじゃないんですけども、Bank of Americaの「Keep the Change」というのも、デザイン思考の例だと言われていまして。向こうのママたちが貯金をする時に、端数を全部バッファとして見てたと。例えば「~59円」だったら、59円を家計簿につけないで、そこはもう自分の小遣いとしてバッファにしてたというのがわかったので。このサービスは、支払いする時に端数を勝手に貯金するような感じのサービスになっていて、気がついたらお金が貯まってるみたいなことをやって、はやったと言われています。

「リカちゃん人形」はデザイン思考から生まれた玩具?

というふうに、人間を中心にして問題解決するというのがデザイン思考の本質だし、じつはこれっておもちゃ(業界)はずっと前からやっていたよね、ということです。

その例として、例えば「リカちゃん」という人形。今でも売ってますが。これはじつは、デザイン思考が出る前からデザイン思考で作られてまして、もともとリカちゃんの前に、タカラが海外の「バービーちゃん」のハウスを作ったんですよ。ただ、日本の住宅ってすごく狭いので。バービーちゃんってデカいんですよ。バービーちゃんの人形って、六畳間に置くにはデカすぎるんですよね。

っていうのが観察でわかったので「じゃあ、ちっちゃなハウスを作ろう」。そして「ちっちゃなハウス用の人形を作ろう」っていうふうに作ったのが、このリカちゃんなんですよ。なので「日本の住宅事情を見たうえで作った小型のドール」ということで、日本で非常に売れたんですけど。これって、今考えるとデザイン思考なんですよね。

なので、デザイン思考的な考え方がおもちゃの根幹だし、逆に言うと、そういう考え方をしていけばヒット商品ができるんじゃないか? ということで、極意その2は「観察を起点にしてアイデアを考えよう」ということです。

(50、60年代のように、みんなが同じく欲しいのは)「良いテレビ」じゃないです。観察を起点にすることによって、アイデアを考えていく。さっきのリカちゃんで言うと、実際「このハウス、デカすぎるよね」っていうのを見て、ここからアイデアを考えるということが必要だと思います。これ、別におもちゃじゃなくて、なんでもそうだと思いますね。なにか様子を観察して、そこから起点にしてアイデアを考えていくということを、できるようになっていただきたいと思います。

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