2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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橋口幸生氏(以下、橋口):さかはらあつしさんのエピソードが出てきたところで、もう1人、泰延さんと同期のクリエーターの話を聞きたいなと思って。これは僕が何年か前にやった『貞子3D』という映画の仕事なんですけれども、この仕事のアートディレクターをやったのが田中元さんで、田中泰延さんの同期なんですよね。
田中泰延氏(以下、田中):はい。
橋口:今気付きましたけど、田中つながりなんですね。
田中:そうなの。同期で班も一緒で、席もすぐ隣で。
橋口:元さんも泰延さんも、2人とも下の名前で呼んでいたから気付かなかったけど。
田中:新入社員の時から田中が並んでいたから、会社で「ゲン」と「ヒロノブ」以外で呼ばれたことがないですね。最初から紛らわしいから。
橋口:元さんの新人時代の100本ノックのエピソードを、泰延さんに聞きたいと思って。これが当時の元さんのアイデアノートなんですよね。
田中:はい。今から28年前に入社した時、僕たちの配属されたところでは、このクロッキーのノートが週に1冊配られて。ノートには紙が100枚あるんですね。そして教育担当の上司が、何か適当なお題を出すと。
「これの広告考えてみ」ということで、100枚紙があるので100個。僕たちコピーライターはコピーを書いたり、田中元の場合はアートディレクター、デザイナーなんで、絵を描いてさらにコピーを付けたりして、とにかく毎週100個考えることをずっとやっていました。3ヶ月ぐらいやったのかな。
橋口:ノートのスキャンがあるので、今、映しますね。
田中:はい。ちなみにさっきのクロッキーノートは、100個埋めないと出せないじゃないですか。でも、僕は途中で無理やと、75枚目くらいでもう考えつかないと思ったら、あとの25枚はそ~っと捨てて出していました。バレませんでした。
橋口:(笑)。気付かないですもんね。
田中:向こうは75個か100個かは気付かない。
田中:田中元はアートディレクターなんで、絵をけっこう緻密に。このお題は「セ・リーグの広告を考えてみる」だったんですけど。
写真を持ってきたり、イラストを自分で描いたり、コピーも書いたり。広告っぽく見えるように、どんどんどんどんアイデアを書いていくわけですね。彼の場合はこんなふうに緻密な絵を描いたりしますが、僕らの場合は、コピー1行だけでちょっとやってみようとか、ずっとトライしていくと。
とにかく考え続けていくと、自分が空っぽになったような、枯れたような感じがするんですけど、枯れたってまだ40個しかできてない。60個残ってるとなった時に、じゃあ、どう目先を変えるかということを、いつも考えていましたね。
違うものを見に行くとか、本を読んでみるとか、映画を見るとか、人と話をしてみるとか、あとは新聞を見てみるとかね。ありとあらゆる方法で100個を埋めないといけないわけですから、とにかく考えることです。
例えば、これは「横浜のランドマークタワーで考えてみ」と言って、彼が考え続けたやつです。30年近く経ってみても、僕たちがお互いに考えたこの100案って、おもしろいやつはけっこう覚えているんですよね。
橋口:おもしろいですね。元さんのこのクオリティはすごいですね。
田中:すごい。けっこう覚えているんですよ。やはり「100個出してみて」と簡単に言うけど、出ないですよね。それで出ない時の見方の変え方とか、じゃあどうしたらいいのかということをいつも考えていました。
橋口:泰延さんがさっきおっしゃっていた新聞を読んでとか、そういうことですよね。
田中:同じ部署の大先輩に岡康道さんがいらっしゃいまして、「岡さん、どういうふうに100個も考えたらいいんですか。」とお話を伺った時に、岡さんは「サイコロだと思え」と言っていました。
「お前たちは今、1個のお題を与えられた時に、サイコロの1だったら1しか見えていない。1のところだけジッと見て、この1をどう表現するかと考えているけれども、サイコロ転がしてみな。2もあれば4ある。6もあるだろう」と。「見方を変えて。1つのことの見方を変える訓練をしなくちゃダメだよ」と言われたことを覚えていますね。
橋口:なるほどね。さすが岡さん、わかりやすい例えをしますね。僕はひっくり返せとか、視点を変えろとかは言われたけど、そこまで具体的には…。でもあれってわかっていても、自分で悩まないとできないんですよね。
田中:そう。岡さんはいいサイコロを持っているのかもしれないけど、僕のはいいかわかんないよと、その時は思いましたけどね。
橋口:結局、自分のサイコロを作らなきゃいけないんですよね。
田中:そうなんです。この『100案思考』には見方の変え方がすごく書いてあって、28年前にこの本があったら、だいぶ楽にできたと思うんですけど。
橋口:ありがとうございます。
田中:これ、「ラフォーレの広告をやってみろ」と言われている状態ですね。いやぁ、本当にたくさんアイデアを出して、一応何かの広告に見えるように、人に見せるところまで考えているわけですよね。
橋口:1年目ですよね。
田中:入って2ヶ月目ですね。
橋口:それでこのクオリティって、元さんも半端じゃないですね。
田中:すごい。すごい。
橋口:正直、もう捨てちゃって残ってもいないですけど、僕の100案なんてとてもじゃないけど恥ずかしくて出せないですもん。
田中:ラフォーレというお題だったら、僕なんか50案目くらいから「イエーイ!!ラフォーレ」とか「うおおおおお!!ラフォーレ」とかなってくるんですけど。まあ、これは今でもいい訓練になったと思いますね。
橋口:アートディレクターというと、おしゃれで格好いいイメージがあるけど、実はすごく泥臭いですよね。
田中:はい。ただ、1つ言えるのは、アイデアや企画を出し続けるってしんどいところもあるけど、見方を変えるとやはり楽しいんですよね。
橋口:今日、泰延さんに聞きたかったのが、ずいぶん前にベストセラーになった『モテる技術』という本があって。前向きな自己啓発本みたいでけっこうおもしろかったんですけれども、まとめるとシンプルで、要は「モテる人はひたすら声をかけまくっている人だ」という結論なんですよ。
田中:なるほど。
橋口:その本に「とにかくエレベーターの中で一緒になったとか、すれ違ったとか、そういう人に片っ端から挨拶しろ」と書いてあるんですよ。「こんにちは」とか「調子どうですか?」とか。ほとんどの場合は無視されるか、キモッと思われるかだけど、別に気にするなと。
「たまたま機嫌が悪かったのかな」と思って、自分がダメだとは一切思うなと。言われてみれば、確かにモテる人ってそういうところがあるなと思ったんですよね。
田中:はい。はい。
橋口:泰延さんといえば、「非常によくおモテになる先輩」のツイートがあったので。
田中:あれは先輩のエピソードですから(笑)。
橋口:そういうモテの含蓄話がいろいろあるかなと思って、この話を持ってきてみました。
田中:あるわけないじゃないですか(笑)。
橋口:(笑)。
田中:Twitterで「おモテになる先輩」のエピソードを書いているので、そうですね。例えば会社の中とか、クラブとかサークルとか町内会でもいいですけど、やはりモテる人って、非難する人が見たら非難するような人ですよね。「○○ちゃん、元気?」みたいな、軽い人。
橋口:そうですね。
田中:でも、そのコミュニケーションが実はすごく大事で。「○○ちゃん、元気? 髪切った?」と言っている人がやはり強いんですよ。
橋口:そうですね。
田中:その中の誰かが応じてくれれば、もはやモテは「1」なわけで。2人応じてくれたらもう二股かけているような、「すごい遊び人だよ」と言われるし。
橋口:(笑)。
田中:ということなんですよね。思いつめて1人に告白して、うまくいかなかったら、これは実効再生産数が0じゃないですか。アイデアも同じで、1つのことに思いつめて、これがダメだったら終わりと思う人が多すぎるんですよね。
橋口:そうですよね、その通りです。世の中に出た良いアイデアだけを見ると、きっと初志貫徹で、最初に思い付いたものをかたちにして、夢を叶えたに違いないと思いがちだけど、実はそんなことなくて。紆余曲折を経て、ぜんぜん思い通りにならなかったけど、その結果すごくうまくいったというのもあると思うんですよね。
田中:企業なんかでも、例えばミクシィは、SNSなんてもうどうでもいいわとなって、ゲームの会社になったら大黒字を出したりとか。
橋口:そうですよね。
田中:はい。ゲームでいえば、ディー・エヌ・エーも最初はヤフオク! の100分の1の縮小版みたいな、小さなネットオークションの会社だったんですよね。
橋口:へえ。
田中:それが今や、ゲームをやって球団を持って、ぜんぜん違うことやっているわけですよね。事業に取り組むのも結局100案思考であって、これがダメなら次のやつもあるし、この考えもあるというのがない限り、企業も生き残ることができない。
橋口:そうですよね。仕事も恋愛も、別に振られてもいいじゃないかということですよね。
田中:はい。非常によくおモテになる先輩は、「振られました」という後輩にいつも、「なあ。人類、女性はこの地球上にあと何十億人いると思う?」と言っていました。
橋口:(笑)。
田中:さらに、「いいか。君は女性に振られて落ち込んでいるけど、女性は何十億人いるかわからない。しかも、男性にまで対象を広げるとほぼ全員だ」と言っていましたからね。
橋口:(笑)。モテる人って、すごく人間好きですよね。
田中:そうですね。
橋口:モテる人って好きとか付き合いたいとかの気持ち以前に、人に会うこと自体が好きな人が多いですよね。
田中:苦にならないんでしょうね。僕なんかは口数少ないし、内向的なんでなかなか……。
橋口:そうなんですね(笑)。
橋口:100案思考というか、数さえ出せばなんとかなる人の代表として今日持ってきたのが、最近僕と泰延さんが共通のファンだったことが発覚した、この人ですね。
田中:サン・ラー。この人も地球始皇帝タイプですね。宇宙からやってきたミュージシャンという設定で、死後もずっとその設定を守り続けていますね。
橋口:あ、そうなんですか?
田中:彼のオフィシャルのホームページに行くと、未だに土星から「サン・ラーは地球上からは去ったけれども、音楽のメッセージを届け続けている」と、リアルタイムで更新されていますね。
橋口:「地球上からは去った」という言い方をしますね。後継者の方が、まだこのバンドは続けているんでしたっけ?
田中:はい。サン・ラー・オーケストラで、サン・ラーイズムを継承した音楽をずっとやり続けているから、「サン・ラー」という1つのテーマパークみたいになっているんですよね。
橋口:そうですね。改めて説明すると、写真に映っているヘンテコなおじさんは、サン・ラーというアメリカのジャズ・ミュージシャンで、自分は土星から来た太陽神だと名乗っていて、その太陽神の活動として音楽をやっている人なんですよね。この人はいろいろな文脈で評価されているんですけれども、むちゃくちゃアルバムを出しているんですよね。
田中:はい。これでもまだ一部で、全部じゃないんですよね。
橋口:泰延さん、今日このスライドを一瞬で作っていましたけど、どうやってあんなに早く作ったんですか?
田中:公式のホームページにアルバムのサムネイルが多数載っていて、それを拾って1枚ずつ手で、マウスで貼っていきました。
橋口:ありがとうございます。大変でしたよね。
田中:でも入り切らない。まだまだたくさんあるんですよ。これが全部A面・B面合わせて60分とかのアルバムですから。レコードですからね、とんでもない数なんですよ。
橋口:全部で何作作ったか誰も把握していなくて、わかっていないんですよね。
田中:この画面に貼り付けているのは、アルバム168枚です。
橋口:168枚もあるんですか。いろんな資料を見ても、全部でいくつ作ったかは把握できていないと書いてある資料が多くて。
田中:そうなんですよ。これでも全部じゃない。フリーでセッションしたのもあれば、しっかり作曲したものあるけれども、毎年何枚ものペースで音楽をたくさん出している。でも、数撃ちゃ当たる式で、やはりこれだけ出したサン・ラーでも、名盤だ、大名盤だ、代表作だと言われているのは数枚なんですよね。
橋口:僕が実際聴いていいなと思ったのは、一番下の右から3つ目にある青いジャケットのやつ。これはけっこういいなと思いましたけれども、正直ちょくちょく(他のアルバムを)聴くと、なかなか眠気と戦うのが辛いものも非常に多いですよね。
田中:あります。あとフリーセッションで、なんでこんな、ミュージシャンが集って20分も好き勝手に音を出しているだけのものをレコードにしたかなというのもたくさんありますよね。
橋口:これだけやれば、才能があってもなくても有名になるということですよね。
田中:(笑)。間違いない。
橋口:何がしらの爪痕は残せるということですよね。
田中:たぶん単独でアルバムを出した数では、やはりこの人がギネスブックに載っているんじゃないかなと思いましたけどね。
橋口:そうでしょうね。
田中:はい。
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