エサとなる生き物をおびき寄せる、ヘビたちのテクニック

ステファン・チン氏:多くの生き物は、捕食者を追い払ったり、獲物をおびき寄せたりするために、他の生き物に擬態します。しかし、クモに似た尾を持つある毒蛇は、これを信じがたいレベルにまで昇華しています。このヘビの尾は、お腹を空かせた鳥をおびき寄せるために、クモそっくりの姿で動くのです。

ほとんどのヘビは、いわゆる「待ち伏せ型の捕食者」です。獲物を追い回すのではなく、身を隠してエサが通りかかるのを待ち、素早く仕留めます。よく通りかかる獲物をごはんにしたい場合、これはたいへんうまく機能します。

スパイダーテイルド・クサリヘビは、鳥を好んで食べます。ところが、鳥は空を飛ぶ生き物です。そこでスパイダーテイルド・クサリヘビは、鳥を手の届く範囲におびき寄せることのできる“おまけ”の付いた外見を、進化によって手に入れました。それが、クモそっくりに見えるこの尾です。

ところで、不思議な形状の尾を持つヘビは珍しくはありません。警報ブザーのような働きをする尾を持つ、ガラガラヘビを思い出してください。

他にも特に毒ヘビが「尾部誘惑(caudal luring)」と呼ばれるものを使います。尾をミミズのように振り動かして、お腹の空いた生き物をおびき寄せるのです。Caudal luringを使うヘビの中には、体とは異なる色の尾を持つものもいます。本体を隠し、ルアーの役割を果たす尾を目立たせるためです。

鳥を捕食するため、さまざまな進化・変化を遂げた、あるヘビ

スパイダーテイルド・クサリヘビは、この策を他とは一味異なるレベルにまで持って行っています。なんとその尾のルアーは、クモそっくりの姿で動くのです。

クモを好物とする鳥はたくさんいます。クモに擬態することにより、スパイダーテイルド・クサリヘビは、鳥の警戒を解くのです。これは、生物学者が言うところの「攻撃擬態」です。

尾のルアー自体は、ウロコの束がフリル上になったものに過ぎません。スパイダーテイルド・クサリヘビの幼体の尾は、ごく普通のヘビのそれです。ところが成長するにつれ、尾の先端のウロコが細長くなります。末端の2枚が大きく丸くなり、クモの足と胴体そっくりになるのです。あとは、うまく動かすだけです。

スパイダーテイルド・クサリヘビは、他にも獲物を捕らえるために習性も変化させました。例えば、渡り鳥が生息地を横切る春と秋に、もっとも活発に活動します。さらに、夜行性の近親のヘビとは異なり昼行性です。狩りの戦略を成功させるには、クモを食べる鳥が活動している日中に動く必要があるからです。

スパイダーテイルド・クサリヘビの驚くべき擬態を解明することにより、他のヘビの淘汰や進化について知ることがでるかもしれません。例えば、あの有名なガラガラヘビの「ガラガラ」がどのように発達したかなどが挙げられます。

しかし、スパイダーテイルド・クサリヘビについては、ほとんど知られていません。生息地はイランの僻地であり、15年ほど前にユニークな種として紹介されたのみだからです。国際自然保護連合は、現在スパイダーテイルド・クサリヘビをレッドリスト上で「データ不足」と分類しています。生息状況そのものについての十分な情報すら、得られていないのです。この不思議なヘビの研究を続けるべきなのは、こうした理由があるからなのです。