2024.11.29
“マニュアル作成が進まない問題”をAIで解決 管理者の負担も軽減できる、先進AIツール活用法
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堀内勉氏(以下、堀内):ありがとうございます。ちょっと時間もオーバーしてきたのですが、最後の質問ということでお願いします。これは本田さんが先ほどコメントされた久能祐子先生がアメリカから質問を送ってきてくださいました。まずは私から答えますが、本田さんにもフォローしていただきたいです。
「経済的インパクトに追加して社会的インパクトも測れるようになると、価値観が大きく変わると思います。本当は環境的インパクトも簡単に測れると良いのですがね。堀内さんに、そのへんのアップデートをお願いします。直感的には、人間は両方を求めているのは当然ですよね?」。
社会的投資研究所のパネルなので、ここは私が答えさせていただいて、本田さんにフォローしていただきたいと思います。
冒頭でご説明した「社会的投資」というのは、経済的リターンと社会的リターンを同時に実現しましょうということです。「ESG投資」を一歩進めたような投資なんですね。
「ESG投資」はすごくおおざっぱに言いますと、環境(Environment)とか社会(Social)とかガバナンス(Governance)という意味でネガティブスクリーニングをかけて、そこで引っかかるところには投資しませんということです。
「インパクト投資」はもっと積極的に、社会的に良いこと、いわゆるソーシャルグッドを実現するために、金融がそこにお金を投資していくという仕組みです。その社会的価値を、金融の側から後押ししていくということです。
堀内:私はこのコロナショックというのは、明らかにこうした流れを加速すると思っています。もう少し広義のESGでは、先ほど本田さんがおっしゃられたように、ESG投資のほうが、普通の投資よりパフォーマンスが良いというような状況も出てきています。
「どういう局面においても、必ずESG投資や社会的インパクト投資のほうが、普通の投資よりも経済的なパフォーマンスがよくなるか」というのは、これは非常に哲学的で、難しい問題です。私は、必ずしもそうではないと思っています。
いずれにしても、先ほどの共同体とかそういう話でもご説明しましたけど、これからはやはり、「社会とか世界という問題に完全に背を向けて、経済的リターンだけを追求する」というのは、もうなかなかできないかなと思っています。
私も今、実際にいろいろな人とZoomで意見交換しています。例えばコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)については、ここ数年のブームでCVCがたくさん立ち上がりました。結局、このコロナ騒動の中で「目的がはっきりしないからやめてしまおうかな」というところと、「CVCでソーシャルグッドを実現していくいい機会だから、もっとそちらにお金を張っていこう」というところが出ています。
なんとなくボワーっとCVCブームで、なんとなくみんながファンド立ち上げていたのが、やはり目的がクリアになって、「ソーシャルグッドを実現しよう」というのでCVCをやろうという人が、はっきり出てきている。そういう傾向を感じます。
それからグローバルに目を転じれば、コロナの問題で医療をサポートするためのボンド(債券)が出たり、そういった動きが世界でもどんどん出てきています。(今回のコロナ騒動は)社会とか、共同体とか、世界とか、そういうことに気づかせてくれる1つの大きなきっかけにはなったのは、間違いありません。そういうふうに考えております。本田さんいかがでしょうか?
本田桂子氏(以下、本田):堀内さん、ありがとうございます。私も同意見です。社会的投資をどう定義されておられるのかわかりませんが、アメリカで今言われているのはESG投資と、あとはインパクト投資です。
インパクト投資はIFC(International Finance Corporation/国際金融公社)が1年くらい前に定義していて、計測できる社会的インパクトと、いわゆる投資のリターンの両方を目指すというものです。コロナ前は、全世界で投資資金が100兆ドルくらいあったのですが、インパクトインベストメントはだいたいその0.5パーセントくらいありました。
ただインパクトインベストメントは、公的金融機関、世銀とか、日本で言うとJICA( Japan International Cooperation Agency/独立行政法人国際協力機構)とかJBIC(Japan Bank for International Cooperation 株式会社国際協力銀行)とかが、関与しているものが多いです。
世銀などが関与すると、投資家に加えて「ステークホルダーにどういう影響があるか」も必ず見ます。
本田:一方、ESG投資は大きい。全世界の投資資金の100兆ドルのうち30パーセントくらいあります。ESG投資の定義は、ほぼ堀内さんがおっしゃったとおりですが、きっちりとは確立していません。その中で、ESG投資は拡大し、30兆ドル程度の資金がESG投資に向かっています。その中で「統合報告書」を出す企業が増えてきました。財務の報告以外に、「E(Environment)とかS(Social)とかG(Governance)で、どういうことをやっています」という報告です。
ただ、EとSのデータは、まだ企業間で比較レベルではないので、これをどんどん高めていかないといけないと思うんです。今日聞いていらっしゃる方の中で投資関係の方、保険会社、年金、銀行、それからベンチャーキャピタルとかPE(Private Equity Fund)の方は、ぜひ「統合報告書」を見ていただき、あとは投資先に「書いてください!」と言っていただきたいと思います。
加えて、「この会社はコロナでわりと早く動いて、消毒薬を作ってくれたよね」「マスクを寄付してくれたよね」という小さい話でいいのですが、共感されるんだとしたら、値段が一番安いものを買うのではなくて、そういう企業をちょっと助けていただきたい。
そうしていただくと、企業もまたやる気が出ると思います。そういう、ちょっと違う社会循環というのがあってもいいのかなと思います。
ちなみに私は、社会貢献していらっしゃる日本の企業の活動を日本語と英語でツイートしています。ですので、ぜひ教えてください。そういうところをサポートしていきましょう。
堀内:ありがとうございます。そろそろ締めにしたいと思います。最後に、Facebookから冨山さんへの質問が入っています。これで最後にしたいと思います。すごくシンプルな質問です。
「このような状況下で、個人的に最も行動したいことは何ですか?」。こういう質問が冨山さんに来ていました。これで最後にさせていただきたいと思います。
冨山和彦氏(以下、冨山):今の最後の議論と少しかぶりますね。冒頭の「なぜ今ポピュリズムなのか」ということにも全部つながるんですが、資本主義にしても、株式会社にしても、投資にしても、何を置き去りにしてきたか。それを言うと、一番置き去りにしたのはおそらく「社会の中で平均的な暮らしをしている人たち」だと私は考えます。
統計的に言うと、さっき言いましたように平均プラスマイナスとシグマ。これで人口構成の約7割なんですね。この人たちは今、大企業で働いていないんですよ。はっきり言って、上場企業とも関係がありません。なので直接にはESG投資が届かないんですよ。実は今までのいろんな議論は、この人たちを置き去りにしてきたんです。統計がないから、おそらく経済学的にも、投資という意味でもだいたい分析されてないんです。
実際、我々は地方で5,000人くらいのバス会社の従業員を雇っていて、ここはそういう(社会の中で平均的な暮らしをしている)人たちです。やっぱり「豊かな社会」は、そういうところにいる人たちが世代・性別を問わずに、心安らかに豊かな気持ちで生きられるようになれば、私はほぼほぼ成功だと思っているんですよ。
変な話、この人たちにとって「高尚な話」はあんまり関係ないんです。もっと素朴に、まずは絶対的には、貧困じゃないことですよね。貧しくて子どもを学校に行かせられなかったら、それは悲しいですもん。あるいは病院に行けなくて死んじゃったら、悲しいですもん。
冨山:それから相対的には、「やり切れないような格差とか嫉妬を感じない」ということも大事なんですよ。例えばどんどん授業料が上がる、ニューヨークの家賃が上がる、自分たちががんばったって、どうしようもないですよね。
おまけにアメリカの大学って、今は世界中から優秀な子が受けにきちゃうから、平均的な家庭の平均的な偏差値の子はいい学校に入れないんです。これが固定化されちゃうというのは、社会としてはやっぱり不幸なんですよ。
「明日は少しでも今日よりよくなって、1年後はもうちょっといいかな。10年後はもっといい時代になっていそうかな」と、ぼんやりとした感じが持てるかどうかというのは、すごく大事だと思うんですね。
だけど今、おそらくアメリカもそうだし、日本だってそうなんですけど、たぶん世の中の7割くらいの人はそう思ってないんですよ。地方もそうだし、東京だってどうかな。飲食業とかは今回……。医療関係者も実はそうなんだけれどもね。
結局、僕の言うローカル型の経済圏で働いていた人たちというのは、常にいろんな意味の分析からも、いろんな投資の議論からも、外側の世界になっちゃっているんですよね。だからこれをどうインクルードしていくかというのが、僕としては残りの人生の再テーマとしています。
私が今までずっとやってきたローカル企業の再編、再生、生産性向上、賃金アップ。これらは(経営している)バス会社で実際に成果を上げてきています。もっと幅広い領域で、本気で7割の経済の世界をよくしようとしています。今、ちょっと新しい会社を作ろうと思っているんですけど、そういったことを本気でやろうと思っています。
冨山:僕は日本にはすごく可能性があると思っています。何人かの方からご指摘があったように、テクノロジーという意味でも、ディスタンシングという意味でも、いろんなチャンスがあって、これからのテクノロジー、この生産性を上げるのにものすごく効くものがあります。医療もそうですね。
いろんなテクノロジーがあるので、テクノロジーと経営のイノベーションとを組み合わせて生産性を上げていく。そういうことによって、もう一度、そういった世界の賃金を上げていくんです。「来年もよくなる」という感じが作れるといいなと思って、僕は本気でやろうと思っています。
それから、これは本の中にも書きましたが「ローカルデジタルトランスフォーメーション」と呼んでいるものを、本気で自分でやろうと思っています。
もう1個。さっきもちょっとあったように、宇沢弘文さん的に言っちゃうと「社会的共通資本」かな? 社会的共通資本の担い手というか、このあとのサブコミュニティが、僕は大学だと思うんですよ。株式会社に変わって、大学こそがこれを担っていく。……株式会社もやっていいんだけど(笑)。
僕は、株式会社には絶対、最後に矛盾があると思っています。株式会社というのは最上位レイヤーが私的所有なんですよ。SDGsもESGも必ず最後にぶつかるのは、「私的所有」と「会社が担うべき公的責任」の間にどうしても起きる、緊張関係なんです。だから実は、会社は両立するゾーンでしかゲームができない。
大学は自由なんです。大学にはその上に私的所有がないんです。最終的な公人なんです。ということは、大学自身が持っている自律的な倫理性であるとか、インテグリティ(高潔さ)であるとか、あるいは、大学自身が持つある種の資金創出能力があれば、それをどう使うかというのは大学の自由なんですよ。
そういった意味で言うと、社会的共通資本を誰が担うのかということで、今まさに宇沢先生の議論が見直されているわけでしょ? もちろん会社もがんばって、僕もESG、SDGsの推進者の一人なので、さっきのローカルDX(ローカルデジタルトランスフォーメーション)なんて、まさにそういう思いでやっているんです。
そこはがんばります。がんばるけれども、そこで担いきれない分は、大学がもっともっと大きな役割を果たし合えたらいいと思っています。そういう意味で、堀内さんのこの運動に協力しているんです。
冨山:今日の登壇者の方々は、みなさん大学関係者です。大学はもっと、社会的な存在感を増してほしいですね。実は僕、政府よりも大学のほうに期待しているんです。
というのは、政府は政府で、株式会社と同じ問題があるんです。民主的な政権というのは年がら年中、選挙(に夢中)なんですよ。だから実は今、株式会社が株主と対峙するのと同じような問題に政府は対峙しちゃうんですね。どうしても次の選挙に勝たなきゃいけないからね(笑)。
株式会社や政府は、どうしてもある種のショートターミズム(短期志向)から自由になれないという制約がある中、大学はそれがないですよね。社会的共通資本なりパブリックコモンズの担い手として、僕は大学にすごく期待しています。
自分自身の人生の使い方としては、大学というものに……。僕はもともと東京大学のいろんなものにずっと関わっているんですけど、東京大学だけじゃなくて大学関係のいろんなアクティビティにすごく時間を使おうと思っています。以上です。
堀内:ありがとうございました。ちょっと時間もオーバーしちゃったので、まだほかに質問あるんですけど、終わりにします。最後に冨山さんからすごくいいエールを送っていただいて、みなさんも勇気づけられたと思います。
本田さんも、ニューヨークからありがとうございました。安田さんも、お忙しいところありがとうございました。冨山さんも、引き続きよろしくお願いします。今日はどうもありがとうございました。お疲れ様です。
安田:どうもお疲れ様でした。
本田:ありがとうございました。
冨山:ありがとうございました。
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