2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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堀内勉氏(以下、堀内):ウェビナーでの質問がいくつか挙がっていますので、ぜひ質問にお答えいただければと思います。最初に社会的投資研究所をサポートしてくださっているJTの岩井さんから、冨山さんへの質問が入っています。読み上げます。
「今回の著書の危機の対処方針と、将来のCX(Corporate Transformation:組織変革)」についてです。さっきの冨山さんの資料、目次の4章のところに出てきます。
「将来のCX、『まったくもって然り』と、気持ちよく読ませていただきました。質問は、『危機脱出後のCXを阻むリスク』です。第二次世界大戦後のパージや、不祥事や再生時におけるトップ交代などは、リスクを伴いつつ若返り・人の入れ替えによる新たな活力を生み出したように評価できます。
しかし今回のコロナ危機では、既存のリーダーが独裁的に対処して、仮に成功すると冨山さんがおっしゃる『封建制』がますます強化され、今回を旗下としたCXがなされなくなる可能性はないでしょうか?」。
という質問が来ていますが、冨山さんいかがでしょうか?
冨山和彦氏(以下、冨山):要は「危機を脱却する」ということだけで考えれば、既存の権力者がある意味で的確に対応すると、危機は脱却できるんですよ。だけど、そういう脱却の仕方というのは、また長期停滞に戻るんですね。
とりあえず病気になっちゃったので、慌てて一生懸命ダイエットしました。外科手術も受けました。だけどそのモデルは、結局のところ元の生活習慣に戻るんです。
くどいですけど、日本企業がずっと抱えてきた長期停滞の根本原因は、今や病となった日本的経営だと私は考えます。……はっきり言って、功罪で言えば8割が罪になっていると思っているのですが、きっとそこに戻っちゃうんですよ。また長期停滞に入るんですね。
冨山:日本的経営の今の最大の問題は、新陳代謝をしないこと。それが日本的経営の基本モデルなんです。そうして新陳代謝ができない状態に戻っちゃうと、また長期停滞に戻ります。そうするとポイント、勝負どころは、ここで「危機を脱却する」という経営と、「危機に乗じて会社の根本のかたちを変える」という改革とを同時にできるかどうかです。
前回、10年前のリーマンショックのとき、ほぼ唯一それをやったのが日立なんですよ。あのときに単なるリストラをやったんじゃなくて、川村さんも中西さんもコーポレート・トランスフォーメーションに手をつけているんです。そこから10年間、やり続けているわけです。だから川村さんは、サッパリ辞める。そういう世界になっています。
ですからここが一番のポイントで、そのときの仕掛けどころとして一番肝心なのは、やっぱりコーポレートガバナンス改革です。ここで危機を脱却するということと、そこで独裁政権ができても、それで構わないんです。だけど、その戦時独裁権を与えた人間の首を取れる仕組みを同時に作ることです。これができるかどうか。
これは、サラリーマンシステムの中にはビルトインされてないんですよ。なぜならば、サラリーマン型のガバナンスシステムは、なぜか前任者が後任者を指名するのが当たり前だと思われているからです。いまだに新聞記者が僕のところに来て「誰々さんのあとは、誰ですか?」「意中の人は、誰なんでしょう?」と聞くんですよ。……バカこくんじゃねぇ!
私が社外取締役をやっている会社ではそういう指名はしないんだけど、でも、それがまだ彼らの常識なんだよ。ここを変えるということを同時にやらなきゃダメなんだよ。
繰り返しになりますけど、危機を脱却するターンアラウンドの経営と、コーポレート・トランスフォーメーションは同時にやらなきゃダメです。今回は、同時にやれるかどうかが勝負です。だから、いただいた質問はすごく本質的で、それができなかった会社は、このあとまた長期停滞に戻ります。断言します。
堀内:ありがとうございます。それから冨山さんに、もう1つ質問がきています。
「冨山さんへ質問です。政府与党はDBJ(Development Bank of Japan Inc./日本政策投資銀行)や官民ファンドを使った優先株、劣後ローンなどによる資本注入のほか、金融機能強化法の延長拡充による金融安全網の強化を検討しています。現時点でのこうした対応をどうご覧になっていますか?」。
こういう質問ですが、いかがでしょうか?
冨山:現実に今後何が起きていくかと言うと、先ほど安田さんがチラッと言われた展開が仮に起きてきちゃうと、赤字補填型の融資残高がガーっと膨らんでいくんですよね。これでは必然的に、事実上の破綻状態に陥っていく会社が少なくないし、その影響で金融機関もやばくなるかもしれません。そうなっちゃうものなので、それにどう対応するかということです。
ある種の破綻処理をかます・かまさないかはともかくとして、そうなっちゃうと最終的には、やっぱり資本が必要になるんですよ。(破綻処理として)仮に会社更生などをかますにしても、資本が必要になってきます。
こういうとき、資本の出し手は基本的にドライアウトして、世界中からいなくなります。そのときにどうするかということで、ちょうど10年前にアメリカがTARP(Troubled Asset Relief Program/不良資産救済プログラム)でやったような話が出てきます。僕はそういった仕組みが必要になると思っています。
そういった資本注入を「予防注入型」でやるか、あるいは「再生型」でやるか。これはもう、どっちも必要だと思うんです。だけどこのときに問題があって、過去の教訓で言うと、この手の資本注入が結果的にゾンビを延命させる方向に働いちゃうと、結局さっきと同じで、このあとにまた長期停滞に戻るんですよ。
冨山:長期停滞に戻ると何が起きるか。さっき本田さんが言ったように、そもそもこの国はめちゃくちゃ借金しているんですよ。借金していて経済も伸びていないから、賃金がずっと下がっているんです。このあと変な話、貧困が原因できっと経済的関連死が出てきます。
そういう状態に、どう対処するか。要するに「長期停滞から脱却できる戻り方をするために、資本注入スキームをどう使うか」と考えたほうがいい。そのときのポイントは、仮に資本を入れるんだったらその資本を使って、そのあとに産業再編をやったほうがいいです。会社の数を減らしたほうがいい。そういう使い方ができるかどうか。
それをやろうと思うと、けっこうな腕力がいります。自分でやったからよくわかるんですけど、すごく腕力がいります。めちゃくちゃ恨まれます。家には脅迫状がいっぱいきます。誰かがそういう仕事をしなきゃいけないんです。また、この国はそういう国なんです。
これね、アメリカだと何が起きるかと言うと、たぶんバンバカChapter 11(注:アメリカ合衆国連邦倒産法第11章の条項に基づき行われる倒産処理手続)を出すんですよ。
トランプ大統領からして、何回もChapter 11を使って大金持ちになった人。サッサカサッサカChapter 11をやって、サッサカサッサカ新陳代謝しちゃって、3年で何事もなかったかのように普通に戻るんです。
でも、日本というのは社会的・文化的にそれが非常に難しい国なんですね。この国でそういった新陳代謝を起こすということを考えたとき、資本注入スキームは、私は何らかのかたちでゾンビ延命にならないようにしなければいけないと思います。
今回、アメリカもやるかもしれません。だけど、アメリカは必ずそれで新陳代謝を進めています。そうすると新陳代謝が進む方向に資本注入が使えるかどうかというのは、担い手の組織能力の問題です。
18年前に産業再編をやったとき、あのときもゾンビの延命になるって言われていたんですよ。そのときに我々は相当な覚悟を決めて、ゾンビ型にしなかったんですよね。そのおかげである意味でいろんなドラマが生まれちゃったんですけど(笑)。
でも、あのときに僕らはやってみてわかったけど、これは大変です。本当にいろんな人から恨まれるし、短期的には批判を招くんだけど、そういったものに耐えて新陳代謝を進めるというかたちの資本注入ができるかどうか。これが勝負だと思います。そういう意味で言うと最後は人の問題だと思います。
堀内:ありがとうございます。安田さん、本田さん。今の冨山さんのコメントに対して何か追加のコメントってございますか?
安田洋祐氏(以下、安田):本田さんに質問がきているのは、大丈夫ですか?
堀内:なければ本田さんへの質問へ移ります。
「本田さんへ質問です。コロナ危機が長期化すれば、デジタル化や社会変化への対応が遅れがちな日本は厳しい状況になりそうです。今回の危機をきっかけに日本が変化に向かうとしても、世界の変化に追いつくことはできるのでしょうか? また日本の公的債務拡大のリスクはどうご覧になっていますか?」。
いかがでしょうか?
本田桂子氏(以下、本田):難しい質問をありがとうございます。どう捉えるかなんですけど、1億総評論家になってもしょうがないというのが私の持論でございます。
どうして何度も「何ができるかを考えましょう」と申し上げているかと言うと、「今まですごくしっかりやってきて、これ以上向上できるポイントがないよね」という状態でコロナ問題がきたのであれば大変なんですが、「いろいろ伸びしろがある」というのが見えている中で、コロナ問題が出てきたのは、1つのチャンスと考えるべきだと思います。
例えばEdTech。教育関係をどうテック化していくか。これって日本はまだすごく伸び代があるんですよ。将来世代のためのものだから、これには財政的に厳しい国も地公体もお金を使ってほしいと私は思う。将来世代の人たちに投資するのに、「借金して申し訳ない。私たちの代で返せないかもしれないけど、子どもたち、よろしくね」というのはまだ筋が通ると思っているんです。だったら、やりましょうよ。
本田:あともう1つ日本のいい点は、労働需給。長期的には人が足りなくなります。これは、ピンチの中においてのチャンスだとしたら省力化投資とか、非接触型に変革する投資ができないでしょうか。
例えば「うちは全自動で、全部立体自動倉庫を使って、人が誰も触らずにやっています。お宅にデリバリーするまでに2日間、誰も人間が触りません。したがって、申し訳ないけど7パーセント多く払っていただきます」というサービスがでてきたら、どうでしょう。……高齢者の方などには、少し多く払ってもそういうサービスを希望する方がいらっしゃるかもしれませんよね。だとすると、まだ伸び代はある。
加えて考えていただきたいのは、ホワイトカラーと公務員に加えて、「年金」で生活していらっしゃる高齢者の方々。これが日本の人口のうち、20何パーセントいらっしゃるわけです。この方々、とくに年金だけでやっておられる方々は、(コロナ禍でも)収入は減らないんです。お出かけされない分、支出は減っているかもしれない。かつ、この方々は感染症に対してはリスクが高い。
だとしたら、そういう方々におうちの中で気持ちよくお金を使っていただくためには何かというのを考え抜く。そういうのは、いろいろビジネスの種があるんじゃないかと思います。
1つ例を挙げると、パルスオキシメーターというものがあるんですね。コロナって何が怖いかと言うと、急に肺炎が進んで血中酸素濃度が下がることです。パルスオキシメーターがあると、指にくっつけて血中酸素濃度を簡単に測定できます。アメリカの911(救急車)は、「SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)が92です」って言うとすぐ来てくれるらしい。
実は、これを発明したのは日本人。最近お亡くなりになったらしいんですけれども、日本光電の青柳さんという方です。「父の日にはみなさん、実家のお父さんに1台贈りましょう」。
日本の公的債務拡大のリスクについては、リスクはあると思いますが、それをわかって財務省はちゃんと見ていると思います。ですので、我々は心配するというよりは、自分自身で、国にあんまり迷惑をかけないように何ができるかというのを考えていくことではないでしょうか。
堀内:ありがとうございます。安田さん、公的債務のところで何かコメントはございますか?
安田:もちろん累積債務額を心配されている方はいると思うんですけれども、僕の意見で言うと、今はあまり心配するタイミングじゃないと思うんですね。今まで、かつては心配すべきだったんです。でも、すでに積み上げてしまったものはどうしようもない(笑)。
みんなの国債なのか、みんなの税金なのかはさておき、今ポイントなのは、どういったかたちでお金を賢く使っていくかです。その使い方によって、今後、将来世代に残す負担というのも大きく変わってくる。今はそういう岐路にあります。
具体的なお金の使い方に関しては、今日先ほどの冨山さんの講演会でも、本の中でも述べられています。そこはスマートに使っていかないと、例えばリーマンショックの前の金融危機ですね。1990年代後半、なかなか不良債権処理が進まずに、まさに戦争で言うところの「戦力の逐次投入」みたいなことをやっていて、結局ふくれ上がったという苦い経験を覚えていますよね。
なのでコロナショックをわりと早期に(解決する)、あるいは痛みを最小限にするなら、最初がかなり肝心だなというのが僕の印象です。
もう1個。今回は企業とか個人レベルでできる話というのが、ディスカッションでわりと中心だったと思うんです。今はあまりメディアでも言われていないですけど、国レベルの話で、今回のコロナ騒動で一番重要だけれども語られていない点というのは、医療資源の話だと思っています。
どういうことかと言うと、よく「医療崩壊」というキーワードが叫ばれますけど、主に取りあげられるのは「コロナの患者さんがたくさんが来てしまって病床数が足りない」とか、「コロナを受け入れていない病院なんだけれども、患者さんが来てみたら実はコロナ患者でそれが院内感染しちゃう」ということです。そういったかたちで語られますよね。
安田:ただもう1個、あまり語られていない「医療崩壊」があります。今、コロナを受け入れていない普通の病院が、かなりの経営危機にあるということです。患者さんが来ていないんですよ。みなさんが、「不要」とまでは言わないですけど、「不急」の病院とかを避けるようになっている。これは歯医者さんとかもそうです。
なので皮肉なことに「人が足りない」というコロナ対策の医療崩壊が起きている背後で、(別のところでは医療関係の人が)余っている。むしろ、患者さんが足りない。要は、医療資源の最適な再配分ができてないんですよ。これは諸外国と比べた日本の今回のコロナ対応で、一番の問題です。
ドイツもアメリカもそうですけど、実直にコロナ用の病床数を増やしました。日本は世界一の病床数があるにもかかわらず、長らく1パーセント未満でなかなか増やせなかったんですね。それはある意味では、民間病院が多くて「主権制限」になるので、あまり強制的にコロナ病床数を増やせないという事情はあるんでしょうけどね。
そうであれば、今だとたしかコロナ患者用の病床を1病床増やすごとに、国と自治体で合わせて1万6,000円くらい補助金が出ているんですけれども、例えば迅速にその金額を上げるなり、何らかのかたちでコロナ患者受け入れを進めるような施策をもうちょっと早めにやっておけば、医療資源のキャパシティが増えたはずです。
もともとのクラスター班のアプローチもそうですけれども、今は足りない・少ない医療資源で、どうやってキャパを超えないかという非常に厳しい制約のもと、患者数を減らそうとしている。そこの資源をもうちょっと緩めることができれば……。
アメリカ、ヨーロッパは日本と比べて2桁くらい感染者も死者も多い中で、ロックダウンの解除をどうするかという議論がされています。それができているのは、1つにはコロナ受け入れ用の医療資源を彼らは曲がりなりにも増やしてきたからです。日本はそこがぜんぜん増えなかったものだから、少ない医療資源で溢れないように、できるだけ経済を動かさないという方向で今までやってきたんです。
なので、これからの本質的な対策としては、「いかにしてコロナ病床数を増やすか」と、「第2波が来ても持ち堪えられるようなかたちで医療資源を拡充できるか」ですね。
そこさえしっかりしておけば、短期的に少し患者数がぶり返してきてもまた収束方向に持っていける。ぶり返してきたときに医療キャパが足りなくなっちゃうと、すべて終わってしまうかもしれない。なのでそこが一番重要だけれども、あまり語られていない日本の医療資源に関する、不都合な現実なのかなという気がしました。
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