2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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堀内勉氏(以下、堀内):それでは、私から1つ問題提起させていただき、みなさんのご意見をうかがって、あとはウェビナーに参加している方からの質問もいくつか受け付けたいと思います。
私からみなさんに質問したいことは山のようにあるのですが、時間の制約もありますので手短に。さきほど安田さんが言われた「開疎化」。開疎化って、「開放」の「開」と「過疎」の「疎」を組み合わせた造語だと思うのですが、「人々の新しい生活が生まれていく」というか、「人々の新しい生活を築いていきましょう」ということなんですね。
私からの問題提起として、1つは冨山さんに。2020年6月に出される次の本で具体的に書かれるのかもしれませんが、本当にここで企業の在り方、企業で働く人の仕事の仕方・生き方というものが、どういうふうに変化していくと見られているかという辺りを伺いたいと思います。
本田さんは、先ほどアメリカの中間組織のような活動を言われていましたが、お話を聞いていて、トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』を思い出して聞いていました。アメリカはいわゆる中間組織のアソシエーションというのが、非常に強い国だという文脈で。
アソシエーションというのは中間組織、「国と個人との間」にある中間的な組織ということなので、結局アメリカというのは社会が意外に強いのかなという印象を受けました。その辺りのこと、日本との比較でアメリカの社会というのを、もう一度レビューしていただければと思います。
安田さんには、冨山氏と本田氏のコメントを受けて、開疎化のところでさらにコメントしていただければと思うのですが、いかがでしょうか?
冨山和彦氏(以下、冨山):今の中間組織の話で言うと、日本の場合には会社が圧倒的に強い中間組織になっているわけです(笑)。その会社にフルタイム、ライフタイムで従属するという基本的なフレームワークの中でみんな生きていたわけですよね。
ただ私に言わせれば、実態としてはそれはもう7割から8割の世界で壊れているわけです。要は、中小企業やサービス産業というのは、圧倒的に非正規が多い。この前、厚労省かなんかにデータを出させてみたら、実は中小企業って離職率がすごいんです。ターンオーバーがだいたい10パーセントを超えているんですよ。
日本的な終身年功制というのは幻想です。実は経団連企業でも、正規の社員は全勤労者の10何パーセントでしか成立してなかったわけです。
僕は今回の件で、いよいよそれにとどめが刺されると思います。だって、みんな会社に行かないんだし、行かなくて大丈夫だし(笑)。副業も、いくらでもできちゃいますよね。冷静に考えてみたら頭の中なんて勝手にいくらでも分割できるので、会社に行ったって会社のことを考えてない時間が半分くらいあるわけです。
そういったことがここで明らかになっていくので、すごく乱暴な言い方をすると、これでやっと日本や日本人が昭和の呪縛から解放されるかなということです。今、はっきり言って誰も幸せにしていないから、この際に「会社をぶっ壊せ。跡形もないくらい、日本的経営と日本型の会社をここで破壊しちゃったほうがいい」と僕は思っているんですよ。
実はその枠組みというのはあれでしょ? 結局みんなで毎朝1時間以上の満員電車に揺られて東京にあるでっかいオフィスに行って、朝から晩まで顔を合わせて島型に並んだデスクのところで「ああでもない。こうでもない」とどうでもいいような会議をやる。そうして、どうでもいいような調整をやりながら、生産したような気になるということをやっていた。
それが生産性が低かったということが、日本の競争力の低下につながったんです。浜松町にあるビルなんて、はっきり言ってその象徴ですよ。メーカーはあんなところで何をやっているんだという話なんです。
要は今回の一連のことで、いよいよそういうところがとどめを刺される。もっと言えば、今度は個人が大事。次にストレートに問われる。みんなたぶん、今は自問自答していると思うんですよね。要は「自分が仕事をしている1時間が、誰の役に立っているんだ?」ということなんです。
冨山:さっきの本田さんのアメリカの社会活動もそうですよね。結局、自分がこの1時間頭を使ったことが結局、誰のために役に立つのか。今はたぶん、みんながそれにストレートに対峙しているはずなんですよ。
これはすばらしいことで、たぶん日本人がこの30~40年、忘れていたことですね。会社へ行ってくだらない会議に出て、知ったかぶりの話をする。土日に行きたくもないゴルフに付き合って、行きたくもない麻雀に行って、行きたくもない銀座の飲み屋に行く。そういうことが結局、サラリーマンの「仕事」だったわけですからね。
そういった意味合いで言うと、みんな今まさにこの瞬間、それがまったく価値を生んでないということに気づいているわけです。ですから大事なことは、この今の気づいている状態。あるいは私たちが本当に何をやったことによって、誰の役に立っているか。
それに対して増えた対価を払うわけだから、その直截性と言うのかな。その関係性というものを、ある意味では今、みんな自問自答せざるを得ない状況になっているわけです。
とにかく私は変な話、コロナとの共生は続いたほうがいいと思っています。続いている間中、日本人は自問自答しなきゃいけなくなるんですよ。この状態は、僕はある種、続いてくれたほうがいいと思います。そうすることによってやっと、僕らは昭和の成功モデルの呪縛から解放されるのではないかと思うんです。
おそらく若い人はかなり前から解放されているんですよ。解放されているんだけど、とりあえず就職先は大きい会社しかないから大きい会社に入って、そのうち会社の中のルールに従うフリをするようにしている。
ちょっと裏返しにしちゃうと、会社経営者からすれば、その関係性をちゃんと結びつけられるような仕事のさせ方をしないと、これからの会社は成立しません。そういう意味で言っちゃうと、従来の会社のモデルというのは本当に1回解体して、もう1回作り直すべき時期にきているんです。会社も個人もあらゆる意味でリビルドするというか、そこをやるべき時にきているような気がしています。
堀内:ありがとうございます。そうしましたら本田さん、いかがでしょうか?
本田桂子氏(以下、本田):堀内さん。すごく難しい質問で、かつ専門外なので、私見を申し上げてみます。
自民党には「自助、共助、公助」という考え方があり、これはいいと思っています。禅宗の基本は「自らを助く」という「自助」の考え方ですよね。日本には自助の考え方は大昔からあったわけです。現在日本国はかなり借金があるわけですね。一方、格付け機関は、中所得国の格付けを見直していて、先進国に対してもやると思います。
なので、国も何年にも渡ってガンガン所得補填をやり続けられるほど、余裕はない。そういったときに、自分で何ができるか。とくにコロナ共生期が長ければ、「子どもに借金を先送りしないために、何ができるか」を考える時期にきているのではないでしょうか。
「共助」もあると思っています。今日ご参加いただいている1,000人の方は、「意識高い系」の方も多いと思います。そういう方々は、おできになることがいっぱいあるでしょう。「こういうことができるように、一緒にやろう!」という声かけが、もうちょっとあってもいいかなと思います。
すべて国におんぶに抱っこでの所得補償は長く続かない。それはみんなわかっていることだと思うので、そうであるとすれば、何ができるか。
堀内:ありがとうございます。今のお二人のコメントを受けて、先ほどの「開疎化」について、安田さんのコメントをいただければと思います。
安田洋祐氏(以下、安田):まず働き方が変わっていくかということに関して、冨山さんはわりと前向きというか、変わるだろう、変わってほしいという話ですね。僕もそっちの方向に行ってほしいですし、行くんじゃないかという希望はあります。
今回のコロナ騒動で、テレワークをはじめ、働き方が変わっています。逆の見方では、緊急事態宣言が終わって、パタッとコロナなんてなかったかのように、また通勤ラッシュが戻ることがあり得るかもしれない1つの未来なわけです。それは起きてほしくないですし、そこまで極端に起きないかなと思っているところがあります。
それはなぜかと言うと、さっきお話した内容とも重なるんですけれども、全員がテレワークとか新しい暮らし方を経験しているんですね。一部の人だけじゃなくて全員が経験しているんです。
もちろん組織によっては、トップの判断で前のやり方に戻すというところはあるかもしれません。だけど、それをかなり合理的に説明しないと、中で働いている人は「なぜあの仕組みを部分的にでも取り入れないのか?」とか、さすがに毎日在宅というのは極端だとしても、「週に1、2回は在宅でもいいじゃないか」となるわけです。
むしろそうして「たまに会社へ行く」くらいのほうが、やりがいも出ます。毎日通勤ラッシュに揺られ、ルーチン化した会議や作業ばかりしていたら、やりがいや組織へのロイヤルティもなくなる。そう感じている人が多いと思うんです。
そういった思いがあるものの、今まではとくに合理性がなくても、上司・トップの言ったことにはみんな従うというカルチャーがあったわけです。だけれども、もはや当たり前に我々が経験しているオンライン会議等では、そういった「空気を読んで偉い人の言うことを聞く」というカルチャーがずいぶん薄まってきているので、何らかの合理性がないと昔の働き方には戻せない。
逆に、むしろ昔の働き方が合理的であるような場合には、それは戻せばいいんです。でも組織によっては、それが非合理な場合も多いでしょう。なので、きちんと選ぶ会社・組織は新しい働き方を積極的に入れていくということで、長い目で見ると差が出てきて、古いところが淘汰されるんじゃないかと思います。まず働き方については、そういう流れがあると思います。
安田:もう1個、本田さんとの関連で言うと、僕は最近「経済圏」という言葉をけっこう使うんです。資本主義社会においては、市場経済だけが経済圏だと誤解されがちなんですが、我々の暮らしを支えているのは家族であり、地域の共同体であり、日本で言うと長らく会社だったわけですよね。ところが、家族の中でも、そういった地域コミュニティでも、会社の中でも、「市場原理」でサービスや経済活動が担われているわけでもなんでもないんですね。
例えばですけれども、朝にお父さんやお母さんがご飯作ってくれるとか、子どものために何かサービスをしたとき、子どもがそれに対してお金を払うかといったら、そんなことはないわけです。会社においても「誰がこの案件を手掛けるか」といったとき、競りにかけて一番安い金額の社員にやらせるようなことは起きていないわけです。
そういう非市場的なやりとりというのは、今日の資本主義においても非常に重要だと思います。そうなんだけれども、相対的な話をすると、徐々にではありますが、やっぱり市場経済の占めるウェイトというのは高まってきています。
「自助、公助、共助」で言うと、「共助」にあたる地域コミュニティを中心にした、共同体的な経済圏が、どんどん細くなっていったんですよね。家族もそうです。とくに高齢者で見ると、単身世帯だらけになってきています。それに対して、自民党的な発想で言うと「日本を取り戻す」というかたちで、昔の家族や地域共同体を取り戻そうとしたわけです。
安田:ですが、そこはちょっと難しいかもしれない。かと言って、国にも限界があるという本田さんのお話を踏まえると……。僕は最近、今日のようなこういったWeb上での集まりでもいいんですけれども、何かしらこういった遠隔テクノロジーを使って、従来のフィジカルなコミュニティとは違うものを作っておくと、何かあったときにある程度セイフティーネットが動き始めるんじゃないかと思うんです。
個人が複数の経済圏に所属する、つまり経済圏を複数持つということですね。「どこの経済圏にも属せない人」というのは、ある意味でセイフティーネットがほとんどないわけですけれども、今のままだと市場経済しか経済圏がない。そこでこぼれ落ちた人を国が極力支えようとするんだけれども、残念ながら全員分の社会保障はできないかもしれない。
第2、第3のセイフティーネットを、何らかのコミュニティが担っていく必要があると思うんです。それをどうするかというのを考えていました。やっぱりオンライン的なものに頼らないと難しいと思っていたんです。
まさに、今日みなさんとこうやってお会いしているオンライン会議やテレビ会議というのは、デジタルなんだけど、ある意味すごくアナログ的なところがあります。お互いに顔が見えるんですよ。だからこそなんですが、最近おもしろいことに化粧・美容といった「おしゃれ需要」が増えているらしいんですね。オンライン会議では顔が見られるので、やっぱり気が抜けないんですよ。
あとは、お酒に関しても家飲み用のハードリカーであるとか、逆に「ほんのりナントカ」みたいな弱いお酒などは、前年比ですごく売上が伸びているんですね。それもおそらく、「オンライン飲み会」などが普及しているからでしょう。
今のコロナ禍で当たり前になりつつあるこういったツールを使うことで、アナログ的な「実際には会ってないんだけど触れ合いを感じられるコミュニティ」が、どんどんできてきています。そういったものはたぶん、コロナ後も僕は続いていくと思うんですよね。それはひょっとすると、消えかかっているフィジカルな地域共同体とはちょっと違ったコミュニティを生み出すかもしれない。
あとは地域共同体そのものに関して、先ほどの「開疎化」につなげると、地方都市、中核都市くらいであればたぶん人口が増えてもおかしくないと思うんですよね。東京のような、首都圏で4,000万人近く住んでいる世界一の大都市圏にいる必然性もないし、弊害も大きい。僕は今大阪に住んでいるのでわかるんですけど、地方都市ってけっこう暮らしやすいんですよ。通勤ラッシュも、東京で経験したような酷い混雑はほとんどありません。
一気に「みんなで農村に住もう」みたいな、そういった開疎化は起きないと思うんですけれども、そういうことを思う人が増えてくると、ちょっと極端な大都市集中は日本においても収まるのではないでしょうか。世界各国でも収まれば、本田さんが言及されていた「地価が高騰して人が住めなくなっている」みたいな、一時の観光公害みたいなものは緩和されるんじゃないかと考えています。以上です。
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