サイボウズ副社長の山田理氏とソニックガーデン代表の倉貫義人氏

西舘聖哉氏(以下、西舘):初めに、本日ご登壇いただくお二人のご紹介を少しさせていただきたいと思います。

まずお一人目が山田理さんですね。書籍などを読んで、もう知っている方も多いかと思いますが、サイボウズ株式会社の現在副社長とUSの社長を務められております。今日テーマにさせていただく『最軽量のマネジメント』の著者でもあります。

最軽量のマネジメント(サイボウズ式ブックス)

今日はこの内容についてもいろいろお聞きしていったり、今マネジャーとしてマネジメントに関わる人として、こちらの内容の中で、知った方がいい・知っておきたいという内容をいろいろピックアップしていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

そして、本日対談を依頼させていただきましたソニックガーデン代表取締役の倉貫さんですね。

僕のイベントに来たことがある方は、けっこうおなじみの方もいらっしゃると思うんですが、『ザッソウ』や『管理ゼロで成果はあがる』、『「納品」をなくせばうまくいく』、『リモートチームでうまくいく』などのオンライン時代に先駆けた……。最近はメディアでもたくさんの情報発信活動をされていて。

ザッソウ 結果を出すチームの習慣 ホウレンソウに代わる「雑談+相談」

もしかしたら、急にリモートワークになって困った方で、倉貫さんの書籍を参考にした方も多いかもしれないです。

そんなお二人の知見を合わせて、これからの時代を乗り切っていくインプットをいろいろ聞いていけたらと思いますので、最後までお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

山田理氏(以下、山田):よろしくお願いします。

倉貫義人氏(以下、倉貫):よろしくお願いします。

成果主義を追い求めて離職率も業績も悪化

西舘:それではまず山田さんから、ぜひ書籍に込めた思いやサイボウズさんの取り組みなどをお聞きしていきたいと思っています。山田さん、よろしくお願いいたします。

山田:はい。よろしくお願いします。簡単に自己紹介をすると、92年に銀行に入って8年間働いていたんですが、自分が銀行員に向いていないのがわかって、サイボウズに転職しました。

サイボウズに転職したときは創業2年ちょっとぐらい、社員数が10人ぐらいでした。最初は最高財務責任者という肩書きで入りましたけれども、部下もいなくて、最高でもあって最低でもあるところから始まりました。

そこでいちから管理部門を立ち上げていく過程で、自分で人事制度を作ったり、採用したり、(社内の)研修をつくったりということを一貫してずっとやってきて。

2014年まで管理部門の責任者をやっていて、2014年からアメリカのサイボウズ支社の立ち上げでサンフランシスコに行きまして。サンフランシスコで1人ずつ採用して、今45人ぐらいかな。現在は、USの責任者と日本のマネジメントのところを兼務して、行ったり来たりしながらやっています。

銀行を辞めてベンチャー企業に入って、ご多分に漏れずと言うか、いかに早く成長していくかみたいな感じで、創業3年で上場し、その後もマザーズから二部、一部とどんどん成長していきました。

当時同じぐらいで立ち上がっているのが、楽天だったり、サイバーエージェントやライブドアやDeNA。その辺はもうガンガン行くところで。

業種業態は違うとはいえ、なんとなく同じぐらいの年代の人たちが同じぐらいに立ち上げてる中、自分たちも成長していかないと、と思いながらM&Aなどに手を出したりしていました。

とにかく成果主義一本でいろいろやっていって、離職率、業績、結局うまいこといかなかった。仮に業績がガーンと上がっていたら「もう離職率なんて関係ないやん」と思いながら、ずっとやっていたのかもしれないですけど、幸か不幸か業績も頭打ちになって。離職率が30パーセントぐらいまでいって。

その当時は、高須賀さんから青野さんに社長が変わったタイミングで、もう1回、いちから「人が中心の会社にしましょう」と二人三脚でやってきた経緯があるんです。

「理想のマネジャー像」を捨てたら楽になった

山田:15年間で離職率30パーセントから4パーセントぐらい。5パーセント切るところまで下げていく過程で、会社はどんどん大きくなっていって、自分がいろいろ経験させてもらったことがあります。

1つはどんどん増えていく会社のメンバーに対して、あまりちゃんと可視化できるような状態でこれまでの経験を体系立てて残せていないな、というところもあって「言葉にしたいな」というのが、本を出すきっかけでもあったりするんですけど。

この本に込めた思いは、僕自身は本当にイケてない銀行員で部下もいなくて、いちから自分でやって、マネジメントをやっていく中で、諦めたこともすごくいっぱいあって。

僕は本当に今でもまったく自分がマネジメントができると思っていませんけど、そういう中でもやってこられた今がある。自分なりに諦めながら、いろいろ頼っていきながら……。

理想のマネジャーを目指していったら、たぶん僕はとてもじゃないけどできなくって。諦めてみんなにいろんなものをお願いしていきながら、自分なりに肩の力を抜きながらやれてきたところがなんとなくあって。

だから、こういうやり方も1つあるのかなというのも、社内だけじゃなくて、逆に社外のみなさんに伝えられたらいいなと思って出した本になります。

イケてないマネジャーの本というか、「誰でもマネジャーになれるよ」とは言わないけれども、「そんなに理想のマネジャーを目指して苦しむぐらいだったら、理想のマネジャーを諦めて、もうちょっとみんなで一緒にやったらどうですか」と。「そうすると楽になりますよ」というメッセージを込めて出したんです。

西舘:まさに本書の中でも、「しくじり本である」とか「自分の弱みを見せていった」ということにもすごく触れられていて。その中でもチームのメンバーと目線を合わせて雑談をして信頼関係を築いて、いろんな情報が上がってくるようにした結果、よくなっていったというか。

たぶん今日の参加者には、ビジネス本をいろいろ読む方も多いかと思うんですけど、「こんな感じにやったらうまくいきました」という本って、世の中に多いと思ってるんですよ。

ただ、僕がこの場を設定したいなと思った理由は「こういうことをやったらうまくいかなかったよ」と言える人って、たぶんそんなに多くないと思っていて。そんな目線を持っている山田さんだからこそ、激変しながら、失敗しながら、成功か、合っているかもわからない状況を進んでいるみなさまに伝えられるメッセージがあるのかなと思っていて。この後いろいろと掘り下げていきますので、よろしくお願いします。

山田:ありがとうございます。よろしくお願いします。

サイボウズとソニックガーデンの共通項

西舘:じゃあ続きまして、もう1人登壇していただきます、ソニックガーデンの倉貫さんから。先日、倉貫さんは『最軽量のマネジメント』に関するnoteも上げてくださっていたりとか、内容についてもすごく……。

僕がこの本を最初に読んだ時点でも、倉貫さんのお話ししてくれる内容にすごく共通項のある内容だなと思っていました。なので、今日この対談相手に選ばせていただいたのですが、特にこういう部分がソニックガーデンさんと近いとか、ここは違うけどすごくよかった、といった部分をまずインプットとしていただけますでしょうか。

倉貫:なるほど。そうですね。ソニックガーデンの倉貫と申します。よろしくお願いします。

西舘:よろしくお願いします。

倉貫:まだYouTubeにコメントがつかないですね。コメントがたくさんつくといいですね。

山田:(笑)。

西舘:そうですね。ぜひぜひ。あとで質問などをいただきたいと思うので、よろしくお願いします。

山田:自分で書く?(笑)。

倉貫:僕はいつもオンラインでしゃべりながら、自分のスマホでYouTubeをチェックして、みなさんがちゃんと反応しているかどうかも見ているので。

山田:すごい(笑)。

西舘:前回のYouTubeのイベントでも、倉貫さんがしゃべりながらリアルタイムにコメント返信するという荒業をやりだして。あれは本当にびっくりさせられました。

副社長自ら、毎月80人の社員と「ザツダン」

倉貫:僕らの会社は、一応システム開発の会社で。いわゆる「納品のない受託開発」と僕らは言っているんですけれども、とくに業務改善などはずっと続いていくことがけっこうあります。

その場合、システムを作って納品じゃなくて、お客さんの顧問になって業務改善の相談に乗りながら一緒にやっていきましょうね、というやり方をしている会社です。

業務改善するときに作って納めるじゃないということは、なんらかのプラットフォームを使わなきゃいけないということで、僕らは主にサイボウズさんのkintoneを使わせていただいています。

僕らがkintoneに出会う前は、サイボウズさんはグループウェアの会社だし、営業の会社というイメージがすごく強くて。でも、kintoneが出てきたぐらいのときから「チームワークを広める会社になる」とおっしゃっていたりして。

青野さんがメディアなどで、離職率が非常に高いところからいろいろ透明性の高い会社にしていったという話をお聞きして、非常にシンパシーを感じるところがあったりして。いろいろお話をさせてもらうことがあって、サイボウズさんとのお付き合いがあるというのが私の背景ですね。

今回の『最軽量のマネジメント』は、もちろん僕も拝見させてもらって、感想を書かせてもらったんですけれども。

おそらく本の中でも一番ページを使ってしっかり書かれていた「ザツダン」というところかなと思っていて。あれ、カタカナでザツダンと書かれるんですよね。

いわゆる本当になんでもない他愛ない会話の雑談ではなくて、あえてカタカナのザツダンにすることで、メンバーと会話する。とはいえ、かしこまったミーティングではないし、面談でもないし。

でも、本当に天気の話をするわけではなくて、もうちょっと人となりがわかるようなことを話し合う機会を作っていた。そこはすごく大きな会社でなかなかそういうことができないなと思っていたんだけど。たしか、山田さんはあれを全員やったんですよね。

山田:そうですね。メンバー、当時80人ぐらいかな。毎月80人とやりましたよ。それだけ暇だったんですよ(笑)。

西舘:(笑)。

マネジャーの不安が社員の監視につながる

倉貫:本の中に、当時のサイボウズのカレンダーのスクリーンショットが貼ってあって、全部カタカナのザツダンで埋まっているという。

山田:そう、そう。当時すごかった。1日中ザツダンしてた。

倉貫:でも、その後、本の中には書いてあったのが、それをすることによって……。マネジャーが怖いのって結局中が見えてないというか、人の心が見えないということにいっぱい不安があって。

最近だとみなさんがリモートワークをやって、初めて在宅勤務をするようになって、オフィスや会社に出社しない人たちが増えたので、マネジャーの人たちが「管理できない」とか「管理するにはどうすればいいんだろうか。不安だ」という話をしていて。

「なんだったら、監視するツールを入れるしかない」ということになっているケースもあったりして。なんでそんなことをするのかと言うと、おそらく、別に管理をしたいから管理しているわけじゃなくて、マネジャーのみなさんが不安なんだろうなという。

人の心がわからないので物理的に(同じ場所に)いるとなんとなくわかったのかというと、たぶんわからなかったんだけど。ごまかされていたんだけど。それが場所もなくなって人の心身が完全に見えなくなって、不安になって監視する。

でも、そんなことになる前にザツダンをしていけば、いろんな人のことがわかって、社員一人ひとりの名前と顔が一致していく。そういうふうにしたら、実はマネジャーとしての不安がなくなって、マネジメントしやすくなったという話があって。

ここにすごく本質があるのかなと思っていて。今はリモートワークでやっていることも、当時ザツダンをされていたときはオフィスだったわけじゃないですか。僕らは完全にリモートワークの会社なので、リモートワークで雑談してますけど。

オフィスもリモートワークも関係なく、実はマネジャーとメンバーが雑談し合える関係性を作るところにマネジメントの本質があるんじゃないかなと本を読んで感じたんですけど、どうですか?

リモートワークで「雑談がなくなる問題」に直面

山田:ありがとうございます。いやいや、僕なんか逆に倉貫さんとかリモートワークとか管理ゼロとかザッソウとか、もろかぶりと言うか(笑)。「そのまんまやん」というか。

逆に「そこまでかぶるか!?」というくらい、言われていることが一緒で。マネジメントのスタイルとか。もうちょっと倉貫さんのほうがきっちり細かく具体的にやられていることを書かれていると思うので、聞きたかったんですけど。

結局ザッソウ(雑談と相談)って、どこから何をきっかけに始めたんですか? 最初から?

倉貫:いや、最初は……。

山田:これ、僕勝手に聞いていいんですか? 西舘さん。

西舘:OKです。OKです。雑談のきっかけ、質問のほうでも絶対聞こうと思っていたので、ありがたいです。お願いします。

倉貫:そうですね。僕らのザッソウのきっかけは、どちらかと言うとリモートワークを始めてからですね。それまでは、言っても在宅勤務のメンバーが1人2人ぐらいで東京にオフィスを持っていて、オフィスのメンバーで会話しながら仕事して。

在宅勤務の方とはテレビ会議はするんだけど、いわゆる普通のテレワークみたいな。オフィスにほとんどいて、会議するときだけつなぐ感じだったので、そんなにコミュニケーションに困ってなくて。

それでオフィスにいる人たち同士は何気なく会話したり雑談しながら仕事をしていて、徐々にリモートワークの人が増えて、みんながリモートワークし始めたら、雑談する時間が減ったというか、なくなるんですよね。

テレビ会議をすると用件を伝えて終わるんだけど、実はテレビ会議が終わった後に「なんか盛り上がったね」ということが話せなかったり。廊下ですれ違って話したりすることがなくなって、これはよくないなと思って。

チームワークに不可欠なのは「雑談と相談」だった

倉貫:雑談する場所がなくなっちゃって困ったので、僕らは仮想オフィスでチャットできる仕組みを作って雑談をやるようになったら、またみんなと一緒に働いてる感が出てきて。

チームワークって目に見えないものなんだけど、実は物体の分子みたいなもので「チームワークの分子は雑談で構成されてたんじゃないかな」みたいな。

山田:なるほどね。

倉貫:目に見えないんだけど、それがあるからチームというかたちになっているということがわかって。「これはもうマジで雑談が大事だね」と言って、うちの誰かが「これはもうホウレンソウ(報連相)と言ってる場合じゃないな。ザッソウ(雑談+相談)だね」と話していて「これ、いただきます」と言って、僕が講演で使いました。

(一同笑)

山田:雑談と相談、ザッソウ。おもしろいですよね。

倉貫:これも雑談から出てきていて。私が考えたわけじゃなくて、メンバーとの何でもない話からアイデアが出てくるんですよね。

山田:それってなにか時間で枠を取るんですか? ぴゅーって急に、今日とかじゃなくて、「一応この人とは……」と言って、何曜日の何時をこの人とかって決めてやっているんですか? 

倉貫:2つあります。1つは普通のオフィスでの本当の雑談ですね。時間を決めずに誰かの席に行って「ちょっといいですか」って言って、「いいよ」ってちょっとだべるみたいな。

別の人から逆に私の席に来て、「ちょっとしゃべりたいんですけど」「いいよ」と言ってしゃべるみたいな。これってでもオフィスによくある……。

これって僕らは雑談でもあり相談でもあり。言ってみたら「ちょっといいですか」って雑談とも相談ともつかないもんなので、これを常からやってる感じですね。