人に響く言葉を紡ぐ方法
司会者:三浦さん、ありがとうございました。ちょっとだけご質問を受けたいと思いますので、よろしければ挙手をいただければと思います。
(会場挙手)
はい。じゃあ、ぜひ。前に出ていただければと。
質問者1:ありがとうございます。先ほど言葉の経営が大事になってくるという話があったんですけど、私自身言葉を紡ぐのがすごく苦手で。どうしたら人に響く言葉を紡ぐことができるようになるのか、インプット方法や考え方を教えていただけたらうれしいです。
三浦崇宏氏(以下、三浦):はい。ありがとうございます。意外とあんまりテクニックやスキルをイメージしないほうがよくて。実際にはわりと「ちゃんと考えてちゃんと話す」ことしかなかったりすると思っているんですよ。
うまい言い方をして「一発で相手の心を射貫こう」みたいなことは、もちろんプロや僕らみたいな仕事をしているとそういった技術が必要になる場合もあります。
今どういうお仕事をされているのかわからないんですけれども、例えば人を動かしたり自分の考え方を相手に伝えたりすることは、たぶん1回自分なりに咀嚼して、言いたいことを全部書き出してみたほうがいいですね。ブワーッと書き出すと無限に出てきます。
別に文章じゃなくてもいいので、白紙に、それこそグラレコ。今やってグラレコを描いてくださっていますけども、そこに思いついたものをバーッと書いてみる。思いついたことを書くと、本当に伝えたいこととそうでないことが自分の中で明らかにわかるんですよ。
その中で本当に伝えたいことだけを抜き出してみる。それを直接相手に伝えてみるというのが思い浮かびますね。
あともう1個は、世の中のほとんどの考え方って、もうすでに考えられていたりするんですよね。だから今度は自分が伝えたいこと、自分が考えたいことを過去の哲学者や文学者、ミュージシャン、作家とかが言っていたことと似ていることはあるのかなと思って探してみる。
すると、例えば自分の書いたものがカントという哲学者が言ったことに近いような気がすると。そうしたらその人の本を、難しいけどなんとなく読んでみるとか。その人の本について解説した本を読むと、その考え方にまつわるいろんな言説が体にたまっていくんですよ。それが1つの訓練になるかもしれないですね。
質問者1:ありがとうございます。
三浦:ありがとうございます。
誰もが情報発信をするべきなのか?
司会者:ありがとうございます。他には……。
(会場挙手)
あ、ぜひお願いします。
質問者2:三浦さんのTwitterを見て来させていただきました。
三浦:ありがとうございます。
質問者2:三浦さんは堂々としているのですが、言葉遣いがすごく優しいなと思っていまして。
三浦:唐突ですね。体がでかいだけですよね(笑)。
質問者2:言葉遣いも。今日来ている人(観客)は、発信をしていない人が多かったんですけれど。
三浦:発信をしていない。
質問者2:挙手をしていない。僕自身もあまり発信はしていないんですけれども、発信をしたことでメリットというか、良くなったことがあれば。三浦さんはけっこうTwitterとかで発信されているじゃないですか。
それをみんなやったほうがいいのか、できる人だけなのかというところをちょっと聞いてみたいなと思っていまして。
Twitter投稿の3つの役割
三浦:みんなが情報を発信したほうがいいのか、そんなにしなくてもいいのかということですよね。結論から言うと、別にしなくていいと思います。
僕がTwitterをわりと更新しているのは、3つくらい役割があって。1個は単純にメモなんですよ。僕の場合仕事が打ち合わせや企画をすることなので、企画にならなかったりとか、打ち合わせで重要じゃなかったけど話しているうちに「いい思いつきだな」とか。
これには意外に今の時代の真実があるんじゃないかな。口にしたことをメモするついでくらいの感じでツイートしているというのが、わりと正しいかなと思っていて。
僕の会社でインターンをしている大学生もいるんですけれども、例えばそいつも「あ、こんなに適当につぶやいてるんですね」とか。別に作家やコピーライターみたいに1個1個の文章を考えなくてもいいと思うんです。実は、今こうやって「情報発信は別にしなくてもいいと思うよ」と話しているようなことをつぶやいているだけなので、メモ代わりなんです。
もう1個は、仮説検証です。例えば今僕が考えていることをつぶやいてみて、「あ、ぜんぜん反応ないな」とか。ポッとつぶやいたことが「わ、1,000リツイートぐらいいった」「じゃあ、これはみんなが思っていることだったんだな」「みんなが求めてることだったんだな」とか。
今の時代の人々が考えていることと、自分が今考えていることがどれくらい合っているかの仮説検証をしている感じはあります。自分の考えていることが世の中に合致しているのかをなんとなく知りたい、感じてみたい人は、投げかけるつもりでやってみるのもありかもしれないなと思っていますね。これが2つ目です。
3つ目、僕の場合はやっぱり言葉を技術として仕事をしているので、ある種の練習というか。140文字のTwitterやInstagramとかを使って、自分の情報発信の技術に関して練習しているのはもちろんあります。ただ、これは誰もがそのプロフェッショナルになる必要はないので、無理してやる必要はないかな。
情報発信することは、常にリスクを伴っている。なんらかの形で誰かを傷つけている。別に僕は炎上とかはぜんぜん怖くないんですよ、正直どうでもいいと思っています。ただ、結果的に誰かを傷つけてしまっている可能性があることは意識して発信したほうがいい。
誰かを傷つけたり誰かにいやな思いをさせる可能性があるけれど、それでも言っておきたいことがあったらつぶやいておいたほうがいいかもしれないし。そこもなにかを発信するときにはどこかで誰かを傷つけてしまうとか、自分が想像できていないダメージを与えてしまう可能性があることは、意識しなきゃいけません。
それを負って、なおまだ発信したいことがあるかどうかは問いかけてからやったほうがいいかもしれないなと思っています。
質問者2:ありがとうございます。
立場や価値観が違っても、言葉を尽くせば理解し合える
司会者:ありがとうございます。他には。
(会場挙手)
あ、ございますね。
三浦:意外に挙がりますね。
司会者:挙がりますね。じゃあ、近い人。
質問者3:ありがとうございます。恐竜と哺乳類はわかり合えるのでしょうか? という質問なんです。さっきの隕石がバンバン降ってくる時代になりましたという話がありまして。
今回の渋谷区のものもそうだし、例えば行政や大企業もそうだと思うんですけど、基本的に恐竜側がやっている。でも大きなことを変えていこう・変革していこうと思ったら、やっぱり彼らに動いてもらわないといけないなと思うんです。そういうときに、どうやったらわかり合えるんでしょうか? という質問です。
三浦:ありがとうございます。世代間の価値観が違うときにどうやってわかり合えるかという質問だと思っていいですか? これには2つあって、1個は前提として「わかり合えると思っていていい」と思っていて。僕らとしても、やっぱり言葉を尽くすことであったり。
みんな怖いんですよ。上の世代というか、恐竜世代というか、今ヒエラルキーの上にいる人たちも「自分がうまくいっていない」「世の中が変わっていっている」ということもみんなわかっていると思うんです。メンツがあるとか、あるいは「自分たちはこのまま逃げ切りで、自分たちが死ぬまでは大丈夫だな」と思っているとか。
そういう人たちに「じゃああなたの子どもはどう思うでしょうね」「あなたの孫はどう思うでしょうね」とか。彼らも絶対に危機感を感じているので、ちゃんと話せばわかるよというのが僕の1つの信念ですね。
「話せばわかる」とみんな簡単に言いますけれど、これは実はすごく深い言葉だと思っていて。適当に言ってもわからないと思うんですよ。「お前の言ってることは違うぜ」と言ったって向こうもメンツがあるから「いや、〇〇だ」とか。
そうじゃなくて、「僕が思っているのはこういうことだよ」とちゃんと言葉を尽くせば、わかってもらえるんじゃないか。こういう前提に立たなければ、表現や企画の仕事なんてそもそもできないので、これが1つめ。
行動が現実を変えることがある
もう1つは、これはバンクシーというグラフィティーアーティストの有名な言葉なんですけれども、「いつの時代だって許可を取るよりも許してもらうことのほうが簡単だ」という、僕の大好きな言葉があって。
つまり事前に「すいません、今回この壁に絵を描きたいんですけれどもいかがなもんでしょうか?」と言ったらだいたい断られるんですよ。「だめだ!」「許可はあげない」と。
だけど、いざ描いてみてそれが本当に素晴らしかったら、「まぁ、こういうこともね」みたいなことがある。
つまり、本当に素敵な行動によって現実が変わった瞬間、みんな許しちゃうことがあって。許可を取ることも大事なんだけど、時には許してもらうことを前提に行動したほうがいいときもあると思っています。
なので、質問の回答は「話せばわかるという前提に立たないと、始まらないですよ」ということです。「上の人はわかってくれるんでしょうか」じゃなくて「わかってくれる」という前提にまず俺たちが立たないといけない。それが1つ目。
2つ目は、許可を取るよりも許してもらうほうが簡単なときもあると。つまり行動が現実を変えることがある。この2点が回答になっているんじゃないかなと思います。
質問者3:ありがとうございます。
(会場挙手)
司会者:はい。じゃあ、お願いします。
言葉が目的地を決め、数字が進捗を管理する
質問者4:ありがとうございます。数字の経営、言葉の経営のところで1点質問したいことがありまして。
三浦さんのおっしゃっている数字の経営から言葉の経営へというのは、実は単純にその利益や売り上げが重要ではなくなってくるということではなくて。
言葉で伝える価値を生む数字はなんなのか、数字でも言葉でも価値を生むものはなんなのかを言葉で伝えて、数字でしっかり目標を定義してこそ初めて経営が成り立つという意図なのかなと思いました。そういう捉え方でよろしいでしょうか。
三浦:そうですね。それでいうと、目的地を決めるのは言葉なんですよ。例えばすべてのお年寄りが笑顔で働ける社会を作るというのは目的じゃないですか。この目的地を決めるのは言葉なんですよね。
例えば「今度の旅行はどこに行こう?」「ハワイに行こう」と言ったら、ハワイに行くことになる。これは目的が言葉で決まるんです。
一方、「今本当に何人お年寄りが笑顔になっているの?」「今日本にいる1,000万人のお年寄りのうち、300万人を笑顔にできました。あと700万人います」というのは、数字ですよね。
ハワイに行く途中に「今20キロ地点までたどり着きました。あと200キロあります」。これも数字です。つまり目的地、目的を定めるのは言葉だが、進捗を管理するのは数字だと理解するとわかりやすいかなと思います。
質問者4:ありがとうございます。仕事柄よく企業のいろいろなプロジェクトのお手伝いをさせていただくんですけど、数字を決める人と、言葉で価値を指し示す人、ゴールを指し示したり伝える人が違ってしまっているのが日本の問題だと思っていて。
言葉で伝えられる人も数字がわからないといけないし、数字がわかる人も言葉の価値や力をしっかり使えるようにならないといけない。でなければ結局いいアイデアがあってもうまくゴールまでたどり着かないんじゃないかと日々感じていたので、非常に納得できました。ありがとうございました。
三浦:おっしゃる通りだと思います。ありがとうございました。
常識と過去との戦い
司会者:ありがとうございます。最後の1人、お願いします。
(会場挙手)
質問者5:おはようございます。競争から変化へというところについて、今の世の中を自分たちなりに見ていくときに、すごくなるほどなと。やっぱりこういうふうに考えてくとおもしろいなと思いました。
変化していくことを考えたときに、日本では戦わなきゃいけない人が出てくると思うんですね。農業でイノベーションを起こそうと思うと、農協という仕組みにどうしても立ち向かわなきゃいけないというか。
日本は既存の仕組みに対して、なにかブレイクスルーを起こさなきゃいけないことがたくさんあると思うんです。三浦さんの中でなにか、ビジネス、アート、政治でも、日本の既存の仕組みに対して戦っていかなきゃとか。
そういった展望、変化していく上でもっと挑戦していかなきゃみたいな考え方などがもしあれば聞かせていただきたいなと思います。
三浦:ありがとうございます。戦う気持ちはあったほうがいいんですよ。戦わなきゃいけないものは、基本的にはほとんどが常識と過去なんです。例えば僕の会社はGOといって、小さい広告の会社なんですけれども、たぶん広告プロモーションに関するビジネスにおいて日本で一番進んでいるんですね。
僕が博報堂という会社を辞めるときに、(博報堂は)日本で2番目に大きい会社なんですけれども、当時の上司から「競合になるのか」と。僕の大好きな先輩なんですけれども、「やー、じゃあ敵になるのか」みたいに言われて。でも僕にぜんぜんそんな気はないんです。
権力は圧倒的価値には絶対に勝てない
電通や博報堂って、わりと大きい広告代理店って悪みたいなイメージがちょっとあるじゃないですか。情報をコントロールしているとか。でもそんなのないんですよ、本当に。みんないいやつで一生懸命働いているんですよ。もしかしたら今日いるかもしれないですけれど。
だから敵じゃないんですよ。僕は「電通や博報堂みたいな大きい会社がまだできない実験を、GOという小さい会社で一番早く繰り返すから、うまくいったら真似してください」と言ったんです。うちの真似をしたら、電通も博報堂も世の中がガラッと変わるから。
実際にこの3年ぐらいやってきて、わりとそういうことが起きていて。大きい広告の会社の偉い人から僕に相談があって、「GOがこんなにうまくいってるのはどうなっているんだ」「なにか真似できることがあったら教えてくれ」と言ってもらえて。すごくうれしいなと思います。
つまりいたずらに敵を作っても案外大変で。むしろ常識と戦う新しい取り組みを作って、それを大きいところが真似すればいいなと思っているんですね。
既存のビジネスモデルをぶっ壊すというよりは、新しいビジネスモデルを作って、既存の権力が真似する構造をいかに作れるか。圧倒的価値に権力は絶対勝てないから。そこは信じていいと思います。
質問者:素敵なパンチラインをありがとうございます。
三浦:ありがとうございます。すみません。最後に1つだけお願いなんですけど、せっかくなのでぜひ。今日は「発信したほうがいいんじゃないか」という話もあって、別に無理にしなくてもいいんですけど、もしよければ今日のGO三浦のツイートに関して、なにか感想などを言っていただけると、僕もうれしいです。
こういう大学や会社の講演会は終わったあとにアンケートなどをいただいて参考にするんですけれども、こういうオープンな場だとなかなかいただけないので、ぜひ。今日の感想やためになったところ、あるいは違うと思ったところ、勇気づけられたところなどがもしあれば、感想をGO三浦宛につぶやいてもらえるとうれしいです。
以上です。短い時間でしたけれども、僕にとってもいい時間でした。ありがとうございました。
司会者:三浦さん、ありがとうございました。
(会場拍手)