「役に立つ」だけでは人は動かせない

三宅邦明氏(以下、三宅):DeNAの三宅でございます。今年の3月末まで役人をしていましたが、先の宮田氏(株式会社宮田総研 代表取締役)や澤先生(LINK-J副理事長)のお話を聞いて、「この世界に飛び込んで良かったな」と思いました。

「どう使うか」「良いものだから使ってよ」というアピールを、役人の時もずっとやってきまして、「役に立つから使ってよ」だと、実は人が動かないという限界を感じていました。

「楽しく使ってもらう」「お得感がある」といったことを混ぜることで、人は動くのかなと日々感じております。宮田氏もおっしゃっていた「融合」という意味では、我々の力を、松村先生の情報銀行などとも融合させてもらえたらありがたいなと思いました。

DeNAは20年前にできた、現在3,000人規模のベンチャー企業でございまして、5年前からヘルスケア部門を立ち上げました。「シックケアからヘルスケア」、それから「楽しみながら健康に」というのが、我々のミッションとなっています。

この、楽しみながら健康に裏打ちする我々の技術を、我々は「エンゲージメントサイエンス(Engagement Science)」と言っております。個人をつなぎとめる。「登録したくなる、使いたくなる、使い続けたくなる」といったところに着目をしています。健康のためにやる、というのを正面からではなく、楽しみながら行えるようにしたいと考えています。

この「エンゲージメントサイエンス」とは、“長く楽しく続けられる仕組み”と定義しています。またの言葉で「ゲーミフィケーション」。その裏にはデータ分析力が必要だと考えています。

DeNAの稼ぎ頭はゲームでして、ゲームも当初から売れていたわけではありませんでした。どこで人がやめてしまうか。飽きた頃にリアルイベントを開催するなど、日々データを分析しながら、ソフトを変えていく。生きているソフトを作り続けることによって、つなぎとめられるものを作っています。

それをスポーツに応用したのが横浜DeNAベイスターズです。2011年に買い取りましたが、今や動員数は2倍、ファンクラブは15倍となり、日々の工夫や分析によってPDCAサイクルを回すことで実現しております。

ヘルスケア分野に応用すると、楽しみながら健康活動が続けられる仕組みや、宮田氏も言っておられた「コミュニティデライブドサイエンス」のような、研究に参加するコミュニティそのものが、参加したいと思わせるような仕組みづくりを目指していきたいと思っています。

ゲーム事業で培ったデータ分析を「ヘルスケア分野」に応用し、行動変容を促す

三宅:主力サービスとして「Kencom」がございます。約80の健保組合において300万人規模で使っていただいておりまして、生活習慣病の予防、行動変容のためのサービスとなります。健保組合と連携し、健康診断のデータを蓄積し、健康状態に応じた、最新健康情報の配信をしています。

健診結果は(通常だと)年に1回は見ますが、健診結果に応じた記事が推薦される機能を通じて健康知識を深めてもらい、何度も健康診断結果を見返してもらえるようにすることで、見える化や啓発というのが、第一の「エンゲージメントサイエンス」になります。使うたびに溜まるポイントによって、ポイントインセンティブをつけています。歩数に応じて達成するとポイントが溜まりギフト券などが当たるようになっています。どこにポイントを与えると、人が動きやすいか。どこにポイントインセンティブのトリガーがあるか、わかってきています。これが第二のエンゲージメントサイエンスです。

もう一つは、「ピアプレッシャー」です。ゲーム依存症も議論になっていますが、夢中になれるゲームというのは、グループで連帯したり、人と人がつながり戦ったりすることに、夢中になる要素があります。例えば5人組をつくり年に2回、競いあったり、応援したりしますと、リアルワールドのつながりの中で続けることができるのです。

久山町のコホートの中で、糖尿病の罹りやすさなどを天気予報のマークを用いて8段階でわかりやすく分類をしています。たばこをやめた場合、血圧が正常になった場合に、そのマークが良い天候の方に変わります。「食塩をやめなさい」「運動をしましょう」ではなく、行動変容を促す工夫を進めています。

このように、見える化、ポイントインセンティブ、ピアプレッシャーを使い人々の継続性を高めています。一般に3ヶ月で5パーセントくらいの人しか使い続けられないのですが、75パーセントの人が使い続けています。またウォーキングイベントをやることによって、歩数が2倍に増加し、終わったあとも、習慣化することで同じペースで歩いている歩数を維持しているという結果が得られています。

継続利用によって、健康リスクが軽減していることがわかってきています。健康診断やレセプトのデータを健保組合から委託を受け、個人情報保護法の中で匿名化していますので、行動変容による介入の結果と合わせて分析できることが強みとなっています。生命保険会社さんとも我々のエビデンスを使うことで、歩くと保険料が安くなるといった保険商品を考えており、さらなる展開を進めています。

ほぼ無償の研究プロジェクトに定員超えの参加者が集まる理由

三宅:我々のサービスとして、「MYCODE」という遺伝子検査サービスがあります。280項目の遺伝的傾向が、70万箇所以上のSNPを調べることでわかる検査になります。この検査を受けた方に、その後のいろいろな研究にも参加してもらえるようなプラットフォームを作っています。

MYCODEの検査をする際に、今後の研究に参加していただけないかと提案すると、約9割の方がやりたいと言ってくださいます。それによってMYCODEのゲノム情報に加えて更なるデータが得られます。

SNP(スニップ)だけでなく、例えば、森永乳業さんの研究プロジェクトの場合、腸内フローラの研究に参加することになりますので、糞便試料が必要なのですが、1,250名の定員のところに4日間で2,000人の応募がありました。

ほぼ無料でやってもらっています。研究への参加者募集では驚異的な集まり方で、「お金ではなく、研究結果によって人々の健康・科学に寄与できます」「研究結果を教えます」といったところに、価値がある。

通常は遠視検査の結果をお伝えする1回限りのやり取りになりがちで、長くその方々とコンタクトができませんが、我々は、研究論文のアップデートや新サービスの追加、セミナーの開催、記事を配信するなどで、つなぎ続けるようにしています。

エンゲージメントサイエンスを使って、新しいデータを分析し、エビデンスを作り出し、場をつくり、Community-Derived scienceを推進していければと考えております。