2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
提供:京都リサーチパーク株式会社
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島本久美子氏(以下、島本):京都という場所は、世界から人を惹きつける非常に魅力的な場所だと思うんですね。その上、ある意味ですごくしっかりした伝統とか、考え方、ものづくりの風土という枠もしっかりあります。
いろいろな人たちが京都に集まったときに、京都というしっかりした枠の中で、新しい物が生まれていくことが、そういったinnovationにつながっていけばいいなと期待しています。
竹内薫氏(以下、竹内):京都という町は、東京人である僕からすると、やっぱり一風変わった場所なんですね。昔、京都大学の先生方とお酒を飲んでいたときに、これはちょっとあれなんですが、「東大はだめだ。京大はいいんだ」と。
その理由が、町がそんなに大きくないので、例えば京大で先生たちと生徒たちが飲み会をすると、「終わってから、みんな歩いて帰れるんだよ」「自転車で帰れるんだよ」というお話になって。「常に会話できる場所があるんだよ」という話があったんですね。「いろんなところからいろんな人が来ているんだ」という話もあって、それは多様性だと思うんですけれども。
「東京は町が大きすぎて、そもそもそういった緊密な関係を築くのが意外と難しい」と。「時間が来ちゃうと、みんな『あ、終電です』となって、もう帰らなくちゃいけない」という話がある。そういったことも、もしかしたら創発みたいなこととも関係するのかなという気もするんですが。
多様性とか町の規模とか、実はいろんな要因が関係していると思うんですが、そこらへんについてご意見はいかがでしょうか。
久能祐子氏(以下、久能):すみません、私から先に。私は今、いかにして創発をファシリテートするかという仕事をしていて、ワシントンDCと京都の両方でそうした場を作っています。
意外とその(町の)大きさが大事で、なおかつ非日常空間ということも大事で、歴史のある町なんだけれども、なぜかいろんな人が集まってきているところです。ワシントンも2キロメートル四方のところで、ほとんどすべての人に会えます。180ヶ国の大使館もあるので、もちろんいろんな人種の人にも会えます。シンクタンクはなんと380もあるんです(笑)。
政治家に会いたければいつでも会える。ビジネスセクターもあるし、大学も非常に多いです。京都も、ちょっとそういうところがありますね。さまざまなセクターの方に、本当に自転車で行くぐらいで会える。私たちは、これはたぶん、serendipityにとって非常に重要なんじゃないかと言っています。
serendipityには、ある程度の密度が大事だと考えておりまして。もちろん密度がありすぎるとだいたい腐っちゃうのでだめなんですけれども、広すぎるとまた会えないわけです。ですから、そういう(規模感が)serendipityにとって大事なのかなというのがあります。
久能:それからdiversityに関しましては、やはりそのinvention(発明する行為)、0→1とか1→10という、今までなかったことを考えるときに、diversityが大事です。
なぜ大事かというと、おそらくdiverseな人たちは、感知、感覚。いわゆる感じる力や認知力が違うわけです。違う環境に関してそれぞれ認知するので、環境が非常に変わってきている今のような時代、あるいは行き詰まっている時代には、人間は自然といろいろな人が来ることによって、誰が成功してもいいという感覚になるんですよね。
後発の人は、diverseなグループの中のどこから成功してもいいという感覚を、自然と持っています。innovationの中でもとくに最初の段階である、今日話している創発の部分に大事だと思われているので、それ(diversity)を自然と人間は要求するし、自然とそういうふうになっているんだと考えています。
inclusionのほうは少し違いまして。例えば、グローバルな問題を解決するためには、やはりグローバルバリューというものがいるわけなんですよね。ですから、diversityのほうは、どちらかというとそれぞれの人が別々に立っている感覚です。
例えば今の障害者の方たちのことを、ニューロダイバーシティ(注:脳の多様性。違いを優劣ではなく個性と捉える考え方)やニューロマイノリティとか申しますよね。つまり、違う感覚を持った人、違う認知力を持った人が一緒に考えていることが大事なんだという感覚です。
inclusionのほうは、もう少し同じ感覚で問題を解決していく力。どちらかというとグローバリゼーションという感じで考えておりますけれども。
inclusionでは、(共有する)価値をあまり大きくすることはよくないと考えています。すべてのこと、すべての価値観を一緒にしましょうというと、全体主義的な話になりますが、そうではなく、例えば、人間と環境と地球が(共存して)生き残っていくためにどうしたらいいのかという根本的なバリューだけを共有できる。そういう感覚がinclusionというんじゃないかなと、今は考えています。
竹内:山極先生はいかがでしょう?
山極壽一氏(以下、山極):京都の人は147万人で、約1割が学生です。大学は38校あって、「京都は石を投げれば、学生か坊さんに当たる」という場所なんです。
特に重要なのは、さっき竹内さんがおっしゃったように、飲み屋でいろんな人に会うわけですね。1つの分野で完結しない。だから必ずいろんな職業の人たちと隣り合わせで飲むことになる。ママもそれを知っていますから、「さっきの人はこういう人だよ」と裏話を教えてくれる。言うならば“馬鹿な発想”ができるわけです。
もう1つ重要なのは、京都というのは「俺・私は世界一だ」と思っている人が多い場所です。だからいろんな職人さんがいて、その技術はもう世界一だとみなさんが思っていらっしゃるわけですよね。だからこそ、自信たっぷりにいろんな自分のことを言う。それから、1000年の歴史の中で作り上げられた物が残っているんですね。
私は、この物というのは実は過去からのメッセージだと思っています。その物にまつわるさまざまな物語が伝えられるわけです。その中に、現代では考えられない発想が潜り込んでいる。今でもそうなんですが、そうした置物や仏像を前にしながら、いろんな発想ができるんだと思いますね。それがすごく大きな強みだと思います。
竹内:多様性がありつつ、空間的には狭いと。でも時間的には非常に広いという感じですか。
山極:奥行きがあります。それから、東京と違うのは、東京は終電がディスカッションの終わりなんだけれども、京都は歩いて帰れますから、朝まで飲めるというのはあります。
(一同笑)
竹内:松山様はどうでしょう。東京と京都という感じで。
松山大耕氏(以下、松山):私は京都生まれ東大卒っていう、一番嫌われるタイプなんですけれど。
(一同笑)
松山:東京にいると、けっこう「なぜそんなことをするの?」と言われるんですよね。なにか合理的な理由がないと、みんなやらない。京都の私の友人たちは、おもろいからやるというか、「別に理由がなくてもいいやん」と。そういう雰囲気が京都はいいなと思うんですよね。
それともう1つは、東京の人は人口が多い故に、同じ業界で群れるんですよね。京都は東京の約10分の1ぐらいじゃないですか。そうすると……。もちろん、同じ業界も仲はいいんだけれども、他の業界の人とも付き合わざるを得ないというか、そういうエクスポージャーの機会が非常にあります。それはやっぱり、さっきおっしゃったように、いいことだなと思いますよね。
竹内:そういう意味では、京都は創発にとっては、かなり理想的な条件が揃っているということですよね。
松山:そう思います。はい。
竹内:ちなみに関東からすると、我々は関西圏という(一括りにしてしまう)考え方もあるんですけれども、やはり、例えば京都と大阪ではだいぶ違うんですか? 違いますね。それはどう違うんですか?
(一同笑)
松山:新聞(社の方)も来てはる中で、なかなか言いづらいことなんですけれども(笑)。なんて言うんでしょうね。京都の人は、さっき先生がおっしゃったように、「俺が世界一や」みたいな人が多いわけですけど、なんて言うんでしょう。
「わかる人だけわかってくれたらいい」という人も多いんですよね。でも、大阪の人は、例えばシャネルマーク、ドン! みたいな。けっこうわかりやすいものを求める人が多いですよね。
あとは、神戸の人も、京都や大阪とは、ちょっと毛色が違いますよね。だから、なんていうんでしょうね。お互いに牽制しあっている関係がいいんじゃないですかね。「違うぞ」と。
竹内:つまり、関西圏によっても地域によって、非常に個性が強いということですよね?
松山:そういうことですね。まさにdiversityです。それが非常に強く意識されている。関東とは違う文化があると思いますね。
竹内:わかりました。ちょっと映像のお話に戻りたいんですけれども、例えばLGBTQの映像が売れているのは、ここ最近で急激に変わってきたことなんですか?
島本:そうですね。急激に変わってきたのも、やはり若い世代の人たちが、多様性をサポートしている企業に対して共感したり、身近に感じている(ことがあると思います)。世の中に物があふれている中で、いかに自分のブランドに対して愛着を持ってもらえるか。
それがマーケティングにおいて非常に重要視されている中で、やはり共感を得るためには、今は世代によっても、響くものがものすごく変わってくるんですね。なので、特に若い世代をターゲットにしている企業は、そういう幅広いLGBTQ的なものも広告に取り入れたり、多様性を非常に重要視しています。
竹内:感覚的に、多様性とinclusionというもののバランスをうまく取っている企業は業績がいいというのは、なんとなくわかるんですけれども。もう少し突っ込んで、こういう理由でこの企業は調子がいいんだろうとか、そういったところってなにかヒントはありますか?
島本:先ほどの多様性とグローバル化も大事だと思うんですけれども、グローバルともう1つ、ローカルのバランスも重要です。
例えば、最近非常によく売れているAppleなどのメーカー。日本の企業はどちらかというとメーカーはそれぞれの国にけっこう任せてきて、場合によってはロゴの色も国によって違ったりもするんですけれども、最近のトレンドはその逆です。
Appleなどでしたら、非常に強いマーケティングを本社で持つ。その考え方の下に、写っている被写体などは、ローカルの人たちが共感できるようにローカルなものに変えていく。でも、マーケティングのブランド戦略は、非常にがっちりとしたものを本社で設ける。
そういった意味で、枠というか方針はしっかりとありつつ、あとはローカルに合わせて多様なものを展開していく。そのようなトレンドは見受けられます。
竹内:多様性という……。すみません、山極先生に1つうかがいたいんですけれども。例えば日本の大学は、将来的に研究者を輩出するという場所ですけれども、大学に海外からの留学生を増やす多様性といったものは現状どういう感じなんでしょうか?
山極:今ね、留学生を増やそうとしています。京大の1割以上の学生が留学生だし、特に大学院は非常に多いですね。実は昨日も海外の研究者との懇談会をやっていたんですけれども、日本の学生も海外の学生との交流を通じて、すごくグローバルな考え方や体験というものを身につけはじめています。
例えば、会社に就職しても一生涯そこに終身雇用で雇われるなんて思っていませんし、嫌なら辞めちゃえばいいし、転職すればいい。だから、今では3年以内に辞める新入社員が30パーセントぐらいいるという話です。
彼らにとって問題なのは、生きがいをどうやって感じることができるのか、どれだけ楽しい職場なのかということですよね。自分の能力を認めてくれることがとても重要で。昔みたいに会社への忠誠心を持って、とりあえず半年間は研修に出て、会社のために尽くす技術をそこで磨いて、ということは、ほとんどの人が思っていません。
そういうものは外国人の学生からずいぶん学んでいます。しかもけっこう海外に行って体験もしていますから、おそらく会社への期待や意識がずいぶん変わっていると思いますね。
そういう意味で、優良企業だからといって、たくさんの学生が来てくれると思ったら大間違いで、やっぱり会社の業績よりも、いかに自分の能力が発揮できるか。自分が楽しく仕事ができるかというところを、みんなが求めはじめている気がします。
竹内:例えばノーベル賞を受賞される方の多くは、時期は異なると思うんですが、海外留学や海外での研究期間がけっこうあって。そこでの体験について、よく受賞の際に述べられるんですが、海外から人を呼び込むのと同時に、自分が海外に行くこともけっこう大切だと思われますか?
山極:とくに自分の意思で海外に行くことが重要だと思うんですね。なにか既存のコースに乗って、語学留学などに行って、ある技術を身につけて単に帰ってくるだけじゃなく。自分が「こういうことをやりたい」と思って行って、例えばそれが裏切られたとしても、ある程度それをやり抜いて帰ってくる。
昔は片道留学みたいなことも多かったわけですよね。帰る旅費がない。向こうでアルバイトをしながら必死になって暮らして、そこでまた自分の希望や目標が変わって、新しい目標ができて、そこで修行をして、日本に帰ってきて、ぜんぜん別の大学に行っちゃうこともけっこうありましたから。
ノーベル賞受賞者の山中さんにしても、大隅さんにしても、いろんな大学を渡り歩いているわけですよね。そういう力強さみたいなものは、海外で身につくんじゃないのかなと思っていますね。
竹内:例えば久能様が海外に行かれたきっかけとか、海外での生活はいかがでしょう。
久能:私も片道留学だったんですけど。帰りの旅費がなくて、切符は1つしかないんです。私の先生が福井三郎先生という工学部の先生で、その当時、私は1,000人の学生のうち、6人の女子学生の1人だったんですね。
福井先生は、女子学生でなおかつ研究者になりたいと言っている人を教えたことがないので、ここで自分だけが見ているのは不安だ、教えきれないんじゃないかと思われて、親しくされていたミュンヘン工科大学の先生のところに席があるので、「行ったらどうだい」ということで、行かせてくださって。
その1年がなかったら、私はたぶんこういう仕事はしていなかったかなと思うんですね。非常にunusualな(普通ではない)というか、非日常でしたので。もちろんストレスはあるんですけれども、その小さなハードルを1つずつ越えていく感覚が、先ほども申しました自己肯定感というか自己効力感にすごくつながったので。
反対もあるんです。アメリカの人が日本に来ると、そういうふうに思うようなんですよ。どうやったら人がインスパイアされるかというときに、「Sharing time and spaces unusual place」とよく言うんですけれども、非日常空間において、時間と空間をシェアすると。それは日本人だけではなくて、日本に来た海外の人にも起こる現象だと言われています。
竹内:非日常空間というと、それこそ禅の修行みたいなものも思い浮かぶんですが、いかがでしょうか。
松山:そうですね。前のカリフォルニア州知事(ジェリー・ブラウン氏)も、30代でカリフォルニアの州知事をされて、それから政界を離れて鎌倉の禅寺に来るんですよね。ずっと(鎌倉で)過ごされて。しばらくして、また(アメリカに)戻って、この間まで、70代で2期目のカリフォルニア州知事をされていたわけですけれども。
「日本の禅寺での生活が自分を変えた」とおっしゃっていますし。スティーブ・ジョブズ氏もご存知のとおり、そうですし。だから、ちょっと前になりますけれども、GUCCIってありますよね。フィレンツェに本社がありますが、京都がフィレンツェの姉妹都市なので、創業90周年のイベントを京都でされて。
ご招待いただいて行ったんですが、イタリア人の社長に「どこから来られましたか?」と聞かれて、「妙心寺から来ました」と言ったら、「自分は学生時代に妙心寺の宿坊に1ヶ月ぐらいずっといたんだ」と。
「そのときの禅的な感覚が自分の美的センスをすごく研ぎ澄ませてくれた」「だからすごく感謝している」という話をしていただいてですね。ただ、スタンフォードの授業も、私がちょうど今週、妙心寺と龍安寺で“禅ビタビタの1週間”というのをやっているんですが。やっぱり、本人たちの感覚はすごく変わるみたいですね。
竹内:海外から来られる方の禅の修行と、例えば日本の学生さんとの比較と言いますか。日本人と海外の方で何か差があったりはしますか?
松山:日本の子たちは黙って言われたことをします。海外の子たちはいちいち理由を聞きますね。それは、どっちがいいかどうかはわからないです。
黙ってするほうがいい場合も、もちろんあるんですよね。でも、なにか言われたとおりだらだらやってという、だめなこともあるわけですね。ですから、それはケースバイケースですよね。
竹内:文化の差という感じですかね。
松山:そうですね。それは大きく感じますね。
竹内:あと十数分時間があるんですけれども、冒頭で山極先生がおっしゃっていたところで、ちょっと気になったのが、最初に人間の脳が大きくなってから言葉が入ってきた。さらに次はどのようなことになっていくのか。それと芸術や文化との関係とか。そこら辺をもう少しお聞かせ願えますか。
山極:AI優先のデジタル社会になっていくだろうと言われていますね。現代人は、実は1万2000年前に農耕・牧畜が始まった頃と比べると、脳が10パーセント縮んでいるという話があります。
脳容量が少なくなっている。つまり、それは脳に貯めておくデータをみんな外に出しちゃったんですね。データベースにして、スマホ、あるいはインターネットの中に備えていますから。頭の中に入れる必要がなくなっている。
記憶だけだったらいいんだけど、先ほどからずっと話題にしている考える力も外出しにしちゃっている可能性があるんですね。これからは自分が選ぶのではなくて、AIが選んでくれて、ボタンを押すだけという話になるかもしれない。それはちょっと危ないなと思っています。
島本さんの話にもあったけど、自分で生活空間や世界をデザインしていくことが、今は自由にできる時代ですよね。この写真を見ていると、女性も被写体で見られる存在から、自分がやっているなにかを見せる存在になりつつあるわけですよね。
そういうふうに、一人ひとりがデザイナーとして、互いに協力しあいながら生活空間を作っていくことが、今の時代は可能なのにもかかわらず、ICT依存・AI依存という。楽ですから。そちらのほうに偏っていくと、すごく均質で個性が感じられない世界になっていくのかもしれないなと思います。
竹内:実は今朝、僕はある高校で講演会をやってきました。それは、“AI時代にどう生き残るのがいいか”という話なんですね。そこで、いろいろと強調してきたのは、やはり人間は考えないといけないんだと。
これまでは受験のせいで、けっこう暗記学習が多かった。そうすると暗記して、それを速く計算するとか、答えを書くということばかりやってきたんだけど、それはAIがやるよと。だから今後、人間は非常にちゃんと考えて、自分で考えて、判断を下して、そしてAIを使うようにしないといけないんだという話をしていきまして。
そういう意味では、AI時代における創発というものは、AIの絡みでは何か変わるんですか? それとも今のままやっていけばいいんでしょうか。そこら辺はいかかでしょう? なにかAIの役割と創発みたいなかたちで。
山極:1つだけ言うと、AIの役割ってあると思うんですよ。膨大なデータを瞬時に分析をして答えを出す。あるいは、今よく言われているのは、たくさんの人が集まっている中で顔の識別を瞬時に行って、特定の人を探し出す。そういった検索能力はものすごくある。だから、医療に使うのはとてもいいことだと思うし。
ただ、人間関係を作るには、AIは役に立たないと僕は思います。だから、松山さんがさっきおっしゃったように直観力を使いながら、芸術的な行為をするとか、それを接着剤にして人と人とがつながりあうというようなところに、AIを使うのは間違い。なぜならばAIはethics、倫理を持っていないからなんですね。
久能:たぶん「AI・ロボットにできないことは3つある」とよく言われているんですけれども、1つはパーソナリティ。個性なんですよね。ですから、一人ひとりが違うということで。
もう1つはエンパシーと言われていまして、共感する力。山極先生が最初におっしゃったもの。もう1つは、0から1を作る力。要はデータがないということ。データがないことには絶対に人間が勝てるんですよ。ですから、AIが出してくれる答えは、必ずデータに基づいているということは知っておかなくてはいけないと思っています。
ということは結局、過去の(データ)を類推しているだけになりますので、もしかして本当の意味で非連続的な未来がやってくるのだとすると、過去のデータはないほうがいいのかもしれないというぐらいなので。
ですから、データがないところから考える力は、アートも一緒なんです。今まで誰も見たことのないものを作るという意味ではゼロイチの世界なんですね。
ですから、ゼロイチの世界をやっているものは、やはりまったく新しいアイディア、倫理観ですとか。これは、必ずしも自然科学だけではなくて社会科学も一緒で、宗教もその1つかもしれないと言われていますけれども。
要は、まったく前になかったものから新しく作り上げていく力が、やっぱり人間本来の力だと思いますので、その辺はきっちりと若い方たちにもわかってほしいかなと思いますね。
竹内:今後AIはどんどん普及していくと思いますが、あくまで人間はクリエイティブにAIを使う側にいるべきであると。そういうことですね。
竹内:お時間があと5~6分になりました。ここら辺で、一番最後にKRP地区への期待や希望、ご要望といいますか(笑)。そういったところをお聞きしたいんですけれども。島本様から順繰りにお願いできますか。
島本:実は私、25年前にKRPの開発に携わっておりました。そういった意味で、久しぶりにKRPに来まして。まだまだ発展しているところを見て非常に喜んでいるんですけれども。今後の期待、ハード面の開発は、おそらくもう少ししたら完成されることになると思うんですけれども、やはりソフト面に関しましては、永遠の課題だと思っています。
ハードが終わったから開発が終わったというふうに考えずに、どうすればこのKRPがそういった創発の拠点になっていけるか。今日のお話の中で、非常に参考になる点がいっぱいあったと思うんですけれども、そういったところを期待しております。
竹内:山極先生はいかがでしょう。
山極:最近は産学連携と言われて、外部化法人制度を作るとか、地域連携プラットフォームを作れとかいろいろ言われていますけれども、それを30年前にやろうとした試みの新しさはすばらしいと思います。
京都大学もずいぶん学生を育てていただきました。ここでデザインスクールなどをいろいろとやらせていただいて。今、KRPがこれから何をしていくかというときにSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が大きな目標になると思うんですね。17の目標を持っていて、さらにさまざまな小さな目標を抱えています。
それを一つひとつ、いろいろな組み合わせによって、新しい発想を基に実現を目指す。これは企業もそれぞれSDGs、あるいはELSI(ethical, legal and social implications:倫理的・法的・社会的な課題)というのを目標に掲げていますから、それに答えていける場所になるのではないかと思っております。ぜひ、アカデミアと協力関係を絶やさずにやっていっていただきたいなと思っております。
久能:KRPのみなさま、30周年本当におめでとうございます。今日はお招きいただいて大変光栄です。私は、京都大学の近くに「toberu」という新しいインキュベーターをスタートさせたばかりです。
大企業の中にあるhiddenタレント、主に30代ぐらいまでの若い人たちで、新しいアイディアやテクノロジーや、パッションのある人たちが、1回外に出てきましょうよということでやりはじめたインキュベーターなんです。
私がアメリカからこちらに帰ってきて感じるのは、本当にまだまだ日本人の中のクリエイティビティやオリジナリティというものは捨てたものじゃないということです。本当にライフチェンジ、その若い方たち自身も、「実は大きな組織の中では気付いていなかったけれども」とおっしゃっています。
今回、私も非常にありがたいと思っているのは、大きな組織自体もそういう人たちのことを応援しようという雰囲気になってきているんです。KRPさんもそういう企業との関係とか、アカデミアの関係とか、個人との関係をオープンマインデッドにやっていらっしゃるのがすばらしいと思います。
これからもますますそういったかたちで、京都におけるKRP、あるいは京都全体のエコシステムの発展のためにご尽力いただけたらありがたいなと思っています。
竹内:先ほど控え室で、大企業の中に隠れた才能がまだあるとおっしゃっていましたが、やっぱりそういう印象をお持ちですか?
久能:そうですね。やはり組織、日本の場合は、たぶん個人と組織と社会といいますか。その3つが並び立つようなかたちのモデルが必要だと思っています。アメリカですと、もう個人と社会だけしか考えていませんので、間に組織はぜんぜんないんです。
私は、日本人の方が組織に属したい気持ちは、マズローの5大欲求でいくと、3番目ぐらいに出てくる大きな欲求だと思っています。それをあんまり否定しすぎて、アメリカ式に「個人だけでやりなさい」というのは、もしかしたら日本にあんまり合っていないのかなとも思います。
その辺はフレキシブルに、agileに、innovationもインキュベーションもインキュベーターも何もかも、解を求めていくためのツールであると思って前に進んでくださったらありがたいなと思います。
松山:さっきのAIとの絡みでいいますと、AIが発展してきて一番いけないことというか、社会にとってつらいことは、失敗できなくなることだと思うんですね。いろんな企業のみなさんの話を聞いていましても、若手の人が失敗できないことが、すごく成長の阻害要因になっているなと思っていて。
私自身の経験を言いますと、禅の修行は全員失敗させる仕組みになっているんですよ。例えば、ご飯係になると、いきなり「明日からご飯係になれ」と言われて、薪で5升ご飯を炊くんですよ。みんな、そんなことやったことないでしょ。全員失敗するんですよ。怒られるわけですけれども。
引き継ぎも2時間しかないんですよ。なぜそうかというと、わざとそうなんですけれども、それは(正解を)教えてもらったら盲目的にそれしかやらなくなるからです。試行錯誤をしなくなるんですね。
絶対に失敗させて、逆にいうと試行錯誤したら、どれだけセンスのないやつでも成功できるんです。全員失敗させて、全員成功させるんです。だから禅は1000年続いているんですね。
やっぱりこのKRPで創発を考えるとするとですね。「もうめちゃくちゃ失敗させなあかん」と思うんですね。それを「しゃあないか」「とりあえずやってみなはれ」という、この雰囲気をずっとちゃんと持ち続けていれば、ここが創発のセンターとしてこれからも続くんじゃないかと。
その雰囲気というか、失敗させるということをぜひ忘れないで、今後も続けていっていただけたらいいなと思いました。
竹内:今日はいろんなキーワードが出て参りました。多様性、認知力、serendipity、見える感覚とかいろんなキーワードが出てきましたが、おそらく最後の締めとしては、やはり「創発の陰に失敗あり」ということで。たくさんの失敗を通じて、自分で考えて、そして創発につながるというまとめでよろしいでしょうか。
今日は本当に、パネラーのみなさま、どうもありがとうございました。
(会場拍手)
京都リサーチパーク株式会社
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