筋肉は、鍛えていたときのことを「覚えている」

ハンク・グリーン氏:「運動学習」という言葉を聞いたことはあることでしょう。「モーターメモリー」とか、もっと一般的に「マッスルメモリー」などとも呼ばれるものです。これは、何年もペダルを漕いでいないのに自転車に乗れてしまったり、夏中サンダル履きだったはずなのに、すぐ靴紐を結べたりするような能力を指します。

とても便利で手軽で、良いものですが、この現象のネーミングは、少々ミスリード気味です。現実を見ましょう。筋肉には、記憶はありません。脳ではなく、単なる筋肉なのですから。

ところで、不思議なことに、実は筋肉にも覚えられることがあるのです。でも、それはみなさんが想像するようなことではなく、筋力に関係する現象です。

筋トレをすると、筋肉は増強されていた時のことを「覚えて」いて、しばらくジムから遠ざかっていても、初めての時よりも速やかに筋肉を取り戻すことができますよね。フェイクのライフハックに聞こえますが、「ガチ」なお話です。

これは、筋肉の成長に関連しています。ウェイトリフティングやジョギング、もしくは急に2歳児を四六時中抱っこする羽目に陥るなど、筋肉に負荷を加えると、筋組織に小さな亀裂が生じます。

このような微小外傷は、付近の筋衛星細胞に働きかける成分を放出し、ダメージを修復させます。修復された筋肉細胞は、繊維が新しく成長し、より太く強靭になります。この過程において、筋衛星細胞は自身の核を、筋繊維に提供することもあります。すごいですね。

筋肉の細胞核は「筋核」と呼ばれ、たんぱく質の生成に関わってきます。つまり、筋核が多ければ多いほど、筋力増強に必要なたんぱく質が速やかに生成できます。トレーニングを行っている最中には心強い話ですが、もっとうれしいおまけもあります。

若いころに鍛えている人は、年を取っても筋肉を回復しやすい

たとえ筋肉が衰えたとしても、筋核は生涯減少することはないのです。つまり、トレーニングからしばらく遠ざかっていても、再度始めれば速やかに筋肉を回復することができます。隣のランナーを走っている初心者よりもはるかに速やかに強くなれるのです。

こうした利点は長く続きます。ラットや昆虫を用いた実験において、ひとたび筋核を得た筋細胞は、筋肉量が激減したとしても、維持されます。つまり人間であれば、若年期に鍛えた場合、年をとってもそれを忘れない可能性があります。筋肉が衰えがちな時期であっても、再び鍛えることは容易なのです。筋力は、骨の健康にも直結しますので、QOL(quality of life:生活の質)にも大きな影響があります。

今後はひょっとして、動画でこのことを学んだSciShowスタッフや視聴者のみなさんが、モンタナ州ミズーラの川辺にて、岩を重量挙げしてトレーニングをしている姿が見られるのではないでしょうか。みなさん、今こそロック・リフターになる時ですよ。