透き通った牙をもつ世にも珍しい深海魚

「Aristostomias scintillans」という魚をご紹介しましょう。この魚は太平洋の何百メートルもの暗い深海に住んでいます。

この魚は時にその見た目そのままに、「きらびやかでルーズなアゴ」と呼ばれることがあります。この魚は「ワニトカゲギス科」に属し、同種の他の魚と同様に、奇妙な外見とアンバランスで大きなアゴをしています。そしてその歯は長く、尖っていて、獲物を引き寄せるために生物発光するひげを持っています。

すべてのワニトカゲギス科の魚は素晴らしいのですが、この種は特別です。この魚は小さく、約15センチほどの長さしかありませんが、恐れ知らずのハンターで、おどろくべき適応能力を持っているのです。

獲物を捕まえるために、この魚には牙があるのですが、なんとその牙は透き通っているのです。おどろくべきことではありませんが、ほとんどの動物の歯は透明ではありません。

通常脊椎動物の歯は口の中にある硬い石膏科した構造で、全く同じではありませんが、骨とよく似ています。歯の中の層は「象牙」と呼ばれ、外側の層は「エナメル」と呼ばれます。そして光のほとんどを反射したり吸収したり散らしたりするので、不透明な色をしています。

正体はクリスタル

しかしこの魚の歯の組織は私たちがよく見るものとは異なるため、とてもユニークなのです。この魚の歯の「エナメル」と「象牙」はユニークな鉱物マトリックスでできており、ナノサイズのクリスタルロッド、つまり極小のクリスタルでできています。

その大きさは通常ぶつかる光の波長より小さいので、どんな光もほとんど散らすことはありません。その代わり、光は歯を通り抜けることができてしまうのです。

その上、彼らの歯には「象牙細管」がありません。「象牙細管」とは歯の中に通る小さな管で、光が散らされる主な場所にあります。ですから「象牙細管」がないので、ワニトカゲギス科の口はクリスタルのように透き通っているのです。

これは非常にクールなことですが、大きな疑問も生じさせます。透明な歯を持つのには何か理由があるのでしょうか? 

獲物に気づかれないための“ステルス機能”

なぜこんなに複雑な歯を持っているのでしょう?その理由はワニトカゲギス科が獲物を捕まえる方法にあります。彼らは口を開けたまま水中を泳ぎ回ります。そして注意を払っていない獲物が近づきすぎると、罠のように口がぱくんと閉まるのです。

ですから彼らの透明な歯は、深海にある薄暗い光を全く反射しないことにより獲物に気がつかれないようにしているというのです。そしてその歯と、暗い色の体と合わさると、この種の魚はハンティングのために整えられた特別なステルス機のようになるのです。

この魚は本当におどろくべき能力を持っていますが、私たちはただ感嘆しているだけではありません。なぜなら研究者たちはこの魚からインスピレーションを得て材料科学に適用できないかと期待しているからです。

エンジニアたちは彼らの歯のナノ構造を真似して、透明なセラミックを作れないかと研究しています。それが成功すれば、非常に強力な装甲の窓、レーザーハウジングなどの他のテクノロジーに適応できるからです。

これは「生物模倣」という自然の素晴らしさを便利な技術に適応できないかを研究するエンジニアリングの一つの分野です。「生物模倣」は鳥のくちばしの形からより良い新幹線の形を作ったり、

ビルのより良い空調設備をシロアリの塚から学んだり、

他にも多くの分野で自然を模倣してきました。ですからきっとワニトカゲギス科の魚の口の贈り物にも恐れることなく観察するのがいいかもしれません!