働き方改革を理解するキーワードは「人口ボーナス期・オーナス期」

松田康利氏(以下、松田):広告業界では働き方改革がちょっと遅れているかもと思っています。私はライフワークバランス社のアドバイザリーボードのメンバーをやらせていただいていて、小室さんたちが本当にいろんな業界の改革をなさるのを見ながら、横で応援させていただいてきました。「そもそも働き方改革って何?」というあたりからご説明をいただきます。

小室淑恵氏(以下、小室):ありがとうございます。今日もよろしくお願いいたします。ワークライフバランスの小室です。働き方改革というのはどういうものなのかということをすごく大きい観点で、でも、すごくコンパクトな時間でお伝えしたいと思います。

人口ボーナス期・オーナス期、という考え方が、実は働き方改革を理解する上でとても重要なんです。人口ボーナス期は、日本でいう60年代半ばから90年代半ばの若者たっぷり、高齢者がちょっとしかいないという人口比率の時期です。

今は人口オーナス期と言って、若者がちょっと、高齢者がたっぷりという時期なんですね。このボーナス期であれば当たり前ですが、労働力がたっぷりあり、支えられる側の高齢者は少ないわけですから、税収がジャブジャブ流れてきて、使い先があまりない。それが全部インフラ投資やいろんな所に回せるので、国が爆発的に儲かって当たり前の時期です。

それがオーナス期になると、支えなきゃいけない人だらけになるわけですから、国としては税収が足りない、支えなきゃいけない、支出が多いというので、国の発展がすごく難しくなるというように言われているんですね。

少子高齢化社会でも、働き方を切り替えさえすれば再浮上できる

これだけ聞くと、なんとなく経済的にオーナス期にある日本の現在というのは悲観すべき時期、というように思うかもしれませんが、実際はボーナス期に経済発展しやすい方法と、オーナス期に経済発展しやすい方法が違うだけです。

働き方を切り替えさえすれば、再浮上できる。今、ヨーロッパの多くはオーナス期にいるわけですが、見事にオーナス期のやり方に切り替えて再浮上しているという状態になります。

少し乱暴に、端的に言っちゃうと、人口ボーナス期であればなるべく男性だけで長時間働いて、均一性の高い組織を作るとビジネスとしては成功します。これはお客様が同じようなものの大量生産を望んでいて、人件費が安くて、労働力が余っているという条件があったからなんですね。

ただ、オーナス期になるとそれが真逆になるんです。オーナス期になると、なるべく男女両方フル活用できるような職場環境にして、労働時間をなるべく短くする必要がある。なぜなら、ほとんどの労働者は、育児中か介護中だからなんですね。頭数が少なくなる、労働力が足りなくなるという話ばかりをされるんですが、人員が少なくなるだけじゃなくて、一人当たりが労働時間に割ける時間も少なくなるんです。

育児か介護をしながらの仕事。ですから、なるべく短い時間で仕事をして、かつ多様な人が職場にいる方が、ビジネスとして発展する。なぜなら、お客様はもう人と同じようなものを欲しがらないんですね。かつ、人件費が高いとイノベーティブなものでしか利益が出ない。前回出した新商品の2倍くらいの金額でも「次の商品を買いたい」と思わせないといけないわけなので、イノベーションを起こしていかないとダメ。

サボっている企業は1社もないのに日本が停滞している理由

イノベーションは同質性の高い組織からは生まれないので、オーナス期になると男女で、短時間で仕事をし、なるべく価値観の違う人を取り込んでビジネスをしなきゃいけなくなる。今までの日本がすごくもったいなかったのは、いろんな考え方の人たちを取り込もうとしても、基本長時間労働なので、“24時間に耐えられる人”というふるいにかけるので、見事に均一化する。

ですから、そのふるいを通った人が役員になると、基本的に意思決定者は全員が24時間型男性になるんですよ。これは誰も差別的な意識がないのに、気づいたら性別も価値観も同じ人で経営をしているという現象。

私は1,000社の企業をコンサルしてきましたが、サボっている企業は1社も見たことがないんですね。決して今の業績がサボっているから悪くなった、この国の停滞が、日本人のやる気がなくなったといったことではまったくなくて、せっかくいる多様な人が、どこかでソートされて、同じ考えの人たちだけで生み出すから同じ発想の商品や広告しか生まれないといった、すごくもったいないことが起きているということ。そこを変えていけば、まだまだ再浮上できると思っています。

あと、今は脳科学がすごく発展してきているからわかってきたことですが、人間の脳は、朝起きてからたった13時間しか集中力がもたないらしいんですね。会場にいる皆さんは、朝5時から6時ぐらいに起きた人が多いと思いますが、そうすると本日午後6時には脳の集中が終了。そこから先は、酒酔い運転と同じ集中力しかありません。だったら、絶対にお酒を飲みに行ったほうがいいんですよ。

(一同笑)

そうした時間帯に無理して仕事をするからミスが発生して、それをカバーするために長時間労働がさらに発生して。かつミスが発生すると、たいていはクレームが増えるので、好きだったはずの仕事がすごくつらいもの、クレーム対応という、ぜんぜんおもしろくない仕事になってしまっている。

「労働時間に上限をつけたほうが必ずこの国は発展する」

だから一度、集中力マックスの時間帯だけで最高におもしろい仕事をしようよ、と私は言いたい。実は、これで日本が再浮上したら、かなりおもしろい国になるんじゃないかと思いながら、私は働き方改革をやっています。

最後のスライドですが、2016年に政府が労働時間の上限をつけるかどうかで、一番揉めていた時期(笑)。そのとき、政府の中央のいわゆる、総理の直下にある産業競争力会議の民間議員だったんですが、私以外の経済界の人たちが全員が「労働時間の管理なんて外してしまって、好きなだけ働けるようにすれば、この国の経済はもっと発展するんだ」という論調でした。私は「上限をつけたほうが必ずこの国は発展する」と申し上げたんです。

そのときには総理を含めた官邸の中枢メンバーには、働き方を変えたほうがいいという話は、ぜんぜん話が通じなかったんです。そのときに、1社1社、さっきのボーナス期・オーナス期の考え方で口説いていって、「労働時間に上限をつけたほうがいい」ということを理解していただいた経営者の方に、「俺は労働時間の上限をつけても構わないよ」という宣言をしていただいたのが「労働時間革命宣言」です。サントリーの新浪さんをはじめとして、そうそうたる経営者に宣言してもらいました。

経営者の一人ひとりを集めていって、全員の顔写真とロゴの入ったシートを持って総理のところにいって、「これだけの経営者が賛成しているので、思い切って労働時間に上限をつけてはどうか。そのほうが経済も安定するということで、賭けてみませんか」と説得をしていったのです。そんな進捗です。その話や事例なども、また後ほどお話しできればと思います。以上です。

時短には工夫の余地とチャンスがある

松田:労働時間の短縮が、すごく大事なのだということはわかります。でも、そればかりが注目されているんじゃないかと。とくに広告業界にいる友人と話していると、時短、時短でもう「22時に帰れ」「残業するな」と言われているような声をすごくよく聞くんですよね。それはまだ工夫の余地があるというか、やっぱり逆にチャンスじゃないかと僕は思っています。

小室さんの会社のアドバイザリーボードの場で、いろんな業種で「働き方改革は大事だし、残業は少ないほうがいいけれど、そんなことをやったら売上利益も減っちゃうじゃん」と思われそうな会社が、知恵と工夫と愛情で、最後はクライアント側の経営から現場までみんなが納得してやって成功して、残業が減るだけどころか売上の利益増ということが、すごくたくさんあるんですね。

売上も利益も上がる。残業は減る。それでみんなが非常にハッピーになると。そういうことをどうしようかというのを、一問一答に近い感じで聞いていきたいと思います。

けっこう難しい案件では、例えば公立の中学校。これがなかなか、子どもも大切だし、親ともコミュニケーションをとらないといけないし、残業を減らすな、なんていうことはまるでできないよ、と。たぶん多くの人が思っているし、職員の人もみんなそう思っていますよね。

中学校教員の6割が過労死認定時間で働いている

小室:働き方改革が難しいであろうと言われる業界がいくつかあると思いますが、とくに学校というところは、利益や売上を狙っていませんから、なにでそこを計っていくのかということがすごく難しい。

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