すべてはひとりの熱狂から始まる

司会者:お待たせいたしました。このあとは「熱狂ブランドサミット 2018」の最終セッションとなります。『すべてはひとりの熱狂から始まる ―熱狂顧客を増やすために明日からあなたができること』を始めてまいりたいと思います。

(会場拍手)

池田:最後は『すべてはひとりの熱狂から始まる』という、みなさん一人ひとりに焦点を当ててお話ししていくというセッションをやっていきたいと思っています。

普通はこの人数で成立しないというワークショップにもチャレンジしてみたいと思っているセッションなんですね。

こういうセッションって、みなさん今日は写真を撮りまくったり、投稿していただいたり、明日会社に帰ったらレポートを書いたり、いろいろとお土産を持って帰らないといけないと思うんですけど。

僕も年間数十回、こういうカンファレンスやセミナーをやっていますけど、満足度を上げるのはすごく簡単です。ひたすら事例の話だけをしていれば、絶対に満足度は高いんですよ。

みなさんもお気付きのとおり、事例の勉強って参考になることはあるんですけど、多くの方がそれをそのまま焼き直して、自社の中でもやろうとしてしまうところがものすごく危なくて。

企業の戦略は、業界のカテゴリーの関与度によっても市場のポジションによっても違いますし、いま一体何がボトルネックになっているのかという課題も違うし、タイミングも予算も違えば、競合との関係や距離感も違う。このようにありとあらゆることが違う中で、だからこの施策がこのタイミングで打たれたんだ、ということがあるわけです。

「イケてる事例」を取り入れるだけではうまくいかない

池田:でも、「この事例すげぇイケてるから、この事例とこの事例とこの事例を足して3で割ったら、うちでもいけんじゃね?」という感じでやっても、絶対にうまくいかないんですよね。

なので、お土産として持って帰っていただくアンケートをうちが手段を目的化して高めたいだけなんだったら、事例の話をひたすらやっているほうがいいんですけれども。最後のセッションは、「熱狂ブランドサミット 2018」の中でたぶん最も満足度が低くなるという覚悟を持ってですね(笑)。

みなさんのお土産はEvernoteのメモでもなければ、スマホで撮る写真の枚数でもなく、みなさんの頭の中と体験と経験をもって「なるほど。なんとなくこういうことなのかな」というのを、忘れないものとして体に染み込ませて帰っていただくことにチャレンジしたいなと思っているんです。

なぜならば、熱狂顧客を増やすために我々やみなさんができることは、みなさんが会社に帰った後に中心人物としての震源地になり、どれだけのリーダーシップを発揮していけるかにかかっていると思うので。もうそろそろ、お勉強はいいのではないかというのが最後のセッションのコンセプトです。

ささっと自己紹介をさせていただくと、私はこのトライバルメディアハウスという会社の代表をやっておりますが、いま45歳で、今年46になる団塊ジュニアのど真ん中、1973年生まれです。25歳からマーケティングをやり始めて、いま(まで)マーケティングを20年くらいやってきたわけですけど。

最初の20代のときは、デジタルはまったく関係なくて、地べたを這いつくばいながら、永遠にアナログのマーケティングをやっていました。基礎研究、応用研究の人たちと一緒に商品開発の企画会議をやっていたり。

コンセプトの受容性テストや、セントラルロケーションテスト、ビールメーカーとコンビニの共同研究でどの棚のどの高さに、どのブランドが何フェイス並ぶと棚の効率が1パーセント向上するのかとか。ひたすらそんなことをやっているのが僕の20代だったんですね。

33歳くらいで初めてデジタルマーケティングの業界に入ったときが、ちょうどWeb2.0の時代でした。これからはクチコミだとかCGM(Consumer Generated Media)だ、UGC(User Generated Content)だ、ソーシャルメディアだというような。時代のタイミングもよくて、この会社はソーシャルメディアネイティブな会社になったわけです。

マーケッターとしてやりたいことは「需要の創造」

池田:僕がなぜ「熱狂」ということを2015年くらいから叫び始めたかと言うと、僕はマーケティングが本当に好きで好きでたまらなくて。マーケティングの教科書で白飯3杯食えるくらいマーケティングが大好きなんですね。

当然若いころはスキームをまったく知らないので、ドラッカー先生やコトラー先生などいろいろな先生の本を読んで、中小企業診断士の資格を取ってみたりして、いろいろやってきたと。

そこから企業の現場に入って、マーケティング4P含めいろいろやっていく中で、最後に僕はコミュニケーションの世界に入ってきたわけです。

お客さんの企画会議に出ていても、マーケティングだったりブランドマーケティングの(ように)本来は戦略を決めるような会議体の中でも、セールスプロモーションに寄った話が永遠に続くことがすごく多くて。

今期の予算を達成することは、ものすごく重要なミッションなわけで、ぜんぜん悪いことじゃないと思うんですよ。

でも、「今年の夏のインセンティブはどうするんだ」「どのブランドのライセンスを引っ張ってきてノベルティに付けられるんだ」というようなことを、これからもずっと、来年、再来年、3年後、5年後も永遠に繰り返していくのかと。

「流通さんに多額の販促協力金を数千万、数億円払ってエンドの陳列で大量に売って、値引きをして、なんとか今期も在庫を回して売上の予算を達成したぜ」。これはこれですごく尊いビジネスの1つの側面だとは思うんですけれども。

やっぱり僕がマーケッターとして作りたいのは需要の創造だし、スキームやデータドリブンやITというのは当然わかるんですよ。できなかったことができるようになるんですけど。でも僕はやっぱり、もう1回マーケティングに愛を取り戻したいという思いがあって。

すみませんね。僕の自己紹介は3分の予定だったんですけど、そろそろ終わります。

持続的な競争優位性の源泉は「ユーザーの愛」

池田:宗教的な話になっちゃうんですけど、40過ぎたときに、もう死ぬなって思ったんですね。別に病気になったわけじゃないんですけど。

いまライフシフトで人生100年なんですけど、以前で考えると男は80歳で死ぬぞと。40歳になったら人生折り返しだなということは、自分がマーケティングの世界でガンガン働けるのもあと10年、20年が限界だと考えます。

一体自分は何に命を燃やして、マーケティングの業界なり社会なりを少しでもよりよくして死ねるかと考えたときに、自分がやりたいことと、ほかの会社にやってもらえばいいじゃんということを明確に分けたいなと思ったんです。

そのときに、僕は20年マーケティングをやってきた中で、これから3年、5年、10年、持続的な競争優位性の源泉になるのは、やっぱりユーザーの愛にもう1回帰結していくんじゃないかと思っているんですね。

僕は死ぬまでマーケッターでいられるのであれば、最後の残りの人生で、愛してもらったお客さんに、いかにこちら側からしっかりと愛を返していけるのか。

愛してもらって愛を返したというところに生まれている熱狂という感情は、競合がもし50億円、100億円を引っ提げてきて、札束で頬をひっぱたいたところで、その熱狂や愛情やロイヤルティは一朝一夕で作られているものじゃないので、そんなに簡単にひっくり返せないわけですよね。

なので、定価で買い続けてくれるし、わかりにくい棚にあっても探して買ってくれるし、人にも推奨してくれるかもしれないし、Co-creation(共創)で一緒に商品開発もできるかもしれないし、もしかしたらファン株主にもなってくれるかもしれない。

これはもうマーケティングコミュニケーションや、PRやIRかに関係なく、企業の経営そのものが熱狂経営に収斂されていっていいんじゃないかなと心の底から思っているんですね。

それで、ここに焦点を当てています。でも、結局大企業がそれをやるときに絶対に障害になるのが、社内の抵抗勢力です。そこに1人で立ち向かっても、必ず心が折れてしまうというところがあります。

最後のセッションでは、みなさんの心に火がついて、俺も命を燃やしてそういった仕事がしたいのだといったときに、どうやったら社内を巻き込んでいけるのかを考えていければいいなと思っています。

チームビルディングのプロ・楽天の仲山氏が登壇

池田:今日のスペシャルゲストは「チームビルディングと言えばこの人」という、楽天大学の学長を務められていて、「よなよなエール」を楽天でも販売して、いま14年連続で増収増益を続けるヤッホーブルーイングが急成長を遂げるきっかけを作られた立役者でもある仲山さんです。

『GIANT KILLING』を読んでいない方は、ぜひ『GIANT KILLING』をまずは漫画として読んで、そのあとにこの本を読むと目から鱗が落ちると思います。

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仲山さん、よろしくお願いします。それではまず自己紹介をお願いします。

仲山:ありがとうございます。僕は池田さんみたいに「立て板に水」のようなしゃべりかたができないので、こんなのんびりした感じで進めさせていただきます。

池田さんとの共通点は1973年生まれということと、鎌倉在住というところですね。

池田:そうですね。

仲山:ここに一応自己紹介を書いてみたんですけど、楽天がまだ20人くらいのときに入りました。楽天出店者さんを僕らは「店舗さん」と呼んでいて、入社以来ずっと20年弱、店舗さんと一緒に遊ぶ係をやっています。

やっているうちに、2007年に自由に働いていいよということになりまして。兼業自由・勤怠自由の正社員になりました。いろんな人が「一緒に遊ぼうよ」と言ってくれるので、途中でヴィッセル神戸や横浜F・マリノスで働かせてもらったりして、突っ込みどころ満載のカオスな年表になっております。

一番下にヤッホーブルーイング「エア社員」と書いてあります。いまの主な所属は……主な所持名刺がこんな感じです。

左上がヤッホーブルーイングエア社員の名刺です。楽天の名刺は使っていないので古いバージョンのものしか持っていなくて。 あとは、レオス・キャピタルワークスの(代表取締役社長の)藤野英人さんというWBSのコメンテーターなどもされている方がいらっしゃって。藤野さんが、「会社員・公務員でありながら、会社の社名よりも使命に従い、会社のリソースを使って自由に活動し、顧客のために働く社員」を「トラリーマン」と呼んでいるんです。その藤野さんの会社で「契約トラリーマン」という肩書きでも所属させていただいているという。ちょっとよくわからない働き方をしております。

このくらいでいいですか?

池田:ありがとうございます。

深夜まで出店者と電話していた楽天時代

仲山:今回は、「熱狂マーケティングをやっていくうちに、これって社内のチームビルディングにもつながっていくということがわかってきた」というところから話が始まっているんですよね?

池田:そうですね。結局、今日のさまざまなセッションの中でも通してあったように、我々もやってみて、熱狂的な顧客を作っているのって、すごく熱狂社員の影響が大きいと気づきました。熱狂社員たちが、すごく細かい施策やイベントなどを大量にやることで、狭いんだけれども一生忘れられない深いブランド体験を持つ顧客が作られていくんだなと。

その起点になっているのは、けっこう熱狂社員で(あることが多い)。でも、さっき冒頭で(弊社の)高橋が(話していたように)日本の会社員の方々の仕事ないしは会社に対するやる気やロイヤルティが極めて低いというところがあるので。

やっぱり熱狂社員を作っていく(ことが大切)。それってチームビルディングだよね。チームビルディングと言えば仲山さんだよね、という3段論法でございます。

仲山:承知しました。

池田:(笑)。

仲山:ちなみに僕が入ったときの楽天は、まさに社内も店舗さんも全部含めて熱狂状態のような感じで、みんなで試行錯誤していました。僕らもどうやったらいいかわからないし、店舗さんもどうやったらいいかわからないわけです。

「いまさ、うち月商30万円でしょ。これ、どうやったら100万円いくと思う?」という話を、電話で夜な夜な1時間とかしていたような店舗さんが、数年のうちに月商1億円、2億円になっていくプロセスを一緒に伴走させてもらっているので。

まさに池田さんがおっしゃっている熱狂マーケティングとかブランドとかファンのお客さんが増えていくような活動とは何かとか。あとは「熱が大事」というのはものすごく共感できるというか、やってきたこととぴったりです!

「グループ」と「チーム」の違いは何か

池田:今日はぜひそのエッセンスを。本題のワークへいく前に、チームの話を仲山さんにもちょっとうかがいたいなと思います。最初はたった1人の熱狂から始まりますが、やっぱり、大きなムーブメントを起こすためにはチームにしないといけないんですね。みなさんはグループとチームの違いって大丈夫ですかね?

仲山:そこからいきますか。けっこう話が長くなる予感。

池田:長いです(笑)。共通の趣味嗜好で集まっているコミュニティだったり、そこに集まっている集団だったり、あとは企業が何社か集まって〇〇グループを形成しているものがよくグループと言われますよね。なにか1つの共通項がまとまっている集団であると。

一方チームというのは、なにがしかの目標やゴールを達成するためだけに組成されている集団のことを指すというのはよく言われることです。共通の達成すべき目標に向かっていっているものなのかどうかというところが大きな違いであると。

そうなってくると、リーダーの存在というのがすごく大きいと思うんですね。リーダーの存在がチームの中ではものすごく重要なんですけど、そうすると「リーダーって誰だ?」という話になるわけです。

例えば、みなさんの会社や名刺にも〇〇チームのリーダー〇〇という感じってよくあると思います。リーダーっていわゆる職位として付けられるものでもあるわけですけど、職位がなくてもリーダーシップを発揮されている人が、本当の意味でのリーダーじゃないですか。

なので、別に職位や職種や職能がなくったって、リーダーシップが結果として発揮されていればその人がリーダーなんですよね。

TEDで、リーダーシップというのはフォロワーシップからしか生まれないというすごく有名な話があるように、「俺がリーダーだ。お前らついてこい!」と言っても、誰もついてこなかったらリーダーでもなんでもないわけですから。それは単なるボスです。

本人にリーダーシップを発揮しているつもりがなくても、フォロワーシップの矢がその人の背中にブスブスささっていれば、結果的にいまあなたはリーダーになっているよという話なわけです。

「侍社員」や「トラリーマン」は社内では浮いている

池田:ぜひみなさんにも意識していただきたいのは、リーダーシップは別に職位がなくても発揮されるということと、1人で引っ張っていこうと思ってもフォロワーシップの矢が刺さっていなければ、まったくもってリーダーシップが発揮されている状態ではないということなんですよね。

いろいろといままで大小、カテゴリーがさまざまなチームなりリーダーなり見てきたと思うんですけど。僕はよく「侍社員」と呼んでいるんですね。

業界もぜんぜん違う、規模も違う、すごく伝統的でコンサバティブな企業文化の中でも、その侍社員がいたからこのムーブメントって生まれたよねという。たった1人のこの人がいたから動いたという。火が立ったんですよ。役員を動かしたとか。

「トラリーマン」って言うじゃないですか。

仲山:はい。「侍社員」と同じ感じの意味合いですね。

池田:トラリーマンのトラは虎ですか?

仲山:虎や猫などの虎です。

池田:猫? ネコリーマンもいるんですか?(笑)。

仲山:虎というのは、対比としてライオンと虎のようなイメージです。ライオンというのは組織の中央にいて、ヒエラルキーの頂点に君臨しているようなイメージで、トラは1匹でブラブラ好きなところを歩き回っているようなイメージなんですけど。

池田:戦うサラリーマンみたいな?

仲山:戦わないんですけどね。

池田:戦わないんですか!

仲山:藤野さんが虎というふうに命名をされていて。僕は別に自分で虎だとは思っていないんですけど。

池田:企業の組織の中で、規模や業界に関係なく戦う侍社員のような方の共通項って、いままでいろいろ見てきた中で、どんなところなのかなという。

仲山:まずは社内で浮いている。これは、ほぼ100パーセント共通していますね。

(会場笑)

池田:社内で浮いている。

仲山:「あいつ変なやつだよね」という状態になっている。

池田:なるほど。じゃあここにいらっしゃるみなさんが「社内で俺浮いてねぇ」「私浮いてない」って言ったら、まだ侍になってない?

仲山:たぶんまだ熱量が足りないんじゃないかと思います。

流れに乗れる人はしがらみにとらわれていない

仲山:あと、藤野さんがトラリーマンの定義で、「社命より使命」という表現をされていて。要は、会社から「これをしなさい」と言われた指示と、自分が「お客さんのためになる」と思うことが食い違う場合は、社命よりも使命を優先して動く。

池田:会社の看板じゃなくて個人の名前ですか? それともミッションですか?

仲山:ミッションというか、前のセッションで登壇されていたインフルエンサーのみなさんが「企業からのオファーで嫌なことは何ですか?」という質問に答えるときに、「『こうしてくれ』という指定があると、ちょっと嫌だ」という話をされていましたけど。

僕はさっきのを聞いていてすごく印象的だったのが、「フォロワーさんのためにならない」という表現がみなさんに共通しているところだと思うんです。本当にお客さんのことだけを考えているということです。上を見て仕事していないということが共通点ですね。

池田:なるほど。上司の顔色や社内の雰囲気ということじゃなくて、あくまでも自分は一体何のために仕事をしていて、誰に何を届けるためにやっているのかというところから軸がブレずに、浮いている人。

仲山:結果的に浮くんですけど。でも僕が思っているのは、そういう浮いている人って、最近SNSが普及したこともあって、自分と話が合うおもしろい人と出会いやすくなっている傾向があると思うんです。

「流れに乗ることが大事」という話って、みんながするじゃないですか。流れに乗るためには、まさに川の流れをイメージしたときに、組織のしがらみにしがらんでいたりすると、川が流れていても流れていかないですよね。だけど、しがらみを断ち切って浮いていると流れがきたときには流れに乗れるわけです。

あとは、いままでおもしろい人がそれぞれ組織の中でしがらみに絡められていて、いろんな深さに存在していて出会えなかったのが、全員浮いていると水面に顔が出た状態になって。横を向くと人がいて。「こんにちは」って言ったら妙に話が合う。それが起こりやすくなっているのが、いまの世の中じゃないかなと思って。

池田:ソーシャル上でも社内でも、浮いているもの同士、水面から顔が出ているから、隣を見渡すと……。

仲山:そう、同じレベルで存在しやすくなっている。

池田:それはあるかもしれないですね。ここの会場にも一部、そういう方々がいらっしゃると思います。

仲山:そうですね。