親子の立場は「上下」ではなく、「水平」になった

菊池保人氏:皆さんこんにちは。私たちは「アントレnet」というウェブサイトの運営と、情報誌「アントレ」という2つのメディアを運営しています。企業に勤めるミドルシニアの独立・開業を支えるメディアです。

独立を検討している方との接点も、交流会やワークショップで今、強化しているんですが、そこで面白いことを見つけました。それを今日発表します。

私たちのカスタマーは、75%が35歳から59歳のミドルシニアです。掲載している情報は、フランチャイズを中心に業務委託、代理店、商材支援とさまざまな独立の支援情報を提供しています。今日私たちがお話するのは仕事にも家族との信頼・協働を求める兆し、親子独立です。

50歳前後の親世代と20代の子世代を中心に、その上の世代とはちがう、家族との信頼をベースに親子で協働する。この独立のカタチが増えています。親の価値観が中心となるような上下関係ではなく、親子が互いに認め合い、相互に支えあう。親子の関係性の変化が生み出す「水平協働」型がポイントです。

今年の2月、日本政策金融公庫からあった創業支援の拡充も、これの追い風になっていると捉えています。では、その背景を見てみましょう。

雇用形態の多様化が「親子での独立」を促している

皆さんご存知のとおり、世の中は、経済成長が見えなくなり、グローバル化、IT化の大きな波が押し寄せています。職業はどうでしょうか。終身雇用の崩壊、雇用形態の多様化はどんどん進んでいます。それを受ける個人はみなさんにもあると思うんですけど、職場に見出していた信頼や安心感は、縮小していませんか?

自分がどうやって生きていこうかという軸は、見直さざるを得ない状況になっています。皆さんが一緒になって頼りにする、大きな軸は見えなくなっています。

そこで、私たちはこれから"あるもの"が求められると考察しました。自分をあるがままに、素で肯定できる存在を求めるだろう。その最小単位こそが親子、家族だと考えています。キーワードは「身近な信頼」です。

加えて、象徴的な例なのですが、ITリテラシーの差が親が子から教わるという構造を生み、親子の水平協働をうながしています。これまでは、親の価値観が中心となる上下関係。今起こっていることは、親子で認め合い、相互に支えあう水平協働。親子は友だち。信頼できる仲間なのです。

独立のイベントでは、夫婦はよく見るんです。しかし私がいくつかのイベントを見ながら、「あれはどう見ても親子だろう」という方々がいました。そこが出発点となり、調べてみました。

誰と独立をするか。親子で独立する割合が、このように増えています。

誰がそれをやっているのでしょうか。45歳から54歳の人です。

この人達はどういう人ですか? 親は新人類と呼ばれた世代です。団塊の世代とは違う自分を、常に意識していました。多様な価値観をもって、友達親子が進んだ世代です。

子はどうでしょう。ゆとり世代。母は友だち、父は尊敬という言葉をよく聞きます。中学校でhtmlの授業がもうありました。さっきから出ていますが、ソーシャル・ネットワークの影響で、仲間やつながりを大切にします。

親子独立を果たした3つの実例

では、なぜ親子で独立するのでしょうか。もう一度調査してみました。

世代の差が大きく出ています。54歳以下の親子独立をされた方の理由は、「信頼できるから」。事例をこれから3つ紹介します。

1つ目、息子が誘う例です。

父・富所さんが大手メーカーの技術職を退職され、ひとりで独立するには不安がありましたが、息子・大樹さんから「親父、辞めちゃえよ。一緒にやろう」。この一言で決意しました。

息子の大樹さんは、「親父を一番わかっているのは自分。言いたいことが言い合える。上下関係もなく命令もないし、喧嘩しながらやっている」と楽しそうに語ってくれます。

父・富所さんは、「今までの仕事では感じることのできなかった、家族と同じ夢、同じ時間を共有できることが、本当に嬉しい」と実感をもって語ってらっしゃいました。

2つ目、親父が誘う例です。

父・田中さんは、フリーターをやっていた息子二人をなんとか働かせたかった。この3人、バラバラに住んでいたんですが、3人一緒になって丼屋をはじめました。長男・勝貴さんは、仲間と一緒に仕事をしたい、と言っています。次男・智大さんは、言いたいことが言える家族と仕事をする、と言い放っていました。

はじめは3人で1軒の丼屋をはじめたのですが、今は3人が1店舗ずつを経営されています。

3つ目、最後の例です。父と娘の役割分担。

父・勝人さんは、元気な限り働き続けたい。そのときは最初から他人と一緒にやる気はなく、娘さんに「会社やるぞ、お前も一緒にせえ」。この一言で娘さんを巻き込みました。

娘さんは、家族と一緒にやるならと新聞社を退職し、建築士と宅建の資格をとっています。お父さんは住宅のプランニングです。娘さんは現場担当です。まさに上下関係ではなく、水平協働で経営が進んでいるという例になっています。

国の制度も独立開業を後押し

皆さんが独立を検討するときに、一番困る、一番悩むポイントは何かご存知ですか?

資金なんです。容易に想像がつくかもしれません。準備のための開業資金、経営するための運転資金、ここに追い風が吹いています。

今年2月の日本政策金融公庫の新創業融資制度が大幅に拡充されました。より多くの人が長い期間、多くの資金を借りられるようになったのです。

2015年の我々からのトレンド予測は、仕事にも家族との信頼や協働を求める兆し「親子独立」です。ありがとうございました。