抜群の引き立て役「塩」

ハンク・グリーン氏: 食べ物の世界におけるスーパーヒーローと言えばやはり「塩」でしょう。塩がなければフライドポテトは味気なく、ポテトチップスはまずく、チョコチップクッキーの独特な美味しさもなくなってしまいます。

塩はしょっぱさを生み出すだけではなく、風味にかなりの影響を及ぼします。実際、薬を飲みやすくするために砂糖を少し入れるよりも、塩を入れたほうが良かったりする場合もあるのです。

また、もっと根本的なレベルでは、人間は生きていくために塩を必要としています。ふだん目にする塩は、塩化ナトリウムが形を変えたもので、私たちには必要不可欠な栄養素です。

ナトリウムイオンは神経間の伝達から血圧の調整まであらゆることに用いられます。ですが体内で生成することはできません。人間は万能ではありません。そのため、食べるものから摂取するしかないのです。

海のそばに住んでいるのでもない限り塩がまわりに豊富にあることは少ないため、人間は好んで味わえるように進化したと考えても不思議ではありません。研究者たちは2010年、ナトリウムイオンを味蕾(注:食べ物の味を感じる、舌の小さな器官)にある味覚受容体に導く「上皮性ナトリウムチャンネル」によって塩気を感じることを突き止めました。

味覚受容体の細胞は受け取った塩気の信号を脳に送ります。ですが奇妙に聞こえるかもしれませんが、塩は苦味を感じにくくするため甘く感じる場合もあるのです。

研究によれば塩は砂糖以上に苦味を減らすこともわかっています。はっきりしたメカニズムは明らかになっていませんが、舌と脳の両方に関係しているのではないかと考えられています。

香りや甘みを増幅させる

大抵の場合は塩が味蕾上で、苦味の要素とそれを感じる受容体との結合を阻害するというわけです。塩は他の嫌な風味を減らす働きもあるので、研究者たちは他の味覚細胞にも何らかの方法で影響を与えているのではないかと考えています。

ですが研究者たちは同時に、塩気と苦味が混ざらないように舌の上で味わったとしても苦味を少なく感じることも発見しています。つまり苦味を阻害する効果は、たとえ塩気が含まれていたとしても、脳が味の信号をどのように受け取るかによって表れるようなのです。

塩は甘みをより直接的に増幅させる場合もあります。少なくともラットにおいては、ある種のタンパク質が糖を受容体へ導くためにはナトリウムが必要不可欠です。つまり少しの塩を混ぜることで甘みを増幅させられるのです。

また塩は香りを引き立てるので、一層美味しく感じさせます。塩を加えるとナトリウムイオンは食材の中に残っている水分に引きつけられるため、香りの元となっている分子といった揮発性のある物質が蒸発しやすくします。

こうした物質は舌にこそ触れませんが、風味を感じる上で大きな貢献をしています。研究者たちもいまだ解明できていないとはいえ、塩は他にも食事を美味しくするはたらきがあるようです。

例えば1985年の実験に参加した被験者たちが言うには、塩が入った豆のスープは塩が入っていない豆のスープに比べて塩気や甘みが多く苦味が少ないことに加えて、深みも出すようです。研究者たちが「食感」と呼ぶものについても変化がでました。たった1つの調味料が料理全体を変えてしまうのですね。

正直塩の入っていない豆のスープなんて飲みたくないですよね。聞いただけで不味そうです。晩御飯が美味しくなかったら、塩を一振りしてみるといいかもしれませんよ。大抵はテーブルの上に置いてあるでしょうしね。