2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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駒崎弘樹氏(以下、駒崎):僕も育休を取らせていただいて、今は8時間社外で働いていて。当時Slackはなかったんですけど、育休中は1日1.5時間ぐらいメールを見たりして。最初はやっぱり「自分がいなくなったら、すごいみんな困るだろうな」と思って戦々恐々としてたんですけど、誰も困ってなくて(笑)。
小泉文明氏(以下、小泉):ははは(笑)。そうそう、意外に邪魔だったんだよね(笑)。
駒崎:意外と邪魔だったんだ(笑)。「自分の意思決定がかなり会社を左右してると思ってるけど、そうでもないじゃん」と思って。それでかなり社員を信じられるようにもなったし、なんか自分が関わらなくてもいいところまで関わっちゃってたんだなという温度感もわかったので、すごくマネジメントには良かったですね。いい影響になった。
だからそこで、「じゃあ、任せられるんだったらどんどん任せちゃおう」と思って、それこそ権限委譲が進んで、育休後は「本当に自分だけしかできないことってなんだろう?」と思って時間を作っていくことができたので、自分の働き方を見直すという意味でもものすごく良かったんですよね。
なので、本当に多くの経営者の人におすすめしたいし、経営者だけじゃなくても、男性の方には本当に育休をおすすめしたいなと思うんですよね。
育休だけじゃなくて、男性の働き方は本当に変えていかなくちゃいけなくて。さっき「ベンチャーだからいい働き方ができる」とちょっとお話しされてたと思うんですけど、まさに我々ベンチャーって、イノベーションを作っていくんだから、やっぱり働き方にもイノベーションを起こさなきゃいけないと思うんですよね。そのあたりはどう思われます?
小泉:会社を運営していく中で言うと、イノベーションのベースは、生産性とかに紐付けてよく議論されるじゃないですか。生産性って、捉え方が会社によって違うと思うんですけれど、僕らの会社は「生産性=意思決定の速さ」というか、スピードが極めて大事かなと思っています。僕らの会社は意思決定をどれだけ早くできるかということの工夫をたくさんしているんですね。権限移譲も当然そうなんですけども、例えば、僕のところでは社内用の資料では基本PowerPoint禁止。
駒崎:PowerPoint禁止?
小泉:PowerPointをやってると、仕事してる感が出るじゃないですか。資料作って。でも、実はWordでやったら1枚以内にすっきり収まるようなことがけっこう多かったりして、無駄な報告ですよね。なんか会議のための仕事が多すぎるみたいな。そういうのは基本的にもういらないですと。あと、ミーティングは8人以上は禁止。
駒崎:人数で制限しちゃうんですね。
小泉:話さないやつは別にいらないし、議事録を共有すればいいしというところで、人数が多いミーティングは禁止にしたり。けっこういろいろな無駄を省いていって、どれだけ早く意思決定して、本質的なところだけを議論できるか。
あとはSlackとか、いろんなツールでとことんシェアして、情報はオープンにする設計をしているので、必ずしも意思決定に入ってないから知らないということもない。そういう工夫をしながらスピードを上げていくように設計しています。そういうところもあって、育休を取りながらも会社のスピードは上がっていきますし、生産性は上がっているなと思っています。
駒崎:なるほどね。じゃあやっぱりあれですかね? 死ぬほど働いて疲弊して、グダグダになるとかいうIT業界の像が、徐々に変わりつつあるんですかね?
小泉:けっこうびっくりされるのが、うちはみなし残業45時間なんですけど、45時間残業している人ってあんまりいないですよ。タイミング的に超えちゃうケースはありますが、常に超えるというのは珍しいですね。
駒崎:へぇ〜。
小泉:12時〜16時のコアタイムで、あとは全社員フレックスなんですよ。朝に寄せる人もいれば、夜に寄せる人もいるんですけども、さっき言ったように、残業45時間をやってる人ってあんまりいないので。
でもそれって、業務のプロセスがすごくシンプルだったり、無駄な資料を作らないというふうに徹底的に省いていくと、意外にメルカリぐらいのスピード感の会社ってできると思っています。けっこうそのへんは、常に業務を見直していかないと、どんどん仕事は増えていくので。
働き方改革で「残業代減らせばいいよね」みたいな。「それはちょっと違うんじゃない?」と僕は思っているので。もっと本当に本質的に会社が強くなる方向に、どうやって向かっていけるのかは考えてほしいですね。
駒崎:残業を1つのメルクマールにするのはいいんだけれど、残業だけ減らしても、仕事の仕方とか仕組みが変わってないと無理をさせちゃうことになるから、「ちょっとここをやめようよ」とか、「ここを変えようよ」というのもセットじゃないとダメだったりしますよね。
フローレンスでも「やめる会議」というのを定例的にやるようにしていて、やめたいことを持ってこいって言って、「こういう種類のをやめたい」とか「こういう会議はやめたい」とか出てきて、まあけっこう「いいやめる」があって(笑)。事業のコアにかかる部分なんだけど、「確かにそれってなんでやってたんだっけ?」というのがあったりするんですよね。そういうのに気づかされる。
小泉:1個増やすんだったら、1個減らすのは基本的な考え方ですよね。
駒崎:そうですよね。メルカリみたいな会社がどんどん増えていけば、日本の生産性も高まっていくし、イノベーションも増えていくと思うんですけど、どうやったらいい働き方の会社があふれる日本に変えていけるんでしょうか?
小泉:めちゃめちゃ難しいの来ましたね(笑)。僕が1つ大事だなと思っているのが、時代の変化の中で言うと、基本的に資本主義的な流れが数百年あったわけじゃないですか。95年とか2000年ぐらいまで。
それは大量生産・大量消費で、みんなが同じような生活をすれば「1億総中流」じゃないですけれども、幸せだった時代ですよね。どちらかというとみんながいろんなものに合わせていった時代だと思うんですけど。
そういう資本主義的な関係性、縦の関係性ですかね。上から下にドーンみたいな関係性から、インターネットみたいなことも入って来て、この今の時代にないこと、どちらかというと横の関係。情報も発信できるし、さっき言ったように転職も昔よりは自由だし、フリーランスみたいな働き方も含め、けっこう会社と個人とか、社会と個人とかいろんなものが対等な距離感というか、横のバランスの関係性になって来たと思うんです。
僕らのほうがけっこうある程度イニシアティブを取れるような強い社会になっていっているので、働き方においても、やっぱり今までの無理して型にはまってた感じのところから解き放たれていくと思うんですよね。
その時に大事なことは、自分がイニシアティブを持った時に、「何が自分のやりたいことなんだろう?」とか。自由って、一方ですごく怖くて、考えたりしたことがない人からすると、与えられても「どうしよう」みたいな。「むしろ決めてください」みたいな人が。実は「そっちのほうが楽です」みたいな人が多いかもしれないんですけど。
改めて自分の働き方で、自分にイニシアティブがあった時にどうしたらいいのかを一人ひとりがもう1回見つめ直して実現できる。そういうステップを積んでいかなきゃいけないかなと思うんですけど。そもそも「自分の働き方ってどれがいいんだっけ?」というのを考えたことがない人があまりにも多いんじゃないかと思っていて。
駒崎:そうですよね。実際「9時に来い」と言われて行って、「18時に帰っていいよ」と。だけど「残業したほうがベター」ってなんとなく言われてるからしてとか、とくにそこに考えるというプロセスはなくやってきたのがこれまででしたもんね。
小泉:例えばもう1回、今会社を辞めて、自分の値段を自分でつけられるときに、いくらにしようって、明確なロジックとか答えを持ってる人は実はあんまりいなくて。
なんとなく転職活動してても、「前職がこのぐらいだから、自分の価値ってこのぐらいかな?」とか、「あの時よりは100万円高いかな?」とか、そんな感じだと思うんです。本当にすっぴんの自分になったときに、「俺って1時間いくらの価値なんだろう?」ということに対して、正確に答えられるかどうか。僕はそういうところからしっかり考えていかないと、「自分でイニシアティブ持てます」と言われても、けっこう成り立たないんじゃないかなと思っていて。
駒崎:そうですよね。今お話しされたことの前者のところですごく大事かなと思ったのが、会社があって、個人があって、「お前、こうやれ」というところから、会社も個人と対等なパートナーシップを組んでいくというお話だと思うんです。
これって今まさに、例えば僕ら保育業界とかは未曾有の人手不足で、なんかもう、「偉い会社と下々の保育士」みたいな関係だと、ぜんぜん成り立たなくて。やっぱりお互いパートナーシップを組みながらいい環境を作っていこうとしないと、離職率もどんどん増えるし、ぜんぜん成り立たなくなるんですよね。
これっておそらく、これからどこの業界でも起きてきて。人手不足というのは、個人の価値や希少性がとても高くなっていって、そんなに簡単に搾取ができなくなるっていうことなので、やっぱりより個人の意思が通じるようになるし、また個人を尊重する働き方を持たなければいけない。
だから、個人が働きながらも、副業したかったら副業していいよというかたちになるだろうし、その人が会社にただ属するだけじゃなくて、働き方を選択する時代になりつつある。今その過渡期なんじゃないかなっていう気はするんですよね。
だからそこにおいて、どういう会社が魅力的に映り、どういう個人がいい働き方を……。働くということを、より自分自身でマネージできるようになるのかは、けっこうおもしろいテーマでもあり、一方で、自由という意味ではしんどいテーマでもあるかなと思いますよね。
小泉:僕らの会社、実は創業当時から副業推奨なんですよ。働き方改革とか、そんなことは昔なかったので……。
なにかと言うと、1つは副業して自分で表現できる幅を広げていくというか。いろんな会社とかビジネスに顔を出していくと、どんどんその人の価値って上がるじゃないですか。そうすると、それが会社への貢献として返ってくるだろうなということで、どんどん副業しなさいって言ってたんですね。
みんな副業でけっこう本書いたりとか、いろんなベンチャーのアドバイザーとかやってるんですけど、やっぱりそういうところで自分で何か価値を提供すると、さらに自分の専門性を磨こうとか、もう1回自分で自分の仕事を見直すみたいなことをやって、会社にけっこういいこともあって。
僕らの会社は副業を推奨し「なるべく出なさい」と言ってますね。
今までの常識って、「そういうのに出ていくとヘッドハンティングされるんじゃないか」とか、「情報が漏洩するんじゃないか」ということで、基本的に企業は(副業を)推奨しないんですけど、僕からすると、そんなことなんてどうでもいいと思っていて。
そうやって、外で登壇したり話すことによって、その人の仕事に対するプライドが上がっていって、さらに仕事のモチベーションが上がっていって、さっきの自由度じゃないですけど、個人としてもっと自分のキャリアをどう描こうかとか、責任感が増すことのほうがすごく価値あると思っているので、けっこうそういう考え方でやってるんですけど。意外にそのへんは、まだまだやってる会社さんがすごく少ないなと思って。
駒崎:おもしろいですね。
小泉:「どうやって働くことのプライドを持たせるか」みたいなところで、副業とか、登壇とか、メディア露出とかをすごい考えてます。
駒崎:おもしろいですね。今のお話で思い出したのは、うちも一応副業OKなんですけど、「副業をしていいよ」と言ったら、サイボウズの人事の人が「副業したいです」と言って来てくれて、今うちの人事もちょっとやってくれてるんですよ(笑)。それがすごくうれしくて。
サイボウズで人事をやられていて、すごくノウハウが溜まってて、それを還元してくれて、うちも発展できて。またうちでやってることもサイボウズさんに提供できる。別に競合してるわけじゃないので、お互いうれしい。そういうことがありましたよというのが1つ。
駒崎:もう1つは、うちで障害児の仕事をやってる子が、副業をやりたいと。申請して「何をやりたいのかな?」って見たら、動画を作りたいと言うんですね。「へぇ〜、そんなのに興味があったんだね」「いいよ、やってみなよ」と言ってやってもらったら、動画の腕がメキメキ上がって。
「だったら会社でもやってよ」と言って、それで「いいですよ」とか言って、医療的ケア児の啓発PVを作ってくれたんですよ。それをTwitterにあげたら、SNSで超拡散されて。100万PVガーンみたいなことになって、「なんだ、実はこんな才能があったんだね」と。
小泉:ははは(笑)。
駒崎:そんな感じで、社員のしたいこととか才能に気づける機会にはなったので、副業ってそういう意味もあるんだなと思って、すごくいいなと思いましたね。
小泉:「副業したら、その会社に転職しちゃうんじゃないか」とか、「フリーランスになっちゃう」といっても、それってそもそも自分たちの会社に魅力がないからなので。
駒崎:そうそう(笑)。
小泉:なので本末転倒な議論が行われてるなと思いますね。やっぱり僕らはこれから企業として、採用を含めて、人をどうやってエンゲージメントさせるかという、けっこう経営者の腕の見せ所じゃないですか。
駒崎:そうですよね。
小泉:そこに対して、上からガツーンみたいな、昔のエンゲージの仕方はやっぱり通じないので。僕らも社員一人ひとりがどうやったらメルカリで働きながら自分の夢が叶えられるかをうまく設計していってあげないといけないんじゃないかなと思って、いろいろ考えてますね。
駒崎:それはすごくわかります。ロバート・キーガンという発達心理学者の方が「DDO」という概念を提示していて。「発達指向型組織」といって、社員の可能性を開花させることに非常に熱心な会社は、業績もいいんだということを言っていて、いくつかの会社の事例を出してるんです。
まさにそういうふうに、会社が従業員をパーツとして見るんじゃなくて、可能性のある個人として見ることから始めて、どうやって一緒に伸びていくか、成長していくかを本気になって考えられる。そういう会社がすごく大きいんじゃないかなあって思います。
その中に、じゃあこの人が輝くためにはどんな働き方が一番いいのかを考えていくような、立体的な働き方の捉え方があるんじゃないかなと思っています。
それぞれ本当にすばらしいものを持っている人たちなので、それを少しでも引き上げていくのがマネージャーであり経営者の務めかなと思っています。
駒崎:そろそろお時間になるので、最後にちょっと、小泉さんの育休のことも踏まえて、「新・小泉」になったということで……。
小泉:ははは(笑)。
駒崎:これからこういうふうにやっていきたい、働き方をこうしていきたい、こういう価値を社会に問うていきたいよということがあれば最後に教えてください。
小泉:はい。僕がやりたいことは難しいことではなくて、ミクシィでもメルカリでもそうなんですけど、個人をエンパワーメントしたいんですよね。
ミクシィのときは、個人が情報を発信できなかった時代にSNSを作って、個人がエンパワーメントされた。メルカリは売買という概念において、これまで買うだけだったのに売るというところでエンパワーメントした。
「個人が強くなる」ということが、けっこう僕の人生のテーマで。さっきの働き方もそうなんですけど、その人はその人らしく生きてほしいんですよね。
こういう議論って、「これから10年、20年後、何が起きますか?」という時に、僕たちはけっこういろんなものを二項対立で語りがちじゃないですか。「AI対人間」とか。逆に言うと、いろんなテクノロジーが悪に扱われつつある。なんか対立構造なんですけど、社会ってもっと複雑で、共存できることが多いかなと思っています。
キャリアと家庭もそうですし、いろんなものが共存していく中で、その人が本当は何がしたいのとか、結局最後はその人のWillというか、思いだと思います。そういう思いが実現できる社会を築いていくために、僕や僕らの会社ができることがあればいいかなと思います。
駒崎:すばらしいですね。ありがとうございます。僕は働き方の文脈では、1億2千万人いたら、1億2千万とおりの働き方を選択できる社会を作れたらいいなと思っています。
子育てに関しては、日本は今、すごく子育てしづらい社会で、子育てすると何かをあきらめなきゃいけない社会なんですけど、そうではなくて、子育てと何かを両立できる。子育てをするから何かをあきらめないでもいい社会を作っていきたいなと思っているので、ぜひ一緒に共闘して、そんな個人が輝ける社会を作っていこうじゃないですか。
あっという間の30分間ということで、これでひとまず終わりにさせていただきたいと思います。小泉さん、どうもありがとうございました。
小泉:ありがとうございました。
(会場拍手)
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