将棋の定跡と「温故知新」

司会者:流行の移り変わりが早いとおっしゃいましたけど、それにキャッチアップしていくというのは、厄介なことですか、それともおもしろいことですか。

羽生善治氏(以下、羽生):厄介と言えば厄介なことです。かなりそれだけでも時間と労力を費やさないといけなくなってしまうので、ただ、なんて言うんでしょうか……。決まったかたちというか、過去にあった定跡って言うんですけど、その定跡系の中でやってしまうと、なかなか自分の発想とかアイデアを使いにくいっていう面があるので、やっぱりそういう局面とかを目指す時には、最先端のかたちを知っておくというのは、非常に大事なんじゃないかなって思っています。

司会者:そんなところが強さなのかもしれませんけれども。

記者3:読売新聞メディア局の記者でタグチと申します。先ほど、将棋ソフトの中で「温故知新」の話が出てきたと思うんですけれども、なぜ将棋ソフトの手が「温故知新」になるのかというところを、羽生さんはどう考えていらっしゃるのかということですね。例えば、人間が見落としていた部分があるとか、そういうことじゃないかなと思うんですが、羽生さんはどうお考えでしょうか?

羽生:それはですね、コンピュータは膨大な情報を生み出してくれます。それを受け入れるか、受け入れないかっていうのは、人間の美意識によるところが非常に大きいと思うんです。過去にあったものというのは、やっぱり過去にあったので、人間にとっては受け入れやすいものなので、そういう「温故知新」のような状態が起こったんではないかなって思っています。

国民栄誉賞のニュースへの家族の反応

記者4:フジテレビ『とくダネ!』のヒラノと申します。永世七冠おめでとうございます。

羽生:どうもありがとうございます。

記者4:そして今日また新たに「国民栄誉賞へ」というニュースが入ってまいりました。それを聞いた時の羽生さんの率直な思い。そして国民栄誉賞というものに対するイメージ、感じを教えていただきたいなと、あとそのニュースを聞いたとき、奥さまはどんなふうにおっしゃっていたか、教えていただけますか。

羽生:まず、その話を聞いたときというのは、驚きましたし、大変名誉なことだと思いました。今まで国民栄誉賞を受賞された方は、本当に各界で大変な活躍をされた方ばかりですので、そういう意味で非常に驚いたというところです。家内の反応も、同じだったと思います(笑)。

記者4:何か言葉は交わされたんですか?

羽生:いや、とくには……。なんていうか「ニュースでこういうのが出てるよ」っていうことは言われましたが。

記者4:「そうなるといいわね」というような……?

羽生:そういうことは、とくには言ってなかったですけど、そういうものが出てるということは言ってました。

記者4:ありがとうございます。

司会者:今回、永世七冠ということになられてから、奥さまも素敵なメッセージを出されていらっしゃいましたけれども、お家の中での羽生さんというのは、どうなんでしょう。なんかこう、本当将棋界の神さまがお家にいたら、なかなか気も遣って大変なんじゃないかなと思うんですけれども、お家の中で。

羽生:そうですね、けっこうぼんやりしてることが多いですが、ただ棋士の場合はぼんやりしていても、将棋のことを考えていても、傍目からはわからないんで、考えてるように見えてるかもしれません(笑)。

AIとの対局について

記者5:日本記者クラブの個人会員のナカニシと言います。今年の将棋界で、もう1つ大きな話題になったのが、「Ponanza」に佐藤名人(佐藤天彦氏)が負けたというのが将棋界には衝撃だったと思うんですけども、そのときに第2局だったかちょっと覚えてませんけど、なんですか3八金っていうんですか、初手がね。

羽生:あ、はいはい。

記者5:こういう思いもかけない手を出してくるということで、コンピュータソフトを作っている人に聞くと、「もはや人間の指す手が邪魔になるほど進歩している」ということを言ってるんですよね。

羽生さんは過去の雑誌なんかの対談で、確か「大局観」というんですか、それが非常に重要だとおっしゃってますけど、我々将棋ファンとしては羽生さんが来年あたりにコンピュータソフトと対戦して打ち負かす姿を、ぜひとも見たいなと思っています。

さっきからも出ていますが、そのコンピュータソフトと対抗するためには、どういうことに一番注目してやる必要があるのかなと。そのあたりはいかがでしょうか。

羽生:なるほど。そうですね、将棋のソフトはまさに日進月歩の世界で、1年経つとかなりのスピードで強くなって上達しているというのが、現状です。人間が考えていくっていうところに、やっぱりどうしても盲点というか死角というか、考えない場所・箇所。

先ほど、「経験の中で手を狭めて読む」っていう話が出ましたけれども、それは言葉を変えると発想の幅が狭くなるということでもあるので、これから先棋士が、あるいは人間が将棋を上達していくときに、そのコンピューターが持っている、人間が持っていない発想とかアイデアを勉強して、吸収して、上達していくっていう時代に入ってるんではないかなと私は思っています。

それが、ずっと並行して同じように進化するかどうかっていうのは、まだちょっと未知数で、もう数年経ってみないとわからないんじゃないかなと思っています。

司会者:ご自身はコンピューターソフトと戦いたいと思われますか?

羽生:これは、実はもうすでにフリーソフトといって、かなり強いものが常に公開されているので、いつでもできるんです(笑)。なので、そこがたぶん、将棋の世界の特殊ケースだと思っています。

司会者:どうしてもAIが出てくると、人間かコンピュータか、人間はコンピュータに負けるのか、というかたちで捉えてしまいますけれども、そういうことよりも、むしろ将棋の世界を一緒に極めていくというかたちで位置付けたほうがいいのでしょうか?

羽生:私はこう思っているんですけれども、例えば、AI、コンピューターは非常に強くなっています。でも、完璧な存在ではなくてミスをしているケースもあるんですね。もちろん、人間もミスすることはあります。ただ、考えている内容や中身はまったく違うので、それを照らし合わせて分析して、前に進んでいくというのが一番理想的なかたちなのではないかなと思っています。

司会者:ありがとうございます。

将棋で強くなりたい子ども、お年寄りへのアドバイス

記者6:日本新聞協会のスズキと申します。このたびは誠におめでとうございました。羽生さんにあこがれて将棋をやっている子どもたちが、小学生、中学生、高校生、たくさんいると思うんですけれども、その子どもたちへのメッセージを1つお願いをしたいのと、それから例えば小学生の男の子女の子、勉強も一生懸命やって、将棋にも取り組んでいる。しかし、最近どうも将棋が今ひとつ伸び悩んでいるというような子どもがいたときに、どんな声をかけられるでしょうか? その2点をお願いいたします。

羽生:最初のほうは、もちろんどんな物事でもそうだと思うんですけれども、基本や基礎みたいなものがあるので、それはしっかり学んで取り入れて、そこから先は自分自身のアイデアや発想を大切にして指してほしいなと思っています。それが結果に結びつかなくても、失敗したとしても、そういったことを伸ばしていくことがとても大事なんじゃないかなと思っています。

将棋が上達するところって、必ず右肩上がりで上達するということではなくて、あるところまで急に伸びて、そこから平行線で停滞する時期があって、また伸びていくっていう繰り返しであるので、ちょっと「伸び悩んでしまったな」ということを感じたのであれば、今までとは違う練習方法をやってみるということをお勧めします。

例えばですけれども、実戦ばかりやっていたとしたら、ちょっとやり方を変えてみて、詰将棋を取り入れてみるとか、あるいは対局が終わった後に、感想戦といって分析や検証をする時間を増やしてみるとか、少し工夫することによって次のステップに進んでいってほしいなと思っています。

記者7:永世七冠と国民栄誉賞、おめでとうございます。私はフリーランス記者で、この個人会員のカミデと申します。

私自身は本当にへぼ将棋なんですが、今、子どもだけでなく、高齢化社会と言われています。私なんかは基本もわからないんですが、60代、70代になってもさらに強くなる方法ですとか、年寄りと言ったら変ですが、我々年配世代にもっと将棋を広げていくために、子どもと一緒になるかもしれませんが、羽生さんは何が一番大切だと思っているか、あるいはどういうことをしたいと思っているか。いかがでしょうか?

羽生:1つは例えば、なにか得意なかたちというのを決めてやる、戦法や作戦を決めてやるというのがいいのではないかなと思うのと、あと難しいのはよくないんですけど、三手詰めとか五手詰めとか、三手必至とか、簡単なパズルみたいなものをやることは頭の体操にもなりますし、実際に上達するという面でも非常に有効だと思っています。

司会者:ありがとうございます。

モチベーションは天気みたいなもの

記者8:読売テレビのハルカワと申します。永世七冠、おめでとうございます。

羽生:ありがとうございます。

記者8:ある意味もう将棋界の頂点を極められて、今後将棋を続けていかれるにあたってのモチベーションをお聞かせ願いたいんですけれども。

それに関連して、後輩の育成ということについてはどういうお考えをお持ちなのか? 今もう40代後半ということでしょうけれども、後輩の育成ということについてはいつ頃から思い始められて、今後はどういうことを考えていらっしゃるかということをお聞かせください。

羽生:そうですね、モチベーションに関していうと、なかなかやっぱり何十年やっても安定しないというのが実情です。ちょっと天気みたいなところもあるので、その日になってみないとわからないというところはあります。

ただ、例えば、ちょうど今年残念ながら引退をされてしまいましたけれども、加藤一二三先生のように60年以上にもわたって現役生活を続けられた先生もいらっしゃいますので、そういう情熱を持って可能なかぎり前に進んでいけたらいいなという気持ちは持っています。

2つ目の育成ということに関していうと、もうすでに育成しなくても非常に強い人たちがどんどん出てきているというのが、まあ実情なんじゃないかな(笑)、というふうには思っていますし、そういう機会というかチャンスがあれば、そういうこともやってみたいなとは思っています。

記者8:ありがとうございました。