優先株の発達がスタートアップの資金調達をラクにした

武田純人氏(以下、武田):ではここから本番という形で進めていきたいと思うんですけど、今日のセッションは本当にさっき申し上げたように、かなりインタラクティブにみなさんとやりたいなとも思います。あと、モデレーターを拝命しているんですけれど、今日はダブルモデレーターということで。

吉田浩一郎氏(以下、吉田):いやいやいや。

武田:吉田さんもこっち側から、かなりいろんな形で球を向こう側に投げ込んでていくという形で進めていきます。一発目、もう仕込みがあってですね、実は吉田さんが今回のセッションにあたって……。

吉田:はい。

武田:実は某社の謄本を取ったと。

吉田:そうですね。全社の登記簿は取りました。

武田:全社の。せこい! せこいですね。

吉田:全社の登記簿ですね。でもちょっと自分で見るの大変だったので、CFOの佐々木に全部教えてと言って、昨日、全部教えてもらって。この中でまず優先株で調達した人。(手を挙げていない川本氏を指して)なぜ普通株かな(笑)。

川本寛之氏(以下、川本):実際はちょっとだけ優先株あって、グリーとの提携のときは、うちが大赤字だったので、グリーの持分法適用にならないようにするために、一部議決権外した優先株を発行した。

吉田:でも佐々木、登記簿に載ってなかったよね? 優先株は登記簿に乗るじゃないですか?

川本:種類株ありません。

吉田:あ、種類株ありません、ですか。

川本:ありません……ちょっとあります。

吉田:でも、優先株は本当に良かったなって思って。この前ブイキューブの間下さんと久々に飲んで、「上場おめでとうございます」とかやってたら、間下さんのころって、2009年か2008年ぐらい、そのときはやっぱり優先株で調達できなかったので、本当にやっぱりダイリューション(価値の希薄化)がすごくて。

そこら辺、本当にこの2、3年で急速に優先株が発達してきたので、非常に日本での資金調達がやりやすくなってきた。という中で、優先株というと、結局大きく分けて二つじゃないですか。残余財産分配権とアンチダイリューションの希薄化防止条項。うちとスマートエデシュケーションさんとfreeeさんはほぼ同じ条件なんですね。いわゆる残余財産分配権が1倍、参加型。

VCをどうやって説得する?

武田:かなりマニアックな話になってきましたよね。面白くないって人は手を挙げて教えてもらったらすぐやめます。

吉田:すいません(笑)。でもそれってすごい重要で、やっぱりベンチャーキャピタルが時価総額を上げつつも、ダウンサイドに対してリスクヘッジするというスキームでは、その1倍というのは、解散したときにその金額をそのまま回収できるということなんですけど、それ非常に妥当なスキームだと思っているんですね。

メルカリさんもそれなんですけど、違うのは希薄化防止条項って、例えばメルカリだと80億ですね。希薄化防止条項が80億で、次、ダウンラウンドで40億とかでやると、普通は株価調整が入るんですけれども、なぜかメルカリさんのところは希薄化防止条項がない。普通株的な優先株というか、あれはなんでなんですか?

小泉:そうですね、優先株としては相当ゆるいというか。

吉田:そうですよね。

小泉:たぶん、僕らにけっこう有利という、なんていうかVCの方々に理解してもらったというところですね。

吉田:あれ調達ってどこでしたっけ?

小泉:グロービスさん、グローバルブレインさん、ITVさん、GMOベンチャーパートナーズ。

吉田:グロービスさんとか、ちょっとあれですけど、結構交渉ハードなイメージが……。

小泉:そうですね、ただ僕らの場合、その前にユナイテッドさんに入ってもらっていて、ユナイテッドさんで、優先株やっているんですね。

吉田:なるほど。

小泉:そのユナイテッドさんのときの条件をそのまま飲んでいただいたというのが、基本的にそのときと同じですね。なので見ていると、過去の優先株とほぼ同じ条件になっていると思うんですけど。

吉田:なるほど、そうなんですね。もともとがあったので……。

小泉:もともとあったので、普通に考えればもともとあったけど、さりながら交渉は当然あったんですけども……。

吉田:いや、だって絶対そうですよ。その時価総額で、その希薄化防止条項を絶対付けてよって普通なりますよ。

小泉:そうですね、そこは丁寧に。

吉田:ちょっとあまり盛り上がってないので、話題変えようと思うのですけど……。

小泉:実際はですね、そこは事業の成長角度であるとか、その辺をちゃんと話すと理解してくれますね。

吉田:なるほど。

武田:ありがとうございます。

ファイナンスを成功に導く、ストーリーの紡ぎ方

武田:ちょっと今度は方向変えて、皆さんにこれをお伺いしたいなと思うのは、実際に今回、直近ファイナンスをやるときに、どういう成長ストーリーをバンと出してお金を引っ張ってきたのか、そこら辺を教えてください。

さっきもちょっと似たようなことはご説明いただいてるのかもしれないですけど、どこにフォーカスを置いて自社の調達意義を投資家に説明しているのか、それ各社にぜひお伺いしたいと思います。じゃあ日下部さんから。

日下部祐介氏(以下、日下部):さっきまさに触れたところですけれども、大きく二つありまして、一つ目が足元の話で。

足元のところで月額課金がしっかりきましたよ、っていうのが結構ポイントになっていて、青色が従量課金で、赤いのが月額課金なんです。最後の調達は、14年の2月にやってますので、ほとんど全てが赤(月額課金)に切り替わったところでやっています。

やっぱり従量だと、月次の数値が波打っちゃったり(して不安定)。さっき言った、ちょっとヤバイ、会社がつぶれそうになったというのは、そこでガッと売上が下がって、キャッシュフローが全然想定してたのと違うみたいな感じになったんですけど、そこは月額に切り替える中で単価とかがちょっと一瞬下がったりはするので。

ただトータルで取れるお金は、月額だと長く皆さん続けていただくので、増えるという形になっていって。積み上がって、減らない売り上げがこれだけ伸びてます、というのはかなり大きなポイントだったかなというのが一つ目ですね。

武田:これ、調達直近は2014年の2月ですよね。

日下部:2月です。

武田:そうですね。おっしゃる通り本当にサブスクリプションのところがドンッと乗ったところでそこを……。

日下部:そうですね。

武田:アピールポイントにし始めたというとこですね。

日下部:(というの)が一つと、これだけだと、一次直線で伸びるだけのグラフ(業績)になっちゃうんで、成長戦略としては堅いは堅いんですけど、爆発もしないという。爆発のところはやっぱり幼児向けというところを生かして、「グローバルにしっかりチャレンジをしていきます」というのをきちんと見ていただいて。

あとはこれだけ見ると、コンテンツ屋さんみたいに見えるんですけれども、プラットフォーマーとしてしっかりやっていきたいというところも重要で、収益の多角化、例えばさっき見てもらった幼稚園とか、保育園みたいなところも含めて、「しっかりプラットホームが取れていくと、成長戦略としてはいろんな収益の柱が立ちますよ」といったようなことをお話ししましたね。

武田:日下部さんありがとうございます。やっぱり、資金の出し手としては、実際にお金を稼げているという数字が見えてきているのは、たぶんすごくお金を出しやすいと思うんです。

ベンチャーって、「こういうふうに我々はなります」みたいな感じのプレゼンって皆さん上手だし、ビジネスモデル自体の説明は上手ですけど、やっぱり実際本当に売上利益が出ているのか、みたいなところはとても大事な視点というか。これまで出ていなかったところが出始める瞬間とか、金額の桁が変わる瞬間とか、そういったところってやっぱり資金調達のタイミングとして重要なのかな、というふうに個人的にはちょっと思います。

freeeの"ストーリー"

武田:今度は佐々木さん。どんな感じで、直近の調達では「freee」のことをアピールしたんでしょうか?

佐々木大輔氏(以下、佐々木):はい。僕たちは去年の3月にプロダクトをリリースしていて、最初は無料という形で出していたんですけど、去年の8月から課金プランというのを始めて順調にマネタイズも進んできたと。

僕たちのビジネスは3月に強い季節性があって、確定申告の時期になると、このあたりで急激にユーザー数も伸びますし、利用とかアクティブ率っていうのも一気に上がるんです。だいたいその辺までの数字が見えてきた段階で、「このビジネスは、顧客の獲得単価というのはこうかかってきて、それに対して今こういう単価で提供できていて、将来的にはこうゆうアップセルもできるだろう」とか、具体的な将来の財務モデルっていうのが立てられるようになったんです。

そこで、一度しっかりモデルの見直しをしてみようということで、予測を立ててみて。僕たちがやろうとしている中で、大きな目標としては「5年で100万社に使われる会計ソフトになろう」という大きな目標があるんですけれども、これを達成して、途中でもちろん、黒字化だとか、キャッシュフローがポジティブになるっていう瞬間があるんですけれども、それまでにおよそ20億必要だなということがわかったんですよね。

もちろん、成長スピードさえ調節すれば、別に20億まで集めなくても早期に黒字転換させることも可能なビジネスです。

それであれば、ロードマップに向けてすぐに投資を始めるべきだし、それに向けて資金調達っていうのも開始していこうという意味で、いろんなビジネスモデル、ビジネスプランを立てていく上で作らなきゃいけないアサンプション、これがほぼ見えてきた段階で、そのストーリーをもとに資金調達をしたというのが一つ。

あともう一つは、チームとしての進化というのがあって、やっぱりビジネスも好調に推移している中で、採用などというのも、より良くできるようになってきたと。

さらに、マネジメントチームを強くするというようなことも非常にうまくいっていて、例えば、来月からはGoogleからもうひとり、新規事業、開拓の営業なんかをずっとマネジャーとしてやっていたすごい方、僕がかなり尊敬している方なんかもジョインをしてくれることになっていて。そういった形でマネジメントチームはどんどん強化されていると、そういうのも合わせてストーリーとしてつくっていきました。

武田:ありがとうございます。確認なんですけれども、その調達したお金って何に使う感じなんですか? やっぱり採用とかに結構使うんでしょうか?

佐々木:採用にも使います。採用とマーケティングっていうのがほとんどですね。短期的には、採用という形で。ただ長期的には、やっぱりグロースさせればさせるほど、顧客の獲得コストというのがかかるので、それに対してファイナンスを補っていこうというのがモデルですね。

これは実際SaaS系(必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフト)、僕たちがいるようなビジネスモデルの場合には、日本ではまだちゃんと上場している会社っていうのが、それをもってIPOをした会社っていうのがないんですけれども、海外だとNetSuiteだとか、Workdayだとか、そういったところがあって、もう軒並み赤字で上場して、その後もずっと赤字で顧客の獲得というのを進めて、そのせいで赤字になるっていう、こういうモデルなんです。

海外で知った、日本の投資文化の遅れ

武田:佐々木さんとこのあいだ一緒にランチしたときにお話をしていて、すごく印象に残っているのが、今回の調達のタイミングで、佐々木さんは海外の投資家も回っているんですね。そのときに、感じられたことについてフィードバックをもらったのが、すごいインプレッシブだったので。それを共有していただいていいですか? 相場があるのかないのかという話……。

佐々木:はい。今回、資金調達にあたって、「よしじゃあ20億欲しい」と、それを考えてダイリューションなんかから読んでいくと、そうそう低い時価総額でやってしまうとそこまでたどり着けないじゃないかというのを考えたんですね。

それをもとに、最初は日本のベンチャーキャピタルと話していたんですけれども、もう日本のベンチャーキャピタルからすると、日本のIPO市場を考えたときに、まだSaaSで上場しているところがないので、そうするとPERでの評価になってしまう。PERの評価で、逆算していくと、僕たちはもうビジネスとして大きなPERとしてボトムの利益が出るのってずいぶん先になってしまうので、そうするとちゃんとした評価ってもうできなくなってしまうんですよね。

で、なるほどと話していて、それだったら海外に行ってみようということで。僕たちDCMにしても、IVPにしても海外にネットワークがあるので、いろいろ人紹介してもらって、シリコンバレーに行って、実際にいわゆるサンドヒルズロードという所に、ベンチャーキャピタルがいっぱいあるんですけれども、そこを回っていろんな投資家と話してみました。

そうしたらもう圧倒的にSaaSというビジネスに対する見方が違って、「なんだ日本は、まだ会計ソフトでクライアントアプリケーションが存在するのか」と、それはビッグオポチュニティだっていうことを、みんな会った瞬間に言い始めるんですね。

それが日本のベンチャーキャピタルになると、本当に弥生さんを置き換えられるんですか、マーケティング戦略はどうなんですかっていうとこから始まるんですけども。そうじゃなくて、彼らはもう世の中こういう方向に向かうんだと、僕たちはそこに投資したいっていうのを強く持っているところが非常に印象に残りました。

さらに、もうすでにその業界で上場している会社っていくつもあるので、そこからみると逆算で「レベニューに対するマルチプルってこのくらいだよね、だから君のビジネスは、大体シリコンバレーではこのくらいバリエーションされるべきなんだ」っていうようなことを向こうから言ってくる。そういったところが、大体自分たちが必要だと思っているレンジっていうのにもピッタリ合っていてですね。

なるほど、この資金調達のカルチャーって全然日本より進んでいるな、っていうことをそのときに強く思いました。

武田:そうですね。佐々木さんのお話の中での大事な視点だなと思うのが、「どこでやるのか」、「誰から取るのか」というところ。もちろん「何のためのお金なのか」とか、「どういう説明をするのか」というのはもっと大事なんですけれど。ベンチャーのファイナンスはもっともっと戦略的であるべきだと思います。

制作協力:VoXT